2013年07月28日(日) |
小夜しぐれ みをつくし料理帖 高田 郁 |
シリーズ第5作目
○ 迷い蟹━浅蜊の御神酒蒸し つる屋の店主種市が風邪で寝込んだ。 そして突然種市の女房だったお連という女が現れて種市の娘おつるの過去が明かされた。
○ 夢宵桜━菜の花尽くし 吉原翁屋の楼主、伝右衛門が本当の上客だけを招いて花見の宴をするという。 そのもてなし料理を澪に依頼してきた。 澪は野江のことを思い、二人で幼いころに菜の花畑で遊んだことも思い出して その当時は油を取るための貴重な菜の花尽くしの献立を考えた。 菜の花と白魚の澄まし汁、菜の花飯、菜の花漬け、菜の花の辛子和え、鯛の塩焼きに、昆布締め、独活と鰈の煮つけ。あとの三品には、軽く茹でた菜の花をあしらった。 そして今の祝いの席で出される桜茶。 これは又次の思い付きで湯ではなく熱い酒が茶碗に満たされた。 青白磁の茶碗の中で塩漬けされた八重桜が一輪、ゆるやかに花弁を広げていく。 湯ではなく、熱くした酒だから芳香すばらしく、否、そればかりか酒に漂う桜花は何とも儚げで勝つ美しい。
○ 小夜しぐれ━寿ぎ膳 つる屋の人たちと浅草に出かけたとき、芳と澪は人垣のなかで佐兵衛を見たのだった。 澪と同じ名前の伊勢屋の跡取り娘である美緒が番頭の爽助と祝言を上げることになった。 美緒は医師の源斉を慕っていて、伊勢屋も当初は源斉と添わせてやりたいと離れまで増築したのだが、当の源斉が妻帯する気はないということでこの話は流れてしまった。 そして婚礼の日、澪は同じ名前の娘の幸せを願って包丁を握った。 鮎の塩焼き、小豆飯、冬瓜の水晶煮、数の子の卯の花和え、とこぶしの旨煮。そして香の物は茄子と越瓜と青紫蘇、そして鰊の昆布巻き。
○ 嘉祥━ひとくち宝珠 小松原、こと小野寺数馬は嘉祥に出す菓子のことで思案に暮れていた。 数馬は「菓子なら何が好きだ」と問うたときに煎り豆と答えた下がり眉の娘を想いながら、大豆を炒って石臼で挽き出来たきな粉と水飴を併せた。 出来た州浜をちょっとつまんで宝珠に見せて砂糖のおしろいで化粧した。 そんな兄の様子に妹の早帆は兄の思い人のことを想うのだった。
2013年07月23日(火) |
今朝の春 みおつくし料理帖 高田 郁 |
シリーズ第4作目。
○ 花嫁御寮━ははきぎ飯 ははきぎとは、ほうき草の古い呼び名で今では「とんぶり」として知られている。 畑のキャビアとも言われる秋田県の特産品で、乾燥したものは腎臓からくる浮腫みをとる薬効がある。 澪の思い人である小松原が浮腫んだような顔で現れたので、てっきり腎の臓を病んでいるのだと思い恐ろしく手間のかかるははきぎに向き合った。 が 腎の臓を患っていたのは小松原の母で、澪の人となりは認めるけれど一回の料理人を息子の相手として認めることはできないと申し渡した。
○ 友待つ雪━里の白雪 味にうるさい辛口戯作者清右衛門が吉原のあさひ太夫を題材に戯作をかくことになった。 澪は幼馴染の野江が花魁になった理由を知りたいと思いながらも、あさひ太夫の過去が戯作になって世間に知れることは何とも避けたかった。 清右衛門の口を里の白雪と名付けた鮃の蕪蒸しで満足させた澪はあさひ太夫のことを戯作にしないでくれと頼むのだった。
○ 寒紅━ひよっとこ温寿司 おりょうの亭主伊佐三が浮気をしているという。 が実は、太一の口がきけるようにと人に話せばご利益がなくなるという百日詣での願掛けをしていたのだ。 夫婦別れの話にまで発展したけれど、男気のある伊佐三を勝手に女のほうが入れあげただけのことで 誤解も解けたのだ。
○ 今朝の春━寒鰆の昆布締め 浅草の聖観堂という版元の企画で、登龍楼とつる屋とが同じ食材を使って料理の競い合いをすることになった。 その番付で大関位を取れば、江戸一番の料理屋の証し、天満一兆庵の再建も開けるかもと競い合いに応じた 澪だったが、不注意から左手の中指と薬指を出刃で切ってしまい源斉に縫合治療をしてもらった。 それでも不自由な指ながら 鰆の昆布締めという皆の口をうならせる料理に仕立て上げたのだが、 金子に糸目をつけない登龍楼は唐墨を用いて競い合いに勝利した。
里の白雪は蕪蒸しのこと。 さっと湯引きした鮃か鯛に、卵白を加えた卸し蕪をこんもり置いて蒸したもの。醤油あんをかけてわさびで頂く。
2013年07月19日(金) |
想い雲 みおつくし料理帖 高田 郁 |
シリーズ第3作目。
○ 豊年星〜「う」づくし。
大阪天満一兆庵の元女将だった芳が澪のために手放したかんざしを、「つる家」の主人・種市が探し出して戻してくれたが常客の坂村堂お抱えの料理人・富三が、行方不明の息子の消息を探し出してやると偽って、芳からかんざしを取り上げてしまう。 澪が感じたように江戸店の倒産と佐兵衛の失踪の元凶はこの富三だった。 澪の考えた「う」づくしの献立は《卯の花和え》、《梅土佐豆腐》、《瓜の葛ひき》、それに《埋め飯》 値の張る食材は一切用いていないのだ。
