プープーの罠
2004年10月29日(金)

今日 も 今日 とて

隣の席の猪口さんは相変わらず異臭騒動。

「家に帰れてない記録を更新中だよ」
と皮肉っぽく冗談を言っていた
けれど、周囲的には冗談じゃない
くらい呼吸の自由がありません。


猪口さんのやっているプロジェクトは今
〆切前で 相当 忙しい
らしい。

私も自分の担当の仕事の合間を縫って
仕事は早いのでいくつか同時に抱えていても
クライアントの戻し待ちやデータ待ちの
暇な時間はあるものですから、
少しその手伝いをする
ことになってしまい、できれば
あまり関わりたくなかったのですが、

とりあえず渡されたデータを見て
さて、どう進めようと思っていると
通りかかった他の プロジェクト
メンバーが私に声をかける。

「あれ?それ浅田さんがやるんですか?」
「えぇ、急ぎとのことなので。」
「それ昨日の夜に猪口さんがやるって言ってたんですが、」
「そうなんですか??」
「だから私がそれ以外のところを引き受けて
 終わらせたんですよ、今日朝一で、一旦クライアントに
 投げるからって、徹夜で。」
「そうなんですか…」
「じゃ、あの人は一晩中何してたんだろう。」

まぁ、
きっと 寝てた だけ
だろうね。

そして
何がどういう進行を見せているのか
把握できないまま、ただ
どさっとデータを渡され
逐一 聞かなければ何が何だかわからない
状態でこなさなければいけない
その横で猪口さんは




のだ。

疲れているのはまぁ分からないでもない
寝ていたとは言えずっと会社にいたわけですし
けれど、起こさなければ質問ができない
質問ができなければ進めようがない
ので いちいち起こすが妙な罪悪感、

質問5分→作業30秒→はい次→もう寝てる→また起こす ※繰り返す

自分でやった方が早い
と思いませんか?

営業の人が催促に来て訪ねる、
「猪口さん、まだ終わらないですか?
 クライアントにケツ叩かれてるんですけど」
「あぁ、浅田さんがやってます。あとどれくらいですか?」
「…」

いい加減 手伝うのもイヤになってくる。


キリのいいところまで手伝い、
自分の仕事の打ち合わせに戻って
そのまま別席で作業をしているとそこへ猪口さん。

「すいません、急ぎなんだけど、
 また手が足りないので手伝ってほしい
 んですけど。」
「今、担当の仕事が立て込んでるので無理です。」
「いいよいいよ。」
「すみません」
「それ終わり次第でいいよ。」
「…急ぎじゃないんですか?」
「どうせ手が足りなくて取りかかれないから。」
「分かりました。なるべく急ぎます。」

そして1時間くらいで自分の仕事を
片付け、席に戻ってみれば猪口さんは
やはり




のである。

その、




時間に、できるだろ?


仕事のキリがよくとも何故か彼は帰らず
席に突っ伏して寝ている か ゲームをしている。
臭い上にイビキをかく。
この上なく はた迷惑。
帰ればいいのに帰らないのはもはや
意地になっている だけ であろう。
隣でその働き方を見ている限り、
ただ仕事の要領が凄まじく悪い
ようにしか見えない。

連泊記録を更新してみんなに労いの言葉をもらう。
「もう契約更新しない」とえらそうに言っている。
『僕がいなくなったら困るだろう』
とでも言わんばかりに。

 そんなの人手が足りないから なだけで
 君じゃなくても代わりはたくさんいる

むしろ空気が正常になるから
是非ともそうして欲しいものだ
と、責任のない私なんかは思う
のですがかつて、私が正社員を辞める
ときも、他の人からしたらこんな
感じだったのかと思うと ちょと悲しい。

2004年10月26日(火)

リラックスゥ

またトイレのドアが壊れている。

私は喫煙をしない。
仕事の合間に一服という離席する
ような休憩時間をコンスタントにとらない
ので、ずっと席に座っていて
仕事の合間にニューストピックを見る、
仕事をしながらチョコレートをかじる
その程度、
とても勤勉に見える。

