短編集
「いろ」 踊、長唄、清元などの師匠をする るい と20歳も年下の銀二郎の恋物語
「ざくろ」 なぜ、私が世間的に申し分のない夫と、一人の娘を置いて出奔しなければならなかったのか━今更、それを整然とした理由などで説明するのは嘘だと思うのです。言葉にすればなるような、ちょっとした動機や理由は、あるにはあっても、今となってみれば、私には、それらがみんな、ナンセンスないいわけとしか思われないのです。 ある日、ある時、ふっと、自分の全存在が奇妙な、自信のないものに思われ、過去の自分と何一つ関係のない新しい自分になってみたいと、心ひそかに思わなかった人間がいるでしょうか。 私はただ単に、その想いをつらぬいてみたにすぎないのです。あんな無謀な蛮勇が、私のどこにひそんでいたものか、今でも私には不思議でなりません。
「女子大生・曲愛玲」
「聖衣」
「花芯」 園子と夫雨宮と妹の蓉子、夫の上司の越智と北林未亡人と・・。 「きみのこんな女らしさ、女の完璧さは、私のように、人生のほとんど終りに近づいた者の目には、怪しくみえるより、痛々しい・・・。きみはおそらく、きみの恵まれた稀有な官能に、身を滅ぼされるよ。それが私には見える。それだけに、君がいじらしくてどうしてあげてよいかわからないのだ」
2005年05月23日(月) |
エコノミカル・パレス 角田 光代 |
雑文書きが主な仕事の34歳のフリーターは、レストランでアルバイトもしている 同棲中の恋人は「年下の正社員にはプライドの高い無能として遠巻きにされ、年上の正社員にはインテリ系アルバイトとして馬鹿にされ・・・それでもまぁ正社員になれるならよかったんだけど・・・・」といって失業する
シンガポールを皮切りにアジアを二人で一年くらい旅行していたときに知り合った男とその恋人が転がり込んできたり、壊れたクーラーの買い替えにはじめて消費者金融を利用したり私には考えられないような今の若い人の生活だ そんな彼女の前に20歳の男性が現れて 少々心乱される
4万数千円プラス3万円の借金、住民税と国民健康保険料、国民年金保険料と公共料金も未払い、親と離れて暮らすフリーターの一般的な(・・?)生活だろうか・・
私とヤスオは婚姻関係で結ばれているわけではない。社会的しきたりとは無関係に、ひとりとひとりとしていっしょにいよう、と決めてともに暮らしているだけなのだ。今までだって私のほうが多く経済的負担を背負ってきたとはいえ、彼を養うほど甲斐性、もしくは気概があるわけでもない。だから、最悪の事態に陥ったらひとりここを立ち去ればいいだけの話だが、それは数多ある選択のひとつというよりも、選択から漏れた最後の結果に思える。
2005年05月15日(日) |
ぶどうの木 坂本 洋子 |
10人の”わが子”とすごした 里親18年の記録 内容 子どもに恵まれず、18年前、里親として初めて"長男"を迎えた著者。しかし彼らを待っていたのは、予想もしなかった社会の無理解と差別だった。5年後にやむなく施設に"長男"を戻さなくてはならなくなった時、親子はともに「ぶどうの木」の聖句で絆を確かめ合う。だが、その後も差別に苦しみ、荒んでいった"長男"は、17歳の夏、バイク事故で不慮の死を遂げる。「彼にしてやれなかったことを、新しい子にしてあげよう」"長男"の死を知った2日後、坂本夫妻は新しい里子を迎えに行くのだった―。 目次 第1章 里親〜私たち夫婦の選択 第2章 純平、波乱の小学校生活 第3章 みんな違っていいじゃない 第4章 家族の愛で子どもは育つ 第5章 純平の死を無駄にはしない 第6章 心に傷を負った子どもたち 第7章 家出した薫が帰ってきた!
わたしはぶどうの木、 あなたがたはその枝である。 人がわたしにつながっており、 わたしもその人につながっていれば、 その人は豊かに実を結ぶ。
ヨハネによる福音書15章5節
この御夫婦も自分の子供がいれば里親という選択はされなかっただろうが、今は自分の子供を育てるのも大変な時代だ。それなのによくもまぁ、里子たちに深い愛情を注がれたものだ。 『長男』の純平を突然 失ったときの気持ちは読んでいても胸が張り裂けそうな思いがした。 私も娘が家を出て行ったときのことを思い出して、娘の照れたような顔ばかりが思われて、あの時どうしてこんなことになってしまったのか・・とそればかり考えていた。もっと他の方法はなかったのだろうか。今からでも娘が出て行くのを止めようか・・とも思った。でも私の娘は言葉を変えたら自立である。この本の純平のような永遠の別れではない。そう思うと御夫妻の悲しみはいかばかりか・・と思う。 子供を育てることで親も成長するというけれど、まだまだ日々精進である。
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