プープーの罠
2006年06月25日(日)

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日曜日
カルティエ展に一人で行く。

人がいっぱい
カップルばっかり。
一人でマイペースで眺める
と同時に一緒に見たかったなぁと思う。

誰と?

彼はこういうものに一切興味がない。
昨日もしああならなかったとしても
一緒に来たらきっと広場でタバコを吸って待ってるか
つまらなそうにただ後ろをついて回り
頭が痛い、か、そろそろ帰ろう、か、よく分からん、と言うのだ。

誰かと何かを感じたかった。
作品を指さしてああだこうだ言いたかった。
その相手に早稲田君は相応しくはない。
それは解っている。
でも友達を誘う気にはならなかった。

ロン・ミュエクを黙ってみつめて
デニス・オッペンハイムを黙って眺めた。

2006年06月24日(土)

カルティエが教えてくれたこと

カルティエ展が見たい

ずっと前から言っていたけれど
休みの度に先延ばしにしてばかりだったので、
土曜日にオシャレして待ち合わせして行こうよ。
ということになっていたが、
金曜の夕方に
 『早く会いたいから一応着替え持ってきたんだけど
  泊まりに行ってもいい?』

とメールがきていつもの通り
早稲田君は金曜日にうちに来る。

 『どうせうちに来るなら仕事終わりにどっかで待ち
  合わせて飲んでから一緒に帰ろうか』

 『俺は仕事遅いから待たせるのも悪いし家でのんびり飲もうよ』

そして23時過ぎの会社帰りに牛丼をかき込み、
自分の分だけのビールとコンドームを忘れずに買ってくる、
彼はそういう人だ。

土曜日、また寝ているだけで一日が終わらないように
早い時間に起こして目が覚めるように朝ごはんをつくり
ふと見るとまた横になっている彼をもう
一度起こして一緒にゴハンを食べさせてから
PCを立ち上げ電車のアクセスを調べる。

乗り換えありでちょっと早いのと
時間がかかるけど1本で行けるのどっちがいい?


と振り返ったら彼はぐっすりと寝ていた。
私はカチンときてイヤミったらしく掃除をはじめ、
ふとん干すから起きて
と起こしたら、そのままソファに移ってまた寝そべる。
掃除機を掛けても手伝おうとするどころか起きることすらしない。

なんだこの休日の親父みたいな生き物は。

私は大きな音を立てながらがちゃがちゃと着替えを済ませ、
まだ寝ている早稲田君をひっぱたくように揺り起こす。

出かけるけど君どうするの?帰る?
付き合うよ、何とか展行くんでしょ。
行くのやめた。買い物してくる。
何だよ、用意して待っててやったのに。

用意して待ってた?
起き抜けの裸にジャージを羽織りそのまま
寝 て い た
のが用意?

服はしわくちゃになり
頭は寝癖でぐちゃぐちゃ
目ヤニで目の回りをカピカピさせて
昨日の晩ご飯のたべかすが歯に挟まっているのが?

顔洗って歯くらい磨いてよ
待ってるうちに寝ちゃったんだから仕方がないだろ。

ほぼスッピンでいるような私が
1時間半も準備をしていたと思うか?


きまずいまんま一緒に出かける。
並んで歩いても間に大きな距離があり
彼はあてつけのように歩きタバコを始める。
何度言ってもやめない。
普段でもイライラするしけた顔をして
ますます覇気のない態度で話しかけられない
くらいの一定距離を開けてついてくる早稲田君は
私の神経をただただ逆撫でるだけで
口を開いたら刺々しい言葉しか出て
来なそうでただ黙って歩き回る。
何だか泣きたくなってくる。

どうして一緒にいるのだろうか。
これは一緒にいるのだろうか。


もう帰るんですけど

振り返って声を掛けたら早稲田君はそばに来て
そんな顔しないで。
とやさしい顔をして手をぎゅうとしてくれる。

君も家に帰れば?
という言葉を私は飲み込んでその手を握り返す。
一緒に晩ゴハンつくろうか。
うん。

にわかに仲直りをしてスーパーで
あれやこれやと食材を買い込んで家に帰り
まずは買ったものを冷蔵庫につめこんで
鍋や食器を用意しさぁゴハンをつくろうか
と、彼を見やればベッドに横たわり口を開けて寝ていた。


会社に時間通りに来ないの同様、
言い訳はたくさん聞いた。

寝付きが悪いし眠りが浅いから不眠症?
ゲームしたままソファで寝るのをやめればいい。
うちに来たら常に寝てるじゃないか。

君が横にいるとリラックスするから
なんて口ではのうのうと言ったりするが
眠る時に私が何か関知している感じはまるでなく
むしろ横にいるとジャマ的、
押し退けるように蹴られたり、
この前はいきなり殴られびっくりして起き
たら彼は鼾をかいて寝ていた。

横になれば3秒で寝る。
シングルベッドで大の字で寝はじめたら
揺り起こしたくらいじゃもう起きないし
鉛のように固く重くずらすこともできず、
私の寝るスペースはないのだ。

