2008年03月24日(月) |
悪霊列伝 永井 路子 |
『悪霊列伝』 と 『続悪霊列伝』の2部にわたって 以下の人たちの悪霊ぶり(・・??)が書かれている
吉備聖霊―忘れられた系譜 不破内親王姉妹―呪われた皇女たち 崇道天皇―怨念の神々 伴大納言―権謀の挫折 菅原道真―執念の百年 左大臣顕光―不運と報復 平将門―叛逆児の亡魂 崇徳上皇―王者の地獄 頼朝の死を廻って―その虚実の世界 楠木正成―忠臣の実像 将軍家斉の周辺―このいかがわしき構図 悪霊は魂の中に棲む―呪われてしまった権力者はいかなる生き方をするのか?古代貴族社会の熾烈な権力闘争を勝ち抜くことができず、恨みを呑んで死んでいく者。それらの者が死後、"祟り"を及ぼす悪霊になるといわれる。
彼ら(悪霊たち)は期せずして日本人の精神の裏側を語っている。 美意識とか倫理観とかが表側とすれば、そのちょうど真後にあたる位置 に彼らはいる。ときには虐げられた人々の怨念が悪霊の形をとって現われることもある。またときには、弱者を抹殺した強者の、秘められた罪の思いが、悪霊という虚像を生む。怒り、憎しみ、恨み、恐れ━といった暗い炎が渦を巻き、そこにおどろな悪霊が出現して来るのだ。悪霊たちの歴史は、過去の日本人が、いかに不正の殺戮をやってのけたか、強者はいかに汚れた手の持ち主であるかを告白するものだといってもいい。
日本の文化遺産のなかには素晴らしい絵巻物も多く遺されているが この本は作者が短編と静賢法院の日記とを綴りあわせ、絵と詞書のような組み合わせをこころみたと説明している。 短編には 平忠盛(清盛の父) 丹後局(後白河法皇の侍女から、法王と結ばれ娘を産んだ) 平知康(鼓の名手) 源通親(後鳥羽天皇妃承明門院在子の義父で今様光源氏といわれた) 藤原兼子〈後鳥羽天皇のお気に入りの乳母) この5人の宮中でのいわゆる世渡りの様子がおもしろい。
そして平治の乱で殺された信西の子で、後白河法皇の側近として仕えている静賢法院の日記が詞書として散りばめられている。
この5人が宮中の中にあって、 宿命のように権力への階段を登りたがるのに反対に敢えて信西の子供であるがゆえに方々の権謀術数を一歩引いた様に覚めた眼でみている静賢法院との対比が読みどころだろう。 権力をめぐる人間たちの修羅や多くの生と死がはかないけれども、そうした美醜をふくんだ生命のからみあいが今につたわる歴史なのだろう。 我々読み手の想像も加わってほんとうに歴史は面白い・・と改めて感じたことだ。
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