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- 2004年10月31日(日)
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- 犬エッセイ《ダックス・イン・ザ・パーク》―5―「公園」
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ダックス・イン・ザ・パーク DACHS IN THE PARK ハラタイチ 書き下ろしロングエッセイ―その5―
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別名「犬バカ日誌5」。
5
(1を読んでいない方へ。 注…「お嬢」=「彼の愛犬であるメスのミニチュアダックス」)
今日のような澄み渡った空の日になると、なぜに人は公園へと集まってくるのだろうか。 一面に広がる空の下、青枯れた緑の上、集う人々の姿を眺めながら彼はぼんやりと考えた。 犬連れ、家族連れ、恋人連れ、老夫婦、スケーター、草野球、楽器吹き、フリマなどなど、 連れ立ったり目的がある輩はさておき、寝そべって只空を眺めてる人のなんと多い事か。 「なぜ公園に来るのですか?」と彼等に訪ねたならば、何と答えるのであろうか。 何か目的があって来た人であっても、「トランペットを吹きたいから」と答えるより、 「そこに公園があるから」と答えた方が、実はしっくりくるのかもしれない、と彼は思った。 だとすれば、ただ寝そべっているだけの人に同じ事を聞いたならば、何と云うのだろう。 「そこに公園と空があるからだよ」とか、もしくは「だって公園日和じゃないですか」などと、 云うのかもしれない。その人達にとって、公園と青空の二つは必須条件であるかのように。 彼は自分なら何と云うのか考えた。「そうだな…空と公園と…、
その時、突然話しかけられた。本日8人めのお客様だった。
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【8人め】Mさん(女性/45歳)、名称不明(チワワ/1歳ぐらい)
「あらやだっまぁ〜かわいっ!なんか足元で動いてると思ったら、こんなおチビちゃんが いるなんてまぁ〜小さいわぁ〜、何歳なのこの仔?え!5ヶ月!あらやだだから小さいのね〜 え、今日が初めてのお散歩なの〜!よかったわね〜おチビちゃんっ!〜あらやだわぁ〜…」
「ザ・オバちゃま」とも云うべきコテコテのオバさんが背後から突如話しかけたので、 呆としていた彼は思わずビクっと身体を振るわせてしまった。パープルとビリジアンと黒の、 これぞオバ柄という服を召して、くどすぎるほとに白くて丸い真珠のネックレスを下げた オバちゃまは、胸の前に白いチワワを抱いていた。チワワの首が左右に揺れる程に頭を撫でながら、 オバちゃまは矢継ぎ早に質問してきた。「あらやだぁ」を何度も挟みながらリズムをとる癖なのか、 喋りに圧倒されつつ褒め殺された彼は、まあ悪い気はしなかった。オバちゃまに撫で付けられていた チワワの眼が涙目になっていて、見つめられるとアイフル父さんの気持ちが分かった気がした。
突如話しかけられて我に返ると、大屋根の下で寛いでいた家族やカップルから、一斉に視線を 浴びていた事に気付いて、彼は少々身じろぎした。もちろん見つめられていたのは彼ではなく、 足元のお嬢なのだが…。同時に、リードがずっとピンと伸びたままになっているのにも気付いた。 お嬢がひたすら周りにいる人に近付こうと、懸命に匍匐前進を繰り返していたのである。
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大屋根を抜けて芝生広場へ下っていった。彼は、お嬢がミサイルのごとく一気に走り出すかと 思ったが、慎ましやかに彼の後を付いて歩いていた。 クルマを下りてからここまで、彼にナルシズムを芽生えさす程の視線を集め続けて来たが、 芝生広場に入ってからは、何故だろうか近くにいる誰一人こちらを見ようとしない。 少々拍子抜けしながらも、彼は「まあ別にそのために来たわけじゃないし」と芝生の上を お嬢と歩いていく。目指すは「ダックス山」と呼ばれる小高い丘であった。
「ダックス山」というのは公園内の正式名称ではない。芝生広場の丘の或る場所が、 たまたまダックスオーナーがいつも集まっているために、オーナーたちの間でそのように 呼ばれているのである。以前、オスのブラックタンとこの公園に来た時はよくこの場所に 寄って、ダックスオーナー同士、ダックス同士、一緒に交流をしたものであった。
彼は、オーナー達との交流を愉しむというよりは、この丘に座って缶コーヒーでも飲みながら、 お嬢が芝生の上を飛び回っているのを眺めようと考えていた。大屋根の下にある自販機で 買った缶コーヒーをジャケットのポケットにしたためながら、彼とお嬢は丘の中腹あたりで、 足を止めて腰を下ろした。とりあえず公園内はノーリード禁止であるため、リードは繋げたまま お嬢を芝生の中へ放置した後、彼は缶を明けて一口すすりながら、息を「ふう」と空へ向かって ゆっくりと吐いた。お嬢はもそもそと草の間を歩きながら、緑の薫りを鼻に擦り付けていた。
風景の色彩と薫りが溶け込んだ空気の粒が、ゆるりと彼の肌を撫でていく。 深呼吸してその粒を口の中に入れてみると、長雨の余韻をほのかに残す湿り気が舌先に触れる。 五感で味わう風景。部屋での五ヶ月を過ごした文字通りの「箱入り娘」には、外の世界は どんな風に感じているのだろうか。お嬢は自慢の鼻を頼りに、未知の世界を感じようとしていた。
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「わっ!かわいいっ!」