腕枕だよ、なんて言っていたこともあったが、
シングルベッドで大の字になる口実に過ぎず、
私はスペースがないのでその腕を首の下に通すようにして
枕に頭をのせるが、急に腕を曲げられ、
羽交い締めのように首を絞められたこともあるので気が抜けない。

俺が病気で辛くて寝ててもお前はそうやって叩き起こすのか
などと筋違いな論点で責め立てられたこともある。

寝ているこの人はどこまでも憎たらしく、
そしてこの人はいつも寝ている。


私はイライラがキャパシティを越え
鍋をシンクに叩き付けて思わず泣き出してしまう。
彼はさすがにギョッとした様子で飛び起きた
が、すぐにまたかというようなうんざりした顔をした。

寝てるのが気に食わないのか
全部一緒に何かしないと気が済まないのか
息苦しい
居心地が悪い

じゃあ帰れば?
帰って欲しいなら帰るよ
帰って
は?普通止めるだろ

止めたら止めたで
「帰らないでって言ったから泊まってあげたのに」
とでも言うのだろう。

せっかく仕事終わりの疲れた体で来てやってるのに

猛烈な逆ギレで悪態をつきながら帰り
の支度を始める彼の様子を眺めて
私はごめんねと言う。

 口ではごめんとか言ってるけど、
 本当は全然反省なんかしてないんだろ。
 合う合わないなんて初めから付き合わなくても判るだろ
 合わないとかは逃げの理由でしかない
 合わせる努力もしないで。


とにかく早く帰ってくれないかと思った。
何を言われようがどうでもよかった。
話して理解し合えるレベルじゃない。
話にならないんだから。
これを合わないという以外何と言う?

週末ごとに図体のでかい生理的欲求に支配された猿を飼っている。
うちに来るのは実家に帰るより近くて楽で
セックスつきのベッドがあるからだろう。
私はきっと一人晩酌のつまみみたいなものなのだ。


玄関で私はもう一度言った。
「ごめんね」
彼はそれを聞いて少し優しい顔をして微笑み
私はそれを見ないようにドアをバタンと閉めガチャリと施錠した。

前の彼女もその前の彼女も
早稲田君とは4年付き合っていたそうだ。
よほど彼女達の器が大きかったのか、
だから彼はケンカしても仲直りして続いて行く
ものだと思っているのだろう。
でも私はいらない。

折り合いをつけて付き合い続ける
そこに何の意味がある?

私はいらない。
私はいらない。
私はいらない。

ごめんね
男見る目なくってさ。

2006年06月15日(木)

拠り所

仕事が定時上がりになり、
時間に余裕ができたのでまたジムに通い始めた。

身体を動かし汗を流した後
80度のサウナでじぃとしている。
意外と適応能力があるのか、意識すると
サウナの中でも鳥肌が立って汗が出ないので
目を瞑って擬似的に睡眠状態にすると
途端に身体中から水分が滴り落ちる。

無意識を意識する
ところが何だか修行っぽい。

水のシャワーを浴びて浴場から出たら
水分をたっぷりと摂って洗面台に行く。

洗面台の前には
スツールがずらりと並べてあり、
座ると高さがファミレスのテーブルのような案配になり、
肘を突いて手を洗う
と、腰を折る必要もなく肘に水が伝うこともない。
実に快適である。

家に帰るとアロマキャンドルを焚く。
マッチで火を付けた時の
燐の匂いが好きだ。
真っ黒なキャンドルも
お気に入りの匂いを部屋中に充満させる。

ストレスを感じる機会はない
はずなのに、眉間にシワが寄りカオの筋肉が引き攣
っているのが自分で分かる。

リラックスしなければ
という強迫観念にも近い思い込みを
自分に言い聞かせている感じがする。

2006年06月12日(月)

1+1=マイナス

前からうすうす感じていたけれど、
そう彼は日曜日の日帰りデートなんて来ない。

休日にうちに来ると終日
こもっていることになるので
私は外で待ち合せるような"デート"にこだわっていて

土曜日にどこかで待ち合わせしようと言えば
どうせ会うならわざわざ待ち合わせなくても
一緒に出かければいいじゃない

と、金曜日に着替えをロッカーに入れて出勤し
仕事終わりの足で泊まりに来るし

土曜日に私に用があるから日曜に会おうと言えば
ちょっとでも一緒にいたいから
と、いつも通り金曜に泊まりに来て朝には家に帰っていく。

けれど、日曜日には眠いからと言って会おうとはしないのだった。


会う度に必ず嫌な雰囲気になる。
その度に私は
合わないと思う
が、
「筋の通った説明ができないならそれは君の身勝手だ」
と彼は言う。
「改善する余地もなくただ合わないと言われたらどうしようもない」
と。

