「この人は誰に愛され、誰を愛していたでしょうか。 どんなことで人に感謝されたでしょうか」
坂築静人はそう訪ねて 死者を悼む旅を続けている。
その旅の途中で 雑誌記者の蒔野抗太郎と夫を殺してしまった奈義倖世と出会った。 そして奈義倖世と、倖世の右肩に時々現れる殺された夫である甲水朔也と時に話しながら旅を続けた。
そして胃がんで余命宣告された静人の母が、旅の息子を思いながら娘の美汐が身籠った赤ん坊が産まれるのと入れ違いのようにあの世に旅立っていく。
児童虐待や不登校や引きこもりや家庭内暴力といった、現代社会の抱えているひずみというか暗い部分の物語を多く書いている作者ならではの発想だと、心に深く染み入る読後感だ。 読んでいてもかなり疲れる物語だったので、執筆する当事者の思いはいかばかりだろう・・というのが正直な感想だ。
2010年02月14日(日) |
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死にたい と 思うことは自由です。
行動さえ起こさなければ。。。
願わくば
ただ ひとつの風になって
○○○の側で そよぎたい
2010年02月12日(金) |
落日はぬばたまに燃ゆ 黒岩 重吾 |
大阪に本社のある薬品会社のプロパーだった隅高志は五十五歳で会社を辞めて、十余年ぶりに訪れたパリで留学中の日本女性南本恵とベッドを共にした。 その恵が帰り道で車にはねられて瀕死の重体となり、意識不明の状態で日本に戻ったらしい。 異国にいても心を癒せなかった恵を、自らとダブらせて一匹狼のブローカーとして生きている秋岡らの協力を得て恵の日本での入院先を捜し始めた。 医薬品業界と医療機関との癒着や、親子の確執と断絶など今の社会が抱えている問題点をも盛りこんだ物語だったが、古代史小説も書いている作者ゆえにタイトルに引かれて読み出した私としてみたらただ読みました、という印象しかない。 でも 懐かしい場所がでてきて読みやすい物語ではあった。
ただ解説に紹介されてあった作者の言葉が心に残った。
「人間の心には人に言えない無数の小袋がある。その一つひとつを破って、その時の人間の心理を書くというのが僕のやり方なんだ。年齢を経るにしたがって、何かその袋の襞まで感じとれるようになった気がする」
私はこの人の書く どこか心に沁みる物語が好きだ。 現代もたぶん・・昔も虚勢を張りながら どこか自分を偽って生きている人間の誰でもが持っている善意のようなものに気づかさせてくれる気がするのだ。 願わくば 短編ではなくじっくりと読ませてくれる物語を期待しているのだが。
*ゆすらうめ 六年の年季を終えて色茶屋暮らしからようやく足を洗えたおたかと、彼女が再びこの世界に戻らぬように心を砕く色茶屋の番頭孝助との話。 表向きではそうであっても実は孝助自身が姉のしている色茶屋から抜け出たいのだった。
*白い月 博打好きの亭主友蔵と別れることのできないおとよ。 おとよの拠りどころは死んだ母親の遺した「どんなことがあっても友蔵さんを見捨てちゃいけないよ」という一言だった。
*花の顔(かんばせ) 長年の確執の果てに痴呆症になった姑たき。 嫁のさとは、出世のために江戸詰めを続ける夫や親類や隣家からも見捨てられたとき、童女に戻ったたきの顔を「花のように美しい」と感じることができたのだった。
*椿山 小藩の若者たちが集う私塾で、身分故の理不尽を味わい、出世に賭ける覚悟をした才次郎。 手段を選ばず藩政の中枢のまで登りつめるが、口とは裏腹に自分の歩んできた道筋を正当化するのにどこかうしろめたさを感じているのだ。 そんな時に思い浮かぶのは、かつての無二の親友であった寅之助や、その寅之助と夫婦になった憧れの女性孝子との、椿山での淡い無垢なる風景の数々だった。
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