読書記録

2010年06月21日(月) 遍路みち           津村 節子

 私が高校生くらいだったか・・・この作者の少女小説をほんとうにたくさん読んだ。
その作者が 重厚な歴史小説を書く『吉村昭』と夫婦だったことを今回、初めて知った。

○ 消えた時計
ある朝突然片方の眼に異状を感じて 網膜中心静脈閉塞症 と診断される。
動脈硬化が原因で網膜を通る静脈が詰って視力が落ち、視力が戻らないと診断されたがハーバード大学から来た女医によるステロイド注入による治療でほぼ完治する。


○ 木の下闇
天涯孤独の女が永い看護婦生活を終え 自身の終の住処と決めたはずの児童養護施設から姿を消した。
友人の経営する施設で食住の保証をして貰う代りに医療の経験を生かして子供たちの世話をすというものだったのだ。
葬式はしない、どこにも報らせない、という約束でその友人が看取ることになっていたという。


○  遍路みち
夫を亡くして二月あまり経った頃、遍路に出ようと思い立った。
現実には不可能な夫と三十八年間を過した街を一刻も早く出て、誰も知りびとのいない小さな町で暮したいと願った。


○   声
舌癌の放射線治療のあと、あらたに膵臓癌が見つかった。
癌の家系だったから、次第に衰弱し意識朦朧としてからの死は望んでいなかったから、最後の日 妻と娘の見ている前で点滴の管のつなぎ目をはずし、次には首の下に挿入してあるカテーテルポートからの点滴も引き抜いてしまった。

夫の死後 娘夫婦との二世帯住まいにするため、今まで住んでいた家を壊して建て替えるために近所のマンションで
生活し始めた頃から幻聴を感じるようになった。

○  異郷

夫が死去して遺された短編やエッセイの校正やそれらに添えるあとがきや序文を書き、妻が作家ゆえに編集者がゲラのチェックや表紙の相談といった作業が果てもなく続いていた。
夫が書いた作品の舞台になった都市での文学回顧展がつぎつぎに開催され、それについての依頼、相談、原稿や遺品・写真などの貸し出しで人の出入りが多かったが、三年を過ぎて”暫く留守にします”という留守番メッセージをいれて長期滞在できる熱海のホテルに行った。












2010年06月09日(水) 長い腕       川崎 草志

第21回横溝正史ミステリー大賞受賞作品


コンピューターゲームのソフト制作会社に勤める主人公が、同僚の女性二人がビルから飛び降り自殺した場面に出くわす。
その事件が原因ではないけれど一つのソフトの完成が近づいたところで退社して故郷に帰る。
子供の頃に亡くした両親の死因のトラウマから逃れられないでいたが、コンピューターに詳しいゆえに,故郷で以上に多い事故死に疑問を持つうち両親の死の真相を突き止める。
パソコン通信上の悪意とストーカー行為という現代の病める部分を題材にしていて、その上明治時代の名大工も絡ませて面白い物語だった。
建物の『歪み』という大工の棟梁ならではの視点と現代における『歪み』とをうまく生かしているなぁと感心したことだ。


百人いたら好きになる人一人、嫌いになる人九人、無関心な人九十人だと思っている。




今は、もう、亡き人へ、
    そして、今、共にある人へ


作者が物語の冒頭と最期に繰返すこの言葉の意味というか、意図が私はよく分からない。。。
















2010年06月02日(水) 流離譚            安岡 章太郎

作者が父親のルーツを遡って幕末の土佐藩士に辿り着いた。

その一人、安岡嘉助は土佐藩の参政吉田東洋を斬って天誅組に加わり、掴まって京都で打ち首になった。
そしてその兄の覚之助はやはり勤王党に加わり、戊辰の役のときには板垣退助の下で小軍監というのをつとめ、会津で流れ弾に当って死んだ。

戦いの最中に覚之助が郷里の父に宛てた書簡や様々な資料を材に解説者たちが言う歴史小説になった。
土佐の安岡家はお上家、お下家、本家、お西家とに分かれており、家督を守るためにお互いから嫁をもらったり養子に出したりといったややこしい現実と、随所に引用されている資料は候文で旧仮名遣いだったりで上下2冊の文庫本を読むのに1ヶ月もかかってしまった。
そしてそれはそのまま作者が資料と歴史とに格闘しただろうと想像するのだ。
簡単には姿を見せてはくれない資料の森の中をほとんど手探りで歩かざるを得なかった作者の苦労のあとが見える、と解説も述べている。

でも私の希望としては 時代の流れとともに主人公を変えていく本当の物語というか小説が読みたかった思うのだ。


『天誅組天誅録』『大和日記』に加えて『維新土佐勤王史』『武市揣山関係文書』などは、今テレビで放送されている『龍馬伝』の解説書のようなものでこれは面白く読んだ。

とくに 人斬り以蔵といわれた岡田以蔵が捕縛から逃れるために逃げ回っていたテレビの中での様子ともダブってとても印象に残った。

君が為尽す心は水の泡 消えにしのちぞすみ渡るべき(岡田以蔵)
なげかじな長き別れの今日とても もと大君の御為なりせば(安岡嘉助)
かくばかり降りゆく世を梓弓 引き返さずばいかで止むべき( 々 )
ふるさとを思ふ寝ざめにふる雨は濡らぬひとやもぬるゝ袖かな( 々 )













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