Promised Land...遙

 

 

君と二人なら (2) - 2006年02月28日(火)


ちょうどその時だった。アグリアスを追っていると思われる男、数人が家の扉を乱暴に開けた。
「何だよ、勝手に家ん中入ってくんなよ。ノックぐらいしろ」
俺はそいつらに振り向かずに、手を動かしながら言った。
ノックされてたら、勿論入れねぇんだけど。
入って来たのは、多分三人。見てねぇけど、気配で分かる。


「ここに美しい女性が入ってきたな?どこへ行った?」
男は言う。嫌な感じ言い方だった。
「女なんかいねぇよ。家違いじゃねぇの?俺は親父と二人暮しだし、今は親父も出てるから俺一人しかいねぇよ」
「隠し立てすると容赦しないぞ」
「あっそ。俺、今忙しいんだよ。出てってくれ」
「貴様っ!クレメント様に何て口を!!」
さっき外で騒いでいた男の声だ。剣を向いたのが、気配で分かった。
背後に振り下ろされた剣先を、手に持っていたスパナで受ける。
キィィィン―――金属がぶつかり合う高い音が響いた。


振り向いた先に居たのは、裕福そうな格好をした―――多分貴族だ、ありゃ―――男が一人、衛兵風の男が二人だった。
貴族の男は腰に剣を差してはいるものの、人なんか殺したことないって顔してる。服も軽装で、腕も細い。こんなんで剣が扱えてんのか?
衛兵の男二人はそれなりに腕も立つんだろうけど、あんまり気にならなかった。
つか、アグリアスの方が絶対強い。何で逃げられなかったんだろう。


「お、お前っ、何者だ!?」
「べっつにー、あんたらに名乗るほどの名は持ってねぇよ、貴族“様”。忙しいっつっただろ?帰ってくれ」
男は俺が剣先を受けたことに驚いたみたいだ。だけど、これぐらい出来て当然。一年前まで死線を潜り抜けてきたんだから。
つか、人間外のヤツも相手にしてきた訳だから、今更人間にどうこう出来る訳がなかった。


「もう一度聞く。女をどこへやったんだ?」
クレメント、と呼ばれた貴族風の男がそう尋ねた。
まるでアグリアスを物扱いだ。なんかムカつく…。
「知らねぇって。あんたら、女のを追い回してんのか?みっともねぇなぁ。お、出来たっ」
俺はたった今修理し終えた四角い箱―――りもこんって言うらしいんだけど―――のボタンを押した。
すると、飛行船の形をした模型が動き出して、宙に浮く。
「おー、飛んだ飛んだ」
「な、何だ、それは!?」
宙に浮かんだ空飛ぶおもちゃを、男達はぎょっとした目で見つめている。
ああ、こいつらはこんな機械仕掛けのおもちゃなんて見たことないんだろうな。


「これはらじこんっつってな。『失われた文明』のおもちゃさ。このりもこんってヤツで、遠隔操作してんだ」
「こ、こんな物…、何の役に立つ!?」
「いや、役に立たねぇって。だって、おもちゃだもん。楽しいだろ?」
りもこんを動かすと模型は、一人の男の腹に、もう一人の胸に、貴族の男の顔にぶち当たった。
男達はうわぁ、と無様な声を上げる。
「あ、悪ィ。動かし方、いまいち分かんねぇや」
「く…っ、このままで済むと思うなよっ!」
貴族の男は、格好悪ィ捨てゼリフを吐いて、逃げるように去って行った。






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君と二人なら (1) - 2006年02月27日(月)


再び訪れた平和な日々。
少しだけ退屈で寂しくもあったりするけど、それでも愛しい日常を打ち壊すように飛び込んで来たのは、よく見知った美人だった。


「助けてくれ、ムスタディオ!!」
バタンと乱暴な音を立てて開いた扉の先には、綺麗で凛々しかった…筈のアグリアスだった。
「姉さん、どうした…って、ええ〜!?」
相変わらず機械弄りの日々を送っていた俺が、叫び声を上げたのも無理はない。
大きく胸が開いた水色のドレス。綺麗なレースとシルクの生地、大きく広がった裾が印象的だ。
高く結い上げた金色の髪と銀の髪飾りに、見たこともないくらい大きなダイヤが付いた首飾り。
だ、誰だよ、この人。声はアグリアスだった。顔も…似ている。だけど…。