またしても突然背後から話しかけられた。 彼はビクっとして振り向くと、本日9人めのお客様となる大学生位の女の子へ向かって、 お嬢は草むらを掻き分けながら得意の匍匐前進を開始していた。
(6へつづく)
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- 2004年10月30日(土)
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- 犬エッセイ《ダックス・イン・ザ・パーク》―4―「しつけ」
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ダックス・イン・ザ・パーク DACHS IN THE PARK
ハラタイチ 書き下ろしロングエッセイ―その4―
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別名「犬バカ日誌4」。
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(1を読んでいない方へ。 注…「お嬢」=「彼の愛犬であるメスのミニチュアダックス」)
秋の長雨を多分に含んでいる肥沃な土の薫り、落ち葉や小枝、足元で粘り強く生きる雑草など、 お嬢にとって、目に見えるものや歩くと足元で音を立てるもの、鼻腔を刺激するものの全てが新鮮 なのだろう。犬に持ち前の好奇心が行動を支配して、お嬢はあちこちへ身体を向けようとする。
リードウォークと云われる犬のしつけがある。飼い主の横を常に一定のリズムで歩かせる しつけである。これが出来ている犬の散歩姿を見ると、それだけでその犬も飼い主も、とても セレブに見えてしまうのである。「キマッている」感じなのだ。この状態を創り出すためには、 まず飼い主が犬にとって「飼い主らしく」映っていなければならない。
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もともと犬は、集団で生活する動物であったため、思考や行動の単位は「群れ」である。つまり、 群れのという社会の中で「リーダーは誰で、誰々は何番目で、自分はどこにいて…」という事を 常日頃考えようとする。だから、犬の好きなようにさせてばかりいるとつけあがってしまい、 終いには「飼い主はあたしの云う事を何でも聞く。すなわち、奴よりあたしの方が上よ」と解釈する。 この指向性をいわゆる「アルファー症」というのだが、これが強くなるとしつけが難しくなる。
人間もそうだが、生まれた時は誰でも「ジコチュー」であり、自分の思うがまま何でもやりたい、 と思っているものである。幼児の言動を見てればよく分かるだろう。ペットの行動とさほど変わらない。 それが、成長するに従って人間は、社会と自分と折り合いをつけなければ生きていけない事を覚える。 そして何に自分を貫き、何を我慢するかを決めていく。自分で決めた物差しに従ううちに安定化して 社会と折り合ってくる。我慢しているものがある故に、己を貫いているものは「個性」として社会に 認められるのである。そして「我慢」であった行為は「我慢」でなくなり、いつしか標準化されていく。 こうして、社会的動物としてのキャラクターが成熟していくのである。社会的動物という観点では、 人間も犬も同じである。つまり、これが「しつけ」である。「かわい〜かわい〜」ばっかりもいいが、 適度に厳しく欲求を抑えないと、犬は「自分の頼るべき人が誰で、どういう時にどうすればいいのか」 が分からないまま大人(成犬)になってしまう。
リードウォークに話を戻すと、リードを持つ人間を、犬が「飼い主」だと認めている状態で初めて リードウォークは成立する。つまりは飼い主の歩く速さや方向に「合わせて」、犬が自然に歩くように 仕向けるしつけなのだ。この「合わせて」というのがポイントである。だから、自分勝手に行動しよう とする犬を、なるべく「不可抗力的に」制するのがベスト。犬が前へ出た時に回り込むなどして、 「あれ、何か知らないけどあたし、いつも飼い主の足元の横を歩いているわ」と、犬に自然に思わせる のである。また、ある程度はリードで強引に制さなければならない。時には、思い通りにさせてあげる のも必要。つまりは「飴とムチ」のバランスが、人間の教育同様にとても微妙で重要なのである。
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前置きが長くなったが、公園の木々の中を彼とお嬢は、そんな事を繰り返しつつ少しずつ前へ進んでいた。 しかし、ペットカフェへ行く時もそうであったが、お嬢は以外にもごく自然に彼の後を付いて来ている。 興味ある何かを見つけたお嬢が立ち止まって、後ろにリードが引っ張られることはたまにあるものの、 少なくとも、飼い主より先に出ようとしてリードが前に引っ張られるようなことはない。 以前のブラックタンのオス犬の時は前へ引っ張られる事がよくあった。それに関してはおそらく、 オスとメスのアルファー度に生まれながらの差があって、その違いが出ているのだと彼は思っていた。
樹の幹と幹の間をすり抜けながら、彼とお嬢は園内の芝生広場を目指して歩いていった。 彼は、足元の横か後ろのベストポジションを、お嬢がある一定時間キープして歩き続けられたら、 一旦立ち止まり、ご褒美のおやつをお嬢にくれてやった。これを何度か繰り返して、 (こうして素直に歩いていると何か良い事がある)と犬に思わせるのが目的であるのだが、お嬢は、 キョトンとして、(何でもらえるのか分からないけどうれしい!もっとよこせ!)という顔をしていた。
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木々が開けて、芝生広場の入り口に出た。 正面には、ビルの二階相当の高さがある白い大屋根のキャノピーがあり、その下にはベンチと思われる 立方体の塊が点在している。屋根の下には数組の家族連れが想い想いの時間を過ごしていた。
