読書記録

2012年12月29日(土) 母の遺産   新聞小説         水村 美苗


 新聞の連載だったことを知らなくて、雑誌の新刊案内でこの本をしった。

そこには 母に死んでもらいたい、母の死を願うようなことが紹介されていたので、何かに急かされるような気持で読んだ。

永年 母のわがままにつき合わされてきた娘の物語だったが、大方は50歳を過ぎて不定愁訴に悩まされ、その間に夫の不倫もあったりで離婚に至るお話だった。

主人と私の4人の親の最期を見てきた私からすれば、自分の親だけのこの物語のような看取りは申し訳ないが何と楽なんだろうというのが正直な感想だ。
主人の親を看るときに比べたら自分の親を看るというのは、私らの世代では特に男兄弟がいれば何気にダンナの親兄弟や真にダンナの顔色を伺うときもあった。
それにはっきり言ってお金の問題もある。
そういう観点からみても、この主人公の場合はかなり恵まれているではないか。
そして 思っていたよりも早くに母親が亡くなったあとには3680万という遺産が残った。
そこへ 離婚を算段している夫からも2900万という慰謝料も入った。
私の感想を言えばハッピーエンドな物語なのだ。


老いて重荷になってきた時、その母親の死を願わずにいられる娘は幸福である。どんなにいい母親をもとうと、数多くの娘には、その母親の死を願う瞬間ぐらいは訪れるのではないか。それも、母親が老いれば老いるほど、そのような瞬間は頻繁に訪れるのではないか。しかも女たちが、年ごとに、あたかも妖怪のように長生きするようになった日本である。姑はもちろん、自分の母親の死を願う娘が増えていて不思議はない。今日本の都会や田舎で、疲労でどす黒くなった顔を晒しつつ、母親の死をひっそりと願いながら生きる娘たちの姿が目に浮ぶ。しかも娘はたんに母親から自由になりたいのではない。老いの酷たらしさを近くで目にする苦痛━自分のこれからの姿を鼻先に突きつけられる精神的な苦痛からも自由になりたいのではないか。


人は理由もなく生きている。
人は、理由もなく死ぬこともある。














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