繋いだ手と手 - 2011年11月27日(日) いっその事、くっついちゃえば良い。 そしたら、何があっても離れられないのに。 修一に手を引かれて、人混みの中をすり抜ける。 スーツ姿の修一。何だか祭りには不似合いだった。 まして、隣にいる俺は何の変哲もないTシャツとジーンズで、余計に何だかおかしい気がする。 だけど、どんなにおかしくても修一にこの場所が似合ってなくても、会いに来てくれた事が嬉しかった。 「修一、めっちゃ見られてるよ」 「そう?」 「そう、じゃねーって。…手、離して」 ホントは離さないで欲しかった。ずっと繋がってたい。 だけど、行き交う人達の視線は何となく気になるのもホントで。 ウソみたいな、ホントみたいな言葉を修一に投げ掛ける。 だけど、触れ合った指先が解ける事はなくて、むしろ離さないって言うようにぎゅっと力が込められる。 離して…って言ったのに…。 「そんなの気にしないの。デートなんだから」 「でも…」 「でももだってもなーいー」 冗談みたいに軽く言う修一は、まるで俺の心を読んでるみたいだ。 どうして分かるんだろう…。 「何だっけ?たこ焼きとりんご飴と…」 「金魚すくい…」 「そっか、そうだったね。何から買う?」 「やっぱ良い…。何もいらない…」 俺は何だか泣きそうだった。 だって最近、修一は忙しい。家に帰れば会えるけど、修一はまるで寝るためだけに家に帰って来てるみたいで…。 会話も殆どなくて寂しかった。 会いたくなかったなんて、ウソだ。凄く寂しくて…会いたかった。 だから、会いに来てくれて凄く嬉しいのに泣きそうだ。 胸がいっぱいで、何にも食べたくなくて、何にも欲しくなかった。 何にもいらないって言ったからか、修一は俺に振り向いた。 俺がひたすら俯いてたら、何にも言わず手を引いて歩き続けて。 気が付けば出店もない、神社の裏手の森に来ていた。 出店がないから、人も殆どいない。いるのは自分達の世界に入ってるカップルばかり。 そっから更に奥の方に行って、木の影に隠れて誰にも見えないようなとこに来ていた。 街灯もない、祭りの提灯もない、真っ暗の中で月明かりだけが修一の顔を照らしていた。 修一はちょっと困ってるみたいな、悲しそうな顔をしている。 「…寂しい?」 「……………」 「俺といるの、もう嫌になっちゃった?」 …何でそんな事言うの。これって別れ話? だけど、修一にこんな事を言わせてるのは俺だ。 欲しいって言ったりいらないって言ったり、泣きそうな顔して我儘ばっかり。 なのに、修一は俺を責めない。自分が寂しい想いをさせてるからだって思ってる。 それは確かにそうかもしんないけど、だからって別れ話になるのは違うと思う。 「…寂しいよ」 「漣…」 「だから、ぎゅってして」 そう言って、俺は修一にしがみついた。 ぎゅってしてんのが俺なのか修一なのか、分かんないくらい力を込める。 修一は今、自己嫌悪に陥ってる。俺との生活のために仕事してるのに、その仕事の所為で俺と一緒にいれないからだ。 慰めてあげたい気分になる。なんて言ったら修一が笑ってくれんのか、俺はない頭で必死こいて考えた。 「修一はさ、俺の事何でも分かってんのに、肝心なとこだけ分かってねーよな」 「……………」 「俺は一日の90%寂しい思いをしても、残りの10%修一とこうしてられんなら、修一といたい」 俺は修一が好きで、修一だけが好きだから他の人じゃ意味ないんだ。 いっつも一緒にいられる他の人より、あんまり一緒にいれなくても修一が良い。 