その大屋根の向こうに広がっていたのは、ニューヨークのセントラルパークの写真を思い出させる 広大な芝生の広場であった。空色と緑のコントラスト――ただそれだけの色彩が、目を心地よくさせる。 敷き詰められた緑の絨毯は、二つの季節を経てさすがに痛み始めている。 しかし、景観全体を通して眺めると、表面の痛んで薄くなった草色が、敷き詰められた緑に柔らかさを 与えているかのように彼には感じられた。その上で子供や犬が跳ね、老夫婦やカップルが移ろい、 たくさんの人々が、それぞれの想いをめぐらせながら芝の感触と薫りを愉しんでいた。
(5へつづく)
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- 2004年10月27日(水)
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- 犬エッセイ《ダックス・イン・ザ・パーク》―3―「営業」
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ダックス・イン・ザ・パーク DACHS IN THE PARK
ハラタイチ 書き下ろしロングエッセイ―その3―
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別名「犬バカ日誌3」。
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(1を読んでいない方へ。 注…「お嬢」=「彼の愛犬であるメスのミニチュアダックス」)
店中の視線がお嬢に集まっていた。店中が肩で息をしているように感じた。 お嬢は犬への奇襲営業を再開している。そして、お客のうちの一人がお嬢の傍へ座った途端、 お嬢の営業モードが即座に人間用に切り替わった。それも安易に飛び込まない初対面バージョンである。 お嬢は初対面の人間への営業時は必ず、陸上自衛隊顔負けの匍匐(ほふく)前進で擦り寄っていく。 床にお腹が付く位の姿勢で四肢を高速運動させるので、活きのいいゴキブリのような動きに見える。 お嬢が初対面の相手に匍匐前進する理由を、彼は「好奇心と警戒の極限での融合」と判断していた。 今、お嬢が匍匐前進していく先のこの女性が、お嬢の本日の最初のお客さまであった。
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【1人め】Yさん(女性/32歳)、ジョン(ミニチュアダックス/2歳)
「わ〜小さ〜い。この仔何ヶ月ですか?え!五ヶ月〜?!一・三キロ?!、小さいですよそれ! カニンヘンじゃないんですよね?、私んとこなんか見てくださいよ、もう五キロ超えてるんですよ。 六キロなったらもう本格的に「ミニチュア」を疑わなくちゃいけない感じで、え〜そうなんですか〜、 あれですよ、六ヶ月経ってもこの大きさだったら、多分ずっとこのくらいの大きさですよ! え〜いいな〜、ジョン!見てごらんよ、こ〜んな小さいよ、お前はぶくぶく大きくなって!!」
ジョンが心なしか、しゅんとしてたような気がした。この犬はクリームとブラックタンの仔で、 レッドながらも耳や尻尾の先にクリームや黒が交じっている個性的な毛色のダックスであった。 Yさんにお嬢が撫でられている隙に、ジョンはお嬢のお尻をくんくん嗅いでいた。お嬢に圧倒されっ 放しの挨拶だったが、やっとジョンから挨拶出来たところであった。無論、お嬢は気付いていない。
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【2人め】Rさん(女性/31歳)、ユウタ(ミニチュアダックス/1歳)
「ちょっと抱いてみてもいいですか〜?わ〜小さ〜い、ぬいぐるみみたい!ちょっと、 うちの子供に見せてあげたいわ。五ヶ月には見えないですよこの仔、あ〜顔立ちもいいですね」
Rさんのダックスのユウタは、完全にお嬢にビビっていた。身体は三倍ぐらいあるのだが。
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【3人め】Kさん(男性/38歳/ペットカフェ店長)、ゴロ(仮名/トイプードル/4歳)
「え〜この仔、五ヶ月なんですか〜?」とKさんが彼に話しかけている隙に、なんとお嬢は ゴロ用の水皿を見つけるや否や、勝手に鼻を突っ込んで、ぴちゃぴちゃと舌鼓を立てていた。 「こら、てめっ!」と彼はリードを引っ張りながら、「水なら俺が持ってるから、こらっ!」 と云って止めさそうとしたが、Kさんが彼を制して、「あーいいのいいの、飲ませてやってよ」 とお嬢に水を勧めた。彼は恥ずかしさに顔が赤くなり、「す、すみません」と謝った。 しかし思いの外長い間、お嬢が図々しくも水を飲み続けていたため、彼はリードを手繰り寄せ、 「いい加減にしろ、こらっ!」とお嬢を捕まえた。(何か問題あって?)とばかりに彼をキッと睨む。 K店長は棚の整理をしながらその光景を見て笑っていた。だが、彼は気にせずにはいられなかった。 お嬢に水を獲られたゴロが、泣きそうな顔で彼の傍に近付いて来た事を。彼はゴロを撫でてやった。
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【4人め】Lさん(女性/27歳/ペットカフェ店員)、メグ(仮名/シーズー/1歳)
店長と一緒に笑っていたのが、店員のLさん。皿を拭きながら笑顔で彼に云った。 「元気いいですね〜。散歩してる仔でこんなに小さい仔は初めて見ましたよ〜、かわい〜。 そこに首輪とか売ってますけど、その仔の首のサイズはSSの18センチのものでも、 多分全然大きいですよね〜」彼は、ごく自然に首輪の営業をかけられている気がした。