○ 想い雲〜ふっくら鱧の葛叩き 上方というか関西の夏は”鱧”です!! 吉原の翁屋にて、難しい鱧料理の腕を見せて楼主・伝右衛門の信頼をかちえた澪は、俄の騒ぎに紛れて、今は「あさひ太夫」と名乗る幼馴染の野江との心のつながりを、貝殻に託す。
○ 花一輪〜ふわり菊花雪」 「つる家」のライバル登龍楼をクビになった悪徳板長の末松が、意図的に「つる家」に似せて、女料理人を看板に卑怯なマネをしてくる。 女料理人のお色気で、一時は「つる家」も閑古鳥が鳴くけれど、 結局は味を知る客から「つる家」に戻り、真似した店は食中毒を出してつぶれてしまう。 ところが、風評被害は本物の「つる家」にも及び、誤解したお客がさっぱり入らない日々が続く。 信頼を失うのは一瞬、回復には時間がかかるということを嫌というほど知らされたのだ。。 きっかけになったのは、「三方よしの日」には酒を出す、という企画と、 翁屋から手伝いに来てくれた「野江命」の料理人の又次だった。
○ 初雁〜こんがり焼き柿 「つる家」で下足番をしている少女ふきには弟がいるが、 親の借金のかたに奉公している登龍楼から飛び出して、姉の所へ訪ねて来る。 姉は小さな弟を追い返してしまうのだが、弟は奉公先に戻らず行方不明になってしまった。 皆で探し回るものの手がかりがなく、ただ一人の肉親を思い、ふきは憔悴するのだった。 ようやく安否が知れてよかったが、助けてくれた百姓の言葉がいい。 ボケた母親が自分と間違えてふきの弟を可愛がる様子を見て、自分はこうして育てられたんだなぁ、と再認識するのだ。
シリーズを読むほどに 澪の料理に対する想いに感心してしまう。 これは テレビ化してほしい作品だ、とつくづく思うのだ。
第1巻
歌にも蹴鞠にも競馬にも優れた才能を持つ佐藤義清(さとうのりきよ)は、 同じ北面の武士である平清盛と行動を共にすることが多かった。 そんな義清が待賢門院璋子(たいけんもんいん たまこ)−鳥羽上皇の妻にして崇徳天皇の母−そして、徳大寺実能の妹に心惹かれた。 普段は、常に御簾の向こうにいて、直に顔を見る機会などはほとんどない雲上の女性であった。 そんな義清が 保延三年(1137)鳥羽上皇の命で熊野御幸の伴を仰せつかった。
第2巻
待賢門院璋子への思慕は募るばかりで 鳥羽上皇の御所に新しい襖が入ることになって、絵師に絵を描かせた。 そしてその襖の絵に合せた歌を書き入れることになり、義清はあらかじめ考えていた歌ではなく、女院へのたぎる思いをぶつけた後、唐突に出家して西行と名乗った。 そして義清の北面の輩であった、源季政(みなもとのすえまさ)も頭をきれいに剃髪し西住となった。
久安元年(1145)八月、待賢門院璋子は四十五年の生涯を終えた。 その御影が、今も法金剛院に残されている。 薄墨色の衣を纏い、緋の袴を穿いて、白い花帽子の下からわずかに削髪が見えており、生前の美しさを偲ばせるなんともはかなげな御影である。
第3巻 出家しても璋子への想い止まず、しかも彼女と死別することとなった西行。 この巻で西行は冒頭からみちのくに旅立った。その途上、平清盛の家人であり、不思議な術を操る男・申の妹であり、西行自身とも縁浅からぬ娘・鰍に会うため、那須を訪れた。 かつて玉藻と名乗り、宮中に上がっていた鰍。だが璋子と美福門院得子との対立に巻き込まれ、得子呪詛事件の下手人に仕立て上げられたため密かに逃れていたが、そこは鰍の終焉の地となってしまった。 そして保元の乱だ。 保元の乱は、崇徳上皇・藤原頼長・源為義側と、後白河天皇・信西・平清盛・源義朝側で争われた戦いだが、 崇徳上皇・頼長・為義とが歴史の表舞台を降りていく。 頼長が教養はあるが徳がなかったと表現されていた。 そして崇徳上皇だ、私はこの人が歴代の天皇では一番不幸だったのではと思っている。
第4巻 平治の乱へと世の中は変わり、信西・義朝も姿を消し清盛までも往生した。 滅びゆくものしか愛せぬのだな」待賢門院璋子、崇徳上皇、平清盛ー亡き者たちを背負って歩く西行だった… それにしても西行は本当に璋子を高野山へ埋葬し直したのか・・・
宿神という、ものの気配として存在する神、日本人が、古い昔から信仰しているという”もののけはい”━もののけ。 あとがきに記されている著者の思い、 そして宿の神はただそこにあるだけ(私にはよう分からん)
新聞連載で読み逃がしていたので 単行本になるのを心待ちにしていた。 読むのがあまり早くないので4巻読むのにほぼ1か月・・・昨年の大河ドラマ《清盛》と重なる部分が多くて本当に楽しめた。
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