プープーの罠
2006年07月31日(月)

陶酔

それでも涙は出るものでひとしきり泣いた。
悔しさがそのままフラストレーションとなって体内にこびり着いて離れない。

そして昨日の今日で
呪いは思った以上に早く効いて

というよりは掛けたつもりの本人が
自分で自分の言葉に酔った感じ、
月曜日の夜中に早稲田君から電話がきた。
仕事が終わって帰宅したら、すぐ掛けてきたのだろう。
付き合っている時にこれくらいの誠意を見せてくれ
たら良かったのに
もう、遅い。

彼は言う、
 やっぱり別れないべきなんじゃないか
 俺はまだ好きなんだし。


 私はもう無理だと思う
 私が一人でわめいてるだけで何も変わらないし。


 だから、歩きタバコはやめるって言ってんじゃん

いらついたように言葉を荒げて投げやりな
そんな言い方されてそのどこに愛を感じられると思う?

 君は終わらせたいわけ?
 別れたくて仕方がないようにしかみえない。
 そんなだから俺は了承するしかないじゃん。


また私のせいか。
猶予を何度与えても何もしなかったのはあなただ。
別れる以外の選択肢を切り開かなかったのもあなただ。

 本当の気持ちはどうなの?
 だから、合わないし、無理だと思う
 そうじゃなくて、
 気持ちを聞いてるんだけど。
 何で理論的に答えを出そうとするわけ?


それは、君の得意分野じゃないか。
そうやって分析させようとしたじゃないか。

 もう好きじゃありません
 恋愛対象としてまったく信頼できません


しばらく彼は黙り込んだ。
相当堪えただろうね。
前の彼女に言われた
 あなたは甲斐性がない
という最後の言葉も引きずってたみたいだし。

怒鳴られる
かなと思ったが唐突に
 昨日のはなかったことにしよう
と言われる。

そんなのは無理だ。
思い付きで別れ話をしてるんじゃない
考えて出した答えにあなたはノリでケンカふっかけたとでもいうのか?
はずみで思いやりも何もない言葉をぶつけられるの?
自分がかわいいだけで
人がどれだけ傷つくなんて考えていやしない。

 ねぇ、デートしない?

なぜそうなる?
これで拒否したらまた
ほらやり直す気がないじゃないかとでも責められるのだろう。

 とりあえず
 昨日のはなかったことにできないから
 別れよう。
 二人で出した答えなんだから。
 それでもまだ好きなら、また1から映画にでも誘って。
 やり直すなら0からにしよう。


彼はわかったと答えた。
次に誘われたらきっと私は乗らない。

そして、誘っては来ないだろう。

めんどくさいもんね、そういうの。

2006年07月30日(日)

五感のすべて

私は人を顔で選ぶことにしていて
性格なんていくらでも取り繕えるし
本質は表情や顔つきに反映される
と思っているから。

早稲田君に、
 俺のどこが好き?
と聞かれて
 
と言っていたのは嘘ではなかった
が、本当にそれ以外なかったのが真実である。

それで早稲田君が自分を男前だと勘違いしたなら
さらには男前イコール"イイオトコ"だと思ったなら
それは全力で否定したい。

私はゲス専と言われたことがある
くらい、選んだ顔それそのものがマイノリティーな部類であり、
切れ長一重まぶたのつり目とかそういう
爬虫類ガオの冷たい目つきが好きだ。


向かい合った席で向けられた、
心の底から冷徹な目を見て
切れ長一重まぶたのつり目に怯えたのは初めてのことだった。

 とりあえず
 電話じゃなくて会って話そう。
 泣き声が聞こえるのに慰められないのはもどかしい。
 会ってちゃんと話をしよう。


と言うので何かしらの誠意
みたいなものを見せてくれるのかと思えば、

 無理でしょ
 ことあるごとにいちいち別れたいとか言われて

と薄笑いで罵られた。
冷たい目。
電話越しで怒鳴りつけられた時もきっとこんな目をしていたのだろう。
その後の優しい声。
そのギャップ。
ドメスティックバイオレンスに支配されてしまう男の人は
きっとこういう感じなのだろうと思った。

