プープーの罠
2009年01月22日(木)

タナボタ

年明けでバタバタ
してるうちにあっという間に
1月も中旬になり、

チームで急遽送別会を開いてくれて
何だかみんな忙しそう
だったのに結局全員来てくれた。

今回の本題はその後の話で、
三時間くらいわいわいやって解散、
駅までの道すがら上司が

「女子にだけは二次会奢る」

と言い、道沿いの立ち飲みバーに入った。

このチームの女子は私含めて3人で、
しかし店の入り口の前で
二人は揃って「帰ります」と言い、
ひどいフェイント、
私はすでに店に足を一歩踏み入れていて
引くに引けず、かと言って
上司と二人ってのはちょっと嫌だ。

ちょうどそばに木山くんがいて
私が道連れに手招きをしたら
木山くんがさらに新人くんを道連れにして
結局四人でバーに入った。


席に着くなり開口一番
上司は新人くんを指さし
「こいつは浅田さんのことが好きらしいよ」
と言い、私は
「それ何度も聞きました」
と答える。

その好きというのは
明らかに 消去法 で選ばれた感じで
少なくとも彼が私に
恋い焦がれている雰囲気は微塵も
ない
し、私は私で嫌い
と言われるよりは悪い気はしない
がかといって私からは異性として意識しようがない
というか、ものすごく対象外
なのでどうとも思わない。

そんなことよりも私は
木山くんの方に気が向いていた。

木山くんは肌が白く鼻がすっと高い。
色素が薄くて目も鳶色をしていて
地味ではあるが整った顔立ち

にも関わらず
他の女子社員がまったく興味を示さない
のは多分性格による。

気難しくて理屈っぽいのだ。

私はそういう不器用な人が嫌いではない。

そして木山くんは仕事をしている時、
とても色気がある。
嫌われることを恐れない性格も好きだ。


もう会うこともなくなるので
もうちょっと話したいなぁ
と送別会の間も思ってはいたものの
打ち合わせ帰りの彼は一番遅れてきて端に座り
ど真ん中に座らされていた 本日の主役 の私は
あまり話すこともできなかった。

そういう意味ではこの状態は
棚からぼたもち。


彼はいつにも増して上機嫌だった。

話を聞いているうちに
早慶出身であることを知る。
東京生まれで帰国子女
だというのはうっすら聞いていたのだけど

さらに上司が言うには
実家が芝浦の高層タワーにある
イイトコのエリートな坊っちゃん。

それでこの大手企業に勤めている
のだから相当なハイスペック。


イナカのありふれた中流家庭に生まれた
最終学歴 専門学校 の派遣社員の私、
スペックで人を選ばないにしても
この場合、さすがに退く。
サラブレッドじゃ格が違い過ぎる。


ただ、この場で子犬のように私に尻尾を振って
楽しそうに話しているのを見ると
この人、私のこと好きなんだなぁと思う。
かわいい。


私は年下と付き合ったことがない。
好きになる人は年上だろうと"男の子"だと思う。
男の子はかわいくて愛しい。
だから"君"づけで呼ぶ。


木山くんは年下だ。
年下のかわいい男の子。


それって、何だか、弟みたい。


恋愛として考えようとすると
どうも子供っぽすぎるというか、
何か違うなぁと思った。

2009年01月07日(水)

natural bone lovers

年末にヒマをしていたら、
違う部署の人が仕事をくれて、
簡単な仕事だった
のだけどご丁寧に打ち上げをしてくれた。

クリエイティブ部のオブリくん。
カミ君や木山君の同期だ。


予約してくれたというお店に向かう途中
駅前に変わった形のビルがあり、
通りすがりに
おもしろい形ですよね
と何気なく言ったら
入ってみようか
と、彼は迷わず入っていき、
寄り道に付き合ってくれた。

スペーシーなエスカレーターを
登って
また下りる。

くるくるしたくせ毛の黒髪と
ブラウンにカラーリングしたアゴヒゲ、
いつも眠そうな顔つきをしていて
鼻にかかった声で随分おっとりと話す。
背が高いのに背筋がぴっとしてて
育ちがいい感じがする。
少女漫画から飛び出てきたような男の子。


さてクリエイティブ部の彼、
私はその仕事内容に興味があった。

私に頼まれたのは本当に簡単な仕事で、
手が足りないから
というより
他に制作できる人がいないから
といった感じだった。

モノを作らないクリエイティブ部って、
何をクリエイティブしてるんだ?

聞いてみれば内容的には「企画」。
クライアントに商品自体を提案して、
それが通ればクライアントはその商品を開発し、
当社でそのパッケージをつくる。
メーカーじゃないのにそんなところから口出せるのか。

楽しそう。


一通り彼の仕事の話を聞き、
そして私の仕事観の話をしていた流れで
彼は唐突に言った。

浅田さんは結婚願望ありますか?
結婚はあまりぴんとこないけど
子供が欲しいです。

僕は結婚したくないんです。

そんな感じはする。
甘く優しいのに目付きが時々すごくドライだ。
内側がまるで見えない。

でも彼は私のフィールドに下りてきている。
20代後半の、結婚を意識しないわけがない年頃の私の。

あまり深く考えずに毎度ながらの定型文で答えたのに
子供についての見解を根掘り葉掘り聞かれ、
彼の理想の家庭のあり方を聞かされ、逆に私の方が戸惑う。

私のことが
どう
こう
ではなく
彼の資質が自然とそうしてしまうのだろう。

この人女の子大好きだ。
研究に余念がない。


時間を見て
そろそろ帰りましょうか
とそのまま店を出た。
あの、お会計は、
大丈夫です、今日は奢りですから。

そうじゃなくて。

ちょっとトイレ、と立った時に
精算を済ませていたのだろう。
若いのに何てスマート。

今の会社の交際費精算が
どれくらいのレベルか知らないが、
社内同士だし まだまだ若い平社員だし、
自腹だとしたら年下の人に奢られるのはちょっと申し訳ない。


駅に向かう途中に
路に面した料理教室があった。
彼はぽやんと立ち止まり
僕も料理習おうかな
と言った。

料理教室行ったらモテモテですよ、
結婚相手探すならいいんじゃないですかね、
通ってる人は少なくとも料理できるってことですし

と私も立ち止まる。

ひょろりとした印象だけど
背が高いだけあって
絶対的に私より大きい。
長いまつげを下から見上げる。

僕お皿洗うの好きなんですよ。
実家なのに家事するの?
友達の家とかで鍋とかした時に。

やっぱりこの人女の子大好きだ。
ツボを心得てる。

雰囲気だけで言えば草食系男子風情だけど
彼女がいても毎週合コンに行く。
結婚願望がなくても花嫁修行
している人達の中に飛び込みたがる。


ごはんを食べた後はガムをくれた。
ミントを食べるとくしゃみが出る私は
手のひらにぽつんと載せられたそれを
これはからいかしらとちょっと考える
か、考えないかの一瞬で
彼は何かを思ったらしく
甘いのもありますよ
とさっと反対側のポケットから
ブドウ味のガムを取り出して置き直す。

人をちゃんと見ている人。
きっとみんな恋しちゃう。

ソワソワ気分を味わって随分楽しかった。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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