年明け早々 強姦なんてのに遭った。
あたしの脳は上手くできてる。
呼吸困難を引き起こすような 詳細をちっとも覚えちゃいない。
フラッシュバックのように 何かの切っ掛けで脳裏を掠める ガラスの破片のような記憶は 酷く鋭利で痛いんだ。 そんなものを 無理に思いだそうとするのは無駄なことだ。
鑑識に預けられた 仕事着のトレーナーと 愛用ダウンが未だ戻ってこない。 二ヶ月が経ちそうな今 それでも連絡して訊けないのは 新たに何かを訊かれるのと それで何かを思い出すのが嫌だから。
セックスをした。 すがる相手の名前を確認するあたしがいた。 乱交でもしてる訳じゃなし そこには直前まで話していた人しかいないのに そんな判りきったことを繰り返し。
あぁ、あたしの脳は馬鹿だ。 忘れたフリをして 何かを不意に思い出す。
心の傷なんて知らない。 痛むのは頭だけだ。
偏頭痛なんて慣れている。 酷い日には鎮痛剤で済む話。
何も なかった
そう警察に話した通り。
こないだ大動脈解離で緊急手術になった祖母が ICUから一般病棟に移った。 家族カードと云う面会許可証を持たなかったあたしは 知らせを聴いてから二週間、やっと祖母に会えた。
いつでも会える、は いつまでも会える訳じゃぁない。 それでも余裕のない日常に流されて なかなか会いには行けなくて 時折聴く便りで、 あたしに会えるのを待ってると聴いても 都合はどうにもつけにくく。 こんな切迫するまで、自分の時間を差し出せない。
手術だけでもたないかも知れないと云われた14時間。 半日以上の時間に耐えて、祖母は あたしを「待っていた」と笑ってくれた。 待って待って待ちくたびれた、と。
混濁した意識の中で、ICUで面会した息子や娘も判らなくて 幾ら病棟を移れるまで回復していても あたしのことも、きっとわからないんだろうと思った。 けど祖母は、声を掛けるのを躊躇った あたしの名前を疑問混じりに呼んだ。
よかった。 仕事でどうしても行けなかったもどかしい二日間。 今日休みで、今日飛んできて あぁ、よかった。
澱んだ眼をして
痩せた躯で
一体 何を
探しているの?
さよならと別れた後で 電話をくれた。
着信の音が響いた瞬間 未だ、鼓動が速くなります。
何かミスがあったのか それとも業務連絡か もしかして 気紛れに掛けてくれたプライベートか。
どれにせよ 貴方の声が聴けるだけで 鼓動が大きくなるのです。
お前にしか話さない
本音を云わない、嘘つきな貴方の その言葉をどこまで信用していいのか 私には分からないけれど
私の世界では 貴方が口にしたこと全てが真実
考えても只 それだけのことでした。
優しい人 嘘つきな貴方 子供のような人 本当は 誰より温かいのに
愛しています。 この先 想いが潰えるその日まで 私は全てを騙します 自分すら全てを そして 貴方が見えなくなったその時に 最後の愛と 涙を流しましょう
いつか
愛しいと 泣いた心を誇れるように
空を掻くように 空回り 何も掴めず 腕が堕ちる
あたしの腕は 指は
言葉は
どうしたって 届かない
|