18歳の春に藤木忍を、24歳の秋には藤木忍の妹である千枝子を愛した。 藤木忍とは青春の途中で知った純粋な愛であり、千枝子とは恋であったろう。 しかし愛するということの謎が解けないまま、藤木忍は亡くなり、千枝子とは別れて汐見茂思は召集されていった。 復員しても千枝子とは会わぬまま、二冊のノートに青春の墓標を記して汐見は自殺行為とも思える無謀な肺摘手術でその命を散らした。 純白の雪が地上を覆った冬の日だった。
━あなたは夢を見ている人なのよ。ええそうよ。昔あなたは、兄ちゃんを好きだった頃にも夢を見ていらした。あたし兄ちゃんの言った言葉が忘れられないわ、汐見さんは夢を見てる、けれど僕にはみられないって。
戦争にいって人を殺すか殺されるかの状況になったときの自分を考えたら、いつ召集が来るか分からない今の状況が苦しいと言っていた汐見。 その汐見にとうとう赤紙が来て、千枝子に会えぬまま入隊するため故郷に帰る夜汽車のシーンがドラマを見ているように私の脳裏にその状況が展開されていた。
藤木、と僕は心の中で呼び掛けた。藤木、君は僕を愛してはくれなかった。そして君の妹は、僕を愛してはくれなかった。 僕は一人きりで死ぬだろう……。
図書館で借りた文庫本は平成十三年九月二十五日七十九刷だった。 昭和二十九年四月刊行というロングセラーに私は出会えた。
2011年09月16日(金) |
ルソンの谷間 江崎誠致(まさのり) |
☆ 最悪の戦場 一兵士の報告
米軍の追撃を受けてルソンの山中に追いつめられ、敗走につぐ敗走を重ねる日々の中で死が日常的に起こっていることの記録。 主人公の藤木上等兵は作者自身なのだろうか。。。
十二年前に亡くなった私の父も軍人恩給をいただけるだけの軍人生活があった。 母方の伯父たちも。シベリア抑留された叔父もいる。 私が小学生だった頃は戦争体験の話しが親戚の集まりとかではたまに話題になっていたように思う。 父の遺品を片付けていてタンスの隅に、『○○君の武運長久を祈る』と記された旭日旗を見つけたときは無性に悲しかったことを覚えている。
☆ 岩棚 潔く戦って死ぬ覚悟をしていた見習い仕官と一等兵がゲリラの銃弾に斃れて岩棚に散った話し。 でもこの二人が主人公というよりは死体を風化させていくチタのジャングルの自然が主人公か。。。
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