彼は陳列されている一番小さい首輪を手に取って見た。確かにお嬢の首周りには全然大きい。 それを見て彼は、散歩をし始める仔犬の大きさが、世間的にどのくらいのものなのかに少し気付いた。
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この店をお嬢は完全に制圧してしまった。店を出る時も、お嬢はまだ物足りないのか、 リードを引っ張って戻ろうとしている。皆が手を振って見送ってくれた。この時彼はふと思った。 一時的ではあるが、冴えない気分が少しばかり回復して来たような気がした。 お嬢のテンションに引っ張られて、高ぶって来た自分を感じた。まったりと過ごすという予定とは 異なる方向に進んでいる違和感と、こういう社交的なイベントもありかな、と思い始めている自分が、 彼の中で半々の割合となりつつあった。通りに出ると十月の午後の陽が常温の暖かみをもたらしていた。
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公園へと通りを渡る横断歩道の手前で、またしてもお嬢が立ち止まった。 振り返ると、腰を屈めたお婆さんへ向かって、お嬢が匍匐前進していた。
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【5人め】Yさん(女性/66歳) 【6人め】Sさん(女性/38歳) 【7人め】Tくん(男の子/10歳)
お嬢が近付いていったのは、66歳になるYさんであった。Yさんは顔を綻ばせながら、 「お〜よしよし、いい子だね〜」と、まるで初孫を迎えたかのようにお嬢を抱きかかえた。 お嬢は完全に甘えたモードに入って、身体をYさんに預けていた。
「この仔、どのくらいなんですか?」Yさんの娘でTくんの母親らしきSさんが彼に訊いた。 彼が五ヶ月だと云うと、やはりSさんも驚いていた。どうやら家でダックスを飼っているらしい。 お婆さんは、まるでお嬢が何歳だろうと関係ないらしく「孫」に夢中になっていた。彼はその光景が、 本当の孫であるTくんがお婆さんにとってもう「目に入れても痛くない」モードから外れてしまった からだろうか、などとかなり失礼な事が頭に過った。そのTくんはじっとお嬢の動きを見つめている。
母親がTくんに、「ちょっと抱かせてもらいなさい」と云って、お婆さんがTくんに近付けたのだが、 テンション高めのお嬢に押されたのか、Tくんは少し触っただけですぐに手を引っ込めてしまった。 「あれ?家で飼ってるのに苦手なんですか?」と彼がSさんに訊いたところ、 「あ、いやね、この子が小さい時に、うちのがTの手を噛んだ事があってね、軽くだったんですけどね、 その時の事がなかなか離れないんだと思うんですよ、嫌いじゃないみたいなんですけど、どうもね…」 と説明してくれた。Tくんは手を引っ込めた後も、お嬢をじっと見つめていた。
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お婆さんからお嬢を受け取った後、信号で待っている間、そして公園へ向かって横断歩道を渡る間も、 彼は周囲からの視線を強烈に感じた。事実、すれ違う人々は必ず、顔を180度近くターンさせて、 少なくとも五秒以上は彼の足元に視線を向けていた。(もしかして俺はナルシストなのか?)と、 疑ってしまう程に彼は見られている事を感じた。二人は衆人環視の中、公園の門をくぐっていった。
(4につづく)
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- 2004年10月24日(日)
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∨前の日記--∧次の日記
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- 犬エッセイ《ダックス・イン・ザ・パーク》―2―「奇襲」
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ダックス・イン・ザ・パーク DACHS IN THE PARK
ハラタイチ 書き下ろしロングエッセイ―その2―
別名「犬バカ日誌2」。
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(1を読んでいない方へ。 注…「お嬢」=「彼の愛犬であるメスのミニチュアダックス」)
公園の杜が見えてきた。空色を葉先のエッジで切り取っている。 道路の左端の路肩スペースには、所狭しと路駐車が数珠繋ぎにひしめき合っていた。
何とか空きスペースを見つけて駐車した彼は、車内でお嬢に首輪とリードを付けた。 首輪とリードはとりあえず散歩用に間に合わせで買ったものである。 その時彼の頭に過ったのは、以前もう一匹のオス犬に初めて首輪を付けようとした時のことだった。 オス犬は、嫌々をして首輪を噛んだり、首輪に顎を入れて必死に取ろうともがいていたのである。 だが、心配は杞憂に終わった・・・やはりお嬢は違った。大女優であった。 まるで控え室で付け人に衣装を整えさせている大御所の如く、全く微動だにせず堂々と待ちながら、 彼に首輪を「付けさせて」いた。その時の彼はまるで、お嬢の「付け人」にしか見えなかった。 付けている間、「手際良くさっさとやりなさい」という声が聞こえたと彼は云っている。
首輪を付け…いや、アクセサリーをお召しになったお嬢様を腕に抱えながら彼は車外へと出た。 通りの向こうにこんもりと見える青枯れた樹々や、目の前の歩道の植え込みには、 一昨日までの長雨が染み込んでいるらしく、ほのかに青く湿った薫りが彼の鼻腔をくすぐっていた。
