マフラー (3) - 2008年01月26日(土) 一目一目想いを込めながら―――なんて言ったら乙女チックだけど。どんな風に告白しようかなって思いながら編んでいた。 先輩、好きです。先輩はいっつも優しくて頼りないって思っていたけれど、先輩に怒られた時から凄く意識するようになって…、これじゃ私、変態みたい? 先輩に怒られて、目が覚めたんです。ファーストに上がれたのは先輩のおかげです…、うーん、告白っぽくないかも? 色々言葉が浮かんでは消えていく。マフラーは思っていたよりもずっと早く編み上がった。 だけど、渡せなくなってしまった。先輩に彼女がいるって事、知ってしまったから。 「先輩、違う中学に彼女いるんだって。高校は同じ所に進むらしいよ?」 部活の同じパートの子に、そう聞かされたのはクリスマスの三日前。マフラーも編み上がって、告白する準備はばっちりだったのに…。 ショックで悲しくて、私はこのマフラーをタオル代わりにして泣いた。 泣いたり怒ったり、暫くの間喚いた後、落ち着いた私はこのマフラーを収納ボックスの底に仕舞ったんだ。 渡す事は出来ない、だけど捨てる事も出来なかった。それは先輩へ想いを捨てる事だから。 ―――なのに、こんなに綺麗さっぱり忘れてるとは。 私って薄情な女…。思わず苦笑いが零れる。 大切だった想い、涙、捨てる事が出来なかったマフラー。あの時は必死だった自分が二年の間に思い出になって、綺麗さっぱり消えてなくなってしまった。 それは大切なものが増えてきた証拠だし、自分が変わった証拠。悲しい事じゃなくて、嬉しい事だ。 私は生きている。だから、過去よりも現在を大切にしなくちゃならない。 今だったら捨てられる、このマフラー。私に迷いはない。 先輩、今も元気にしてるかな?彼女と仲良くやってるかな? 何をしてても良い、今も幸せでありますように―――そう心の中で祈りながら、私はグレイのマフラーをゴミ箱に捨てた。 妙にすっきりにした気分になって、私は部屋の窓から空を眺めた。 空は快晴。どこまでも続く青空を見つめ、私は恋人の貴志に会いたくなって、携帯電話を手に取る。 『会いたい』なんて直接言うのは恥ずかしくて、私はその想いを文字にしてメールを打った。 その返事が返ってきたのは五分後の事。 ***** 某所から持ってきた小説もいよいよこれで最後。 これは夏に書いたお話でした。お題が『マフラー』で、「夏にマフラーってどうすりゃ良いんだ;」と嘆いたもんです。 敢えて季節外れのお話は書かず、『夏+マフラー=思い出』という法則で書いた記憶があります。 内容はともかく、その発想はよく覚えてます。 - マフラー (2) - 2008年01月25日(金) 二年前、好きだったのは中学校の部活の先輩。と言っても、ただの片想いだったけど。 誰にでも優しい人だった。何も言われても、笑っている人だった。 最初の頃はそんな先輩があんまり好きじゃなかったっけ。 頼りないっていうか…、いっつも笑ってるからこそ心の奥じゃ何考えてんのか分かんないって、そう思ってた。 だけど。 そんな先輩を好きになったのは、部活で怒られた時の事。 吹奏楽って一日休むと、一週間分の練習が無駄になるって言うじゃない?だから、ほぼ毎日部活がある訳で。 そうなると、絶対だらける時が出てくる。私は真面目にやってるつもりだったけれど、やっぱりそういう時があった。 そんな時、先輩が怒ったの。 「梓ちゃんはトランペット上手くなりたいんでしょ?ファーストに上がりたいって言ってたよね?サボってばっかりいたって上手くなれないし、良い音は出ないよ」 って、いつもと同じ柔らかい口調で。だけど、少しも笑っていなかった。 先輩の部活に対する気持ちが伝わってきた。この人は優しいだけじゃない。ううん、それが先輩の優しさだったんだと思う。 だって、あの時先輩に言われたから私は目が覚めて、努力を重ねてファーストに上がる事が出来たんだから。 それからだった、先輩を意識するようになったのは。 先輩の姿を目で追ったり、何かかにか理由を付けて先輩に話し掛けた。 先輩はいつも優しく私の話を聞いてくれて、時には頭を撫でてくれて―――完全な子供扱いだとは分かっていたけれど。 先輩に告白しようと思ったのは、好きになってから三ヶ月後の事―――クリスマスだった。 三年生である先輩は三月には卒業しちゃうし、クリスマスはちょうど良い機会かと思った。 私はクリスマスの告白に向けて、マフラーを編み始めたんだ。いつも黒いコートを着ていた先輩に似合うように、グレイの毛糸で。 - マフラー (1) - 2008年01月24日(木) 悲しいだけの綺麗な思い出なんて、忘れてしまうものなのかな。 