いつだって俺の心と身体は修一を求めていて、それは他の人じゃ埋められないんだ。 「そっか…」 「ね、修一は?…俺と同じじゃないの」 「同じだよ、漣じゃないと駄目なんだ」 修一の指がほっぺたに触れる。 ゆっくりと修一の顔が近づいてくるのを、俺はドキドキしながら見つめていた。 そして、唇が触れ合う瞬間に目を閉じる。 触れ合うだけのキス。なのに凄く、言葉では表せないほど満たされていくのが分かる。 寂しいって気持ちを埋めるのなんて、案外簡単なのかもしれない――修一がいれば。 「ありがとう、漣」 修一はにっこりと、綺麗に微笑んだ。 不安にならないで、俺は大丈夫。何が起こったって修一といるよ。 繋いだ手と手は時間が経ったら離れてしまうけど、いつかまた繋いでいられる時がくる。 その時を俺達は自分が出来る事を精一杯やって待てば良い。 そうやっていつまでも続けていけば、いつか永遠に近いものが手に入るかもしれない。 ね、修一。 END - おうちデート - 2011年11月26日(土) その日、漣は珍しく上機嫌だった。 珍しく?それは失礼か。 でも、ここんとこ機嫌悪かったり情緒不安定だったから、そう感じてしまうのも仕方がない気がする。 上機嫌の理由は多分明日が休みだから。 久しぶりに休みが重なったから。 「修ちゃん、お風呂入ったー」 「うん、おかえり」 どうでも良い事までいちいち報告してくれる――どうでも良いって、悪い意味じゃなくてね? 第一俺を『修ちゃん』って呼ぶのは甘えている証拠だ。 「髪、乾かして」 「良いよ、ドライヤー持ってきて」 「持ってきてる」 雑誌から顔を上げれば、既にドライヤーを手にした漣。 ん、とドライヤーを差し出されて、思わず笑みが零れる。甘えモード全開だ。可愛い。 「何笑ってんだよー」 「何でもないよ。はい、座ってー」 漣は素直に俺の足の間に挟まって、床に腰を下ろした。 いつもこう素直だと良いんだけどなぁ。 いや、いっつも可愛いんだけどね?素直だと扱い易い。 漣はテーブルに置いてあったリモコンを取って、テレビを付けた。 映し出されたのは夜のニュース。漣にとってはあまり楽しい内容ではないと思うけど、チャンネルを変えるつもりはないらしい。 理由は分かってる。漣はテレビを見たかった訳じゃないんだ。 ただ、二人っきりで何の音もしないのはちょっと恥ずかしかったんだよね。 気まずいとかじゃなくて、なんかちょっと恥ずかしいってだけ。 分かるよ、二人でこんなにゆっくりした時間を過ごすのは久しぶりだから。 ドライヤーから温かい風を出して、漣の髪を指で梳きながら乾かしていく。 さらさら、と指をすり抜けていく感触が気持ち良い。 「漣、髪伸びたね。そろそろ店長に注意されるんじゃない?」 「じゃー、切って」 「生え際も黒くなってきたし、美容室行ってきたら?」 「やだ、修ちゃんやって」 漣はコンビニでアルバイトしている。ちなみに、俺も昔そこでバイトしてて、漣と出会ったコンビニだ。 バイトとは言え、仕事には違いないのであんまり長い髪だと店長に注意される。 カラーリングは目立つほどじゃなければ大丈夫だから、漣は適度な茶髪だ。 いつもだったら、これぐらいの…肩に付くくらいの長さになったら自発的に美容室に行く漣だけど、今日は本当に甘えモードだな。 「じゃあ、明日カラーリング剤買いに行こうか?」 「…やだ」 おいおい…、俺にやってって言ったじゃん。 なのに、カラーリング剤買わないの?買わないとカラーリング出来ないよ?俺にどうしろって言うんだ。 これってツンデレさんって奴かなぁ。