森君はいつだったか
 人と話すためにタバコを吸い出した
と言っていた。
なるほど確かに 会社の喫煙所は コミュニティゾーン
なのかも知れない。

私にも社交性があったなら今頃は 喫煙者 だった
のだろうか、それとも喫煙習慣があったならもっと
社交的 だったのか。

席を離れてみるも特に行くところもない
から、そういう時はトイレに行き
便座に腰掛けてぼんやりしてみる。

私の休憩は孤独になるところに存在している。


トイレから戻る時に女の子達が会議
室でお菓子をつまみながら談笑
しているのが見えた。

あぁ同期の同僚というものはこんな感じ
なんだなぁと ふ と思う。

これが学生であったならば、私はきっと
授業の合間の休み時間には時間つぶしに仕方なく
次の授業の予習をしてみたり本を読んでみたり
して謀らずして優等生になっている
ところかも知れない。
今の私はそれとさして変わらないシチュエーション
ではあるけれど、それを憂鬱に思った
りはしない。

学生時代の集団行動は 協調性
というよりもただ単に 群れる ことを強迫
観念で押しつけ、それは社交的な子も
そうでない子も教師も父兄もみんな、
群れるべき だと思っているからだ。
そういう意味でやはり、
社会人とは自由なものである。


会社の行き帰り、お昼休み、
私は本を読んでいる。

酒井順子
『アナタとわたしは違う人』
鋭い切れ味、辛口、皮肉めいた文体をウリにしている
というのは一目瞭然、
女性を色々な切り口から二分してその人物像を
事細かにプロファイリングしている。

どちらかと言えば優性種、
いわゆるメジャーな女性像、
つまり自分が 属 し て い な い 方
の思考をここまでハッキリ断言する
というのは、さしあたって身の回りにいる特定の人
のことなのだろうか、もしくは
そういう人に よほどイヤ〜な目にでも遭わされた
のだろうか
てなかんじ、悪口
というか、ひがみ
というか、何というかまるで

負 け 犬 の 遠 吠 え

のようだと思いきやこの人がまさに
「負け犬の遠吠え」を世に広めた張本人らしい。
あらら確信犯なのか?
そのうちそれも読んでみたいと思います。

2004年10月23日(土)

昼下がりキネマ

『変な映画を見に行くぞ』担当の森君と
感染予言を観に行く。新宿コマ。
地震でもあったら倒壊しそうだね
と古さを例えてみたら本当にゆらゆらと揺れた
壁の薄い劇場内からちょうど
悲鳴も漏れてきて
いっそ演出なのかと思うタイミング
だったそれはあとから知れば新潟中越地震だった。

感染、ホラーというより悪趣味、グロ、スプラッタ
病院も廃院寸前というよりすでに廃墟
患者の扱い方もものすごく杜撰で
とても病院という設定には見えないし、
伏線らしきものをたくさん張りながら
それはどうにもならないまま、
唐突な話運びをする。
私は自分で招いた厄をキッカケに展開
させる話は好きではない。
自業自得としか思えないから。
しかしいくらなんでも 緑はなし だ。

予言は『世にも奇妙な物語』
の一編をロングバージョンにした感じ、
感染でイラッときてた分、必要以上にまともに見える。
どちらにしろ、どっちもホラーではなかった。
大丈夫なのかJホラー。

怖かったら食欲なくなるから、と
先にご飯を済ませていたのですが
3時間半 見終わる頃にはお腹も空いていて
うちの近くのアジアンカフェで飲む。

 今年、会社初のボーナス出たんすよ、バイトにまで。
 保険料も払ってくれるし、ますます社員のメリットなし。
 一応退職ラッシュも落ち着いて、みんな平和にやってます。
 あぁそうだオオサトさんは今
 新婚旅行 でパリ・ロンドン。

森君はペラペラと喋りながら並んだご飯を平らげていく。
大きなテレビにはインディジョーンズが流れていて
森君にほらこれがディズニーシーで乗ったやつだよと教える。
森君は何度教えてもハリソン・フォードとメル・ギブソンを混同する。
かくいう私はアンディ・ラウとトニー・レオンがわからない。
パンダを飼っているのはどっちだ。

2004年10月21日(木)

a la carte de sign.

まだまだ忙しい。

今回の仕事は年配のデザイナーが企画に立っている。
この会社のWeb部門の総責任者だ。
通常、プランナーは企画を作る時に、
PowerPointで構成要素と文字原稿の
おおまかなレイアウトを組んだデータをくれる
のでそれを見てデザインしていくのですが、
この人はさすがデザイナーといいますか、
PhotoShopで作る。
そしてほぼデザインが完成しているようなデータ
ここまでやったなら一人で最後までやりゃいいじゃねぇか的、
私がデザイン担当として介入するほどではない
感じにまで詰めた状態でくれる。

そこまでやってくれた
ら、後はやりやすいでしょう?

