プープーの罠
2006年01月21日(土)

飼い主は数字がお好き

年明けに再び
能力テスト
があり、

今度は派遣社員だけでなく
全制作スタッフ対象です。

100名以上いた社員も
年末の新体制の時点で70名ほどに減り、
まぁ派遣はともかく、正社員はリストラ
だとか新体制に不満だとか
そんなのとは一切関係なしに
ただ減った
まま、新たに増えた人がいなかった
だけですが、

リーダー曰く
これは新人の成長具合と社員の年棒査定の参考にするもの
だから本当は派遣には関係ないテスト

らしいが、どうせなら全員をランク付けして
社員会で発表しようということらしい。
学校で点数順位を張り出すような案配だ。

私は年末の更新の件もあったので、
一応頑張ってみたのだった。

休日に行われた社員会
には、派遣は出る資格がありませんが、
人づてに教えられた
私の結果は
4位
上位には新人さんもばっちり入っていた。
ちょっと意外。
この会社でもちゃんと育つのか。

ポテンシャルもあるにしても
やっぱり配属されるチームによって明暗が分かれる
んだなぁ。としみじみ。

Cチームにいた子は運が悪かったと思う。
2年生の子はこの春、寿退社するらしい。
この業界ではあんまりないことだ。

仕事がつまらないものだ
って思わないでほしいなぁ。

2006年01月10日(火)

道草まっすぐ

休み明け、
新星さんはひどく
バツ
の悪そうな顔で、
いつもの陽気さもなく
しょんぼりとしていて、

仕事中、メールがきて
昼ご飯に誘われ、ついていく。

シラフでまた1から説得されるのか
はたまた
この前のことを謝られたりするのか
と構えたが
一向にそういったことを話し始める気配はなく
新星さんは ぽそり ぽそり と
くだらないコメントをしては笑う。

ぱぁっと笑うのはシラフでも変わらないらしい。
結局ただご飯を食べただけに終わり
唯一
 いろんな仕事させてやるよ
と言われた。

チームが変わってスコールのように忙しくなった。
私がこの会社に求めていたのは初めはそこだけだった。
時給も跳ね上がったなら好条件な派遣先として文句がない。
随分遠回りだった
けれど、これから楽しくなるといい。

2006年01月07日(土)

ニライさん

つづき。

トイレを機に席を移動して
ニライさんの横に座る。

一重まぶたの吊り目が好き
なのはもともとですが
眼球が小さいのか、
近くで話した時に
黒目からはみ出したコンタクト
レンズの薄青い輪郭がぐるりと見えて
以来、何かと顔を見るのが好き。

徹夜明けに変な眼鏡をしていた
のがますますよくて
さらにタバコを吸わないと聞いた。
物静かなところも表情が乏しいところも好きだ。

私は隣で無闇にウキウキと
ただその青く縁取られた黒目を眺めていた
ところに完全にデキアガッタ新星さん
が割って入ってきてプロレス第2回戦開始、
だんだんエスカレートしてきて抱きつかれたり触られたり
すると、冗談で済まなそうなものをニライさんが遮る。

中途半端な明け方、
店の閉店に追い出され、
トイレから出てこない新星さんを外で待ち
ながら、ニライさんの革靴を眺めていた。
大きな足。
バスケでもやってたのかしら。

身長は私と同じ
らしいけれど、姿勢がいいぶん
彼の方が少し見下ろす感じで、
気がつけば私は彼の 顔 仕草 声 すべて
に、のめり込んでいた。
話の中に一瞬
恋人の存在
が見えたが
その時にはもう手遅れだった。

駅に向かう道、
暴れて真っ直ぐ歩かない新星さんを横目に
反対車線へ移り、別のチームの女の子と歩いていたら
支えていた部下をゴジラのように蹴散らして
私の元に走ってきて
手をつなぎおとなしくなった。
意識はしっかりしてるらしい。
計算というより、笑って許
される加減を感覚で掴めるのだろう。