確かに漣はツンデレさんだね、うん。 「じゃあ、どうするの。店長に怒られるよ?」 「それもやだ…けど、明日は買いに行かない。ずっと家にいるの」 「じゃあ、俺が買ってきてあげるから…」 「修ちゃんもずっと家にいるのー!明日はどこも行かねーの!分かった!?」 ああ、なるほど。 ずっと二人きりでいたいんだ。そうか、そういう意味か。 久しぶりの休みだもんね。ずっと二人きりが良いよね。他の誰とも会いたくないもんね。 ………全っ然ツンデレさんじゃないじゃんっ!可愛いんだから、もー! 俺に背を向けている漣の表情は分からない。でも、耳まで赤く染まっていて、何を考えているかは分かる。 恥ずかしいのと、俺がどう思ってるのか不安なのと――そんな感じ。 俺は後ろから漣の首に腕を絡ませた。 「漣くん、俺一日中えっちする体力、多分ない」 「…そーゆー事じゃなくて。ていうか、俺だってないっつの」 「ま、一日中じゃなくたってね。えっちしていちゃいちゃして、ご飯食べて一緒にお風呂入ってえっちしたりしようねー」 「えっちが二回入ってるっつーの!修ちゃんのえっち!変態!」 「男ですからねー。とりあえず髪乾いたし、えっちしよっか?」 にっこり笑って漣の顔を覗き込めば、きつく睨まれて。 でも、顔が真っ赤だからちっとも嫌がってるように見えない。ていうか、嫌がってる筈なんてない。 だって、俺と一緒にいたいって漣が言ったんだから。 漣だって男だし、好きな人と一緒にいるのに何もしないなんて拷問でしょ。 「…キスしてくれたらいーよ」 睨まれたまま、そんな可愛い条件を出す漣。本当に可愛いだから。 それ、条件にならないから。喜んでするから。 漣の唇に触れるだけのキスをする。漣はそんなんじゃ足りない、って言って俺の膝の上に乗っかってきた。 そんな訳で。 明日は漣と二人きりで過ごす最高の休日決定です。 漣の美容師さんになるのはまた今度って事で。 END - 幸福論 - 2011年11月25日(金) 『今日、残業で遅くなる。今日中に帰れないかもしれないから、先に寝てて。ごめんね』 そんなメールを受信したのは、バイトを終えた俺がちょうど家に着いた頃だった。 「えー…、マジで?」 思わず声が出て、何だか恥ずかしい気分になる。独り言言わせんな、バカ修一。 だって、ここんとこいつもじゃん。いや、今日中に帰れないなんてのは珍しいけど、週に三日は残業じゃん。 土日だって家で仕事してる時もあるし、会社に行く時もあるし。どこが週休二日だよ。 それでも、出張や泊まり殆どないから、会えない日なんてのはないんだけど。 だから、寂しいなんて思うのはおかしいのかもしれない。 修一は今の会社に働き始めて三年目で、やっと仕事が楽しくなってきたんだって嬉しそうに話してくれた。 そんな話をされても、俺はちっとも楽しくない。だって、修一の仕事の事なんか全然分かんない。 今はこういうプロジェクトやってて…とか、営業の成績がどうだとか言われても全然分かんないもん。 分かんないから、寂しい気持ちになる。 俺が知らない修一に不安になる。 俺のいない世界に修一がいる事が嫌だと思ってしまう。 修一をここに閉じ込めてしまえたら、俺の不安はなくなるのかな? ここで俺だけを見て、俺だけに笑いかけてくれたら。 いや、そんな事したって意味がない。きっともっと欲しくなる。 好きになった頃は姿を見れるだけで良かったんだ。 話した事を頭の中で何度も繰り返しリピートして、修一の笑顔を思い浮かべて眠りについた。 付き合い始めてからは、何もかもが嬉しくて。