あたたかなおうち



 特別

来週、祐ちゃんと食事に行く約束をしている。
少し背伸びしたお店で。


特別な日だ。


空気の匂いや、風の温度に、
ふと付き合い始めた頃のことを思い出す。

まだ幼さの残る私が、思い出の中ではしゃいでいる。
自分のことなのに、たまらなくいとおしくなる。


手紙を書こうと思って、文具屋さんで便箋を探しながら
何を書こうかと考え始めると
伝えたいことが溢れてしまって、私は思わず選ぶ手を止める。




2005年01月30日(日)



 別れ

メイが彼氏と別れた。
急なことだったので、私も祐ちゃんも驚いた。


2年と4ヶ月という月日を、
本当に仲良く、楽しそうに過ごしてきたふたり。
いつも一緒にいたのに、
喧嘩なんてほとんどしなかったふたり。

でも、お互いに、ゆずれない夢があった。


自分でもびっくりするくらい平気なんだよね
私と同じお酒を飲みながらメイが呟く。
まだ実感がないのかな


これからどんどん、楽しかったことばっかり
思い出しちゃうのかなぁ…



笑っているメイが痛々しくて、私は胸が締め付けられる。



2005年01月29日(土)



 よるのこと

祐ちゃんに愛されているとき
私は生まれてきてよかったと思う。


息を切らした祐ちゃんが、私に体重を預ける。
私は頭や背中を何度も優しくさする。
軽いキスをして、頬を寄せて、ありがとう、と言う。


そんなに頑張らなくてもよかったんだよ
私は祐ちゃんを抱きしめて言う。
こんなに疲れてるのに

だって、もったいないんだもん。幸せすぎて
息を整えながら、祐ちゃんがにこっと笑う。


祐ちゃんは、まるで壊れ物を扱うように
優しく優しく、そっと私のことを包むように抱きしめる。

2005年01月28日(金)



 メール

5時を過ぎる頃に、毎日必ずメールを入れる。

『お疲れ様』


毎日遅くまで頑張っている祐ちゃん。
仕事が終わって携帯を見たときに
何もメッセージがないのは寂しいだろうから。


『疲れたー』

返事が返ってくるのは、たいてい9時を回った頃だ。
そのメールを見て、
今日も無事に帰ってきたんだとほっとする。

2005年01月27日(木)



 勉強

久しぶりに、祐ちゃんのいない夜。
もの寂しいような、気楽なような、複雑な気分になる。


好きな音楽を聴いて、
好きな入浴剤を入れて、
のんびりとお風呂につかる。
お風呂上りに、冷えた炭酸水を飲む。


こういう時、
自分のペースを思い出すことができる。


おやすみ、とメールをして
テスト勉強に集中する。
すぐに祐ちゃんから返信があって
まだ起きてるんだ、と私は嬉しくなる。


2005年01月26日(水)



 平気

母に電話をする。


忙しいんだね、無理しないでね
と、母は必ず言う。


平気平気、大丈夫
と言いながら、私は自分が安らぐのがわかる。


母のその一言が聞きたい私。

2005年01月25日(火)



 卒業

卒業したら1年間ほど実家に帰ろうかと考えた。


高校進学を機に家を出て、
それからずっと家族と離れて生活している。


就職したら、一生時間に追われる気がする。

私には、実家で学びたいことがまだまだたくさんある。



夜中に近くのコンビニに行く。
二人とも、ジャージにサンダルの格好で。
その話をすると、祐ちゃんは珍しく嫌がった。

俺はやだ…
子供のようにふくれる祐ちゃんがいとおしくなる。
華のいない生活は寂しいもん
私は笑って祐ちゃんの手を取る。
祐ちゃんは、つないだ手を
私の手ごと自分のポケットにつっこむ。


じゃあ、卒業したら一緒に住んでくれる?
祐ちゃんは前を向いたまま、優しい声で言う。
卒業したら、華をもらいに行くつもりですよ

2005年01月24日(月)



 ふくろう

テレビの上に、ふくろうが2羽置いてある。


手のひらにすっぽり収まる
小さなお手玉のような。


ふくろうは、『福を呼ぶ』んだって
母がそう言って送ってくれた。
ひとつひとつ丁寧に手作りして。


ちょこんと座った2羽は
父と母のように見える。


2005年01月21日(金)



 長生き

祐ちゃんが死んでしまう夢を見た。


はっと目が覚めて隣を見る。
祐ちゃんの姿はない。

居間のこたつで寝息をたてる祐ちゃんを見つけて
私は少しほっとする。
パソコンにスクリーンセーバーがくるくると動いている。


祐ちゃんは、ある日突然
死んでしまうのではないか?