このマフラーに込められた想いはそんな簡単なものじゃなかったのに。 少なくとも、あの頃は。 そのグレイのマフラーを見つけたのは、クローゼットの収納ボックスの底。 「あれ?」 夏物の衣類に埋もれるようにして仕舞われたそれは、私には見覚えのない物だった。 何だろう、これは?私が買った物?誰かに貰った物? それにしては色が変だ。私、グレイって好きじゃないし…。どうせ買うなら黒か、白を買いそうな気がするけど。 誰かにプレゼントして貰ったなら、忘れているなんて失礼極まりない事だし。 とにかく、何で思い出せないんだろう? 私はそのマフラー片手に、部屋を出た。向かったのは隣の部屋のお姉ちゃんの部屋。 もしかしたらお姉ちゃんの荷物が紛れ込んだのかも…。そんな考えを胸に、私はお姉ちゃんの部屋のドアを開いた。 「お姉ちゃん、あのね」 「ノックぐらいしてよ。着替えてたらどうすんの」 「なーに言ってんの、今更!私とお姉ちゃんの仲じゃん!」 「あのねー、『親しき仲にも礼儀あり』って言うでしょー?」 お姉ちゃんはこういうとこ、煩いんだよねー。なんか考え方が古臭いというか…。 ま、でもこの場合は私が悪いんだけど。 「そんな事よりさ、このマフラー知らない?私、見覚えがないんだよね」 お姉ちゃんは私が差し出したグレイのマフラーを手に取り、怪訝そうな顔をしながら暫く眺めていた。 「知らないけど…。ていうかこれ、あんたが編んだんじゃないの?」 手編みじゃん、という言葉と共にマフラーを返される。 確かに手編みっぽい気がする。少し下手クソな編み目、毛糸が解れている所もある。 「あんたが彼氏に編んであげたんじゃないの?ほら、何て言ったっけ?あんたの彼氏」 「貴志にはそんな事してないよ。付き合い始めたの今年の春からだし………あーっ!!」 「何?思い出したの?」 「うん!ありがとう、お姉ちゃん!」 誰に編んだのよ、と尋ねるお姉ちゃんを無視して、私は自分の部屋に戻った。 思い出した、下手クソな編み目のグレイのマフラー。 お姉ちゃんの言う通り、私が編んであげた物だった。 二年前のクリスマス、大好きだった人に――― - DNA (4) - 2008年01月23日(水) 「唯さんが止めろって言うから、黒染めは止めます。だから今度唯さんの髪、触らせて下さいね」 耳元で囁くように言われ、唯はとくんとくん、と心臓を高鳴らせる。 「せ、セクハラよっ」 「セクハラは唯さんでしょ。先にやったの、唯さんなんですから」 それは確かにそうなのだが…。言い負かされて、唯は悔しさに唇を噛んだ。 この男には勝てそうにない、初めてそう感じた。 「じゃあ、仕事行って来ます。唯さん、また今度」 「…いってらっしゃい」 いつのまにか休憩時間が終わってしまったらしい智樹は、唯にそう告げ休憩室を後にする。 唯はそんな智樹を送り出したものの、『また今度』の方には返事をしなかった。 「…ちきしょう」 休憩室に残った唯は、一人そう呟いた。 心臓が煩いほどに早く大きく鳴り続けている。唯はそんな左胸に掌を置いた。 智樹に気付かれてしまった、自分が智樹に好意を抱いている事を。…言うつもりなんてなかったのに。 もしかしたら、知られたくはなかったのかもしれない。いつまでも智樹に空想のような想いを抱いていたかっただけなかもしれない。 しかし、智樹は『王子様』ではなく、一歳年下の男の子なのだ。 「………触らせてあげようかな」 ほんの少し素直になるだけで、幸せは案外簡単に手に入るのかもしれない―――そう思いながら、唯は毎日手入れを欠かさない、自慢の黒髪を一束だけ摘み上げた。 憧れに似た想いが、恋愛になる日はそう遠くない。 ―――その頃、智樹が浮かれに浮かれて、料理の乗った皿を三枚落としたのは、また別のお話。 ***** …最近、すっげぇ真面目に小説書いてる気がするけど、書いたのはだいぶ前です。 このお話は結構実話で、バイト先に茶髪で地毛の男の子がいるんですよ。おじいさんからの遺伝だそうで。 そこ実話じゃないよーと前の後書きには書いてましたが、男の子が彼本人にそっくり。Sっぽいところが…(笑) 私はその子の事が好きな訳ではないですけれどねー。 - DNA (3) - 2008年01月22日(火) 「初めまして、新しく入った菅原智樹です。宜しく」 そう言って差し出した彼の白い手は指は長く細く、とても綺麗な形をしていた。 髪、笑顔、指先―――彼を取り巻く全てが綺麗に思え、唯は『王子様が現れた』と内心興奮を覚えながら、智樹の手を自分の手と重ね合わせた。 『王子様』はさすがに空想が過ぎる、と唯自身思うのだが。 とにかく一目惚れに近い形で、唯は智樹に想いを抱くようになった。