私が三行半を叩き付けたのに
私が振られている。

腑に落ちないけれど
反論したところですでに意味はなく
 わかった
と答えれば
 強過ぎるよね
と言われる。
ケンカを売っているとしか思えない。

別れを延ばしたのは私ではなくあなただ
延ばして保留するだけで特に何もしなかったのもね。
私だって軽々しく口に出しているわけではない
後戻りする余地を作ろうとしなかったのに
努力するのは無駄だとでも思っているのだろうか。


久しぶりに抜けるような晴れた休日。
私は早稲田君と別れた。

夜にはメールで呪が送られて来た。
感謝と謝罪と友好の言葉。
受けた相手に未練を起こさせる呪文。

 『俺はずっと君のこと大事に思っているよ。』

最後まで私のせいだと思っているらしい。
くだらない。
口だけならどうとでも言えるしね。
まぁ実際の口はとてもひどい言葉を浴びせてきていたが
言動と行動が伴わないのには変わりない。

後で悔やめばいい。
一生自分のおかしさに気付かないかも知れないけどね。
かわいそうな人。

敗因は唐突に恋人として始めてしまったところだ。
少しでも友人として親しくする時期があった
ならきっと私は少しずつ距離を置き
壁を立てていただろう。

唯一の救いは、早いうちから本性が見えたので
情と惰性に引きづられずにすんだことだ。
時間を無駄にできるほど私は若くはない。

最後まで違和感は拭えなかったし
最低な人だった。
香り、感触、音、五感に何も残らない
人間関係がひとつ終わった。

2006年07月23日(日)

花火舞い散る

私はまた一つの賭けをしていた。

みんなで花火に行くことになっていて
主催はカナコさん、彼女は早稲田君にももちろん声をかける。
むしろ彼が真っ先で
私は成り行き上で香さんにたまたま誘われた。

メンツを聞かされてそこに早稲田君がいる
ことが分かってから私は早稲田君に幾度となく念を押した。

 浴衣を着るから見てね。ちゃんと来てね。

彼の反応は始めから乗り気ではなく
真っ先に誘われてその場で
 面倒だから
とカナコさんに断りをいれたくらいで
だから私はなおさら来させたかった。

待ち合わせの時点で早稲田君から
どうしようかな〜と浮かないメールがきて
 一緒に花火を見ようよ!
とまた誘ったけれど返ってきた返事は
 遠いし面倒だから今日はやめます
だった。

『私のために来て。』

食い下がって駄々をこねてもそれは変わらなかった。


会場に着いて場所を取りながら
明るいうちからみんなで飲む。
横でカナコさんが早稲田君とメールをしているのを眺めている。
来ないってさ
と残念がる彼女に
そうなんだ〜と生返事をする。
彼女はその後もちょこちょこと彼にメールを送っていて
みんなの浴衣写真送ってだって〜!
などと嬉しそうに言ったりして
いたのでケータイを借りて
彼女と香さんの浴衣姿を撮ってあげ、
彼女はそれを早稲田君に送った。
どうしようもなくみじめな気分をじっと味わっていた。


カナコさんと早稲田君に特別な何かがある
わけではないのは知っている。
でも私がそういうただの同僚である彼女達と同じく
彼にとっては特別でも何でもない存在
だったことを思い知らされた。がっつりと。

花火を見た後
飲みに行こうという周りに、
 浴衣を着てたら疲れたから
と告げて早々に切り上げ、
降り出した雨の中、雨宿りもせずにうちに帰った。
ずぶぬれのまま浴衣を千切るように強引に脱ぎ捨てて電話をする。

私は賭けをしていた。
今日彼が花火に来なかったらきっぱりと別れる。

何でそうなるわけ?
何で勝手に賭けて勝手に別れを決めるわけ?
そんなに別れたいわけ?
二人だったら行ったよ。浴衣だって見たかったし。

カナコさんの浴衣でも眺めてたら?
何?嫉妬してるわけ?
そんなに見て欲しいなら自分で写真撮って送ってくれればいいじゃん。

俺は不満ないのに何かとすぐ別れたいって喚かれて
どうすりゃいいのか分かんないんですけど


私は譲れない二つをあげ
せめて遅刻と歩きタバコはやめて
と言い、返ってきた答えは
遅刻は不可抗力
歩きタバコは自分のモラルではアリ

なんだそうだ。
自分が気に入らないからって勝手な価値観を押しつけるな
だそうだ。

歩きタバコの何がいけないか説明して
人に当たったら火傷するでしょ
じゃあ人がいなかったらいいってことでしょ?
30にもなってそんなことも分かんないの?

