前回のテキスト「指輪コンプレックス」の中で、私はこう書いた。
「もちろんどこに出しても恥ずかしくない素敵な指の持ち主もたくさんいると思うけれど、『サイズは内緒』という女性も決してめずらしくない。これをお読みの男性の中にも、指輪をプレゼントしたいのになかなかサイズを聞き出せず、苦労した覚えがあるという方は少なくないのではないだろうか。」
これについて何人かの男性からメールをいただいたのであるが、私はかなり驚いた。なぜなら、サイズを探るのに骨を折ったという証言がただのひとつもなかったからだ。
そして、彼女の指輪のサイズをどうやってゲットしたかという私の問いに集まったのが、「ふつうに訊いたら教えてくれた」「一緒に買いに行ったときに店頭で測った」というノーマルな回答ばかりだったことには、ちょっぴりがっかりも。
「指輪をプレゼントしようと思ってることがバレちゃうから、直接は訊きたくない」という人はあまりいないようだ。ふうん、男性ってそのあたりでのロマンティックやサプライズは求めないものなのね。
いや、そういう私も「指輪はぜったい私に好みのものを選ばせて!」な現実派なのだが、しかしひとつくらい、
「寝ているあいだにタコ糸で測ろうとしたら、寝ぼけていた彼女に蹴っ飛ばされた」
といったハートフルなコメントがあってもよいではないか……ブツブツ。
さて、今回メールをくださった男性の方々は見事に異口同音にこう言った。
過去、女の人に(ごくごく安物のちゃっちい奴も含めて)3、4度くらいは指輪をプレゼントしたことがあるように思うけど、そのいずれも指のサイズで恥ずかしがられた記憶がない。 してみると、彼女たちは僕の知らないところでなにかしら葛藤していたのだろうか。
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再び、「えー!」と声をあげる私。
恥ずかしがる女の子はいなかったって?いや、そんなはずはない。私の感覚では、指輪コンプレックスの女性は四人にひとり、なのだ。
気にしているからといって、彼女の指が現実に他の女性のそれよりも節くれだっていてゴツイとはかぎらない。ちっとも太っていないにもかかわらず、女性が年中無休で体重を気にしているのと同じカラクリだ。
いま自分が手にしているものの価値を低めに見積もってしまう、現状に納得することができない。そういう気むずかしさ、自信過剰なところが女には往々にしてあると思う。
あなたが片手分の女の子と付き合ったことがあるのに「そんなコはいなかったけどなあ?」とつぶやくとしたら、もしかしたらそれは彼女の“恥じらい”を見落としていたという話かもしれない。
ためしに私は今朝、夫に尋ねてみた。エンゲージリングを買った店でサイズを測るとき、私が恥ずかしがっていたことに気づいていたか、と。彼はブンブンと首を振った。
そう、世の中には私のように、毅然とした態度でもじもじする女もいるのだ。
「指輪がほしいと騒いだあげくに、買ってもらったあとにサイズを気にしてまた騒いでいたら、そんなくだらないことにこだわるなんて、と彼氏に心底あきれられました。でも、七号とか少なくともひと桁だったらよかったなとやっぱり思います」
私が勝手に「小柄でシャイ」なイメージを抱いている、年下の女性日記書きさんからいただいたコメントだ。こういう話を聞くと、微笑ましくて目を細めてしまう。
林真理子さんは恋人から指のサイズを尋ねられたとき、うんとサバを読んで教えたため、プレゼントされた指輪は小指にも入らなかった。彼女はもちろんそれをこっそりサイズ直しに出すのであるが、その際にもまた見栄を張ってしまい、結局ジュエリーボックスの肥やしにしてしまったそうである。
自分からねだってもらっておきながら「もっと細い指がよかった」と嘆いたり、サイズ直しの場面でまで見栄を張らずにいられない心理は、男性には理解されないかもしれない。しかし、私はこういうところこそが女の可愛さ、いじらしさであると思っている。
最後に、メールで「指輪コンプレックス」をカミングアウトしてくれた六人の女性の声を代弁してくれるテキストに出会ったので、ご紹介したい。
「指輪のサイズを測る」という行為すらした事がありません。あまりのコンプレックスっぷりに、触れる事すら出来ない。知りたくない。その辺で売ってる指輪を「あー。これ可愛いー」とか言ってためらい無く指に持っていける人なんて脅威。何でそんな事が出来るんですか…!
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サイズを測るなら、寝てるうちに測ってそれを教えないで!と思うんです。 (サイズを教えられると「辱められた…!」と思ってしまうのです。)
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二の線もある域に達すると三枚目の風味が混入するように(叶姉妹が好例だ)、悲壮感というものも極めるとユーモラスな色彩を帯びるのだ、という発見をした……なんてことは置いておいて。
「そんなこととはつゆ知らず」だった男性にはぜひ彼女たちの“(愉快な)恐怖”を知り、女心というものを勉強していただきたい。