智樹が唯より一つ年下である、と同僚に聞かされたのだが、あまり気にはならなかった。智樹はずっと唯に対し敬語を使い、少しだけ年齢の壁を感じたけれど。 年齢なんて関係ない、たったの一歳差なんだから―――そう自分に言い聞かせている割に、唯はあまり行動を起こしていない。 積極的にアピールするどころか、特別に仲が良い訳でもない。『ただの同僚』の関係を続けてもうすぐ一年が過ぎようとしていた。 智樹にとって自分は『ただの同僚』なのだろうけれど、智樹の髪がきっかけで想いを抱いている唯としては、その髪の色を変えられるはどうしても嫌だった。 何より、もう二度と智樹の髪が太陽の光に輝くのが見られなくなる、と思うと言わずにはいられなかったのだ。 「智君はそのままでいーのっ!その方が格好良いから―――」 言ってしまってから、唯ははっと口元を手で押さえた。熱くなった頬が更に熱くなっていく。 唯の言葉に智樹は再び驚いたように目を見開き、それからにっこりと微笑んだ。 その笑みが何を意味するのか、唯には分からない。 「唯さん、こんな話知ってます?」 「………え?」 「異性の髪に触るって行為は、意外にもキス以上の行為をした男女がする行為なんだそうですよ」 さっき俺の髪に触りましたよね、唯さん―――そう言われても、唯には智樹が何を言っているのか、咄嗟に判断出来ない。 キス以上の行為、それは…。 「なっ、何言ってんの!?」 「あはは、唯さん、さっきから顔赤いですよ。酔ってます?」 「んな訳ないでしょ!?今まで仕事して来たんだからっ!」 「ですよねー。…って事は俺、期待して良いって事ですかね?」 「知らないっ、からかわないで!」 唯が怒ったように顔を逸らしても、智樹は嬉しそうににこにこと微笑んでいる。 唯には智樹が何を考えているのか、全く分からなかった。本当にからかっているのか、それとも…本気なのか。 - DNA (2) - 2008年01月21日(月) 「良いなぁ、生まれつき茶髪なんて…。染める手間もいらないし羨ましいな」 確かに唯にも両親から受け継いだ遺伝はある。乾燥肌は母親譲りだし、背の高さは父親譲りだ。 しかし、それらは唯にとってはあまり嬉しくない遺伝である。 その所為もあって智樹のような遺伝は、唯にとって羨ましい以外の何物でもなかった。 「いや、これはこれで大変なんですって。『地毛です』って言っても絶対信じてもらえませんしね。俺中学ん時、『染めてない証書』書かされましたもん。親のサイン貰ったりして」 智樹が前髪の辺りを指で弄りながら告げる。唯にとって羨ましい遺伝も、本人からしてみればやはり大変なようだ。苦労や苦痛は体感した者にしか分からないんだな、と唯は羨ましいと言った自分を恥じた。 「ここに入る時も店長に言われましたしね、一応分かってもらえたみたいですけど。いっその事、黒染めしちゃおーかと思ってるんですけどね」 「だ、ダメ!」 智樹の声に、唯は思わず声を荒げた。その声に智樹は驚いたように目を見開いて、唯を見つめる。 しっかりと視線が重なり、唯は頬が熱くなるのを感じた。 「…どうして?」 「ど、どうしてって…。だって、折角茶色なのにわざわざ染める必要ないでしょ。地毛なんだから堂々と地毛で通せば良いわよ」 「んー…、唯さんからしてみれば茶髪が良いんでしょうけど、俺はあんまり好きでもないんでー…。黒染めしたって良いと思いません?」 「ダメだってばっ。智君はこっちの方が似合ってるから、このままで良いのっ!」 唯は必死だった。思いつく限り言葉で、智樹を止めた。 唯がこんなにも必死になっているのには理由がある。何故なら、唯はこの髪から彼に憧れに近い想いを抱くようになったからだ。 それは約一年前、場所は今と同じく休憩室で唯は智樹に出会った。 唯がその日、出勤してきたのは午後。おはよう御座います、と言いながら唯が休憩室を訪れると、そこに智樹が居たのだ。今と同じ椅子に座り、窓から差し込む太陽を浴びながら。 元々明るい智樹の髪が日光にキラキラと光り、まるで金色をしているかのように唯には見えた―――外国人かと驚いて、暫くの間声を掛けられなかったのを覚えている。 先に声を掛けたのは智樹の方だった。顔を上げ、唯の方に視線を向けた智樹はにっこり微笑む。 - DNA (1) - 2008年01月20日(日) 彼の髪が太陽の光で、キラキラと輝くのが好きだ―――最初はただそれだけだった。 始まりなんて、そんな簡単なもの。 「智君の髪って茶色いね」 唯はそんな言葉と共に、そっと智樹の髪に触れた。 「うわっ」 智樹は驚いたようで叫ぶような声を上げ、身体をびくりと震わせた後、唯に振り返る。 智樹が驚くのも無理はない。