全否定だね。
揚げ足ばっかり取って
いいところ見ようとしてないよね
あぁ俺だけに努力しろってわけね
どれだけ偉いんだよ


私も悪いところ直すから言ってよ
だからさ、俺は不満ないんだって。
強いて言うなら
そうやってこまかいことでいちいち俺に干渉しないでくれる?


いいところってどこ?
どう歩み寄れっていうの?
遅れてきても文句を言わず
家でタバコ吸わせたらいいの?


泣きわめく私、
電話越しでも伝わってくる
イライラした空気は言う。

「めんどくせぇヒステリック女」

この関係は何なの?
別れる以外の選択肢って何?
続ける気がないのは私なの?

2006年07月22日(土)

納会

休日を利用して会社の上半期集会があり
前回は派遣だったので参加しなかったやつです。
会社の業績をチームごとに発表し、功労者には奨励金が渡される。


先週の連休、最後の最後に早稲田君から連絡が来た。
じゃあもうちょっとがんばってみようかと、
普段会社で接点がないのでこういう時にこそ
仕事的な接し方にしろ距離を縮めるいい機会
だと思っていたけれど早稲田君はわざと
らしく私を避け、見せつけるようにバカはしゃぎで
カナコさんの膝に座っていた。

最低。

納会が終わったらいくつかのグループに分かれ、
飲みに行ったりカラオケに行ったり。
私は酒豪仲間のヨウコさん達と飲みに行こうと表に出ると
先に出ていた早稲田君とその仲間がいて大声で
ヨウコさ〜ん飲みに行きましょ〜!などと叫んでいて
私はそちらを見ないように
あら、呼んでるよ
と、そちらへどうぞなジェスチャーをして行こうとした
けれど、ヨウコさんは意にも介さない風に
そのまま私と並んで歩き話し続け、
背後からヨウコさんヨウコさんと呼び
ながらついて来る早稲田君を私も黙殺しながら歩き続けた。

本当に不愉快。

飲むとばかみたいに大声で騒ぎ、
相変わらずヨウコさんヨウコさんと絡んでは私たちの会話を阻む。
同じ沿線の人が帰ると言うので
だいぶ早い時間だったけれど私もそれと一緒に帰った。
ヨウコさんが残ったので朝まで飲むのかなと思い帰宅後
早稲田君に明日は花火だから飲み過ぎないようにねとメールをした
ら、私たちが帰ってからほどなくして解散したらしく、
すでに家にいた。

明日は会社のみんなと花火に行く約束をしている。

2006年07月16日(日)

連休2

昼過ぎに起きてきて顔を洗い食卓に座ると
猫が寄ってくる。
泣きはらした顔は
寝過ぎてむくんだだけのようにも見え、
私は普段からぐうたらでよかった
なんて考えながら朝ご飯をかじる。
早稲田君はやはり連絡なぞくれない。
私は日々、キッカケを探し始めるようになっている。

 この3日間、連絡がなかったら今度こそキッチリ別れる。


この猫は飼い始めて1週間ほどの、まだ子猫で、
盆暮れ正月でもないこの時期の帰省の
都合のいいイイワケでもあった。

前に飼った猫は
 家の中ばかりではかわいそうだ
という、ちょっとずれた母親の愛情を受けて外に連れ出され、
車にびっくりして飛び出し
あっ
という間もなく亡くなった。
1年足らずの短い命だった。
住宅街で車も人もそんなに通るようなところではなかった
けれど、それゆえに猫は窓越しにすら車を見たことがなかったのかもしれない。
猫が亡くなってすぐの頃、祖母が倒れ、
母は看病に付きっきりになったのでせめてもの慰めに
 猫はそのために去ったのだ
と母は自分に言い聞かせていたりしたが
祖母もいなくなってしまうと
ふたつの命の喪失感が一気にきて何だか
そのままひとりで暮らさせるのは忍びなく
 「もう一度飼ってみたら?
  今度は外に出さないようにして。」
 「そうねぇ、いい子がいたらね。」
なんて言っていたりして

