あたたかなおうち



 寝息

眠っている祐ちゃんの隣に潜り込む。

小さな布団は人ひとりの体温で十分に温まる。
まるで身体の中で守られているような感覚を覚える。

祐ちゃんの隣で眠る時間が、一番すこやかな気がする。

ゆっくりと呼吸する胸に頬を寄せると
祐ちゃんは私を包み込むように抱きしめて
またすぐに穏やかな寝息を立て始める。

2005年03月31日(木)



 冊子

祐ちゃんの部屋で、手作りの冊子を見つけた。
表紙に、かわいらしい字で「先生へ」と書かれている。


生徒ひとりひとりのメッセージと、保護者の言葉。
たくさんの思い出の写真が散りばめられている。

「5年生になってもまた先生のクラスになりたい」
「今までで一番好きな先生です」
「新任の先生ということで、最初は少し不安でしたが
子供たちと向き合って一生懸命指導していらっしゃる姿に
安心してお任せすることができました」

「本当にありがとうございました」


自分のことではないのに、私はたまらなく嬉しくなる。
祐ちゃん、これもらって泣いた?
祐ちゃんはそっぽを向いて笑う。
ないしょ

涙もろい祐ちゃんは、きっとたくさん泣いたに違いない。
来年はどんなクラスになるのかな。

2005年03月30日(水)



 実家

初めて祐ちゃんの実家に行った。
祐ちゃんの家族に会った。

うち、本当に狭いよ
祐ちゃんが何度も何度も言う。
緊張して何も答えられない私に気づき、
祐ちゃんは優しくささやく。
大丈夫だよ、俺の家族だから

団地の階段を上がっていき、
鍵のかかっていないドアを開ける。
ただいま
ここが、祐ちゃんの家だ。


祐ちゃんを産み、育ててくれたご両親。
祐ちゃんが愛してやまない弟たち。
思い出話にしか聞いたことのない
私の知らない、祐ちゃんの時間。
そこに参加できたことが、私は本当に嬉しくて
胸がいっぱいになってしまって言葉がうまく出てこない。


私は、祐ちゃんの家族を大好きになる。
心からそう思えた。
それは、とても幸福なことだと思った。

2005年03月29日(火)



 終業式

昨日は祐ちゃんの小学校の終業式だった。


スーツ姿で帰ってきた祐ちゃんを、私は両手で迎え入れる。
祐ちゃん、1年間本当にお疲れさま
祐ちゃんは笑顔で、ゆっくりと私を抱きしめる。
ありがとう。ただいま
持ち上げられそうになりながら、
祐ちゃんの厚い胸に顔をうずめる。
スーツのにおいが心地よくて、
玄関先だというのに、しばらくそのまま目を閉じる。


2005年03月25日(金)



 洗濯物

忙しい祐ちゃんは週末に家事をするので
一週間分の洗濯物が山のようになる。

たたんであげるよ
祐ちゃんが仕事をしている横で
私は見かねて乾いた服をたたみ始める。

夢中でたたんでいると
突然、後ろから抱きすくめられる。

奥さんみたい
祐ちゃんが優しく呟く。
俺の奥さん
暖かな体温が伝わってくる。

奥さんになったら祐ちゃんにたたませるから
私は笑ってわざと祐ちゃんを振りほどくような仕草をする。



2005年03月18日(金)



 

祐ちゃんは昨日から林間学校に行っている。


連絡は取れないと思っていたのに
夜遅くに電話が鳴った。


風邪は悪くなってない?
私は一番心配だったことを聞く。
うん、大丈夫。華のおかげですよ
電話越しの声は、昨日より少しだけしっかりしている。


今、ベランダに出てるんだよ
受話器から聞こえる音と言葉で
私はその世界がありありと脳裏に浮かぶ。


不思議なもので、会えないときのほうが
相手のことを鮮明に思い描くことができる。


2005年03月03日(木)



 風邪

いつもよりずっと熱い祐ちゃんの手に気づいて
私は不安にさせまいと最大限の努力をする。


熱が出ると、人はどうして寂しくなるのだろう。


私にぴたりとくっついて離れない祐ちゃんの背中を、
私はいつまでもいつまでも、
できれば一晩中さすり続ける覚悟でいる。


2005年03月02日(水)
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