確かに突然の行為だった、と唯自身も思う。 唯のバイト先であるファミリーレストランの従業員用の休憩室。今日の仕事を終えた唯と休憩中である智樹はそこで鉢合わせした―――バイトをしていればよくある、何の変哲もない光景である。 お互いにお疲れ様、と言葉を交わした後、智樹は先ほどまで見入っていた携帯の画面に再び視線を落とす。 唯は智樹の座る椅子の後ろにある棚に向かった。自分の鞄を取る為に。 その時にふと視界に飛び込んできた智樹の髪―――それをほんの数秒見つめ、唯は智樹の髪に触れたのだ。 「すげぇびっくりしました。驚かせないで下さいよー」 「ごめんごめん、でもホントに茶色くない?」 まじまじと見つめながら、唯は智樹の髪を一束だけ人差し指に乗せる。 智樹は何だかんだと言いながら、唯のするがままになっている。嫌がる素振りも見せていない。 智樹の赤茶色の髪の毛は見た目通り、柔らかな感触だった。『猫っ毛』という言葉がよく似合う。ところどころ毛先が少しだけ跳ねているのが、唯には可愛らしく見えた。 「ああ…、よく言われるんですけど地毛なんですよね」 「地毛なの!?もしかしてハーフだったり?」 智樹の言葉に、唯は驚きのあまり少し高くなった声を上げる。 智樹の髪は本当に染めたような赤茶色で、日本人にしては珍しい髪の色だ。 だが、確かに地毛だと言われても不自然ではない気がした。智樹の髪には黒い部分がまるでない。 染めているとすれば、生え際が黒くなっていてもおかしくはないのに。しかし、智樹はいつでもどこを見ても、染めたばかりのような赤茶色の髪をしているのだ。 肌の色も白い。唯は自分の腕と智樹の腕を見比べて、小さく溜息を吐いた―――自分よりも白いのだ。 「それもよく言われるんですけど違います。遺伝なんですよ、俺のじいちゃんが凄い茶髪で」 「遺伝〜!?」 まあ、俺のじいちゃんがハーフかどうかは分かんないですけどね、と智樹は付け足して優しく微笑んだ。 - 忘れないで (3) - 2008年01月19日(土) それからどうしたのか、全く覚えていません。私と友人は教室で気を失っているところを先生に発見されました。 二人で気を失っていた事や私の首に締められたような痕があった事を、両親や先生に問い質されましたが私はその事を誰にも言いませんでした。友人はその時の事を全く覚えていないそうです。 私も記憶が曖昧ですが、意識を失う直前に『りっちゃん』と名前を呼んだ気がします。だから、私は助かったのではないか、と思います。 私があのままりっちゃんの名前を呼ばなければどうなっていたのでしょう?それを考えると今でもぞっとします…。 あの出来事から十年以上の月日が流れ、以来私はあのような体験をする事がありません。あの友人とも中学卒業と同時に会う事がなくなりました。 ですが、今でもりっちゃんの夢を見る事があります。 りっちゃんは今だにピカピカのランドセルを背負って、私ににこにこと可愛い笑みを見せながらこう言うのです。 「忘れないでね、奈美ちゃん」 ***** これも違う場所から持ってきた小説です。 都市伝説風のオリジナル小説。あんまり怖くないほのぼのした感じだけど、ちょっとだけ怖い物語を目指しました。 なかなか面白い設定だったかな、と今でも気に入ってます。 ちなみに全てフィクションです。 「これは、私が子供の頃に体験したお話です。」から全てフィクションなので、私が体験した訳ではないですよ。 - 忘れないで (2) - 2008年01月18日(金) それでも、時間と子供の記憶とは残酷なもので、小学校に通い始めた私は次第にりっちゃんの事を忘れていきました。 最初の頃は大切な親友を亡くした悲しみから、記憶を封じ込めてしまっていたのかもしれません。しかし、時が経つにつれ現在の友達と過ごす日々の方を大切に思うようになっていったのです。 クラスメイトの事、初恋、勉強や先生の事…。目まぐるしく過ぎていく時間の中で、私はりっちゃんの存在をすっかり忘れてしまっていました。 時は流れて、私が小学六年生になった時の事です。 私は放課後、教室で一人の友人と世間話をしていました。 クラスメイトの事、先生の事、テストの事…、そんな他愛もない話をしている内に幼い頃の話になったのです。 友人は私に問いかけました。 「幼稚園の頃とかさぁ、どんな子と仲良かった?」 「えー?そんなの忘れちゃったなぁ。凄く仲が良い子は居たんだけど、名前もよく思い出せないし…」 私は軽い気持ちで笑いながらそう言いました。友人を見ると、何故か項垂れていて、髪の毛で表情が見えません。 「どうしたの?」 「………つき」 「え?」 「嘘吐き!!奈美ちゃん、ずっとずっと何があっても忘れないって言ったじゃない!!」 