私も手をつなぐのは好きだ。

周囲に散々その姿を携帯で撮られ、冷やかされた。
オオサトさんともそんなことがあったなぁ
なんて既視感の中、

 これでニライさんの心がかき乱されたらいいのに

と私は思った。

2006年01月06日(金)

新星さん

新チームの歓迎会があり
前のチームの3倍近い大所帯、
否応なくかまびすしい空間に浸かる。

年末にあった契約交渉の顛末は
リーダー間に筒抜け
のようでいてそれは『報告』されているのではなく
『ウワサ』だから広まるのが早い
というものであったらしく、
かなり偏った伝わり方をしていて
Fチームのリーダー、新星さんには ただ
 「ヒマだから辞めたがっている」
という情報しかいっていないようだった。
キタムラさんが引き止め役を買って出て
 「是非うちのチームに」
なんて言ってたこと
すらも知らなかったらしい。

また、社員の間では
よくキタムラさんに呼び出されている私を見て
キタムラさんのチームに行くのだろう
という予想はついたらしい
が、それがいやだから辞めたがっていて
結果一番楽しそうなFチームなら
と、落ち着いたと思われている。

新星さんは、彼なりに私を説得しようと
いろいろ聞いてきてはいろいろ話してくれた。

 何がやりたい?
 できる限り希望に添うようにするから。

だから、私にやりたいことは
ない。

私はあいまいに笑って聞き流す。
彼のスタンスでは、私のやり方を許容
してはくれないのは想像にたやすい。


酔って絡みついてくる新星さん、
前々から酒癖の 悪 評 は聞いていた
けれどハガイジメされるとまでは思っていなかった。
新星さんの反対隣りに座っていた女の子は早々に別の席へ逃げていて、
残された私は一人で格闘。プロレスみたいな飲み会。

リーダーの中で一番若い彼は、
末っ子キャラを存分に発揮した奔放さで
いたずらをしてぱぁっと笑うのがかわいい。
歳は八木君と同じご様子。
八木君もまた子供っぽいが
第一次反抗期のキカンボウみたいな八木君と違って
こっちは 親戚の子供 みたいな近しい愛敬がある。

つづく。

2006年01月02日(月)

黒い雪

お正月は実家に帰省、
おばあちゃんの病室に立ち寄る。

回復はしない
と宣言されたおばあちゃんは
人工呼吸器をつけることもなく
いまだ、ただ眠る毎日。

回復はしない
と宣言されておかあさんは
だったらせめてもう少し親孝行させて
と願った。
併発していた肺炎が治り、
吐血が治まり、
目を開けるようになり、
車椅子に乗せて散歩をするようになった
ことを逐一おかあさんは喜び、
奇跡が起きますようにと祈った。

おじいちゃんはそれより1年くらい前に
脳硬塞を起こしている。
低血圧が幸いして大事には至らなかった
けれど、老いて弱っていた足腰はさらによぼ
よぼとしていて、不器用におばあちゃんに歩み寄り
両手で頬を覆い、今日も会えたねとキスをする。

 おばあちゃん、
と、呼び掛けると思いの他
ぱちりと機敏に目を開けた。
話す事はできないし
自分で動く事もできない
けれど、多分聞こえているし見えている。
おばあちゃんはこちらをじっと見ていて
赤ちゃんのようにぐーを形どった手に
そっと自分の手を差し込むと
離れないくらい強く握られた
ような気がした。


桶の、
すれ すれ 目一杯 に張りつめた水 のように
ギリギリのラインで保たれたおかあさんの感情は、
雪で通行止めになって病院に行けなくなった
だけで溢れて子供のように泣き出した
ということを私はおとうさんから聞いていて、
私がおかあさんのそばにいるときは
その水を私が少し掬って減らそうと思った
けれど、そんなに大きくない器は
すぐにいっぱいいっぱいで、
笑顔すらつくれやしない。


倒れた直後に会いに行った後、
自宅に帰る道すがら私は
喪服を買った。
年賀状を出そう
と思っていたのもやめた。

黒い服。
まだ買ったままの状態で吊るしてある。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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