ところが問題なのは、その
データはPhotoShop3.0で作られた
というところであり、3.0というのは
コマンドz(やりなおし)が1回しか効かない、
テキストは打ったそばからアウトライン化
されてしまうという、7.0を使っている私
からしたらとても恐ろしいバージョンである。
そんな3.0で作られたデータは当然
文字はラスタライズ済み、レイヤーも努めて統合されている。
文字原稿に1字でも訂正が入ったら
まるまる打ち直しなのである。
フォントを少し変えた方が良い、
サイズを大きくした方が良い
と思っても、妥協したくなるほどに
それは面倒であり、これがPowerPointならば
テキストのコピペができるし、打ち間違いのミスもない。
つまり、やたらキレイな指示書、という以外の何物でもなく、
使えないデータの作成に時間をかけられるくらいなら
紙にラフで十分なのだ。

私はクライアントではないのだから、
完成イメージをわざわざ精細に具体化
されなくとも想像できるしそれが
私の仕事なのである。

一方で、そんなやり直しの利かない環境で
ここまで作れるのは大したものだと感心し、
けれど、時代について来ないならば、
デザイナーとしてはもう終っている
とも思う。

2004年10月16日(土)

オヤシラズ

親不知を抜いた。
おおきくていびつで歯ブラシが届かない
ナナメに生えているやつよりもっと邪魔に思っていた右上。

ペンチでガタガタと揺らすとメシメシと音がする。
親不知自体は麻酔が効いているので痛くはない
が、その手前にある虫歯の治療跡に圧力がかかって痛い。
すぐ抜けると言っていた割に悪戦苦闘
10分くらいガタガタガタガタ揺らし続けて
私から分離したそれはすさまじく大きかった。

私は歯が小さく、審美歯科では
「前歯全部抜いて大きいのに入れ替えたら?」
とまで言われたくらいなのですが、
その親不知は衛生士もびっくりするサイズで、
顎の方を向いていた歯茎はマングローブのよう。
とてもグロテスクな形をしている。

記念にもらってきた歯を一日中眺める。
おかんに報告してみたよ。

2004年10月15日(金)

禊ぎ

仕事が一段落しまして
定時に上がり
ゆっくりとご飯を食べてから
いつもより丹念に身体を洗う。
お気に入りのマニキュアを丁寧に塗って
時計を確認し、一呼吸、
これでリセット。
泣くのはもうやめましょう。
今日でおしまいにしましょう。

時間が経ったらきっと
上手に思い出になるでしょう。

2004年10月13日(水)

Smell Of Hate

だんだん仕事が詰まってきた。

隣の席の人が嫌いだ。
臭うのである。
ワキガ、汗臭い、服が生乾きの臭いがする
そんなある種 不可抗力
仕方がない
ようなものではない。
あらゆるものが発酵し
すえて乾いている臭いがする。

まるで浮浪者。

風呂に入ってないのである。
1日、2日のレベルではない。
夏ほど汗をかくわけでもない冬もまた
とても臭かった。
初めてそれに気がついた時、
前回働いていた頃ですが
システムで分からない
ところがあり質問をした
後ろから私のモニタを覗き込んだ
瞬間に突き刺さるように飛んできた
目を白黒させるくらいの異臭
に本当にびっくりした。

バイオテロかと思った。

席替えで背中合わせになってしまった
時はちょっと嫌だった。
それから1ヶ月もせずに契約が終了
することになっていたので
それくらいはガマンしよう
と思ったものだったが
今回は隣の席になってしまった。

確かに連日泊まり込みで仕事をし、
うちに帰っていないのは十分
分かってはいる
けれど、会社から徒歩数分
のところに仮眠ホテルがある
のだから一休みがてら、シャワーを浴びる
ことだってできるのだし、第一
たまに自宅に帰って出社してきた翌日
だってやはり臭うのだ。
仕方がないわけじゃない
明らかに本人の怠惰が原因である。

ただでさえ 男臭 というか
ホルモン過多な風情、
鉈で粗削りしたような角張ったカオ、
目の周り以外は髭で覆われ
うなじはそのまま背中につながり
手の甲から二の腕のつけ根までイノシシ
のような剛毛がつむじを巻き起こし
ながら生えている。
頭髪は短く刈っているのに
くるくると天然パーマが渦を巻き、
ライスシャワーでも浴びたように白い
粉が惜しみなくデコレーションされ
そして地肌が少し見える。
これはホルモンの影響というよりも
毛穴が詰まって出てこられないカンジだ。