好きだよって言うのも言われるのも、手を繋ぐ事もキスも抱き合う事も、ドキドキして特別な事のように思えた。 これ以上の幸せなんてないって思ったんだ。 俺はどんどん欲張りになる。修一が注いでくれる愛が足りない、もっともっとって止まらなくなる。 もっと欲しいって言って修一をここに閉じ込めてしまったら、今度は修一を殺してしまいたくなる、きっと。 死んで、俺だけのものになって――そう言ったら、修一は優しく微笑んで良いよ、って言うと思う。修一は俺が望んだら、何だってくれるから。 だけど、修一を殺した瞬間、俺は手に入れた筈の最上級の幸せを失う事になるんだ。 修一がいない世界――そんなのに幸せなんかある筈がない。そんな未来はいらない。 …駄目だ、一人でいると変な事ばっか考えちまう。 こういう時は寝るに限る。俺は飯も食わずに、シャワーを浴びて早々とベッドの中に入った。 寝室に一つしかないダブルベッドは、修一が窓側で俺がドア側で寝ている。はっきり決めた訳じゃないけど、ずっと同じ位置だ。 別にどっちでも良かったんだけど、今は定位置じゃないと眠れなくなった。慣れって恐ろしいもんだ。 えっちして、どんだけいちゃいちゃして抱き合ったまま寝ても、俺が夜中に目を覚ますと修一は窓の方を向いて、しかも隅っこの方で寝てる。 俺がどうのって問題じゃなくて、多分癖だ。無意識の内にやってる。 そんな修一を見てると、俺は『こいつ、いつかベッドから落ちるんじゃねーか』っていっつも不安になる。でも、修一は身動きせずにそこですやすや寝てんだから、寝相はかなり良い。 俺は修一の温もりと匂いがないのが嫌で、隅っこで寝てる修一に引っ付いて寝る。 そんな時、修一は七割方気付かないでそのまんま寝てるけど、三割は気が付いてちゃんと向き直って抱き締めてくれる。 気付いて抱き締めてくれる方が断然嬉しいけど、起こしてしまった事に何だか悪い気持ちになる。 背中に引っ付いて眠るだけで十分だ。触れた部分に修一の温もりがあれば、修一の匂いが鼻先をくすぐれば、俺は安心して眠れる。 でも、今はここに修一の温もりはないから、せめて枕をぎゅっと抱き締めて目を閉じた。 枕から修一の匂いがする。しっかり顔を埋めたら、少しは安心出来た。 修一、早く帰ってきて。やっぱり寂しいよ…。 カチャリ、とドアが開く音がして、俺はうっすらと目を開けた。 ぼやけた視界に人間の姿が見える。修一だ。 「ただいま。ごめん、起こした?」 修一の声がする。甘くて、優しい声。 俺の顔を覗き込んで、修一は笑う。 「お前、俺の枕の匂い嗅ぎながら寝るの止めろよ。セクハラだから、それ」 匂いなんか嗅いでねーよ――いつもならそう言えるのに、言葉が出て来ない。 なんか泣きたくなった。込み上げてくる涙が止まらなくて、ぽろりと目尻を伝って零れ落ちる。 会いたかった、寂しかった。それだけなのに泣けてくる。 修一は心配そうな顔になって、指先で俺の涙を拭う。 「漣、どうしたの?やな事あった?」 「…修ちゃん」 「ん?」 「…ずっと、一緒にいて」 俺は弱いんだ。修一がいないと何にも出来ない。笑う事さえ出来ないんだ。 だから、ずっと一緒にいて。一生離さないで。 泣いたって良い、寂しいのくらい我慢するから。 「うん、ずっと一緒にいるよ。離さないから」 修一は甘い声で囁いて、苦しいくらいぎゅっと抱き締めてくれた。 優しくされて、余計に涙が止まらなくなる。俺は修一にしがみついて、ひたすら泣いた。 修一はどこまでも優しくて、ただ俺の頭を撫で続けた。 俺が泣き止むまで、ずっと。 