Promised Land...遙

 

 

3.絆 - 2005年11月12日(土)


これが恋であっても、友情であっても、どっちでも良かったんだ。
彼の傍に居られるなら、どちらであったとしても。


「…杉、上杉」
名前を呼ばれて、はっとする。
目の前に居た彼が、俺様をじっと睨んでいた。
「な、に」
柄にもなくどもってしまう。こんなの、俺様らしくない。
南条に睨まれるのなんて慣れてる筈なのに…。
「今の戦闘で怪我をしただろう。見せてみろ」
「へ?そうだったっけ?こんなの平気っスよ〜、でひゃひゃ………ギャー!切れてる!顔!ほっぺたっ!!」
南条の言った通り、ほっぺたがぱっくり切れていて、血がだらだらと流れていた。
指で障ってみると、ぬるっとした感触。気持ち悪い上に、ぴりぴり痛い。


「痛いっ、死ぬっ!助けて、南条!」
「騒ぐな!それぐらいで死ぬか、馬鹿者!だから、言っただろうが…。早く見せてみろ」
そっか、南条って今、ディアラマ使えるんだっけ。
皆のお医者さんだ。いいな、格好良い。
「お願いシマス、南条センセイ」
「ちゃかすな、馬鹿者」
馬鹿馬鹿って、まるで俺様が馬鹿みたいじゃん。
こーんな男前で、強くて格好良いヒーロー捕まえてよく言うよ。
南条の指が、俺様のほっぺたに触れる。
―――細くて長い指。
「ディアラマ」
南条が回復呪文を唱えるのを、俺様は黙って見ていた。
―――綺麗な顔。


「…杉、上杉?」
「ヘ?」
「間の抜けた声を出すな。終わったぞ」
「あ、ああ、うん」
も一度ほっぺたに触れてみると、確かに傷口は跡形も無く消えていて、流れた血だけが残っていた。
それを制服の袖で拭い取る。
「馬鹿者!袖で血を拭う奴があるか!」
「え、何で?」
確かに袖には、べったりと血がついちゃったけど。
南条はそれを見て、呆れたように深い溜息を吐く。


「さっきからどうも変だな、貴様。そんな風に呆けているから、負わなくても良い傷を負うんだ。大体、貴様は普段から…」
ううっ、南条のお説教タイムが始まっちゃったよ…。
誰のせいだと思ってんだよ…、南条のせいじゃん―――南条のせい?なの?
でもだって、南条のこと見ちゃうんだもん。綺麗な顔をしているから、つい見惚れちゃう。
これって、何なんだろう…。
「―――…おい、上杉?聞いているのか、貴様!」
「うんうん、聞いてるっスよ。アリガト、南条。お礼に俺様の愛をあげちゃうからね」
「いらんわ、馬鹿者がっ!」
「何それー。酷いっスよ〜、なんじょ〜っ」
ふんって顔を逸らされて、南条は俺様を置いて歩き出した。
そんなに怒んなくたって良いのに…。俺様の愛って、結構引っ張り凧なんだよ?
それを南条にあげるって言ってるのにさぁ〜。
南条の後を追いながら、治してくれたほっぺたに触れてみる。
傷口は綺麗さっぱり治った筈なのに、何だかひりひりと痛かった。


これが恋であっても、友情であっても、どっちでも良かったんだ。
南条の傍に居られるなら、どちらであったとしても。





*****


南ブだね。
某所でペルソナは世界観が難しいから、私には無理かも…と書いた筈の南ブだね。
いや、だって書きたかったんだよ。こんな日常の一コマみたいなヤツなら大丈夫だと思って。
思ってたんだけど…、矛盾がありますね。
ディアラマを使うのは南条くんじゃなくて、南条くんが降魔しているペルソナの筈だよね。
それに、南条くんが回復役って…とツッコミも入れたくなる。ウチのパーティでは、殆どマキちゃんだった。
ま、いっか。とにかくブラウンが負った傷を南条くんに治させたかったんですもの。
ブラウンの想いは恋なんだけど、それを分かっているような分かっていないような…、半分くらいは気がついているって感じなのでしょう。
でも、男同士な上、相手が相手なので違うかも?と思っているのかもしれません。



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10.薬 (3) - 2005年11月10日(木)


