プープーの罠
2005年09月29日(木)

かごやのおさる

そしてその翌日、
私はEチームからCチームへ異動になった。

Cチームは
"2年生"と呼ばれる入社2年目の社員が2人、
新入社員が1人と派遣社員が2人の
こじんまりとしたチームだ。
リーダーも若くてイケメンであり、
全体的にほんわかとしている。

このうちの2年生が一人、9月いっぱいで辞める
とのことで、私がその仕事を全面的に引き継ぐこととなり、
つまり明日までに引き継がなければならない。

 辞めることなんて1ヵ月前には決まってるんだから
 もっと早くやればいいのに

なんて思いながら話を一通り聞き、
 「何か分からないところはあります?」
 「やってみないと何が分からないか分からないですねぇ。」
 「ですよね。もっと早く引き継ぎができれば良かったんですけど。」
 「ですよねぇ。」
 「実は…」
2年生の男の子は声をひそめた。

 須貝さんに引き継ぎぐつもりで
 この1ヵ月、いろいろ教えたのですけど
 あまりに飲み込みが悪くてあまりにも不安なので
 急遽浅田さんを入れてもらったのです。

須貝さんとは30代の派遣の男性だ。
そういえば派遣されてきて早々から、
何やら電話対応をしている人がいるとは思った

けれど、そんな特例的なことをしているので
よっぽどのベテランなのかと思っていた
ら、彼は実力テストで最下位だった
上に、テストの時間制限2時間を大幅に越え6時間もかけた
くせに採点できるレベルまで完成させられなかったらしい。

というかその実力テストっつうのは
社員はみんな結果を知ってるのかい?

先行きちょっぴり不安です。

2005年09月28日(水)

ギャップ

仕事がすこぶるヒマになって早1か月、
そんなタイミングでチームに派遣が二人増え、
ついこの前までとは打って変わって人数過多の風情、
ヒマだとイライラしてくる性分としては
このまんま年末まで働くのだろうか
と、時給アップと引き換えの3ヶ月契約を早くも後悔、
まぁ今月に限って言えば
個人の仕事が2件バッティングして
いたので定時で上がれたのは助かってはいたのですが
とは言え、定時までがヒマなのだ。

イライラを通り越していい加減凹んできた時、
上司から内線で会議室に呼び出され
この前紹介した代理店から受注でもしたのだろか
と、ぷらぷらと向かい、ドアを開けたらそこには
上司の他に部長と別のチームのリーダーとがずらり。
何事かと思いきや
これからの仕事についての打診であった。
採用面接より本格的。

 どんな仕事がやりたいか
 何が好きか

そういう質問が一番困る。

言い方が悪く聞こえるだろうが
私は仕事は何でもいい
どれもおんなじだと思っている
拘りがあるわけでもないし
やりたいことがあるわけでもない

そんなものが明確にあったならこの会社はすぐに辞めているだろうし
そもそも派遣なんてしていない。

私は曖昧に
 特にあんまり考えてないです。
 どの仕事でもそれなりにはできると思います。
覇気のない物言いをしてあとはいつも通りへらっとした。

就職マニュアルによくあるような
誠意とやる気のある受け答えというのを私はしない。
そんなのは口先だけでどうにでもなることで
がんばります!
やってみます!
で結局できないのが嫌だ。
だから最悪を見越した答えと
リスクと不安がある限りは後ろ向きな返事をする。
まぁ今まで見てきた限りこの会社
自体が保守的であり、
胃が痛くなり知恵熱でも出る
ようなアバンギャルドもしくはクリエイティブな
仕事をする可能性はほぼ ない
ので多少やりたがってもだいぶ安全圏なのですが、
なんせあと3ヶ月ですから、
長期プロジェクトに入っても困る
のでよほどのメリットがない限りは余計
なことは言わないようにしている。
保守的というが、そうやって100%の有言実行と信頼を手にしている。

本来、この会社の派遣社員は
社外とのやりとりはしない、
電話にもでないし与えられるメールは社内でしか使えない、
という幽閉された存在なのですが、
クライアントとのやりとりもやってほしいとのことだ。

2005年09月17日(土)