幾ら恋人だからって、俺が修一の未来まで奪って良い事にはならない。俺がバカでもそんぐらいは分かる。 だから、俺の不安は一生尽きる事はないんだ。それは俺と修一が別々の人間だから仕方がない。 でも、これで良い。 不安になっても、寂しい思いをしても、修一の未来にいつも俺が隣にいればそれで良いんだ。 いつも同じ景色を見ていられなくても良い、隣にいさせて。 どんだけ離れたって良い、必ずここに帰ってきて。 修一とずっと一緒にいる。死ぬまで離れない――それが俺にとって最高の幸せだから。 END - こっち向いて - 2011年11月24日(木) 「漣、今日ご飯、何食べたい?」 「……………」 「漣?どうかした?」 「……………」 今日は漣の機嫌が悪いらしい。 話し掛けても返事はなく、そっぽ向いたまま。俺を見ようともしない。 バイトから帰ってきてから様子がおかしいな、とは思っていたけど。 漣が機嫌を損ねるのは大抵俺だ。いや、不機嫌にさせるつもりはないんだけどさ。ちょっとした事で不機嫌になっちゃうんだよね、この子。 でも、俺はそんな漣を可愛いと思ってしまう。俺の言葉、行動で怒ったり笑ったり泣いたり――感情を左右させる漣が愛しくて堪らない。 ちなみに怒らせる原因の二割はちっぽけな問題だ。 漣が買ってきたプリンを俺が食べちゃったとか、漣が楽しみにしてたドラマをビデオ録画し忘れたとか、『今度の休み、遊びに行こうな』って言ってたのにそれが駄目になったとか。 その殆どが下らないものばかりで、漣の機嫌を直すのは割と簡単。 残りの八割は嫉妬。こっちだったら、ちょっと厄介だ。 様子を見る為に少し漣から離れようかな。 とりあえずお茶でも入れる振りしつつ…と立ち上がろうとしたら、何かに引っ張られて動けない。 何だ?振り向いたら、漣が俺のシャツの裾を掴んでいた。 瞳をうるうるさせながら俺を見上げてくる。 さっきまで怒ってたのに。顔だって見てくれなかったのに、俺が離れるのは嫌なんだ? あーもう何なんだ、この可愛い生き物。ちきしょう。 もっと色々意地悪して、悪戯して苛めたい――いや、そんな事考えてる場合じゃなくて。 とにかく漣の機嫌を直すのが先決。 「漣、ここおいで」 ソファに座り直してぽんぽん、と膝を叩く。 漣はきゅっと唇を結んで、またそっぽ向いた。眉間には深い皺。 だけど、俺が嫌な訳じゃない。それはさっき行動で示してくれたから確かだ。 今更意地張ったって意味ないのに。 俺が傍にいないの嫌なんでしょ。ね、漣。 腕を掴んで漣の身体を引き寄せる。大した抵抗もなく、漣は俺の方に倒れ込んできて少し不安そうな顔をして俺を見上げてた。 大丈夫だよ、という意味を込めてほっぺたにキスしようとしたら、また顔を逸らされる。思わず苦笑い。 漣の腰を持ち上げて、膝の上に乗っける。 腹を割って話し合い、には向かい合うのが一番だ。膝の上なのは…まあ、俺の趣味だ。 さあ、不機嫌の理由を聞こうか。 「漣くーん、どうして怒ってるんですか?」 「ガキ扱いすんじゃねーよ!」 漣はそう叫ぶと、俺を睨み付けるように見た。 いきなり怒鳴らるとは思わなくて、俺は何も言えなくなる。 黙ったまま漣を見つめていると、漣はぽろぽろと涙を零し始めた。 どうしたの?何かあった?何で泣くの――そう尋ねたいのを今は我慢する。また漣を怒らせるかもしれないから。 怒るのは良い。宥めれば良いだから。だけど、漣は怒ると暴れるし、泣くし…。 漣に泣かれるのは困る。胸が痛いから。 もう泣いてるけど…。ああ、困った。俺も泣きたいよ。 