たまにそんなことを考えて、恐ろしくなる。


こたつで寝ている祐ちゃんを起こす。
祐ちゃんが死んじゃう夢見た
私は子供のように言う。
過労死しそうだもん(笑)

私は情けない声で祐ちゃんに尋ねる。
祐ちゃんの方があたしより先に死んじゃうんだよね
華より長く生きてるから、いづれはね
そか…やだなぁ…

夢のせいもあって、私は本当に泣きそうになる。
祐ちゃんは笑って私の頭をくしゃくしゃにする。
じゃあ頑張って生きて、華が死んだ次の日に死ぬから。
だから寂しくないよ。安心しなさい



恥ずかしいけれど、私はそれを聞いて、
祐ちゃんの思いやりが嬉しくて涙がこぼれた。

2005年01月20日(木)



 やせた

最近みんなにやせたね、と言われる。

忙しかったせいなので、
喜ばしいことではないのだけれど。

祐ちゃんはコンビニのお弁当を食べている。
今日、やせたって言われたよ
私は首をかしげた格好で祐ちゃんを眺める。
だめだめ。ちゃんとたくさん食べなさい
祐ちゃんは少し厳しい口調で言う。
俺と一緒に三食食べるようにしよう
体力つけなきゃ
もっとぷにぷにしなきゃ


でも、と笑って祐ちゃんは付け足す。
おでぶちゃんになるのはいやよ
私も笑う。
おでぶ華になったら嫌われちゃうんだー
そうよー
でもきっと、祐ちゃんはそんなことじゃ人を嫌わない。


祐ちゃんは私の、本当に本当に大切なパートナーだ。

2005年01月19日(水)



 赤ちゃん

いとこに赤ちゃんが生まれることになった。
電話越しに母が嬉しそうに話す。
子供は宝物だからね
昔からそう言って私たちを大切にしてくれた。


それはおめでたいねぇ!
仕事でパソコンに向かっていた祐ちゃんが微笑む。
頬杖をついて、祐ちゃんの横顔を眺めながら私は言う。
ね、男の子かな、女の子かな

手を止めてこっちを見て、祐ちゃんがにこっと笑う。
華、俺の子供絶っっ対かわいいよ

私は思わず笑う。
祐ちゃんはたまに、急にこんなことを言う。
いとこの話だってば



子供が大好きで、
他人の子供まで可愛くて仕方のない祐ちゃんは、
きっと世界一のパパになる。

2005年01月18日(火)



 胸まくら

祐ちゃんはいつも、胸まくらをしてくれる。


祐ちゃんの胸に、私の頭はすっぽりとおさまる。
あたたかくて大きな手が、頭を優しくなでてくれる。


祐ちゃんの胸の厚みも、
しっかりした腕も、
優しい手も、あたたかな体温も、
何もかもが私にはちょうど良い。


ぴったりだ
と私が言うと、
華の特等席ですから
と祐ちゃんがやわらかく笑う。


2005年01月17日(月)



 

心肺蘇生の実習があった。


私たちは練習用の人形に、
人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。
何度も何度も、体に記憶させるように。


先生が高らかに叫ぶ。
自信を持ってね
その技術で人を救えるから




阪神大震災から10年。

本当に小さな小さな私が
誰かの命を救う技術を身につけている。

それだけで、私の生きる意味のひとつになる。

2005年01月16日(日)



 センター試験

弟から電話がきた。
手紙が届いたという。


湯島天神の鉛筆と、ささやかなメッセージ。
姉としての精一杯の、応援と祈り。


まあ、やれるだけやってくるよ、と
弟は力強く笑う。


こういうとき、私たち家族はひとつになる。

2005年01月15日(土)



 女性

最近、母とよく電話をする。


いつのまにか女同士の会話をするようになった。


何かの話をしていて、
祐ちゃんのほっぺのにおいが好きなんだ
と私が言うと、
お母さんは、お父さんの枕のにおいが好きよ
と母が嬉しそうに言った。

なんだかおかしくて、私も母も吹き出してしまう。


女に生まれてよかったなぁ。




2005年01月12日(水)



 お料理

初めてハッシュドビーフを作った。


電話で夕食を用意したことを告げると
作ってくれたの!
と祐ちゃんは子供のように喜んだ。
そういえば、
最近はバイトのまかないばかりだったことに気づく。


帰宅する時間に合わせてお鍋を温める。
部屋中に湯気がたちこめて、鼻の頭があたたかくなる。


2合炊いたご飯を、
祐ちゃんはおいしい、おいしいと平らげてしまった。
あっけにとられる私の前で
祐ちゃんはごちそうさま、と言いかけて
まだ残ってた!
と、ほうれん草のお味噌汁を飲み干す。

そして改めて手を合わせる。
ごちそうさま

その顔が好きだから、私はお料理が好きになった。





2005年01月11日(火)



 洗濯物

今日は天気がいいので、たまっていた洗濯をした。


いくつか混じっている祐ちゃんの下着や服を
私は丁寧にハンガーにかける。

その大きさに改めて気づく。



祐ちゃんの着ている服から
私の家の洗剤のにおいがして
恥ずかしいような、幸せな気持ちになる。

2005年01月07日(金)



 家族

年明けは実家で過ごした。


毎年来客でごった返すこの時期に、
今年はたまたま家族水入らずのお正月になった。

受験を控えた弟が、私のために時間を割いてくれる。
たった一人の兄弟であり、幼い頃から誰よりも仲がいい。
降り積もった雪でゆきだるまを作る。
大きなものから、小さなものまで、いくつもいくつも。

そこに、父と母が加わる。
お正月の夜更けに、家族4人のトランプが始まる。
ババ引き、7並べ…。懐かしい遊びばかり。
笑い声がいつまでも響く。


父は、お正月のようだ、と何度も言った。
私たちは、お正月なんだよ、と言って笑った。



お正月が終わると、私と弟はそれぞれの家に帰る。
もっともっと、ここにいたいと思う。
父と母がいつまでも手を振っている。

ちょっとだけ泣きそうになる。


帰りの道中、祐ちゃんに電話をする。
気をつけて帰ってくるんだよ
祐ちゃんの声が優しくて、私はいよいよ泣きそうになる。


2005年01月06日(木)
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