巣立ちのツバメ

心電図を眺めていたら
ウワバミに丸呑みにされたゾウの絵を思い出した。

おばあちゃんが倒れた。

と、父親から連絡があったのは出社前のことだった。

 一命は取り留めたけれどもう手の施しようがない
 手術をしてもうまくいって植物状態
 しなくても同じなら無駄に切って体力を奪わない
 方がいいからしないことにした
 とりあえず知らせておくけど
 今は落ち着いてるから山だ峠だとか
 今日明日死ぬってことはないから

 でも生きてるうちに会ってやれ
と言われた。

しばらく呆然としていたけれど
遅刻しないようにそそくさと会社に向かい、
いきなり早退することになるやも知れないので
一応上司に伝えておく。

 危篤なので、

危篤という言葉を口にして自分で動揺した。
私は随分はれぼったい顔をしていて
上司はそれを見た瞬間、ぎょっとした顔をした。

 今すぐ行かなくていいの?
 大丈夫です

大丈夫なわけはない
危篤だ。

けれど私が泣き腫らしたのは昨日の晩のことであり、
おばあちゃんに関してはリアルな感覚に何も響いてはこなかった。
とりあえず今日の仕事をこなしてから病院へ向かう。

首から下は小康状態
むしろただ眠っているだけに見える。
意識はもう戻らない
頭の中は出血でぱんぱんに膨れ上がっていて
時々胃に溜まった血を吐くらしく、
チューブが鼻に挿さっていたけれど
人口呼吸器を使わずとも
案外たくましいくらい呼吸をしていて
吸って
吐いて
吸って
吐いて

ウワバミが規則正しく列をなしている。

おばあちゃんは生きてる。
もう二度と目は覚まさなくても。

2005年09月16日(金)

K O

八木君との共通の知人から

 『久しぶりに集まりませんか?』
 と、八木君、今相当ヒマみたいで珍しく連絡くれたので
 僕は今忙しいですが、そのうち飲みましょう。


という連絡をもらい、
私は、今 彼がヒマである ということを知ったのであった。
そして私はそのまま彼に ごはんでもどうです? と連絡をし
返ってきた返事はこう。



 『 今 忙 し い か ら 』



そうだった、
ずっと前にも同じ答えをもらったじゃないか。
しばらくそんなこと忘れちゃってたわ。
すっかり無防備に気楽でいたところに
ものすごいカウンターパンチを見事にくらった感じ。
びっくりするほど堪えた。
メールをやりとりしようが、そんなのは
ただそれだけ
のことでしかなかったんだ。

あぁそうか。

またうまくいく
んじゃないかと思っていた

のが私の妄想だったんだ。

2005年09月14日(水)

続・死滅回遊魚

異動通知がある度にその人の入社日を調べる。
異動といってもたいていは退職で
たいていは半年以内だ。
社員だって回転が早いのだから
使い捨ての派遣なんてF1レースのごとしだ。
先週、別チームに配属された派遣は
翌日にもう辞めたらしい。
先々週の人は10日で辞めた。

唐突に派遣の能力テストがあり、
社員でもあるまいし何の意味があるのか、
今の状態で優劣を決めるなら
すぐに辞めるか 辞めないか
だろうに。

そして派遣社員24名中私は1位だった。
私は全体的に欠落している社会人らしさ
を仕事のスピードでカバーしていて、また
それがカバーできるくらいなので
その点においては自信があった。

本当は順位なんて教えずに
上の人が見てふむふむという
だけのものだったのだろう
が、リーダーは誇らしげに教えてくれた。
むしろ私自身より喜んでいる風情。

いつもエラそうに物申す
賃上げまで要求する
ある種厄介な私を
もしかしたらリーダーは私が思ってる
以上にかばい、評価してくれていた
のかも知れない。


もうちょっと昇給ふっかけとけば良かったかしら。

2005年09月02日(金)

暗示と魔法と、

おなじみ魔法の杖、本屋に寄っては
八木君の気持ちを聞いてみたりして、

『答えはイエス』
『心配いらない』
『大丈夫』


とにかく肯定がならぶ
けれど結局、真意を確かめる術はなく、
まぁ半ば自己満足のためのものですから。

そうだ、
それなら私のことを聞いてみたらいい。
私の答えなら私が知ってるからね。

 私は
 八木君が
 好きか
 ?

念じてページをめくると一言

『それは 妄想 に過ぎません』


妄想?

私の気持ちは妄想?

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「プープーの罠」 written by 浅田

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