2002年03月26日(火) |
勝山心中 押川 國秋 |
湯女あがりながら、抜群の美貌と才覚で吉原随一の太夫となった花魁勝山には、人には言えない秘密があった。遊女の身で、男を受けつけられない煉獄の日々。ただ一人心を許した町奴の幡随院長兵衛も、水野十郎左衛門の屋敷で凶刃に…。明暦の大火、親友の謀殺。波乱に満ちた遊女の生涯を描く哀切の吉原絵巻。
36歳の医師・日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の街で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑い始めるが…。絶望を抱えて生きる二人の魂が救われることはあるのか。
昭和時代に日本の社会が、軍国主義への道を歩み始めたその分かれ道となった事件がある。血盟団のテロリストたちが一人一殺でテロを始めた事件だ。 テロリストの多くは、貧農出身の若者たちだった。なぜ彼らがテロに走ったのか。この疑問に答えようとこの小説は書かれた。
吉五は小さい頃、自分の村で父が指導する小作争議を体験する。政治家も、警察も地主の味方だった。百姓の中からも、すぐに裏切り者が出て、その闘いは失敗する。 小学校を卒業してから、東京の親戚を頼って大工の丁稚奉公を始める。しかし、大震災で儲けた親方も、昭和不況のあおりで事業を縮小せざるを得ず、そこをやめる。また、洋服屋や呉服売りなどへ丁稚奉公にはいるが長続きしない。世の中の矛盾を目の当たりにして、自分が何かやらなければならないという焦りから逃れられないからだった。 そんな時に二種類の大人と出会う。小学校で担任だった人と大工仕事に入った時たまたま知り合った小説家だ。一方は破壊を前提とした革命、すなわちテロによる革命を志す。他方は個人主義を前提とし、テロでは革命は不可能で個々人の決断でしか世の中よくならないと見極めている。吉五はテロに疑問を持ちつつも、組織の中で一つの目的の下に一体となる経験に引きつけられ、テロの道を突き進んで行く。
たぶん今の日本はこの小説の昭和初期の時代に戻ることはない・・と思うけれど、今の日本ととても状況が似ていると私は思う。不平、不満がくすぶっている。
いつも本をよんだら感情移入してしまう私は、主人公吉五の母の思いでいる。今のように何か事件が起きてマスコミが押し寄せるということはないだろうが、母たちの今後の生活が思いやられる。貧乏でも貧乏なりに我慢して生きていって欲しかった・・とこの母のようにつくづく思う。
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