プープーの罠
2006年09月10日(日)

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また八木君にライブに呼ばれた。
何だか今回は気合いが入っているらしい。

何かと記念日が好きな人で、
彼には誕生日がたくさんあったりする。
私も昔、そのうちのいくつかを教えてもらった。
今日もまたいくつ目かの誕生日になるのだろうか。
であれば出生に立ち会おうじゃあないか。

なんてまぁ
またいつものように眺めて帰るだけ

のつもりでいたらば、
ステージから降りてきてすぐ
八木君が駆け寄って来た。

着替え忘れちゃったから、僕、汗臭いからね
などと言う。
あぁぎゅっとしたい。
きっと甘い匂いがする。

お酒奢ってあげるよ!とウキウキしながら
彼はステージ脇のバーカウンターまで私を連れていき、
自分の分はやはりまた同じカクテルを頼む。

かわいいなぁ。
そばにいるだけでハッピーな気分になれちゃうわ。


あっ

他愛もない話をしている時に唐突に何かに気付いた
かのように八木君はそう声を発し、
目を向けていた方へ歩いて行った。
関係者である、他のメンバーの友達と彼女と元彼女、達。
二、三言交わして八木君は後ろを見た。

あぁ私もついていくべきだったのか

と、思ったけれど、今さら追ったりはしなかった。
私はあの人達が好きじゃない。
八木君もわざわざ私を呼んだりはしなかった。

しばらくその様子を眺めたり
ステージの別の出演者を眺めたり
しているうちに八木君達はバックステージへ行ったようで
私は奢ってもらったカクテルを飲み干してしまうと
八木君ももう出演が終わってるし、
手持ち無沙汰ですることがない。
いつもなら勝手にさっさと帰るところですが
下手に会話を交わし、それも途中な感じで途切れてしまったので
もう一度ちゃんと挨拶するべきか、ちょっと途方にくれ、

少し場所を移動してみたら
ステージを眺めながらゆるく踊っている八木君を見つける。
隣にはさっきの関係者の中の一人の女の子が同じようにリズムを取っている。
声をかけようと思ったけれど私はやめた。
帰るねと一応メールを出したけれど、返事はなかった。



今日は彼にとって特別な日になったのかな。

2006年09月09日(土)

決別の手続き

ボーダフォンショップ
今はソフトバンクショップというのか
ぷらぷらと歩きながらも確実な目的地。

ラブ定額の解約をする。

まったく知らない店員相手に
私、別れました
と宣言しているような案配で
離婚届けを出すのもこんな感じなのかなぁ
などとあさってなことを思う。

事務的な感じが
感情的な何もかもをすっぱりと
終わった
と判子を押してくれるようで
そういうのはなかなか悪くない。

解約しようと思ってから
ダラダラと2ヶ月をやり過ごした。
どうせ電話が来るでもなし
メールだって週末直前に
会う?
というやつか
罵るような内容くらいだ。

このサービスの必要が感じられない私と早稲田君の関係は
そこにも如実に表われていたように思う。
ナンバーポータビリティが始まったら
早稲田君はキャリアを変えるだろう。
あるいは番号ごと。
前の彼女と別れた時にそうしたようにね。

いづれにしろ関係のないことだ。
二度と連絡を取りたいなどと思わないし、
私が機種変更した時にはメモリに再登録はしないから。

2006年09月06日(水)

Close Your Eyes

その後、
当たり前だがまたもや口論になった。

どこかへ行く提案をした
のにどうして嫌がらせだ
なんて言われなきゃならないのか。
公園が嫌ならどこでもいいとか言ってないで
自分で提案したらいいでしょ。


彼は自分でもまずかったと思ったのか
即座に弁解をして謝った。
連休だからいっぱい一緒にいられると思って
期待し過ぎてたんだ。ごめん。


私はそれを無視してやりとりを打ち切った。
ものすごく頭にきていた。

次の日、仕事中にメールがきて、
一晩頭を冷やして反省した
みたいな内容

なのかと思えば、
よく考えたら俺から誘ってるのに
やる気のない応えばっかりで、
そっちが悪いんじゃないの?


あぁ…
この人は夜通し、
恨みつらみの言葉を練っていたのか。
やる気ってのは"ヤル気"のことだろうか。
それは、まぁ、なかった
けれど。

公園に行こうなんて誘ってごめんなさい。

私が早稲田君に向ける「ごめん」の言葉はすべて決別と同義語だった。
口論を重ねるのは無意味だ。
自分に都合よく解釈し、理不尽で支離滅裂で話にならないから。

どう接していいかわかんないけど、行きたいなら公園行こうよ。
もういいよ。もう二人で会うのはやめよう。
またかよ。人を散々振り回しといて何なんだよ。
人をバカにしすぎじゃないの?