顔を上げた友人が鬼のような形相で、私を睨み付けてきたのです。 一瞬何を言われたのか分かりませんでした。口調は友人のものではなかったし、声そのものが友人の声ではなかったのです。もっと幼い子供の声のようで…。 その声にふと思い出したのがりっちゃんの事…、そう、声は確かに私の記憶に蘇ったりっちゃんの声そのものでした。 「な、何言ってるの?」 「忘れないって言ったよね…?大人になっても離れ離れになっても忘れないって…。なのに、私の事忘れちゃったの?酷いよ、奈美ちゃん…!!」 友人はそう言うと、私の首に両手をかけて力を込めました。とても女の子の力とは思えません。 「奈美ちゃんの嘘吐き嘘吐き嘘吐きっ!!」 強い力で首を締められ意識が朦朧とする中、私は最後にりっちゃんの姿を見た気がします。まだ新しいピカピカのランドセルを背負ったりっちゃんが鋭い眼差しで、私の睨んでいました。 - 忘れないで (1) - 2008年01月17日(木) これは、私が子供の頃に体験したお話です。 私には幼稚園の頃、とても仲が良い友達が居ました。 私達が出会ったのはそれよりももっと前です。私の母とその子の母がとても仲が良かったらしく、物心ついた頃から私達を公園で遊ばせていたらしいのです。 子供の頃の事で、その子の名前はよく覚えていません。私は『りっちゃん』と呼んでいました。 幼稚園に入ってからは私とりっちゃんは、何をするのも一緒でした。幼稚園で遊ぶのは勿論、帰ってからも毎日のように遊んでいました。 りっちゃんは内気で大人しい女の子で、幼稚園の男の子達には何かと苛められがちでした。顔立ちはとても可愛い女の子だったので、男の子が好きな女の子の気を引きたくて苛めてしまう、というような対象になっていたようです。 私はどちらかと言えば勝気で、特に幼いの頃は男勝りだったのでよくりっちゃんを守ってあげていました。 私達は本当に仲良しで、悩み事があると私はりっちゃんにりっちゃんは私に相談していました。りっちゃんはどんな悩み(子供の頃なのでそんなに深刻なものはないのですが)も親身になって聞いてくれたし、時には一緒に泣いてくれたり母と喧嘩した時は一緒に謝りに行ってくれたり…。 だから、私はりっちゃんが大好きでした。 ある日、私達は約束を交わしたのです。 「大人になって、何があっても離れ離れになっても、お互いの事を忘れないでいようね」 と。 子供同士の他愛もない約束でしたが、私もりっちゃんも真剣でした。 私達は笑い合いながら、互いに小指を絡ませました。 だけど…、そんな私達の関係は長くは続かなかったのです。 りっちゃんは交通事故に遭い、帰らぬ人になってしまいました。小学校に上がったばかりの頃です。 私はまだ『死』というものが理解し難い年齢でしたが母に、 「奈美、りっちゃんにはもう会えないのよ」 と聞かされ、ただ声を上げて泣き叫びました。 どうしてもう会えないの、と駄々を捏ねても母は何も言わずに俯いて首を振るだけ。 そんな母の様子に、私はよく理解は出来ずとも分かってしまったのです。 もうりっちゃんに会う事は出来ないんだ、と。どんなに願っても祈っても。 - リセット (2) - 2008年01月16日(水) 「お母さん、どうして僕やお母さんが暮らすこの世界は、ゲームみたいにリセット出来ないのかなぁ?」 子供の純粋で無邪気な問いかけに、母は馬鹿にする事も無視する事もなく、優しく太一に微笑みかける。 「それはね、ゲームみたいにリセット出来たら、きっと太一もお母さんも成長出来ないからよ。小さくて弱い人間になってしまうから」 「どうして?リセットして昨日のテストの時まで戻れたら、良い点取れるのに」 そうしたらお母さん、喜んでくれるでしょ?そう尋ねると、母は微笑んだまま首を横に振る。 「そんな方法で良い点取っても、お母さんは嬉しくないわよ。それは太一の力で取れたものじゃないから。それだったら、今日の太一みたいに悪い点でも素直に見せてくれた方がお母さん、よっぽど嬉しい」 「でも、お母さん怒ったよ…」 「そりゃあ怒るわよ、赤点ギリギリなんて!だけどあのテストは無駄な事じゃないのよ、無かった事するなんて絶対駄目なの。今度のテストで頑張れば良い事だもの。だけど、リセットしたら『次に頑張ろう』っていう気にならないでしょう?」 母の言葉は、太一には半分くらいしか理解出来なかった。それでも、眠気を堪えながら母の言葉に耳を傾ける。 「太一、今日の良かった事も悪かった事も頑張った事も考えた事も、全部明日の自分に繋がってるの。今日は明日の自分に、明日は明後日の自分に。