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お嬢を地面に下ろす時が来た。地面はすっかり乾いているのでお嬢に不満は無いはずだ。 アスファルトの歩道にお嬢をそっと下ろすと、お嬢は四肢を踏んばって身体全体を振るわせた。 そして、そろりそろりと警戒しながら足を運び始め、その様子を見ながら彼も歩き出す…。
しかし、いきなりリードがピンと伸びる。(おいっ!) 彼が振り返ると、お嬢が後ずさり気味のフセ状態で嫌々している。(あーいきなりそれかよー) 街中で散歩中の他の犬を見てると、時々出くわすシーンであった。 疲れたのか、そもそも歩きたくないのか、明らかにそれと分かる「拒否」ポーズで 飼い主に「嫌っ、歩かない!」と意思表示する時がある。お嬢はいきなりそれを出した。 彼はふと「ひょっとして散歩出来ない犬なのかも…」と不安に思ったが、一瞬の杞憂であった。 リードが緩ませると、お嬢は反対方向へスタスタと歩き出して、植込の葉をくんくんと嗅いでいた。 そして気が済むと足元へスタスタと戻って来て、彼が歩き出すと一緒に再び足を運び始めたのだ。 (何だったんだ?、まー犬ってそういうもんだよな)
思いの外、従順に歩いていた。まるで江戸や明治の妻のように、飼主から一歩下がった位置を キープしつつ静々と歩いていた。特に前に出ようともせず、慎ましやかな女を演じ切っている。 彼は感心した。そして褒めようと思って振り返ったその時、またしてもリードが真っ直ぐに伸びた。 後ろを見ると、先程と同様に四肢を前に突っ張って座り込んでいる。(何なんだよお前は!) 再びリードを緩めると、今度は電信柱にスタスタと近付き、犬だけにしか分からない何かを チェックしたかったらしく、終えるとすぐに戻って来て、しんなりとお座りして待っている。 彼は苦笑いした。これがお嬢の「甘えとわがままと気まぐれの両極性格」なのである。 そして再び彼の後を素直についていく。ん〜女心と秋の空とは犬にもいえるのか、と彼は思った。
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公園へ行く前に、通り沿いに軒を構えるペットカフェに寄ってみる事にした。 しかし、彼はさっきから妙に周囲の視線を感じる事に気がついた。 周りを見ると、通りを行き交うカップル、通り沿いの店の主人、バス停で待っている高校生、 皆が必ず、彼の足元の少し後ろあたりに視線を十秒ぐらい固定して、お嬢を見ているのだ。 微かに(あの仔ちいさ〜い、あるいてるよ〜、かわいい〜)などと聞こえてくる。 まあその程度は、仔犬を連れていればよくある光景なのであるが…。
そのペットカフェは、前に一度だけブラックタンのオス犬と立ち寄った事のある小さな構えの店で、 自然な色合いの木をベースにしたシンプルで清潔感のある造りだった。入る前に中を覗くと、 こじんまりとした明るい店内に、床と同色のテーブルとチェアが置かれたカフェスペースと、 クールでラブリーなペットグッズが陳列された棚のスペースがある。カフェテーブルとチェアの脇には、 飼い主がペットと一緒に店内に入れるように、リードを引っ掛けておけるフックが壁に設けられていた。 カフェスペースには犬を連れた先客の女性が二人、カウンター内に店員らしきお姉さんが二人、そして 店長と思われるお兄さんがいた。カウンター下にはお店の犬と思われるワイヤーダックスが寝ていて、 カウンター上に小さなシーズー、それと先客の二人が連れているダックス二匹で、犬は計四匹いた。 犬はリードに繋がれてゆったりと寝そべっていて、店員とお客が和やかに談笑をしていた。
「いらっしゃいませ〜」 まず彼が店内へと入っていく。緩やかな時間が流れる空間を感じて、一瞬で落ち着いた気分になる。 彼の後を次いで、そのほのぼの空間にお嬢が奇襲をかけた。
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入るや否や一斉に「わ〜小さぁ〜い」と歓声が上がるのを余所に、お嬢は超低い姿勢でスタンバイ。 ターゲットに狙いを定めた次の瞬間、4匹の犬の懐へ矢継ぎ早に飛び込み己の名刺を切りまくった。 お嬢の三〜四倍ある他の犬は、電撃速攻を仕掛けるお嬢の速さに反応できず、勢いに尻込みしている。 その光景に彼は、伸び切るリードを握りしめながら、唖然として立ち尽くていた。(何だこいつ…) そしてそれは、どこかで見た事のある光景だと彼は思った。それは…、
まるで全盛期のヤワラちゃんだった。 あの伝家の宝刀一本背負いを仕掛けにく時の、懐へ飛び込む速さを彷佛させた。 もしくは、NBAの田臥勇太のようだ。 黒人巨漢ディフェンスの間をカットインするスピードに匹敵していたといっても過言ではない。 いや、マガジン連載の「はじめの一歩」の幕之内だ。 アウトボクサーの懐へ、インファイトを仕掛けに行く時の踏み込み速度を超えてたかもしれない。 そうじゃなくて、これはまさに真珠湾の再来だ。 小さな零戦が、米軍巨大空母の死角へ突っ込っていく神風特攻を思い出させるではないか。
その時、彼の脳裏に浮かんだ言葉はまさに、『柔よく剛を制す』であった。
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小さな一匹の突入によって、こじんまりとした店内の緩やかでほのぼのとした空気は、 一瞬にして歓声と鳴き声とが交錯して蜂の巣を突いた騒ぎとなった。 お嬢は、鼠のような尻尾を千切れる程に振っていた。 燃えている、お嬢が燃えている、と彼は思った。
一匹にコンマ一秒ずつの挨拶を、マシンガンのように何ターンも繰り返していたので、 彼はお嬢に気付かれぬように背後から軽く頭を小突いてやると、お嬢は我に返って背後の彼を見た。 即座に「お前か?叩いたのは?」的ビームを眼から放つ大変可愛らしいお嬢サマであった。
(3へつづく)