みんなみんな私のせいだ。
歩きタバコをするのは部屋でタバコを吸わせない私のせい。
観たかったビデオを借りられないのは私が劇場公開でもう観てしまったせい
私が観たいものは興味がないし
いつもジャージなのは週末ごとに私のうちに来ていて買い物に行く暇がないせい。
じゃあ一緒に買い物にでかけよう
と言えば
探すのが面倒臭いから見繕ってよ
じゃあこれは?
趣味じゃない。
じゃあこっちは?
もういいよ、めんどうだし早く帰ろう。

でかければ人が多くて頭が痛い
じゃあ休憩がてら食事でもするかと問えば寝起きは食欲ない
じゃあ帰る?
いいよ行きたいところがあるなら付き合うから
じゃあ本屋にでも
あからさまなしけた顔
…もういいよ、帰る
何だよ付き合うって言ってるのにかわいくねえなあ
行ったら行ったでだるそうにタバコを吸って外で待ってる。

家にいたらいたで
寝てるか食べてるかのどっちか
元気なのはムラムラしてきたときだけ。


一人の方がマシだ。

2006年06月04日(日)

よく晴れた休日に

きっかけはとてもつまらないこと、

土曜日は珍しく早稲田君に用事があり、
父上の誕生日なので家族で会食
だそうで、家族全員で祝うのは恒例らしく、
円満な家庭なのだなぁと私は思い、

 じゃあ土曜の夜に連絡するね。

と彼は言って、珍しく金曜の仕事帰り、まっすぐ実家へ帰宅した。

私は土曜日を久しぶりにのんびりと一人で満喫し、
夜になったら連絡を待った。
21時、22時、23時…
連絡は来ないまま。

盛り上がって深酒でもしてるのだろうか。
とりあえず『終わったら連絡ください』とメールを入れる

が、翌日の昼になっても連絡が来ず、
さすがにおかしいと思い
もう一度メールをすれば

 今メールに気付いた。もう遅くなったから今日は会うのやめよう

何、じゃあそのメールがなかったら
連絡してこないつもりだったのか?
すっかり忘れていたとでも言うのか?

ドタキャンとか遅刻とか
すぐカッときてしまい。
 じゃあもういいよ
 もう誘わないから
そうやって売り言葉を発作的にぶつけ
関係が切れた人は少なくない。
恋人でも友達でも。

悲しいかな私の表面的な人付き合いに食らい付いて放さない
なんて人はいないのだ。

とりあえず発作をぶつけるのを堪える。
言ったからと言って気が晴れるわけでもないし
どうせ泣くんだ
夜にでも電話が来るだろう
そしたら恨み言の一つでも吐いてそれでケンカはおしまい

と思っていたが
その日はとうとう電話は鳴らなかった。

お互いに待ってるのか?
次の日もそうだった。

メールのひとつすらなく
何だか些細
が熟成して大きな澱になってしまいそう
反面このまま私から何もしなければフェードアウトするのだろうか
というのを

試したい

ような気もしていて
そうなったらそれはそれでいいような気もしてしまう。

2006年06月02日(金)

ブラウン管越しの

香さんもそうですが、
職場には同い年の女性が8人います。
これは社内の1割にあたる割合。

新入社員が2割、2年生が1割
年齢が揃っているのは珍しいことではないけれど
新卒からそのまま残っているのは
香さんともう一人だけ
で、私も含め、あとはここ最近に中途で入って来た人達だ。

やはりこの年齢ぐらいが転職期のピークなのだろう。

その、新卒以来6年勤めているもう一人、
カナコさんも もちろん同い年
なのですが、
ものすごく 古風
というかまぁ
古臭い
人で今時
足首の見えるフレアロングスカートに
三つ折りの靴下なイデタチ。

老けているわけでもなく、
かといって年より若く見えるわけでもないので
彼女そのものを見たら"年相応"な
のかも知れないが、何だか時代が違うのだ。
昭和の27才がタイムスリップ
でもしてきたような。

そしてますます年齢不祥にする要因は、
彼女はとても小柄なのである。
140cm半ばくらいなので、
170cm前半の私と並ぶと
実に30cm近い身長差がある。
高身長がそう珍しくなくなってきたこの時代においての
彼女のサイズは古めかしさを助長させる
要素のひとつとなっている。

小柄な自分を表すのに
"ぷち"というこれまた古いよな〜な単語を選ぶ
ところもダメ押しで時代が違う。

そんな時の止まった彼女は
早稲田君にほのかな恋心を抱いていて、
それはもう木の陰から じっ
と見守りそうな淡いもので
そのくせ実に分かりやすい。

とはいえ上記のような古風さゆえ
私からしたらブラウン管ごしに眺めているような気分で
彼女の存在を捉えているのだけど、

160cm前半の、男性としては小柄である早稲田君、
私と並べば10cmの差はあり、ヒールでも履けば
15,6cmはざらに身長差ができたりしますが、
そんな彼と並ぶと彼女の小柄はとても釣り合いがとれる。
(それでも早稲田君より15cmは低いのだし)

そうやって並んでいると
お似合いだよなぁ
などと、やはりまるで他人事のようにそれを眺めている。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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