だから、人間は強く大きく成長していけるのよ」 その言葉をぼんやりと耳の奥に届けながら、太一は深い眠りについた。 母の言葉は、やはり今の太一にはよく理解出来なかった。それでも、太一は母の言葉を忘れる事はなかった。 今日は明日の自分に、明日は明後日の自分に―――その言葉の意味を、太一が知るのは数年後の事である。 今の太一には分かる。母の言葉の意味が、そしてこの現実はリセットなんて出来ない方が良いんだ、と。 今日は明日に繋がっている。だからこそ人間は懸命に生きていけるし、世界がこんなにも美しく見えるのだ、と気が付いたから。 数年前の母には感謝している。礼を述べる事は恥ずかしくて出来ないけれど…。 その代わり、と言わんばかりに太一は今日という日を懸命に生きるのだ。 「おはよう、母さん」 ***** またまた某所から持ってきた小説。 時々、自分でもびっくりするくらい健全だ。 - リセット (1) - 2008年01月15日(火) 例えば、 赤点だった算数のテスト。 お母さんに叱られた朝寝坊。 喧嘩の原因になった何気ない一言。 大好きなあの子を泣かせてしまった意地悪。 全部全部、リセット出来たら良いのに。 ゲームみたいに、ボタン一つでやり直せたら良いのに。 桜庭太一は酷く憂鬱な面持ちで、学校から家までの道のりを歩いていた。 「どーしよう、これ…」 そう呟く太一の手には、昨日行われた算数のテストの答案用紙が握られている。 点数は三十一点―――赤点ギリギリの点数である。 太一が憂鬱な気分でいる理由はそれにあった。帰ったら、母親にこの答案用紙を見せなければならない。見せたら、怒られるのは確実である。 出来る事なら見せたくなかった。このままどこかに隠してしまおうかとも考えた。 しかし、見せない訳にはいかないのだ。母は太一の連絡帳の昨日のページに、『算数テスト』と書いてあったのを知っているから。 母はその事をしっかりと覚えていて、今朝『テスト返って来たらちゃんと見せるのよ』という言葉と共に太一を学校に送り出している。 どうすれば良いのか、まるで分からない―――というより、素直に見せて怒られるほか、太一に残された道はないのだ。 こんな時、太一はいつも思う。『ゲームみたいにリセット出来たら良いのに』と。 この世界をテストがあった昨日までリセットする。リセット出来れば、昨日のような失敗はしない。何故なら今の太一は、昨日のテストの内容を知っているからだ。 そうすればテストで良い点が取れる。母も喜んでくれるのに…。 しかし、そんな太一の願いは叶う事はない。現実はゲームのようにリセットなど出来ず、太一は帰ったら母に怒られるだろう。 太一はやけに重く感じる答案用紙に、深い溜息を吐いた。 夕方、素直に答案用紙を見せた太一は母にしっかりと怒られた。勿論酷く落ち込んだ太一だが、夕食時には怒られた事などすっかり忘れ、大好きなハンバーグを頬張っていたのだが。 その日の夜、テレビに夢中になっていつまでも布団に入ろうとしない太一を、母は無理やり布団に押し込んだ。 最初は拗ねたように文句を呟いていた太一は、母に身体を撫でられている内に段々と睡魔が襲いかかってくる。 眠る間際、太一は母に尋ねた。 - 18.空 (3) - 2008年01月14日(月) 里村さんは今日は何をしてましたか?雑誌とかの撮影かな…。 そうだ、いい加減里村さんが撮った写真が載ってる雑誌教えて下さいよ。本屋で女性向けのファッション雑誌とかおじさん向けの週刊誌とか立ち読みするの、ちょっと恥ずかしいです。 自分で里村さんの名前を見つけると凄く嬉しくなるけど、里村さんが教えてくれれば恥ずかしい思いをする時間が減るんです。いい加減教えて下さい。 里村さん、ちゃんとご飯食べてますか?この間会った時、前より少し痩せていたから心配です。 写真も良いけれど、ご飯も食べて下さい。ちゃんとご飯食べないと、その内写真も撮れなくなりますよ。 栄養バランスを考えろとは言いませんけど…。そこまで言ったら、また『お前は俺の母ちゃんか』って言われそうなので。 そういえば、さっき里村さんと同じ香水を付けてる人がいました。女の人だけど。 里村さんの香水、何ていう香水ですか?今度会った時、教えて下さい。 それではまた。 長谷 秋人』 本当に長い…、本当にクソ真面目なヤツ。 あんまり勉強ばっかりしてんなって言ったのに勉強ばっかりらしいし、つまんない写真ばっかり載ってる雑誌は見なくて良いって言ったのに見てるし…。 口煩いし、全っ然可愛げないし、本当に面白くないヤツだけど。 俺にはちゃんと伝わってるよ、お前が『会いたい』って思ってる事。 会って、抱き合ってキスして…、そんな普通の恋人同士みたいな事したいって思ってる事。