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- 2004年10月22日(金)
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∨前の日記--∧次の日記
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- 犬エッセイ《ダックス・イン・ザ・パーク》―1―「お嬢」
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「ダックス・イン・ザ・パーク」
ハラタイチ ―書き下ろしロングエッセイ/その1―
ああ、この人すごく犬が好きなんだー って事がよく分かる。それだけです。
1
澄んだ空が広がっていた。例年より長い秋雨が都会の澱みを洗い流したような空だった。 「紺碧色」が夏のハイテンションな青空を指すのであれば、純粋な「空色」というのはきっと、 今日のような透明感溢れる秋晴れの空が似合うのかもしれない。ビルの窓ガラスには空が映え、 常緑樹に再び力が漲る一方で暖色を纏う人々の姿。久々に街に戻った色彩は秋に染まっていた。 こんな空が広がる日には「何々日和」などと理由を付けて、空の下へと繰り出してみたくなる。 差し詰め彼は「散歩日和」とでも名付けたのだろうか。テンションも程よく丁度良い青空が、 出不精な上に最近鬱気味の重い身体を、すんなりと戸外へ運び出してくれたようだ。 愛車を公園へと走らせつつ、フロントからサイドへ流れる空を見ながら彼は呆と耽っていた。
ナビシートからの視線に気付き、運転席の彼は我に返った。 愛犬のミニチュアダックスフンドが肘掛けに前足を載せながら、青い眼をじっと向けていた。 尻尾を振りながら、どこか責めるような視線を、彼の顔面あたりを目掛けて突き刺している。 犬よ、そんなにピンと張り詰めるな。ゆるゆるで行こうよ。こんな穏やかな空の日なんだから。 彼は一瞬思ったが、すぐに訂正した。犬にとってはそれも止むを得ないと思ったのだ。 彼にとっては、常温テンションの単なる公園散策なのかもしれないが、 この室内犬にとっては、今日が初めて経験する青空の下の散歩であった。
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彼の愛犬はメスで、もうすぐ生後五ヶ月になる。 チョコタン(チョコレート&タン)の毛色に加えて、青い眼をしたバタ臭い容貌である。 大きさはキューピーマヨネーズの大ボトル程度。彼は別に二歳のブラックタンのオスも 飼っているが、同じ頃のオスと比べると、この仔はかなり小さいのではないかと思い始めていた。 どのダックスも最初の一、二ヶ月は掌サイズ程度で、壊れそうなぐらい小さな微生物である。 それが瞬く間に成長して、一歳にもなれば当初の三倍ぐらいの大きさになってしまう。 この五ヶ月のキューピーが普通と比べて小さいのかどうか、彼にはその時分からなかった。 犬を毎日観察していると案外、微妙に大きくなる体型の変化を意識出来ないらしく、 確かに小さいものの、五ヶ月でもまだまだこんなもんだろうと彼は思っていた。 彼が一週間前にワクチン注射のために動物病院に行った時であった。 キューピーマヨネーズを診察台の上に載せて、体重を計測すると約一.三キロであった。 台の上で匍匐前進しているキューピーを撫でながら、獣医さんが彼にしみじみと云った。 『しかし、大きくならないですね〜四ヶ月は経ってますよね?多分この仔は小さい仔ですよ』
彼は思い出していた。彼のもう一匹のブラックタンがチョコタンの仔と同じぐらいの時、 散歩の道すがら行き交う人に『ちいさぁ〜い』などと、よく云われたものだった。 よくひょいと片手で持ち上げて『高い、高〜い』をしたような気がする。大変小さかったのだ。 だが、その小ぶりなブラックタンも、今のチョコタンと同じ頃には確か二キロは超えていたはず。 その時彼はようやく公的な認識を持てた。このチョコタンはとても小さい犬なのかもしれないと。
この時点で、彼には全く想像出来なかった。 この日の散歩で、この犬のこの小ささが、世間的にどれだけのものかを思い知らされる事を。 さらにはその事が、彼の「仔犬を適当に遊ばせながら公園で呆とする」という静かな目的を、 根本から変えてしまうなどと、思いもよらなかった。
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大通りへと入る交差点で信号を待っていた。外を見ようと犬は二本足立ちで尻尾を振っている。 三度に渡るワクチン注射が先週で終わり、晴れて今日公園デビューする彼の愛犬であるが、 舞台袖で出番を待つ新人役者のような緊張感なんてものは、もうお察しの通り微塵もなかった。 彼の眼には、このメス犬が、二人掛かりでメイクをさせている大物女優に見えた。 番組のアシスタントディレクターに『あたしの出番まだなの?ちょっと早くしてくれない?』 などと栗色の髪をファァーと掻き揚げながら、針を刺している光景に映った。 彼はADさながら『すみません、あとちょっとで着きますんで、もう少しのご辛抱を』と云うが、 『とにかく早くしてよね!』とばかりに大女優は、後ろ足を小刻みに動かして顔を掻いている。 パッチリとした青い眼の中の小さなハイライトには、ウインドウから覗く空色が映りこんでいた。 ミニチュアダックスで五ヶ月といえば、人間の幼稚園から小学校ぐらいに当たるだろう。 しかしこのメス犬はかなりのじゃじゃ馬(犬?)であった。行動はとにかく瞬発的で機敏。 帰宅してケージを開けるとミサイルのように飛び出し、勢いあまって部屋の隅まで駆けていく。 こいつが競走馬なら、間違いなく逃げ馬として調教されるだろうと、彼は確信していた。 性格的にも衝動的で、いちいち文句や愚痴が多く、淋しがり屋かと思えば気まぐれで、 さらには甘えとわがままを巧みに操る、メリハリきつい性格を持った魔性の女であった。 というわけでこれ以後、彼に断り無くこのじゃじゃ犬を「お嬢」と呼ぶ事にするとして、 彼とお嬢を乗せたクルマは、公園に隣接する並木通りへ入っていった。