「絶対飲まないからな…」
何だかんだ言いつつ、明人はお粥を殆ど完食した。
割と腹は減っていたのかもしれない。具合が悪くて、動くのが面倒だっただけか。
明人が俺が手に持っている風邪薬を見てそう言った。
「だから、我侭言うなって。病院に行かないんなら、市販の風邪薬ぐらい飲まなきゃ駄目だ」
「嫌だね、もう寝るっ」
明人は俺に背を向けて、ベッドに倒れ込む。
本当に我侭だな…。明人が薬嫌いなんて知らなかった。食べ物では好き嫌いが殆ど無いのに。


「明人、寝るなら薬飲んでからにしろって」
「……………」
そんなに嫌なのか、薬。
「あんまり我侭ばっかり言ってると、襲うぞ?」
「……………」
完全に無視されてる…。なら、襲っても良いってことか?
「分かった」
俺は錠剤の風邪薬とミネラルウォーターを一緒に口に含んだ。
明人の顔の横に手を置くと、明人は驚いたようで俺の方を向く。
無理やり顎を掴んで口づけると、明人の口の中にそれらを流し込んだ。
明人の喉が上下する。しっかり飲み込んでくれたみたいだ。


「…漫画とかでこういうシーン、読んだな。割と上手くいくもんだ」
あれは…、江藤に借りた少女漫画だっただろうか。
まさか俺が実践することになるとは思わなかったけど。
明人は驚いたようで、まだ声を出せないでいる。
「明人ー?大丈夫か?」
「………なんてことすんだよっ!騙したな!?」
ようやく声を上げた明人は、俺の予想通りの言葉を吐いた。
「騙してない。俺、襲うって言っただろ」
「酷いっ!鬼!悪魔!冷血漢!!」
…なんとまあ、酷い言われよう。だけど、それで明人が治ってくれるんなら別に構わない。


「はいはい、分かったからもう寝ろ。俺は帰るからな。明日の朝、また来るから。学校に行けそうなら一緒に行こうな」
まだぎゃーぎゃー騒いでいる明人を、ベッドに押しつける。
「俺はもう駄目だ…。恋人に裏切られ、一人寂しく死んでいくんだ…」
「はいはいはいはい、ちゃんと愛してるから。おやすみ、明人」
明人を軽くあしらって、背を向ける。
…やっぱりちょっと拙かったか?口移しで飲ませたのは…。
明日になったら、忘れてくれてると良いが…。明人の性格から言って、引き摺りそうな気がする…。


「一成」
寝室を出る直前、明人が俺の名を呼ぶ。
振り向くと明人は壁の方を向いていて、俺を見ようとしない。怒っているのか、少し声が低かった。
「何?」
「………有り難う、来てくれて…。ちょっと心細かったし…助かった」
明人の口が出た言葉は、意外なものだった。
この状況でお礼を言われるとは。何だか照れくさくなる。
「いい、明人が元気になってくれれば、それで。だから、早く治せよ?」
「うん…、分かった…」
明人は布団に隠れていない頭を上下させた。相変わらずこっちを見ようとしないが。
もう一度明人におやすみ、と言って、俺は明人の家を後にした。


良かった、俺の行動が無駄にならなくて。
これで明人が治ってくれれば、それで良い。
今日の明人も可愛くて良いけれど、やっぱ俺はいつも明人が好きだから。





*****


なんか変だな…。オチはどこだ?
自分でも何を書きたかったんだが…(汗)
とりあえず“病気の時の一番の薬は愛情だ!”ということを書きたかったんですけどね。
口移しで薬を飲ませるとこがメインではないですよ(笑)
あと一成君のキャラがいまいち掴めていない。
一応献身的に尽くす彼と風邪でちょっと我侭で可愛い彼のつもりだったのに。
うーん、ちょっと失敗。



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10.薬 (2) - 2005年11月09日(水)


「何しに来たの」
午後の授業も放り出して、形振り構わず飛んで行った俺に、明人の第一声はこうだ。


「何しにって…。何で俺に言わないんだよ、学校に電話入れたんなら、俺にメールぐらい打てるだろ?」
「言ったら絶対来ると思ったから…。風邪移ったら大変だろ?」
だるそうな声を出し、明人はくしゃみを一つした。
それもその筈だ。明人は風邪を引いていると言うのに、パジャマ一枚しか着ていない。最近寒くなってきたので、玄関先はかなり肌寒かった。
「ああ、もうそんな格好で出てくるから…」
俺は明人の手を引いて寝室に連れて行った。
室内はエアコンの暖かい空気が流れ込んでいて俺にとっては心地よかったが、明人にとってはまだ寒いくらいらしい。
微かに震えている明人を布団の中に押し込んだ。