だけど、それを俺に伝えられない事も。 だって、俺も同じだからさ。 今は会いに行く事は出来ない。今度いつ会えるかも分からない。 明日の仕事を切り捨ててまで、お前に会いに行けるほど俺はもう子供じゃないんだ。引き受けた仕事はこなさなきゃいけないくらいには大人になっちまったからさ。 だけど、見上げた空はお前から見える空と繋がってる。勉強ばっかして頭でっかちになったお前は、そんな事に気付かないだろ? だから、俺が教えてやるよ。 離れてたって同じものは見れるし、変わらない事だってあるって事。 携帯の受信ボックスを閉じて、リダイアル画面を開く。迷わずアイツの番号で通話ボタンを押した。 数回目の呼び出し音を聞きながら、俺はアイツに最初に何て言ってやろうかなんて考えていた。 ***** 『幻』の続きです。 確かカメラマン×高校生って設定で書いてた筈。 さらに続きを考えていたけれど、もう覚えてないです。 いつか…書いてみるかもしれない。 追記 『幻』と『空』は実はお題小説として書いた物ではなくて、別のタイトルが付いてました(別の場所で書いてたぐらいだからね)。 でも、「あ、このお題でいけるんじゃね?」って事で、お題小説としてUP。ちょっとズルしました。 お題制覇まであと3題。これが終わったら、もうお題でなんて書かないぞ(苦笑) - 18.空 (2) - 2008年01月13日(日) 「それとも用事や仕事があるんですか?」 「いや、ないですけど」 「だったら、飲みに行きませんか?勿論こちらで出しますんで。うちのリエも里村さんも是非、と言ってるものですから」 ああ、思い出した。コイツ、今日のモデルのマネージャーだ。撮影前にモデルと一緒に挨拶されたっけ。 興味ないと本当に覚えないな、俺。ある意味すげぇかも。 「はあ…、別に良いですけど」 別に用事はないし、断る理由もない。ていうか、晩飯代が浮くならこっちとしても是非、だ。 「お付き合い頂けます!?ありがとうございます!では、うちの車で…。地鶏の美味しい店があるんですよー」 「はあ、そうですか」 よく喋る男だなぁ。そういう男じゃないと、マネージャーなんて勤まんないのかね。 どうぞ、と肩を押されてついて行こうとした時、パンツの後ろポケットに入れた携帯が鳴った。 ピリリピリリ――そんなシンプルな着信音はアイツ専用の着信音だ。 普通なら、恋人とか大事なヤツには自分の好きな曲なんかを着信音にするんだろうな。俺だってアイツ以外にはそうだけど。 アイツの場合だけ逆。この音は真面目で面白くないアイツの性格に一番合ってる気がして。 だから、この音はアイツだけ。誰からなのか、携帯見なくても分かるし。 「あー…、すみません。やっぱり用事が入ったんで、また今度にして下さい」 「え!?急なお仕事ですか?」 「違いますけど…、死活問題なんで。じゃ、お疲れ様でした」 俺の言葉に、男は少し不思議そうな顔で俺を見たけれど、無視して俺は再び歩き出した。男もそれ以上追って来ないし、別にどうでも良かったんだろう。 死活問題は言い過ぎだったかなぁ。でも、本当に寂しい時しか連絡くれないアイツだから、放っておいたら死ぬかもしれないし。アイツが死んだら、俺は仕事とか生活とか出来なくなりそうだし――ほら、死活問題だ。 まあ、あの男にどう思われようがそんな事どうでも良いんだ。それより携帯。 ポケットから携帯を取り出すと、受信メールが一件。やっぱりアイツからだった。 『里村さん、お元気ですか。俺は元気です、まあまあ。 今日は学校の友達とマックで宿題をやりました。結構沢山あったけど、全部やりました。 里村さんはあんまり勉強すんなって前に言ってましたね。でも、俺にはこれしか取り柄がないから、やっぱり勉強ばっかりです。 - 18.空 (1) - 2008年01月12日(土) 毎日毎日、会える関係じゃないって分かってくれてるのは結構助かってるけど。 物分り良過ぎっていうか、真面目過ぎんだよね、アイツ。 たまには『会いたい』って言って俺を困らせて欲しいし、たまには『しょうがねーなぁ』なんて言いながら会いに行きたいし。 まだガキなんだし、多少の我侭くらい言ってくれた方が俺は嬉しいんだ。 だけど、アイツは絶対我侭なんか言わない。 どんなに寂しくたって、俺に言わずに我慢して我慢し続ける。 どうしても我慢出来なかった時だけ、俺にメールするんだ。 そういう時、電話は殆どない。用事がある時は大体メールより電話派みたいだけど。 文章がやたら長くて絵文字一つない、アイツの生真面目さを表したようなメール。 その文章の節々に、『寂しい』のサインが入ってる。『会いたい』のたった四文字を、長い長い文章で俺に伝えてくる。 