「…ど、どちらさんで?」
「私だ。アグリアスだ!追われている、匿ってくれ!」
「ホントに姉さんかい?どうしちゃったんだよ、この格好…」
あんなに男らしかった姉さんが。それにあんなにドレスは嫌だって言ってた癖に。こんなにヒラヒラで綺麗なもん着ちゃって…。
「話は後だ。追われてるんだ、助けてくれ!捕まったら、私は…」
目を潤ませて、縋りつくように服を掴まれる。
そ、そんな目で俺を見んなっ。女の格好で、俺に近づくなっ。ヤバイから、ホントに!


「わ、分かった。とりあえずここに入れよ」
床の絨毯を捲り、地下室に繋がる蓋を開ける。
地下室と言えば聞こえは良いけど、ただの物置だったりする。
がらくただらけで狭いし、埃っぽい。明かりもない。だけど、俺んちで隠れられる所って言ったら、ここぐらいしか思いつかなかった。
「大丈夫か?暗いし、狭いけどちょっと我慢しろよ。あ、服汚さないようにしろよ」
地下室の階段を降りてくアグリアスに手を貸してやる。スカートが縺れて、降り難そうだ。
今その手を包んでいるのは、よく見慣れたグローブじゃなくて、シルクの白い手袋だった。やっぱり違和感を感じずにはいられない。
「有り難う、ムスタディオ…」
…なんかいつもと違うな。弱気というか…、素直というか…。
普通の女っぽいぞ、姉さん…。


「ここです、ここに入っていきました!」
外で何やら騒がしい声と、数人の足音がした。
アグリアスは戸口の方向を向いて、僅かに身体を震わせる。
きっとあいつらなんだ、アグリアスを追っているのは。
「俺が開けるまで、出てくるなよ。じゃあな」
地下室の蓋を閉めて、元通り絨毯を敷き直す。
ちょうど蓋がしてある場所に座り直し、俺は再び機械弄りを始めた。






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16.力(4) - 2006年02月26日(日)


そろそろ帰ろっかな。一人でいる時に、変なのに遭遇すんの嫌だし。
溜息をもう一つ吐いて立ち上がると、アグリアスが慌てたように走ってくるのが見えた。
どうしたのかな…。あ、これ落としてることに気がついたとか?
「ムスタディオっ、この辺に何か落ちてなかったか!?」
肩で息をしながら、アグリアスは酷く焦ったように尋ねる。あ、やっぱり、と思った。
「おお、これだろ?姉さんのだと思って、壊れてたから直しといたぞ。ほい」
ポケットから取り出して懐中時計を差し出すと、アグリアスは大事そうに両手で受け取った。


「直したって…、直せたのか!?」
「うん、だって歯車外れてただけだし。もうちゃんとネジ回しとけば動くぜ」
「本当か!?…本当だ、動いている…。凄いな、お前」
アグリアスは嬉しそうに懐中時計を見つめ、子供のように無邪気に微笑んだ。
あ、可愛い…かも…。
「そんなに感激するようなことじゃないぜ?これぐらい、誰だって直せるさ」
「そうか?だが、私はこの懐中時計が動くのを初めて見た。それが凄く嬉しい」
アグリアスは本当に嬉しそうで、全然大したことした訳じゃないだけに、照れくさくて俺は思わず目を逸らした。


「これは祖父の形見なんだ。両親から受け継いだ時には、既に壊れていてな。直らないのだと思って、諦めていたが…。動いているのを見るのは嬉しいものだな。有り難う、ムスタディオ」
「大したことじゃねぇって」
「大したことではなくても、私は嬉しいのだ。ならば、礼を言うのは当然だろう?」
ヤバ…、ドキドキする…。
そんなに嬉しそうに笑うなよ。綺麗な顔で笑うなよ…。
取り返しのつかないこと、しそうになるじゃんか…。