猫が嫌いな人は住宅街では特に目立つもので
オサレなアメリカ製輸入住宅の景観を損ねてでも
ペットボトルを敷き詰めていたりするし、
ネコエイズも蔓延しているようだし、
事故を抜きにしても猫にとって外は暮らしにくいだろう。

それから母は足しげくペットショップに通っていたらしく、
いつ行ってもいる、
いつまで経っても売れない、
生後4か月を過ぎてとうとう隅に追いやられた、
何だかいじけた顔の猫に相当な情を移し、ついに飼うに至った。

毛足が長くまさに家猫
といった風情の耳の折れた猫は母の後を付いて回る。
ガーフィールドに似ている。

2006年07月15日(土)

連休1

実家に帰るから

と、私は誘いを断わった。
その後ちょっと電話で話し、
「日曜の夜には帰ってくるつもりだけど」
と付け足したけれど、月曜に会おうとは言って来なかった。
「まぁ、ちょこちょこ連絡します」
と言っていたが、それも信じられはしない。

帰った日の夜にちょうど
父の友人の退職祝いな飲み会があり、
年末の忘年会もそうだったので私は辞退したかったのだが
案の定、結婚はまだか の嵐。

両親は何となく気を遣ってくれてるのか
はたまた人間関係に気難しく一度もそれ
らしき人影を感じさせない娘にその手の話題はタブー
だと思っているのか、普段触れないでいるが
一方、他人はおかまいなしでつっこんでくる。
ちょうどゲストの一人娘に孫が生まれたばかりで
ますますもってその話題に集中し。

いやしかしあなた背が高いわよね。
旦那さんになる人はよほど大きくないと。

いえいえ私の彼は私より10cmも背が低いんですよ。

なんて切り返したかったが
そこから掘り下げられてもイイ話はまず出てこないし
こっちもすっかり忘れ去った頃に
 ねぇ、かのカレは近頃どう?
なんて言われるのも虚しい。

お開き
と言って一本締なんかもしちゃっても
名残惜しそうになかなか解散しないので
私は黙って先に一人家路につく。
愛想笑いには限界がある。
むしろそんな余裕がなくなっていた。

不意に溢れるマイナスの感情
主には悔しさ
で、堪え切れずに泣き出せば
窓辺に寝そべった猫が煩わしそうにただ
じぃっとこっちを見ていた。

2006年07月13日(木)

不通の普通

あれから何日か後に
 『しばらく泊まりに行くのはやめるよ』
というメールが一度来たきり連絡はなかった。

泊まりでなければ用はない

というのをあからさまに表現されているようで
悔しくて涙が出る。
これまでだって平日に連絡があるわけでもなく
向こうから来る連絡と言えば週末の
 『今日泊まりに行っていい?』
だけだった。

一度
私の仕事帰りに、彼は夕食を取るために会社を抜けて
ちゃんと決着をつけるべく一緒にゴハンを食べに行き
私は
君とは合わないと思う。
私が許せないこと
と、
君が悪いと思わないこと
が同じじゃあ、私はいつもイライラするし
君はいつも怒られる。

まぁ、付き合うってそういうものだから。
まったくぴったり気が合う人なんてそうそういないし
こうやって違いがあっても歩み寄っていくものでしょう?


なだめすかすように彼は言う。
二人の話をしているのに
一般論でそれっぽいことを言う。
この図はすべては私が悪いかのようであり
それを俺が大きな懐で包み込んでいる
とでも言いたげである。

僕とやっていく気はあるの?
わからない

解決したのかしないのかうやむやのまま
そこからまた連絡はなかった。


こういう時の休日は酷だ。
休みの前になると連絡を待ってしまう。
目の前には連休まで迫ってくる。
自分を落ち着かせるように
実家に帰ることにしていた
矢先。

連休だし会う?

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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