少しでも動く度に空気が濁り、
隣のブースの人は、彼が通る度に涼しい顔のまま
空気清浄スプレーを噴射する。
ま隣でそんなあからさまなことをするわけにはいかない
私はアレルゲンのわからない鼻炎になってしまった。

2004年10月08日(金)

Perfume Of Love

今月から新しい人が3名増えまして
今日は歓迎会です。
隣に座った新人さん
とはいえ前の会社で5年働いていたキャリアのある男の人、
少し動く度に控えめなオブリークの香りが
ふわり と香る。
ハニちゃんとおんなじ匂い。

少し 少し
私は席の間隔をあけていき
歓迎と社交にあふれた場から距離を置いて
静かに湯葉とアボカドのサラダをつつく。

私には関係のない世界だ。

会議で遅れて来た会社一のオトコ前が
「つめてつめて」と私を元の場所に押しやり隣に座る。
ホストのような雰囲気
ナルシストというわけではなく、
フェロモン過多と言いますか、
淡白なパーツがメリハリなく配置された"日本人"のつくり
をことごとく逸脱しているこの人は、
スーツを着るとラテン系のセクシーさ
体毛が濃くて無精髭、胸毛まで生えてるし
大ざっぱでがさつなところも"ワイルド"
なんて好意的な形容で済まされ、
ひゃっひゃと笑うところは無邪気、
本名までカタカナだし
スペインまでは届かずともメキシコ
でも充分通用しそうなくらいの丸ごと天然オトコ前だ。

「初めまして、僕プランナーです。」
「あぁ、はじめまして。デザイナーです。」

オトコ前プランナーは私を飛び越して新人さんに話しかけ、
私は背筋をのばして視線を遮らぬように気を払い、
それをテニスの審判のように
右、左、右、左、聞いている。
前やっていた仕事、得意な仕事、
できることを順に聞いている雰囲気は
まるで仕事である。

オトコ前があまりにも身を乗り出すので
私がモノを食べようとすると
オトコ前にアーンしている案配になり
ただ じっ としているしかない
のに耐えかねて
「席変わりましょうか。」
と言うと、オトコ前はひゃっひゃと笑い
「合コンじゃないんだから。」
と話を打ち切ってしまった。
結局邪魔をした。

それから二人で少し話をし、
今、私のやっている3つの仕事のうちの2つが、
彼の企画であり、接する機会は多いのですが
雑談的なことをしたことはなく
何で派遣なのか、とか
うちの会社についてどう思う?とか
これからどうするか、とかとか。
まるで仕事である。

拳を丸ごと食べそうな勢いで
つまようじを使いながらこっちをじっと見て話す。
深い二重のつり目がきつくてどぎまぎしてしまう。
それを恋愛感情と見紛う女の子もきっと多いと思う。

彼もまたワーカホリックであり
まぁそれは親しくもない相手にいきなり
プライベートをぺらぺら喋り出す
ようなデリカシーのないタイプじゃない限り
無難に仕事の話しかしないものだ
ということを差し引いても
彼は間違いなくワーカホリックであり、
意外にも同い年だったのでありました。
こういう人なら私が恋愛対象になることはないだろう
と思う反面、友人にすらなれないだろうなとも思う。

そして、私が思っていた以上に
正社員のみなさまは派遣社員を
区別している ということを感じる。

どしゃ降りに紛れて帰る。

派遣会社からメール
『派遣契約3ヶ月延長を希望されてますが、』

悩む理由もないが
もったいぶって返事をまだしていない。
そんなことくらいでしか
自分の価値を測ることができない。

2004年10月02日(土)

雨が降ったり降らなかったりする。

朝一で歯医者に行き
部屋を掃除して
ペットボトルを回収に出し
ビデオを借りて
帰り道、道すがら店を覗き込み、
ウインドウショッピングというよりは探し物
手に取り、丹念に眺め回して、
結局欲しいものなんてないのですけれども
用事もないのでヒマ潰しです。
そうやってぷらぷらとおうちに帰ります。
私の 日常 らしき日常はすっかり元に戻り
何も問題なく機能しております。

目的もなくついているテレビ
ドラマ、映画、バラエティ。
ふとしたシーンでフラッシュバック
するのはいつもハニちゃんの顔。

壊したのは私です。
それはいつものことです。

会いたくて会えないのが寂しいのなら
もう会わないことにした方がマシ

というのが間違っていたことを
まざまざと思い知らされた。
これは痛手です。
どうしようもなく
どうしたらいいものか
ギブアップ
とでも叫んで床を3回叩いたら
あなたの負けね、とか言って
ハニちゃんは笑顔で会いに来てくれるのかしら。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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