真面目で不器用なアイツが、俺は好きで好きで堪らないんだけど。 アイツの事を思うと少し切なくて悲しくなる。 こんなに好きなのに、俺はアイツの為に全てを捨ててしまえるほどガキじゃないんだ。 「里村さん!」 聞いた事あるような、ないような声に俺は振り向いた。その先には見た事あるような、ないような顔の男が愛想笑いを浮かべて、俺の元に走ってくる。 誰だっけ?――俺は基本的に興味のあるヤツの顔しか覚えない。新米だけどカメラマンという職業上どうなんだろうな、この性格。 で、本当に誰だ、この男。今日の撮影のスタッフ?いや、今日のモデルの事務所関係の人間かも。 でもまあ、興味がない訳だから別に誰であっても良いかと思う。 「はい?」 「はい、じゃないですよー。仕事終わったら、あっという間に帰っちゃうって噂、本当なんですね」 「はあ…」 噂、ねぇ…。まあ、つまんない仕事はちゃっちゃと終わらせてさっさと帰るけどな。面白い仕事だったら、どんだけ時間かけても構わないけど。 本当はつまんない仕事なんてやりたくない。だけど、仕事を選べるほど売れっ子でもない訳で。 - 1.幻 (2) - 2008年01月11日(金) じわり、と目尻に涙が滲む。 「あれー?やっぱどうかした?」 友達が少し心配そうな顔をして、そう尋ねてきた。まさか泣きそうになってるなんて、気が付いてないと思うけど。 「ううん、何でもない」 俺は首を横に振って、涙を見られないようにシャーペンを手に顔を伏せた。 泣きそうな時、抱き締めて欲しいのはあの人だけだから。 帰り道。 友達と別れた後、鞄から携帯を取り出して開く。 せめてメールしようかな…。メールはあんまり好きじゃない。だけど、電話よりは迷惑にならないと思うから。 何を書こうか、散々悩んだ上に結構長い文章になっちゃって、結局メールを送る前に家に着いてしまった。思わず苦笑いが零れる。 あの人は今、何をしてるんだろうか。仕事かな?忙しいのかな? 我侭なんか言わない、俺はあなたと会える日をいつまでも待ってる。 だから、せめてこのメールを読んでくれますように…。そう願いを込めて、俺は送信ボタンを押した。 ***** ブックマーク整理により、某所から持ってきた小説。 色んなところで書かないで、書く場所を統一しようぜって話ですよねー。 ちなみに書いた当初の後書きには、『何が書きたかったんだろう…?(笑)とりあえず遠距離恋愛』と書いてありました。 - 1.幻 (1) - 2008年01月10日(木) 毎日毎日、会える関係じゃないって分かってる。 仕方がないんだってちゃんと分かってるつもり。 電話もメールもあんまり柄じゃないし、向こうも滅多にしてこない。 面と向かったって『大好きです』なんて言えないあの人は、今は遠い空の向こう。 だから、あの人の物を見つけると、少しだけ嬉しくなる。 あの人が着てた服、あの人が付けてるのと同じアクセサリー、あの人が好きだと言ったお菓子、あの人が使ってる歯磨き粉、あの人と同じ香水。 どこにでもあるような物でも、あの人と同じっていうだけで嬉しくなる。 だけど、次の瞬間寂しくなるんだ。 あの人がここにいない今を思い知らされるようで。 「あ…」 ふとあの人と同じ香水の香りを嗅いで、俺は顔を上げた。 ファーストフード店の窓際の席、日当たりが良すぎて少し暑いその場所で、俺は向かいに座る友達と学校の宿題をしていた。 ジュースとハンバーガーを片手に、唸り声を上げていた友達が俺の声に顔を上げる。 「何?なんか分かんないとこあった?」 友達に聞かれて、俺は慌てて首を振った。 「いや、ない…けど」 「けど?何だよ。てか、お前もう終わりそーじゃんっ!俺、マジヤバいんだけどー。全っ然分かんねーしっ」 「うん…」 友達の声が聞こえてるようで聞こえてこない。でも、コイツも俺に聞かせているようで答えを求めてる訳じゃないんだ。 それより、この香水――隣に座る女の人が付けてる香水かな?あの人と同じ匂い…。 女の人が付けてるという事は、元々女性向けの香水かな…。 確かにちょっと女の人っぽい匂いだなって思ってたんだよね。さわやかな感じだけど、少し甘くて。 普段はあんまり気にしないんだけど、キスする時とか抱き締めてもらった時とか、凄く良い匂いだなぁって思うんだ。 あ、余計な事考えちゃった…かも。 考えないようにしてたのに。だって、寂しくなるじゃないか。 『会いたい』なんて言って簡単に会える人じゃないって分かってる。そんな我侭言えない自分の性格も。 だけど、会いたいって思わない訳じゃないし、会えなかったら寂しいのは当然。 好きだから…、どうしようもないくらい。だからこそ臆病にもなる。 -
|
|