(2へつづく)
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コーチングって知ってますか? 最近よく耳にしますね。つまり、コーチをすることです。
「あのテニスコーチは、あたしのものよっ」「コーチ!、あたしもっと強くなりたいっ!」
っていうところの、あの「コーチ」です。
では、コーチングと、 カウンセリング、ティーチング、アドバイジング、コンサルティングの違いって 説明できますか?似たような言葉ですね。
そういえば、アテネ五輪――、
・・・って、 ストやらイチローの安打記録やら、大きいニュースが立て続けにあったので、遠い昔のことのような気もしますが・・・
とにかく、今回の五輪ほど、コーチの存在の大きさを感じた大会はありませんでした。
メダリストの事後の記事や特集雑誌を見るにつけ、 今回のメダリストの裏には、必ずコーチの光る言葉があった気がします。
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「最初の25mだけ前に出ようか」 男子100m平泳ぎ金メダリスト北島康介のコーチ・平井伯昌の指示。
前半型の世界記録保持者ハンセンに対し、北島は後半型。 予選、準決勝を見た北島と平井は、ハンセンが金の期待と五輪の重圧で相当緊張していると判断。 決勝でライバルのハンセンに勝つには、記録よりも駆け引き勝負がポイントとして、 最初の25mで一旦ハンセンより先頭に立つ作戦を二人で決めた。 平井の一方的な指示でなく、平井が北島に自分で作戦を考えさせたことがポイント。 結果、北島の最初のダッシュに焦ったハンセンが、ムキになって北島を抜き返したものの 固い泳ぎとなって消耗し、得意の前半で0秒04しか北島からリードを奪えなかった。 ターンして浮き上がった時にはすでに北島が逆転。前半の25mで平井コーチは勝ったと思ったと云う。
「メダル獲りたいなら、後半32秒台で帰ってこい」 女子200m背泳ぎ銅メダリスト中村礼子のコーチ・平井伯昌の指示。(北島と同じ)
中村は、昨秋、五輪前の大事な時期に、北島康介のコーチ・平井の門を叩いた。 技術的なことよりもメンタルを鍛えてもらうために。それにより中村は自信をつけ、見違えるように強くなった。 決勝前、平井の指示はひとつ、「メダルとりたいなら、後半32秒台でまとめろ」。 結果、中村はドイツ選手と同着の3位。後半50mは32秒99で帰ってきた。 33秒台だったらメダルは無かったのである。
「25km過ぎからスパートしろ」 女子マラソン金メダリスト野口みずきのコーチ・藤田信之の指示。
五輪史上最も過酷なコースを制したのは、他でもない、藤田の作戦であった。 32km地点を頂点とする登りのコース。特に28kmからの4kmは急勾配で、誰もが飛び出すことを怖がっていた。 飛びが大きく、登りが得意な野口を活かすのは、この4kmしかないと藤田は踏んだ。 普通のスパートをかけたら、ラドクリフやヌデレバを離せるわけがない。 だから急勾配手前の25kmで行け。それより早くても遅くてもだめだ、と藤田は指示した。 野口は指示通り、25kmでスパート。予想通りに誰も登り坂を追っていけない。 もぎ取ったマージンは30秒。下りに入ってヌデレバが詰め寄る。40kmで15秒に迫るが、 そこからが縮まらなかった。最後は12秒差を残してゴール。 おそらく、スパートが遅れてマージンが5秒足らなかったら、40km地点で一気に詰められていただろう。 絶妙の25kmというタイミングだった。
「ラスト10m、フェラーリのように加速しろ」 男子100m背泳ぎ銅メダリスト森田智巳のコーチ・鈴木陽二の指示。
若くてお調子者で伸び盛りの森田に、鈴木コーチが決勝前に与えた指示は、 自分が大好きなクルマのような加速でラストスパートしろ、であった。 度胸が座っている森田には、明快な数値目標でなく大事なのは「乗せる」こと。 ラスト10m、森田は追い上げ、3人横一線に並んでゴール。メダルを勝ち取った。
「焦らず、慌てず、諦めず」 女子800m自由形金メダリスト柴田亜衣のコーチ・田中孝夫の指示。
柴田は純粋で真面目、そして努力家だった。だからこそこの指示が活きたのだろう。 スタートして、当然のように金メダル候補のマナドゥがリードする。 この時は「焦らず、焦らず」と、落ち着いて自分のペースでレースに入っていった。 そして中盤。リードが広がっているが、あくまで自分のリズムを守らなければどっちみち勝てない。 「慌てず、慌てず」と云い聞かせて泳いだそうだ。 そして後半〜ラスト。先頭のマナドゥのペースが落ち、自分の前に相手の姿が見えてきた。 自分も苦しいが、がんばれば届きそうだ。「諦めるな、諦めるな」と懸命に追い上げて、 そしてゴール。コーチの言葉をひたすら自分に云い聞かせて力に変えた金メダルであった。
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これらのコーチの言葉には、
「明快な目標設定をもった指示」 「選手との対等な立場にたった言葉」 「選手の性格と、タイミングを図った言葉」
が見て取れます。
コーチング如何で、実力通りの力を発揮させることができれば、 今回ぐらいのメダルをとれる世界的な実力が、まだまだ日本にはあるということが分かった気がします。
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さて、コーチングとは一体何だろうか?