めいっぱいの皮肉をぶつけても
私が非を認めたものだと都合よく解釈しては、
情状酌量で許してやる
とでも言わんばかりに上から目線、
そしてすぐにキレる。
罵られることくらい、いい加減学習した。

後で電話するから。これで終わりなんてなしだよね。
もう話すことはないので電話しないでください。
やっぱりね。そうくると思った。
話し合いすらできないなんて悲しいね。
もう二度と連絡しません。


君のこと全然理解してあげられなくてごめんね

理解しようなんて微塵も思わ
なかったくせに。


彼の中で
自分が正しく、私が悪い
という立ち位置が明確についたので満足したのだろう。
いくらでも悪者にしてくれて構わない。

まともな大人の女性ならあんな
分かりやすく最低な男には引っ掛からないだろう。
付き合うには常に結婚が視野にある
くらいの年齢の人ならば。
よほど若く青く頭が悪いか
誰でもいいから恋人が欲しい、
寂しい人でない限りはね。

私はまともじゃなかったのだ。

まぁ、
自分を頭がいいと自覚している彼のことだから
頭の弱い子とは付き合わない
だろうけれど
ゆっくりと自覚していけばいい。
じわじわと打ちのめされればいい。

彼と付き合ったのは私の人生最大の汚点だ。
こんなに長引かせてしまったことも。

もっと早い段階でスパッと切り捨てられたなら、
傷口はもっと綺麗だっただろう。
それができなかったのは
私なりに好きだったからだ。

男を見る目がないのは自覚しているけれど
それでも私が選んだのだから。




もう遠い遠い過去の話だけれどね。

2006年09月05日(火)

単純な公式

連休が近い。

早稲田君から連休はどこかへ遠出しようと提案がある。
遠出=泊まりだ。

青森、行こうか?

私はいつだかのmixiの日記に
『いつか奈良美智を見に行きたい』
と書いていて、奈良美智の美術館は彼の故郷・青森にあり
とても日帰りでは行けないし、車がなければ行けないから
免許のない私がぷらりと行くのはちょっと無理
であり、早稲田君となら、レンタカーにでも乗って行けるんだなぁ
と一瞬思う。

しかし彼は奈良美智にはまるで興味がなく、
青森には行くが、美術館には行かないだろう。

青森=泊まり

という以外、彼にとってはどうでもよいであろう感じは想像に容易く、
彼の行動パターンは
ホテルで待ってる
あるいは
美術館の外で、タバコを吸って待ってる。

…考えただけで気が滅入る。

青森は、言ってただけだから。どうしても行きたいわけじゃないし。
じゃあどこに行く?早く決めないと宿とれなくなっちゃうよ。
行きたいところはないの?
俺はどこでもいいよ。

私はこの人と、どこへ行きたいだろう。

何かないの?
うーん
せっかく連休なのに?会わなくていいの?

じゃあ、
公園に行こうか。


葛西臨海公園にでも行って、のんびりごろごろして
そうしたら二人の中で何かが、ゆっくり、ちょっとでも動く
かも知れない。

そして返ってきた早稲田君の返事はこう。

は?何それ。嫌がらせ?

彼にとって私とのデートは
泊まりじゃない=嫌がらせ
なのだ。

2006年09月02日(土)

既成事実

映画に行った翌週の週末、
早稲田君から電話がきてデートのお誘い、
ショッピングに行こうか
いいねじゃあ場所はこの前行ったあそこね
なんて言ってトントンと話は弾み
あとは待ち合わせの時間を決めよう、


それでさ、
ん?
別に、乗り気しないならいいけど。
え?乗り気じゃなくないよ。
いや、ならいいんだけどさ。
うん、買い物行こうよ。
無理に来られても、お互い気まずいじゃん?

いやだったら、別に買い物じゃなくても、
君が、いやなの?乗り気じゃないの?
違うよ。何でそうやってすぐ怒るわけ?
何で行く場所まで決めたのにそういうこと言うわけ?
だからさー、わざわざ気を遣って言ってるのに、何その態度。
…いいよ。じゃあやめよう。
何だよ、やっぱり乗り気じゃなかったんじゃん。
そんなこと言われて行きたいと思う?
は?

口論になって約束は立ち消えになった。

その次の週にまた誘われ、今度は失敗しないように、
と、映画をチョイス、

アレが観たいな。
アレもいいね、アレとかアレもいいかも。
あ、ソレいいね。まだやってるかな。
さぁ、知らない。気が乗らないなら別に観なくてもいいし。


これも流れた。

その次はメールがきて、

『もし気が向いたら、食事でもどう?
 無理には誘わないけど。』


多分、彼はわざとその言い回しを繰り返している。

気を遣っている
という様子を押しつけ、
それを嫌がる私を理解しない。
そして私も許容しない。

どうしても会いたい

くらい言ってみろ
と、思いながら
『じゃあ気が向かないからやめとく』
と答える。

そんなところで気遣いをアピールしたところで
気持ちは離れて行くだけだ。

きっとそれでもいいのだろう。
むしろ私の嫌悪の反応を見越してそう仕向け
ているのかも知れない。

物腰は悲劇のヒロイン
のごとく女々しく
僕はこんなに好きなのに彼女が冷酷だ
とでも言わんばかりの状態に
多分、意外と、彼は満足している。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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