「お前は弱い訳ではないじゃないか、ムスタディオ。これがお前の力だろう?」
「え?だって、こんなん出来たって役に立たねぇって!」
戦場に出れば、何も役に立たない力。そんなのあったって意味ないし、意味がないなら無くたって構わないのに。
「そんなことはない。壊れた物を直すことが出来る、新しい物を作り出すことが出来る。立派な力だ」
「だけど…」
「悲観するな。お前にはお前の力がある。私達には出来ないことを、お前が出来るんだ。誇りに思え」
ああ、何でコイツは…、こんなにも強いんだろう。
強くて、気高くて、綺麗なアグリアス。敵わないよなぁ、器からして。


「…サンキュ」
「何故お前が礼を言うんだ?おかしな奴だな」
「うん、だけどさ。ありがとな」
「まあ、良いが…。こちらこそ有り難う、ムスタディオ」
ズボンに付いた埃を軽く掃って、立ち上がる。
「帰るのか?」
「うん、一緒に帰ろうぜ」
並んで歩き出すと、アグリアスはまだ嬉しそうに懐中時計を眺めていた。
「あのさ、やっぱあんたが“普通の貴族のお嬢さん”じゃなくて良かったって思うよ」
「なんだ?唐突に。話を蒸し返すな」
「分かんねぇなら良いさ」


自分の弱さと強さを気づかせてくれたあんたと。
出会うことが出来て良かったよ、本当に。
いつかあんたピンチになった時、俺は必ずあんたを守るから。
綺麗なあんたが傷つくことがないように。





*****


中途半端なとこで止めたまま、超久しぶりになっちゃいました、すみません(てへv)
ここでは初めてのノーマルカップリングですね〜。大好きなんですよ、この二人。
ゲーム中ではラブが生まれそうなシーンなど一つもないですけどね(泣)
優しくてヘタレで無教養(“本当かい!?有り難う、お姫様”の台詞で、無教養決定)なムスタディオと、しっかり者の姉御肌で男勝りな意地っ張りアグリアス。絶対上手くいくと思います。
最初は反発しながらも、少しずつお互いの良い所に惹かれていく感じが良い…!
でも、アグリアスは王家直属の近衛騎士団ということは貴族だと思うので、身分違いの恋。
なので、この小説は“お互い大切だと思っていることは分かっているけど、口には出さない二人”って感じですね。
エンディング後はどうなるんでしょうかね。結ばれるには駆け落ちしかないと思うんですけど…。
そんな話も書きたい遙でした。でも、そこまで書くのもどうかと…。



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16.力(3) - 2006年02月21日(火)


「…昼間のことだけどさ…」
「昼間?ああ…。まさかお前、そんなことで悩んでいたのか?」
「そんなことって言うなよ…。情けねぇじゃん、俺…」
女に守られて、今こうして生きている俺。死んだ方が良かったとは思わない。だけど、自分の不甲斐ない自分に嫌気が差す。
「そんなことはない。あの時、私がお前を助けることが出来たのは偶然だ。気にするな」
偶然が二回も三回も続けば、そりゃ必然って言うだろ…。
どう考えたって、俺はアグリアスより弱い。守ってやることは出来ないんだ。


「弱いよなぁ、俺…。もっと力があれば…」
「…私に助けられたことがそんなに不服なのか?」
「不服っつーか…、情けないじゃん。女に守られて…」
男なのにさ。守ってやるべき立場なのに…。
「女が男を守ることはそんなにおかしいことか?女は男に守られるべきなのか?」
アグリアスは僅かに顔を歪めて俯いた。
憂いを帯びた表情に、ズキンと胸が痛くなる。
「大切な人を失うのが悲しいのは、女だって同じだ…。ならば、それを阻止したいと思うのは当然ではないか」
泣いているかもしれない。だけど、それを確認する前にアグリアスは顔を背け、走り去っていった。


ヤバ…、泣かせたかもしんない。
最低だ、俺…。好きな女に守られて、いじけて、泣かせてどうすんだよ。
「バカみてぇ…」
大きな溜息を吐いて項垂れる。
本格的に落ち込んできた…。


