16.力(1) - 2005年12月06日(火) 力が欲しかった。 アイツを守ってやれるだけの力が。 それはアイツが弱い女だからって訳じゃない。 きっと誰より大切な人だから。 毎日毎日、戦闘ばっかしてると慣れって訳でもないけれど、たまに緊張感が途切れることがある訳で。 そういう時って、絶対ヤバイ。そんでもって、ヤバイって気がついた時には既に遅かったりする。 「危ない、ムスタディオ!」 その声にはっと我に返って、振り向いた時にはやっぱりもう遅かった。 レッドパンサーの爪が、俺の身体に向かって振り下ろされる。 「うわあっ!!」 「大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん! 無双稲妻突き!」 思わず目を閉じながら上げた叫び声と同時に聞いたのは、アグリアスの声。 そっと目を開けると、レッドパンサーの屍が横たわっていた。 どうやら助かったみたいだ…、アグリアスのおかげで。 「…サンキュ」 「いや、気にするな。背後には気をつけろよ」 アグリアスは息一つ乱さずにそう告げると、またモンスターに向かって走って行った。 その後ろ姿を見ていると、溜息が零れる。 「…またやっちまった」 好きな女に守られるのは、既に何度目かことだった。 自分の情けなさに、今日何度目かの溜息が零れた。 アイツのこと、守ってやるどころか守られてんだもんなぁ。男としてどうなんだ、俺…。 絶対男だと思われてないよなぁ…。アイツだって女だ。自分よりも強い男が好きだろ、絶対。 自分が弱いとは思わない。俺の狙撃の腕は百発百中だ。 手先は器用な方だし、ちょっと訓練すればどんな武器だって扱える。 力だって、普通の男以上は多分ある。 だけどアイツは…、アグリアスは強過ぎるんだ。 隙のない身のこなし、剣術の腕、それと聖剣技とかいう不思議な技―――どれをとっても、俺が敵う相手じゃない。 どうしてあんなに強い女を好きになっちまったんだ、俺。 普通の女なら…、守ってやることが出来るのに。 自分の力量を知ることなんてなかったのに。 俺だって男なんだ。自分の力には自信を思っていたい。 それなのにアイツを好きになってから、自信なんてこれっぽっちもなくなっちまった。 自分より弱い男を…、アイツはどう思っているんだろ。 「どうしたんだ、ムスタディオ」 聞き慣れた声に、俺は顔を上げた。 綺麗な顔が視界に飛び込んでくる。長く伸ばした金髪が夜風に揺れている。 「姉さんこそ、何やってんの?こんなとこに…」 こんなとこに一人で来て、危ないじゃん―――そう言おうとして、俺は言葉を飲み込んだ。 危ないのはアグリアスじゃなくて、俺の方かもしれないからだ。 そろそろ飯の時間だ。なのに、こんなとこに何の用だろう? 「お前を迎えに来たんだ。食事も取らずに何をしている?」 予想外に言葉に、俺は驚いてアグリアスを見た。 確かに俺が居なくなったことを皆そろそろ気がついてると思ってたけれど、まさかマンダリア平原まで探しに来ないだろうと思ってたから。 続 -
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