これはスポーツだけでなく、近年はビジネスの世界でも盛んに取り入れられています。 私も去年、会社のセミナーにてコーチングの話を聞きましたが、 結構目からウロコの話もあったので、そこでの話に触れてみたいと思います。
昨年9月に名古屋で行われた、 コーチングセミナー(講師/C&C代表上野氏)の資料から一部を紹介。
1.まず、コーチングの3原則について
1.全ての答えと能力は、クライアントが持っている 2.コーチはクライアントの味方である 3.コーチは効果的な質問で、クライアントの答えを導き出す
とのこと。
2.それでは、冒頭の質問 コーチングと、カウンセリング、ティーチング、 アドバイジング、コンサルティングの違いは何?
下にまとめてみました。
■カウンセリング 【コーチングと同じところ】相手の話をよく聞き、質問によって答えを引き出す。 【コーチングと違うところ】過去に向かって「WHY」と問いかけるのが特徴。 現在の問題は過去に原因があり、それを見つけ出すことが解決へつながるというスタンス。 コーチングは・・・・未来へ向かって「HOW」。これからどうするかが基本テーマ。
■ティーチング 【コーチングと同じところ】指導によって相手の能力を高める。 【コーチングと違うところ】画一的指導である コーチングは・・・・相手に応じて1対1対応。教えないで考えさせるのが特徴。
■アドバイジング 【コーチングと同じところ】相手の問題解決に関して、客観的な助言を与える。 【コーチングと違うところ】「should」のスタンス。「こうすべき」という助言側の基準での指示。
コーチングは・・・・「let's」のスタンス。一緒に考え一緒にゴールを目指そう、という助言。
■コンサルティング 【コーチングと同じところ】相手に必要な情報を提供し、行動指針を示す。 【コーチングと違うところ】専門知識による指導助言。専門家の分析・指導。「答え」は指導側がもっている。 コーチングは・・・普遍的なスキル。 「答え」は相手がもっているというスタンス。それを引き出す手伝いをコーチがする。
つまり、コーチングとは、対象となる相手と如何に共感できるか…というテクニックなのである。
3.おもなコーチングスキルの一例。 コーチングの話には、日常生活での人間関係に役立つ話が多い。
■「相手の話を傾聴(積極的に聞く)することから始まる」・・・他者理解の姿勢が相互理解を生み、共感を生む。
■「対象相手にすぐレッテルを貼らない」・・・貼られた相手が自分で自分を洗脳し、可能性を殺してしまう。
■「アドバイス・励まし・説得ではない」・・・指導側だけが良いと思う方向に、相手を引っ張ろうとしているだけ。
■「過去質問より未来質問をする」【なぜそうしなかったの?】より【これからどうしたい?】 人の問題の原因は過去にはない。今の自分が何だかんだ言って理由付けしている。 過去ばかり見ても問題は解決しないので、これからのことを聞いてあげて前向きにさせる。
■「否定質問より肯定質問をする」【なぜそうしなかったの?】より【どうしたら上手くいくと思う?】 上記と同。これから出来ることを話し合う。
■特に「なぜ、なんで、どうして」から始める質問は要注意!
ミスをしたスポーツ選手に、コーチが「なぜ、そんなことをしたんだ?」と聞くことは、 粗相をしたペットに「なんでそうゆうことするの!」と思わず口走っているのと同じ。
「なぜ」という理由を聞く疑問詞が、理由を問うているように相手には聞こえない。 責められているという事実しか頭に残らず、自己正当化に走ろうとする。(⇒防御)
相手を責めている感じにならないで、どうしても過去の原因を探求する質問を聞かなければならない時は、 「人」と「事」を分けて、主語や目的語を明確にして質問をする。
「人」に焦点・・・・「なぜあなたはそうしなかったの?」 「事」に焦点・・・・「そうしなかった理由は何?」
失敗はさておき、原因・理由を聞かれていることが、明確に相手に伝わるようになる。
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てな話が、コーチングには色々あったりするわけで、そこで思ったわけです。
別に指導的立場にある人だけが知ればいい話ではなく、 ビジネススキルを身に付けようとして、勉強する話ではなく、 単純に、自分のまわりの人間関係において活かせる、 円滑なコミュニケーションの方法論として、皆が知っておくべきことで、
皆が知っていれば、皆しあわせになるのになー
・・・と思ったのでした、コーチングって。
アテネの選手とコーチ、皆、お互いに抱き合って、 幸せそうでしたよね。
041009SAT t a i c h i
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