あたたかなおうち



 年賀状

祐ちゃんのプリンターがフル回転している。
同僚やクラスの子供たちみんなに年賀状を出す。
慣れない筆ペンで一枚一枚コメントを書く。


コメントに行き詰まると、
関係のない字を広告の裏に書き始める。
自分の名前、私の名前、友達の名前、
話題の人、そして今テレビで言った言葉…


広告が真っ黒になっていく。
気に入った文字を何度も何度も書いている。
私はこれ書いて、あれ書いてと注文する。


年賀状はちっとも進まない。


2004年12月28日(火)



 

昨日は祐ちゃんのうちに泊まって
今朝そのままバイトに行って
昼過ぎに家に帰った。


ちゅちゅの家を軽く叩く。
ちゅちゅー、ただいまー
いつもなら寝ぼけて出てくるのに、出てこない。
少し強めに叩く。でも起きてこない。

はっとした。
気がついてしまった。


ちゅちゅは冷たくなって、眠っていた。


涙が溢れて溢れて止まらない。
祐ちゃんにもらった指輪の箱が、
丁度ちゅちゅのサイズだった。
静かに入れて、周りに花をたくさん添える。


もっともっと長生きできたのに。
ごめんね、ごめんね、ちゅちゅ。。


明日、祐ちゃんと海に流してきます。

2004年12月25日(土)



 

朝起きると、祐ちゃんが隣に寝ていた。
昨日は忘年会だったので、始発で帰ってきたのだろう。


本当に無防備な寝顔をみせるひとだ。
私と選んだ白いカットソーのまま、着替えもせずに。
白が、よく似合うなあ、と思う。
私はおでこに口づけする。


ふいに祐ちゃんの腕が私を包む。
愛してるよ、華。愛してる
目を閉じたままで祐ちゃんが呟く。
寝言、なのだろうか。



ちゅちゅがまた元気に動き回るようになった。
ほっとした。

今度は私が元気になる番だね。


2004年12月23日(木)



 大切

カーディガンを衝動買いした。
服を買うのは久しぶりな気がする。


私にしてはめずらしい、淡い黄色を羽織る。
そういえば冬物は黒やグレイばかりだ。


顔色が明るく見える。
髪がだいぶ伸びたことに気づく。
もうすぐ背中に届く…。



自分をもっと大切にしなくちゃ。


2004年12月22日(水)



 包む

不安定になっている私を
祐ちゃんが優しく包む。


おいで
ソファでゲームをしていた祐ちゃんが手を広げる。


私をすっぽり包み込んだかたちで、またゲームを始める。
背中と両腕に祐ちゃんのぬくもりを感じる。


体重を預けると、心臓の音が伝わってくる。
私は思わず耳をすませる。


2004年12月20日(月)



 あし

朝、ちゅちゅのおうちを見ると、
後ろ足がゲージに挟まって変な方向に曲がっていた。


私は血の気が引いた。


変に曲がっているので、そこから動けない。
一晩中もがき続けていたのだろう。
自分で引っ掻いたような傷と、血の痕がある。


私は夢中で
なかなか外れない足を、思い切って動かした。

するりと足が抜ける。

ちゅちゅがころんと転がる。

私は脱力して座り込む。
全身のちからが抜ける。



ちゅちゅを手のひらに乗せる。

ちゅちゅの足は動かなくなった。

2004年12月15日(水)



 

祐ちゃんが針金で作った羽をくれた。
学校の工作で作ったのだという。


壁の高いところくくりつけながら、祐ちゃんが言う。

華には羽があるからね


私は泣きそうになる。
もう、だめだ。
自分に自信がもてない。
何をやってもうまくいかない。
…本当に先生になれるんだろうか。


“魔女の宅急便”のキキ、飛べなくなるでしょ


羽をつけ終えた祐ちゃんが、私の隣に座る。
おでこにキスをしてくれる。


でもキキは、また飛べるようになったでしょう?


私は涙が溢れてうなずくことしかできない。

2004年12月14日(火)



 

祐ちゃんの服を買いに行った。


祐ちゃんが振り向いて、持っている服を見せる。
これとこれはどっちがいい?
こっちがいいな
じゃあ、こっちにする
祐ちゃんはにこにこして「こっち」のセーターをかごに入れる。


祐ちゃんは、何でも私に選ばせる。
自分のなんだから自分で選んだら、と言っても

華が選んだのが一番いい
という。


たまに、子供みたいな祐ちゃん。



2004年12月13日(月)



 湯たんぽ

祐ちゃんは仕事があるので、一人で先に布団に入る。
布団はとても冷たい。
猫のように丸まって眠る。


祐ちゃんが布団に入ってきた時、目が覚めた。
華、足、冷たいね
冷え性なので冷たい私の足を
自分の足で包むように温めてくれる。
私の顔を、自分の厚い胸にうずめるように抱っこしてくれる。


