あたたかなおうち



 

滞りながらも、問題なく流れてゆく日々を
心のどこかで時として恨んでしまう。


こんなにも平和慣れしてしまった私には
社会で生きていくための免疫が育っていない。


必要以上に傷つき、恐れ、孤独を感じ
呆然と立ちすくむ時
自分に絶望しながら周りを見渡すと
多くの人の温かな手に触れ
私は自分が築いてきたものの大きさに目を見張る。



2005年02月25日(金)



 言葉あそび

最近よく、ふたりで言葉あそびをする。
韓流ブームにのって『韓国語ごっこ』と名づけた。


ルールはとても簡単で、
寒さを感じたときに「さむにだ」と言うだけ。


さむにださむにだ
とてもさむにだ
さむさむにだ


メイに話してから、メイもたびたび口ずさむ。


少しだけ忙しいけれど、なんのことはない。
のんびりと流れる平和な日々。

2005年02月24日(木)



 ひだまり

『ひだまりの民』という人形がある。
太陽電池で首を左右に揺らす、愛らしいおもちゃだ。


祐ちゃんがおみやげ、と言って手渡してくれた。
ゲームセンターで取ってきた
私は嬉しくて、さっそく箱から出して動かしてみる。


真似て左右に頭を動かしていると
祐ちゃんがこっちを見て笑い声を上げる。
華にそっくりだから取ったんだよ
祐ちゃんはにこにこと私の頭をなでる。



2005年02月23日(水)



 エプロン

かわいいエプロンを見つけた。
ポケットがウサギの顔になっている。
私は迷わず店員さんに
プレゼント用に包装してください、と告げる。


メイは、この冬から
保育園でアルバイトをしている。


約束まで少し時間があったので
ポストカードにメッセージを書き込む。
もう何度こうして手紙を書いただろう。
メイの部屋にずらりと飾られている
私のポストカードを思い浮かべる。


もうすぐ、ふたりとも4年生。


2005年02月18日(金)



 朝ごはん

トーストを焼いて、ハムエッグを作って
コーヒーを入れてから祐ちゃんを起こしにいく。


私のベッドで無防備に眠る
祐ちゃんの寝顔はとてもあどけなくて
私は思わず躊躇してしまう。


ほんの少しの時間眺めてから
私はもちろん容赦なく起こす。


目を覚ますと、祐ちゃんは先生の顔になる。



2005年02月17日(木)



 実習

今週から臨床実習が始まった。
1ヶ月間、病院でいろいろな科をまわる。


看護師さんやお医者さんに混じって、
慣れない白衣に身を包む。
朝早くから夜遅くまで、
毎日のレポートと、予習復習の繰り返しだ。


大学ボケのなまった身体にはかなり堪えて、
私は早くも弱音を吐きたくなる。


祐ちゃんは毎日こんな生活をしながら
私の相手までしてたのだと思うと
本当に感謝の気持ちでいっぱいになる。

2005年02月16日(水)



 いたずら

祐ちゃんの家に行くと
ソファに倒れこんだ格好で祐ちゃんが寝ていた。


昨日徹夜だったことを思い出す。
本当に疲れているのだろう。


半分眠ったままの祐ちゃんの服を脱がせて
トレーナーとジャージに着替えさせる。
枕を与えて、毛布をかけて、暖房の温度を調節する。


一通り終えると、ふといたずらしたくなって
私は祐ちゃんの耳元でささやく。

好き?
祐ちゃんが小さく頷く。
好き?
また小さく頷く。
嫌い?
祐ちゃんは頷きかけて、一生懸命首を横に振る。


ごめんごめん、と私は笑って祐ちゃんの頭を抱きしめる。
祐ちゃんはすぐに寝息を立て始める。

2005年02月08日(火)



 きっかけ

祐ちゃんとのきっかけを聞かれることがある。


出会った頃、きれいな彼女がいた祐ちゃんとの。


『これからいろんな恋をして
 でも、いつかこの人とお付き合いできたらいいな』
そう思ったことを覚えている。
ただ純粋に、正直に。


そういえば
本当にその通りになった。



その話をすると、祐ちゃんは
運命なんでしょ?
とすましたふりをして嬉しそうに笑う。

2005年02月07日(月)



 便箋

祐ちゃんが、手紙を書いてくれた。

きちんと糊付けされた、きれいな封筒を受け取る。
それだけで、私は子供のように喜ぶ。


祐ちゃんの手紙が大好きだ。


薄桃色の、線のない便箋に
祐ちゃんはきれいな字で文章を綴る。
ひとつひとつの言葉が丁寧に胸に響いて
祐ちゃんの思いやりに私はいちいち気づいてしまう。


『それから、

私はゆっくりとかみしめるように文章を目で追う。
『それから、
今年は華は実習に教採、卒論と
大変なことがたくさんあるけど
頑張りすぎないように頑張ってね。

ま、とにかく祐介めが常にお側におりますので』



2005年02月05日(土)



 食事

何も言われずに連れて行かれた食事先は
小さな洒落たフランス料理店だった。

祐ちゃんが店員に名前を告げると
用意されていた席に案内される。


お嬢様、どうぞ
祐ちゃんが笑顔で、奥の席に私を座らせる。
ありがとう
気取って返事をして、私も思わず笑ってしまう。


すごく嬉しい
と私が言うと、
それはよかった
と紳士な祐ちゃんが言う。


祐ちゃん、本当にありがとう。


2005年02月04日(金)



 贈り物

迷った挙句、ネクタイをプレゼントすることにした。

どんなものが好みだろうか。何色が似合うだろうか。
学校には派手過ぎないだろうか。地味すぎないだろうか…

相手のことを想って選ぶことが楽しいから
私は贈り物をするのがとても好きだ。


どうしても待ちきれなくて、
日付が変わった途端に渡してしまう。
ね、開けて開けて
急かす私に祐ちゃんが微笑む。


2005年02月02日(水)



 弱音

うつぶせの祐ちゃんをマッサージしていたら
あっという間に眠りに落ちてしまった。

祐ちゃん、危ないからメガネ外そうね
私は手を伸ばして、メガネを慎重に外す。


不意に祐ちゃんが泣きそうな声で呟く。

…疲れちゃった


え?
私は驚いて、祐ちゃんの顔を覗き込む。
寝言のようだった。


決して弱音を吐かない祐ちゃん。
本当は、当然、辛いこともたくさんあるだろうに。


私は、コタツで寝ている祐ちゃんの隣にもぐりこんで
頭をよしよし、と抱きしめる。
祐ちゃんのまぶたが、かすかに反応する。


2005年02月01日(火)
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