「修一な、んかき、らいっ!」 「俺は漣が好きだよ」 「う、そつき、修一はほん、とはおん、ながいいん、だ」 「俺は漣が良いよ。漣じゃなきゃ嫌だよ」 「うそ、だ。お、んながい、いならおんなのと、こいけよ!」 「嫌だ、漣が良い」 何度も繰り返される押し問答に、漣は次第に言葉をなくして俺にしがみついて泣いた。 俺はただ、漣の頭を優しく撫でてやるばかり。 嫌いだ何だと言いながら、俺にしがみついてる漣は本当に可愛い。 だけど、泣かせてるのは俺なんだと思うと、やっぱり胸が痛い。 泣かないでよ、大好きだよ、俺はずっとここにいるよ? 漣が泣き止んでくれるなら、俺は何だってするよ。 「ごめんね。漣が良いのに、漣しかいらないのに悲しませてばっかりして、俺は悪い奴だね」 「…そんなんで信じないからな」 「じゃあ、どうしたら信じてくれる?」 「そんなの、自分で考えろ。信じさせてみろよ」 信じさせてみろ、だって。可愛いなー。 これってお誘いだよな?いっぱい可愛がって、って事だよな? そういう事なら喜んで。涙も多少収まったようだし、俺は漣の身体を抱き上げた。 「じゃー、ベッド行きましょーねー」 「ふざけんな!一人で歩けるっつの!」 「だめー。俺がつれてくの」 「ガキ扱いすんじゃねーっつっただろ!」 馬鹿だなぁ、漣は。これはガキ扱いじゃないよ。 漣が可愛いから、愛しいから、可愛がってあげたいだけだよ。 それからはまあ…、こんなとこじゃ言えないような事して、漣の機嫌を直した訳だけどさ。 俺、今だに漣がどうして怒ってたのか分かんないんだけど。 漣は俺に背を向けて、眠った振り。怒ってるんじゃなくて照れてるんだ。 「漣くーん?もう寝ちゃった?」 「……………」 「漣くん、どうして怒ってたの?」 漣は馬鹿で素直で演技が出来ないから、寝た振りなんか出来ない。 名前を呼んだら、しっかり肩を揺らした。答えたって訳じゃないだろうけど。 怒りをぶり返す事になるかな、って思いながら尋ねると、漣の小さな声が返ってきた。 「…お前、さっき女と歩いてただろ」 「え?ああ…うん、歩いてたね、それが?」 「それが、じゃねーよ。でれっでれ笑いながら歩いてた。ああいう年上の女が良いなら、そっちいけば?」 ……………。 仰ってる意味がよく分からないのですが? 確かに俺は女性と歩いてたよ。会社の先輩の女性と。それは間違いない。 だけどあの人、四十過ぎたおばちゃんですよ?俺と二十くらい歳が離れてますよ? 確かに年上には違いないけど…、年上過ぎるだろ? 姉弟…でもきつい、下手すりゃ親子だ。 どう考えたら、あのおばちゃんと俺がどうこうなるって思えるんだ!? …でも。 あんなおばちゃん相手でもやきもち妬いちゃうんだ? おばちゃんで駄目なら、お婆ちゃんでも子供でもやきもち妬くじゃん、お前。 可愛いなぁ。俺、超愛を感じたんですけど。 「漣、こっち向いて?」 「…やだ」 「こっち向いてくれないと、キスが出来ない」 「……………」 それでも、漣はこっち向いてくれなくて。 じゃあ、良いよ。見えてる所にキスするから。 背中や首筋に何度もキスしてたら、漣が肩を震わせて小さく声を上げた。 あんまり可愛いから、ここじゃ言えないような事も第二ラウンド突入です。 「漣、好きだよ、大好き」 「…俺はお前なんか嫌い」 良いよ、答えてくれなくたって。 お前が俺を愛してる事なんて、全部お見通しだからさ。 END -
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