あったかい…


私はたちまち二度目の眠りに落ちてしまう。

2004年12月10日(金)



 花びら

母から手紙が来た。

私は高校時代に家を離れたので、
もう何年も母と手紙のやり取りをしている。

たわいのない話、日常の出来事が綴られ、
最後にこんな一文が添えられている。

今更おかしいのですが
お父さんのことを
深く深く愛していることに気がつきました。




大学1年の春、一人暮らしをしてまだ間もない頃に
母からの手紙が届いた。

桜の花びらが丁寧にティッシュに包まれて入っていた。
たった、一枚だけ。

地面に落ちてしまう前の花びらは
幸せのお守りなのだそうです。


舞い落ちる花びらを
一生懸命追いかける母の姿が目に浮かぶ。


お母さん、
私は本当にお母さんの娘に生まれてきて幸せです。

2004年12月08日(水)



 ぬいぐるみ

よく二人でゲームセンターに行く。


祐ちゃんはUFOキャッチャーがとても上手だ。
毎回たくさん取ってくるので、
部屋はぬいぐるみで溢れている。


祐ちゃんが大きなくまさんのぬいぐるみを取った。
まわりから小さな歓声が起こる。
さすがだね、祐ちゃん
私はくまさんを赤ちゃんのように抱っこする。


くまさんを抱く私を、女の子がじっと見ているのに気がついた。


祐ちゃんはもうひとつ取ると言う。
もう、取ったのに、と言いそうになって口をつぐむ。
私は祐ちゃんの考えていることがなんとなくわかった。


また、くまさんが落ちる。
まわりからどよめきが起こる。
祐ちゃんはくまを取り出すと、
まだ近くにいたあの女の子に手渡す。


かっこよかったね
帰り道、とても幸せな気分になる。
私から手をつないで笑いながら歩く。



2004年12月07日(火)



 風邪

風邪を引いた。


咳が止まらない私を、
祐ちゃんがとても心配してくれる。


薬買ってくるよ
ううん、大丈夫
いや、いってくる。待ってて
祐ちゃんが急いで上着を着て出て行く。



目が覚めると朝になっていた。
テーブルの上に薬と手紙が置いてある。


「帰ってきたらすやすや寝てるんだもん。
 びっくりしたよ(笑)
 起こしちゃうと大変なので今日はこのまま帰ります。
 あったかくして、ちゃんと薬飲むんだよ」



私は薬を手にとって眺める。
帰ってきて拍子抜けした祐ちゃんが目に浮かぶ。


嬉しさがこみ上げる。

2004年12月06日(月)



 成績

成績をつける時期。
祐ちゃんは忙しそうにパソコンに向かう。


一緒に起きていようと決めて、
私は祐ちゃんの隣で勉強する。


「華」
と呼ばれてはっとする。
目の前に祐ちゃんの顔がある。
「寝るならお布団で寝なさい」
お父さんのような声が優しく響く。


思わずにやけてしまう。
私は祐ちゃんに起こされるのがとても好きだ。

2004年12月05日(日)



 返事

今日は祐ちゃんよりも早く家を出た。

私は手紙を書いていこうと思いつき、
短い文章を綴る。
メモのような、小さな紙に。



帰ってくるともう祐ちゃんの姿はない。
朝と同じように、
小さなメモ用紙がテーブルの上に置いてある。


私の字の下に、祐ちゃんの字が付け足されている。

2004年12月03日(金)



 靴下

祐ちゃんは原チャで学校に行く。
朝、出かける時間が本当に寒い。
たくさん重ね着していく。


あっ、靴下はかなきゃ
雪だるまのようになった祐ちゃんが、
靴下をはこうとする。



雪だるま祐ちゃんは
体が曲がらなくて、手が届かない。


その姿が不相応でかわいらしくて、
私は思わず笑ってしまう。


私は笑いながら、靴下をはかせる。
母親のように。
今度は先に靴下はこうね
子供のように祐ちゃんが頷く。


さあ、今日も頑張ろう。


2004年12月02日(木)



 おでん

コンビニに行くと、たいていおでんを買う。


祐ちゃんを好きになって3度目の冬を迎える。
最初の冬、まだ祐ちゃんがただの先輩だった頃、
一緒におでんを食べたことがあった。


いつまでもこの時間が続けばいいと思った。
この人の近くにいたいと思った。

私は思わず不思議なことを口走ってしまう。
来年も一緒におでん食べてください
あたたかな湯気が鼻を赤くする。
私はいよいよ恥ずかしくなる。



祐ちゃんは少し驚いて、
楽しそうにふわりと笑って
うん、食べよう
と言ってくれた。
やさしい人だと思った。


今年もまた、おでんの季節。




2004年12月01日(水)
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