学生時代の友人に会ったら、なにやら浮かない顔をしている。彼女は最近、思いを寄せていた男性に振られたばかり。テンションが低いのはそのためだろうと思っていたら、それだけではなかったらしい。
「電話、彼に着信拒否されてるみたいやねん」
ここひと月ほど、いつかけても話し中になっている。そこで自分の携帯がおかしいのかもしれないと思い、自宅の電話からかけてみたところ、すぐに相手が電話口に出たというのである。
彼女は驚いて何も言わずに切ってしまったのだが、慌てて携帯からかけ直したらまたしても話し中。「これって完璧、拒否られてるよなあ……」とうなだれる。
私はまったく知らなかったのだけれど、着信拒否を設定されると電話をかけたときにツー・ツー音が聞こえてくるのだそうだ。
彼女がしょんぼりと言う。恋人がいると告げられてからは電話も控えてきたし、自分の気持ちを押しつけるようなこともしていないつもり。なぜ着信拒否なんてされなければならないの?
思いきってメールで尋ねてみたが、彼は「そんなことはしていない」の一点張り。しかし、相変わらず彼女の携帯からはつながらない。
「つながらんのはなんでかわからんけど、もしかしたらほんまに着信拒否じゃないんかも、と思ったりもするねん」
彼は着信拒否を否定している。もし本当にそれをしていたならば、ばれたとわかったときに解除するのではないか、というのがその理由だ。できればそう思いたいという彼女の気持ちも伝わってくる。
しかし、そうだろうか。彼女には酷だが、私はそうは思わない。
というのは、私が彼の立場だったらすぐに着信拒否を解くことはないだろうと想像するから。「すぐに電話がつながるようになったら、さっきまで拒否してましたってばればれやん。もうしばらく放置しておこう」と考えるような気がする。
……と言ったら、「そこまで裏を読むか」とあきれられてしまった。うん、私は男と女のことに関しては、まだもう一回ひっくり返して読むくらいのことはする。
それにしても、彼女の話が正確で、かつ着信拒否が事実であるとするならば、話すのが気が進まないくらいのことでまったくいじましいことをするものだ。こういうことはあまり口にすべきではないのだろうけれど、つい「男のくせにめめしいやつ」とつぶやいてしまう。
ばれてもなお白を切り続け、表面上は以前と変わりなく振る舞うというところがさらに気に入らない。何食わぬ顔をして腹の中ではペロリと舌を出しているなんて、人として信じられない。
「もうかけてこないで」と言えないから着信拒否をするのだ、とおっしゃる向きもあるだろう。しかし、それならどうして「もしかして私のこと拒否ってる?」と訊かれたときにはっきり言わなかったのか。NOを伝える絶好のチャンスだったのに。
「相手を傷つけたくない」なんていうのは嘘だ。悪い感情を持たれたくない、でも手っ取り早く相手を遠ざけたい、それしかない。
電話で着信拒否をされたことはないけれど、メールなら「もしかしてそうかな」と思ったことはある。
「日記を読みましたが……」というメールに返信しようとすると、エラーメッセージが出て送れない。何日待っても同じこと。たしかにメールの文末には、「返事は不要です」と書いてあった。しかし、私は受け取ったメールには返信する主義。
不穏なメールに対しては多少なりとも神経を遣って返事を書くため、時間がかかる。それが届けられないとわかったときの脱力感といったら。
「あなたね、自分は好き放題言っといてこちらの言い分は聞かないよって、それはないんじゃないの」という思いももちろんある。しかしまあ、世の中にはいろんな人がいる。そんなことより悔しいのは、私の時間を返せ!ということだ。
「それならそうと『受信拒否するので、送ってきても無駄です』って書いとかんかい」
そうして私はモニタの前でしばらく暴れるのである。
私はナイーブな人間ではないので、サイトをやっていて不愉快に感じることといったらこのくらいしか思い浮かばない。
しかし、「それをしなくてはならないほどのことか?」と思わずにいられないレベルのことであっさり着信拒否、受信拒否に走ってしまう人、こういうやり方で物事の片をつけられると信じている人ほど不気味に感じる存在はない。
【あとがき】 もし私が好きな人に着信拒否、受信拒否なんかされたら、ショックで立ち直れないだろうなあ。そんなことをさせるようなことをしてしまった自分に対する苛立ち(たとえ身に覚えはなくても、自分を責めてしまうものですよね)と、そんなふうに思われてしまったという事実に打ちのめされるのと、面倒なことはそんな方法でシャットアウトしてしまえと考えるような人だったのかという相手に対する失望とのトリプルパンチ。幸いそんな経験はありませんが……。メールの受信拒否にしても、もしサイトではなくこれがプライベートで付き合いのある相手だったら、腹が立つというのではなくただひたすら悲しかったろうと思います。 |