項垂れたまま地面を見つめていると、草むらの中にキラリと光る何かを見つけた。
何だろう?と思って、それを拾い上げると鎖がついた銀製の懐中時計だった。月明かりの下で、キラキラと光っている。
「すげぇ…、年代物だ。姉さんが落としたのかな?」
ちょうどアグリアスが座っていた辺りだけど。
懐中時計は少し古ぼけているものの、綺麗に磨かれていて持ち主の大事な物であることが伺える。
蓋を開けてみると…、動いてない。ネジを回しても動かないってことは、多分壊れてる。
軽く振ってみると、中でカタカタと音がした。


「…歯車が外れてるとか…、そんな感じかなぁ」
用具入れからネジ回しを取り出して、中を開けてみると思った通り歯車が一つ外れていた。
歯車を元の位置に戻して、もう外れないようにきつめに留める。
「よし、これで動くはず…」
もう一度ネジを回してみると、今度はコチコチと規則正しい音が響いた。
姉さん、喜ぶかな…。こんなもん、直せてもあんまり意味ないんだけどな。特に戦では。
後で渡しとこ。それにちゃんと謝らなきゃな…。
俺は懐中時計をズボンのポケットの中に仕舞った。






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16.力(2) - 2006年02月20日(月)


「…何でもねぇよ、放っといてくれ」
「そういう訳にもいかない。食事は取れる時に取らなければ、身体を壊すぞ。体調が悪いのか?」
アグリアスの掌が、俺の額に触れる。
温かな体温に、心臓が飛び出るかと思った。
「熱は…ないようだが、少し冷たくなっている。少し休んだ方が…」
「いいって。放っとけってばっ」
命の恩人でしかも貴族のお嬢さんに向かって、何て口の聞き方してんだろうな、俺。
だけど、今はアグリアスにだけは会いたくなかったんだ。
合わせる顔がない。これ以上情けないとこ見られたくない。
あんな風に言えば、アグリアスはいつもみたいに怒ると思っていた。
“だったら、勝手にしろ”って去ってくれると思っていた…のに。
アグリアスは寂しげな、悲しげな顔をしている。
傷つけた―――そう思った。


「何で…、そこに座るんだよ」
それなのに、アグリアスは俺の隣に腰を下ろした。
「どこに座ろうと、私の勝手だろう。“放っておいてくれ”」
まるで俺の言葉を真似するように、アグリアスは言う。
そうだけどさ…。俺の傍に居たって、良いことないだろ?
「飯、食いっぱぐれるぞ」
「それはお前も同じだ」
まるで拗ねたようなアグリアスの言葉を聞いて、それきり会話が途切れた。
少し肌寒い風が頬を撫でる。アグリアスの言った通り身体は少し冷たくなってたけど、動こうとは思わなかった。


無言になったアグリアスの顔を見つめる。
綺麗な顔だよなぁ。こうして見ると、あんなに重そうな剣を振り回しているように見えない。
綺麗なドレスを着て、金色の髪を高く結って、にこにこ笑っていれば普通の貴族のお嬢さんだ。
何で…騎士なんかになったんだろう、こんなに綺麗なのに。


「何だ?」
じろじろ見過ぎたみたいだ。アグリアスは俺の視線に気がつくと眉を潜め、睨むように俺の顔を見返した。
「いや、綺麗な顔してんなと思って」
「…馬鹿にしているのか?」
何でそう悪いように取るかな。本当にそう思っただけなのに。
「してねぇって!あんたは綺麗だよ。女らしくしてれば、俺がこんな風に話したり出来ない人なんだよなぁ」
今だって手が届かないことには変わりない。
貴族のお嬢さんなのは事実だし、何より俺より全然強いし…。


「女らしい私など…、寒気がする」
「んなことねぇよ。ドレスとか着ればさ。うん、絶対綺麗だと思うぜ」
「………それ以上言ったら、殴るぞ」
そう言ったアグリアスは本気の目をしていたから、俺は両手を上げて降参のポーズを取った。
「…ハイ、スミマセン」
「…よし」
よしって何だよ。いーじゃん、綺麗って褒めてんだからさ。
だけど、アグリアスが“普通の貴族のお嬢さん”だったら、出会うこともなかった。
俺の知らないとこで、どっかの貴族のキザ野郎と結婚とかしてんだ、きっと。
そう思うと…、良かったかもしんないけどさ…。






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