「熱は?計ったのか?」
「三十八度七分…。大した事無い…」
どこがだよ…。どう考えても、大した事無い数字じゃないだろ…。
「何か食いたい物は?色々買ってきたんだけどな」
来る途中にスーパーに寄って、風邪の時に欲しそうな物は買ってきてある。
スポーツドリンクとミネラルウォーター、レトルトのお粥と林檎、熱さましの冷却シートに風邪薬。これぐらいしか思いつかなかったけど…。
とりあえず冷却シートを、明人の額に貼りつけてやった。
「何もいらない…。寝るから…」
「駄目だ、何か食べなきゃ薬飲めないだろ。少しでも良いから…」
「薬、嫌い…」
「我侭言うなよ。お粥、暖めてくるからな」
何か言いたそうに、俺を睨みつける明人を背に俺はキッチンに向かった。


明人は一人暮しだ。
どういう事情があって高校生で親元を離れたのか、俺は詳しく聞いていない。
明人はそれを俺に言おうとしなかったし、俺も聞かなかった。
聞かれたくない事情があるのか…、言うほどのことでもないのか。
そのことを俺は大して気にしていない。明人は言いたかったら言うだろうし、言いたくないのなら無理に聞く必要はない。
それは良いが、こういう時一人暮しだと不安になる。
病気になっても、面倒を見てくれる人間がいないんだ。
しかも、今回のように明人が俺に言わないでいて、俺が気がつかない可能性だってある。
軽い風邪なら良い、だけど悪化して肺炎にでもなったらどうするつもりなんだ…。
ぐつぐつと沸騰してきたお湯に、パックのお粥を入れながら、俺はそんなことを考えていた。


どうして明人は俺に言わなかったんだろう。仮にも恋人同士だと言うのに。
風邪を移したくなかった―――それは本当なんだろう。だけど、こういう時は心細くなるものだし、こういう時こそ頼りにして欲しいのに。
俺はそんなに頼りにならない男だろうか…。そう考えると、何だか寂しいような切ないような気持ちになった。






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10.薬 (1) - 2005年11月08日(火)


その日は何だか変だなって思ってたんだ。
朝から一度も明人の姿を見ていなかったし、メールも電話もなかったから。


こりゃおかしい―――そう思ったのが昼休み。
俺は四限終業のチャイムと共に、明人のクラスへと急いだ。
その時は特別心配していた訳じゃない。明人が俺の前に姿を現わさないのは、俺がなんかして明人の機嫌を損ねたか、ただ単にサボりだとかそんなことだろうと思っていた。
明人が俺に何も言わずにサボるなんて、考えにくいことだが有り得ないことではない。
電話に出ないのはやっぱり少しおかしいが。


明人のクラスに辿り着いて、中には入らずに教室を覗く。
…いない。やっぱりそこに明人の姿はなかった。
「あれ?一成じゃん。今日あんた、学校に居たんだ?」
声を掛けてきたのは、江藤という女だった。俺とも明人とも割と仲が良くて、俺達が付き合っていることを…多分知っている。
「は?どういう意味だ、そりゃ」
俺は江藤が言った言葉の意味が分からず、思わず聞き返した。
そりゃたまには授業をサボることがあるが、“今日居たんだ?珍しい”なんて言われるほどサボってはいない筈だ。


「え、だってあっきー、風邪で寝込んでるんでしょ?あっきーの一大事には飛んで行くあんたじゃん。珍しいね」
驚愕の事実だ。明人が風邪引いて寝込んでるなんて…。
「マジで!?何でそういうことは早く言わないんだよっ!」
「は?あんた、知らなかったの?私はてっきりあっきーからメールとか来ているもんだと…」
「来てない…。メールも電話も無い…。ま、まさか………死………」
「いや、それは考え過ぎ。担任が言ってたから、学校には連絡入れたみたいだけど…、ほんとに熱でダウンしてんだね」
江藤の言葉に、熱でうなされる明人の姿が思い浮かぶ。
きっと今頃、俺に助けを求めているに違いない。


「江藤、俺帰るから」
「はい、さようなら。風邪、移されないように気をつけな。ついでにあっきーにお大事にって言っといて。」
俺の行動を先読みしていたようで、江藤は午後の授業ついては何も言わない。
さっぱりとしていて、なかなか良い女だと思う。興味はないが。
返事もそこそこに、俺は江藤に別れを告げると走り出した。
明人の苦しそうにしている姿が思い浮かんで、胸が痛くなった。






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