向島出身の作者が向島の芸者さんを題材に物語を書いている。
母親が芸者だったから、主人公の芳恵も何のためらいもなく芸者になった。 母と同じく清元の三味線弾きだから真の芸が売り物の芸者である。 が、妻を無くした老舗の和菓子屋で芳恵とは30歳もの年齢差がある黒川という男性を旦那にとる。 出入りの料亭の女将に 「決められている人生を自分で決めていきなさい」と言われて。 でも芳恵は黒川を心から愛していくのだ。 花柳界という私らの知らない世界ではあるけれど人を愛するということは、どの世界でも同じだろう。 そして たぶん芳恵は黒川の子どもを生むんだろうなぁ・・。 作者はこの主人公をシリーズにして物語を書き進めているようなので、機会があれば続きを読んでみようと思う。
最近 テレビドラマ化された物語
主人に頼りきっていた57歳の主婦が突然心筋梗塞で63歳の夫を亡くす。 夫が死んだ、という実感がないままに、通夜や葬式が勝手に進行していく。胸の中が空っぽで、思う存分泣きたいと思っていても、その力さえもなかった。 だのに夫には十年来の愛人がいたのだ。 そして夢に取り付かれてアメリカに渡って連絡もしなかった息子と、コンビニに勤める恋人と同棲している娘は財産分与を言う。 夫の愛人だった女性とも会い、夫の趣味だった蕎麦打ち仲間の男性を意識したりで、主人公はだんだん強くなっていく。
まぁ ありそうな話ではある。(亭主に愛人がいたことを例えば妻の知らない借金があった・・・なんて話に置き換えたりして) 読みやすい物語だったというだけのことか。 前に読んだこの作者の『OUT』という物語も主婦の4人組みがメインだったけれど、今回の『魂萌え』も高校の同級生という4人組が登場する。どうもこの作者はオンナの4人組が好きらしい。 でも『OUT』の主人公は最初から強かったけれど、この『魂萌え』の主人公は物語が続くにつれてだんだんに強くなっていくようだ。
独りでいるということは、穏やかで平らかな気持ちが長く続くことなのだ。人に期待せず、従って煩わされず、自分の気持ちだけに向き合って過ぎていく日常。そういう日々を暮らすのは、思いの外、快適かもしれない。
竹生島 仕事にかまけていて妻に自殺されてから、琵琶湖に面した長浜に住んで設計事務所を開いた。隣家の叔父と姪という組み合わせの男女に竹生島へ招待されるが、その島で男女はいなくなってしまった。想像を飛躍させて、老人(叔父)が竹生島を守護し琵琶湖を取巻く地域に住む人々の安全を司る龍神であり、遠藤佐智子(姪)が観音寺の本尊である弁才天であっても少しもおかしくなくなってくる。 野宮 汚職事件に連座して、執行猶予つきの有罪判決を受けて社を辞めて京都に隠棲した田崎良介を取材する役を振り当てられた。そんな中で田崎良介の情を受けるようになった鈴鹿悠子が急死した。 「稀に、得意の時期に必ず運命に裏切られる星を持っている者がいる」 遠い繁栄の灯火を眺めながら田崎が言った。鈴鹿悠子の急死から立ち直ろうとして必死に考えてきたことを、先刻から彼は語っているのであった。 通盛 公立中学校の教師として生きて、校長としての任期が迫ってきたのを機に句集をまとめようと高校の寮に入るまで母と二人で住んでいた土地の近くにある温泉場にやってきた。 父は月に一度か二度、人目を忍ぶように訪れるだけだったが、そんな両親のことをよく知っている人物に温泉で出会った。 西行桜 敗戦後、華族制度がなくなって完全に順応していけない元子爵の父は西行を尊敬していた。 ヨーロッパの古い楽器を演奏してバロック音楽の演奏会を始めた江口紀美子は、父の自伝を出版社に勤める畑に依頼する。
今回もタイトルにひかれて読んだけれどやはり短編集は苦手だ。 人が死ぬという当たり前の事実の裏には、いろんな人々の想いがある。 作者は謡曲集のなかに、幻想と劇的構成が緊密な文学空間を作っているとあとがきに書いているが、私としてはただただ人生経験の不足を改めて実感するのみ。 たぶんこれから先も私が決して経験しないようなことだからなのか・・。
2006年12月14日(木) |
死者の書 身毒丸 折口 信夫 |
した した した
こう こう こう
つた つた つた
正直なところ 私には難しい 物語の筋書きが組み立てられない 無念の死で人生の幕を降ろした(降ろされた)大津皇子の魂がよみがえったことは、おぼろげに理解できるが藤原の郎女の登場がよく分らない (解説では古墳の闇から復活した大津皇子の魂と藤原の郎女との交感とあるのだ) 藤原の郎女とは物語の最後で、当麻寺に伝わる中将姫のことだと気がついた 実はこの物語の舞台である二上山と当麻寺へ十月に行って来た だからこの本を読みたいと思ったのだけれど、かの地へ行っていなければこの物語のことは何も理解できなかっただろうと思う 当麻寺で知った中将姫伝説と、この作者の進めかたは違うのだ 中将姫(藤原の郎女)が蓮糸で織り上げた曼荼羅が、大津皇子の魂の浄化なのだろうか・・と私は思ったのだけれど・・・
身毒丸 しんとくまると読むそうな とても短いこの物語も私にはむずかしい ただ 舞台化されているこの物語に出場している若い俳優の姿が浮かぶのみ・・舞台を見るのが一番手っ取り早いかも・・
2006年12月08日(金) |
花橘の乱 (かきつのらん) 石川 能弘 |
在原業平異聞 とある
異聞ということは・・・そしてこの作者はミステリー作家だそうだ
在原業平が藤原良房の子であり56代清和帝の后であり、陽成帝の母である高子と恋に落ちたことはあまりにも有名である そして 伴善男が応天門炎上の放火犯として伊豆へ配流されたことも歴史の事実である それらをうまく組み合わせて、そして兄の太政大臣藤原良房と弟の右大臣藤原良相との兄弟の確執もうまく取り込んでいる この兄弟の確執は世間的に見れば古今東西の常識・・?的に私としては感じるけれど、先に読んだ『山河寂寥』にはそのことはみじんも書かれていなかった まぁ どの書き手にもテーマとすることは違うだろうから、近いうちに『山河寂寥』を読み返してみようと思う
老いぬればさらぬ別れのありといえば いよいよ見まくほしき君かな 老いてくれば、誰にも逃れることのできない別れがある。それを思うと、ひとしおそなたに会いたい━。胸を抉られんばかりの思いになった業平は、すぐさま馬に飛び乗ると母の許へ向かった。その道すがら、
世の中にさらぬ別れのなくもがな 千世もといのる人の子のため そのような別れなどなければよい。母上には千年も万年も、子である私のためにいつまでも生きていてほしい━。
ついにゆく道とはかねて聞きしかど 昨日今日とは思はざりしを
業平 辞世
|