プープーの罠
2006年10月26日(木)

疲れた仕事帰り
塩気のあるあたたかい飲み物が飲みたくなり、
近所の惣菜弁当屋で味噌汁を買って帰ることにする。
疲れてなくとも自分のために自炊をする
ようなタイプではないのでこういうお店は便利に使っている。

行けば季節柄か豚汁であり、
油が浮いてるので少し躊躇った
けれど塩分を飲みたいと体がいう。

セルフ盛り付けなので具だけがなくなっていて
ちょうどうまいこと汁ばかり
だったのでさらさらと器に入れてレジに置けば
ふとレジのおばさんがその豚汁を見て

あら具がないわね

と言い、
ちょうど新しく置き換える予定
だったらしき厨房にあった
つくりたての豚汁にそれを

ざばっ

とあけてかわりにこんもりと盛り付けてくれた。具を。

ありがとうございます
とお金を払って家路につき
水気がほとんどなく煮物
のように盛られている豚肉や里芋を
もさもさと食べながら常温の水を飲む。

とてもあたたかかった。

2006年10月24日(火)

もしもし

ケータイの番号ポータビリティが開始される。

移動するつもりは毛頭なかったので機種変更
をしようとしたら
端末代が超値上がり。
ソフトバンクのあまりにひどい
改悪ぶりに思わず移動を考える。

あまり使わない身としては
パケット定額やらが強制的に加入
させられた上での割引なんてない方が安い。
ついこの前までJ-PHONEのプランのままだったくらいで
ガツガツとお得感を追及していくほど
もともとが高くないのだ。

かつて
学校の近所で
大量に配布していた新規0円のケータイ屋さん
がJ-PHONEだった
ので学生時代の友人一同電話番号が連番だったりして
今だにその流れのまま、周りもソフトバンクユーザーが多い。
機種変更しただけで契約年数をリセットされる
ならキャリア移動のデメリットがなく、キャリアが変わるなら
番号ごと変えるのもいいかなと考える。

そうしたら否応なく
八木君との細い細いつながりは
ぷつり
と切れるだろう。

それもありかなと今なら思う。

2006年10月05日(木)

変化

隣りの部署の新入社員の女の子に
 最近綺麗になりましたね。
 何かいいことあったんですか?
と声を掛けられた。

話したことのない人に唐突に褒め
られてもどう返したもんだか、
気の利いた返事は出来なかった
けれどうれしかった。


"恋人ができて綺麗になる"


私の場合はそういう素敵なものではなく、
"別れてマシになった"
という薄暗いものではあるけれど、
別れてよかったと他人に判を押してもらった気分。

毎日泣き腫らしてひどい顔のまま出勤していたことも多かったし
彼のことを考える度に自分が鬼
のような険しい表情になっているのも分かっていた。
着信したメールを読んで手が震えるほど頭にきたり、
家の中なのに急に電波が途絶えた時は本当にやばいと思った。

誰にも言わずに終わったこの恋愛は
第三者の客観的な目を全く欠いたまま
自我の強い二人が正面衝突して壊れた。
果たして自分の意見がどれくらい正しかったのか
見極めをつけられる人は最後までいなかった
けれど、私は別れたということには後悔はしていないし
私にとって最良の選択だったと思う。


ある時から
会社ですれ違う城さんの目がとても冷ややかになり、
あぁ早稲田君は私のことを話したのだと感じた。
キチガイ染みた情緒不安定な女に振り回されて疲れた
とでも言ったのだろう。

私の後悔すべきは
別れた
こと以前に、
付き合った
ということの方だ。

そればかりを毎日反芻している。




けれど、思いのほか
これから後遺症に苦しむことになる。

2006年10月01日(日)

ブルーフィルム

早稲田君は私と付き合いはじめた頃から
ブログに趣味の写真を載せている。
ふと見せてもらった写真を
 それいいね。私もカメラをやっていたのよ
そんなことを言ってからだった。

夜景の綺麗な港、
古い喫茶店のコーヒーカップ、
広い広い芝生に写る影。

レトロなカメラでとった独特の
色合いはとても興味深いものではあった
けれど、その風景はあきらかに

彼女とどこかに行った時に撮った

もので、その相手は私ではなく前に付き合っていた子。
私はそれを見るのがあまり好きではなかった。

私と一緒にいる時にカメラを持ち歩くことは稀で
会社帰りにそのまま来るのだから持って来ていないことの方が多く
持ってきたところで出かけやしないのだから撮る機会もないのだけれど、

写真を撮る目的でどこかに出かけていたのか、
出かける度に持ち歩いては撮っていたのか、
どちらにしろ、彼にとってカメラは
前の彼女との思い出の一部なんだと思う。
彼女は美大の子だったそうだ。


ふと、
彼のブログをしばらくぶりに見てみた。
別れて写真でも再開した
のであればいいなと思っていたりしたのだけれど
更新は一向に止まったままでただ、
ひとつリンクが貼られていた。

行ってみたらすぐにピンときた。
これが、前の彼女だ。

私は気が強く負けず嫌いのきつい性格をしているので
何となく前の彼女もそうなのだろうと思っていて、
早稲田君がふと話してくれた彼女の話は
繁華街のど真ん中で彼の頬に張り手をくらいわせ、置いてきぼりにしたり、
突然連絡がつかなくなり、どうにかしてコンタクトがとれた
時には彼女には新しい恋人がいた
というエピソードも割と自分に近い輪郭をイメージしていた

けれど、とても優しい絵を描く人で
文章にもおだやかなふわふわとした雰囲気が滲み出ていて
彼がいい子だ、と漏らしていたのは本当だと思う。
そんないい子に張り手を食らうというのは
どんな気の逆撫で方をしたのだろう、
しかしその様は、彼を知っている私には想像がつく。

ただ
別れてからも私がまだ未練を残している
と心のどこかで思っていたであろう彼
のベクトルが再び彼女に向いたのは、
少しぐさりときた。

私とおんなじ。

つまりはあの短い付き合いはお互いに
ナカッタコト
になったのだ。


気の迷いだったのか、次にまた見た時には
そのリンクはもう消してあった。

私もブックマークから彼のブログを消した。

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「プープーの罠」 written by 浅田

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