2009年02月09日(月)
もとめるもの
でかける用があったので
しばらくヒマしている
と言っていた 八木くんに
『ランチでもどうか』
とメール したらなかなか返事が なく て、
電話すれば良かった と思いつつ、
しばらく ぷら ぷら と時間を潰し、
いい加減ランチ って時間でもなくなった のでパンを買って帰り、 家で一人で食べた。
結局その日は返事が なくて 次の日の遅くに
『昼寝してずっと寝てた。 だるいから無理かも』
とメールがきた。
まただ。 相変わらずだ。
気まぐれで 自分の都合の良いとき だけ 寄ってくる。
いい加減イラッとする。
毎回そうだったけど 些細なことにイライラして 可能性を自ら断ち切るのは くだらない と思っては 少し時間を置いて頭を冷やし 『また今度ね』 と残念ぶりを分かりやすく表現し 彼に伝えていた。
今回は 一時間くらい置いても イライラは収まらなかった。
ヘタな駆け引き。 結局彼は私をどうしたいの。
私が勝手に誘って 勝手に怒ってる。 それはそうなんだけど。
無視しておけばいいものを、 『そうですか』 と返事をする。 絵文字も また今度 という言葉も入れない 嫌味で 攻撃的で 冷たい メールを わざわざ。
何も生まれやしないメール。
彼はきっと傷つくだろう。 彼の待っているメールは いつもの大層残念がり 媚を売るようなメールだ。
自分は好かれている方の立場 だと優越感に浸れるような。
くだらない。
これで終わってもいいと思った。 先日のことも相まって 嫌いになりそうだ。
もう誘わないよ。
2009年02月03日(火)
風化
仕事も満了し 何をするでもなく3日目。 唐突に八木君からメールがきた。
『Bさんから 結婚する って連絡きたけど、 そっちにもきた?』
Bさんは共通の知人である。 私はもう何年も連絡を取って いなかったしそれから メールアドレスも変わっている。
『きてないけど、そうなんだ。 彼によろしく。
ついでに
仕事辞めたから 時間があったらご飯でも』
と添えて返した。 すると珍しく すぐに返事がきて
じゃあこれからどう?
何と今日行くことになる。
一年半ぶり。
極力電車を気にしなくていい ように近くまで来てもらう ことにして一時間後に待ち合わせる
と、30分もしないうちに着いたと連絡があり、 待ち合わせ場所まで10分で行ける私は まだ家も出ておらず準備中、 慌てて待ち合わせ場所へ向かう。
結婚 て聞いて寂しくなっちゃったのかな。
時間よりだいぶ早くに落ち合い 今まで行ったことない方面にしよう と話しながらぷらぷらお店を探す。
目の前に現れた変な形のビル、 先日オブリくんと中に入って みたあのビルだ。
八木君は見上げて言った。
このビル嫌い、 ここら辺の建物の秩序を乱してるから。 私は好きだよ、 中もかっこよかったよ。 そうなの。 でも僕は好きじゃない。
私のテンションが下がった のを察知したのか彼は 少しマイルドに訂正した。
ここがいいかな、と八木君が差した店は 奇しくもこの前オブリくんと来た店。
私については何も聞かずによく喋る。 家のこと趣味のこと友達のこと仕事のこと。 私はうん、うん、と聞いている。
半分くらいは見栄だろう。 聞いてる傍から矛盾を感じる。 割り増しされた話で彼は私に何を言いたいのか。 他の友達と話す時もこんな感じなのかな。
そもそも私、友達かな。
私がいなくても彼の世界は回る。 それはとっくに知っている。 彼に私は必要ないんだ。
ひとしきり彼が自分のことを話して 話題がBさんのことになり まさかあのBさんが結婚とはねぇ、 などと話している流れで ふと私は聞いてみた。
八木君は結婚しないの?
う〜ん、あと三年は遊びたいかな。 ふぅん。 でも逆算したらそろそろ リミットだなとは思う。 そうだね
三年ていうのは多分負け惜しみだ。 したくたって相手がいなければどうしようもない。
私は30になった。 付き合っていた頃の八木君と同い年だ。 大人に見えてた彼も そうして思うと随分子供染みた人だった。 それは今も大して変わらない。
それでもさすがに30半ばを越えると 加齢が見える。 濃くなったヒゲとくすんだ肌、 張り出していた喉仏が目立たなくなった 代わりに横ジワが何本も深く刻まれている首元。 服装の趣味が前より若くなっていて 実年齢とのギャップが大きくなっている。
23時頃に閉店するこの店、 新年会も一段落し平日なこともあって ほとんど貸切のまま店じまいまで飲み、 駅に向かって帰る途中 八木君は もう一軒いかが? と言った。
うん、いいよ
朝5時まで営業のチェーン展開している居酒屋に入り 八木君は相変わらず友達との楽しかった話をしている。 私はだんだん 気がそぞろ になっていく。
ふと自分が具合が悪くなって いることに気付いた。 パニックが首をもたげている。
今何時? 終電間に合うかな
話を断ち切るように私は立ち上がり そそくさと店を出た。
再び駅に向かう道で ちゃんと帰れる? と彼は、今日、初めて 私のことを気にかけた。
彼は今日、 相当寂しくなっている。 まだ帰りたくない。 朝まで飲みたいんだ。 「終電逃しちゃった」 と私が言うのを望んでいる。
大丈夫、ばいばい、またね。
電車がなくなっても タクシーでワンメーター、 歩いてでも帰れる。 でも私は一刻も早く帰りたかった。
家に帰ってベッドに倒れ込み 少しずつ落ち着きを取り戻す。
体調のことは 彼には知られたくない。 教える必要がない。
ただの 知人 だもの。
そういえばメガネしてなかった。 あんまり気づかなかった。 何か、変な髪型だったなぁ。 私が好きだった面影はちっともなかった。
何だかひんやりとした気持ちになる。 オブリくんの方がずっと楽しかったなぁ。
私にあいていた八木君の形をした穴に 今の八木君はもう嵌まらない。
|