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カウントダウン(笛/郭英士)。
2004年12月27日(月)
今年もあと指折りです。
吸った息を吐くとそれは予想通りに白く濁って顔の前を覆った。 今年も残りあと数日になった。毎年この時期になると一年というのはあっという間だという述壊を繰り返している気がする。知らず、英士は肺からの息を深々と吐いた。
「英士、ためいき一つつくと幸せも一つ逃げるんだからね」
隣で買い物袋を両手で抱えた従妹が、どこかで聞いたことを言った。咎めているというよりは面白がっている口調に、英士は投げ遣りな気持ちになった。
「どうでもいいよ」 「いいわけないでしょー」 「というか、そんな迷信言うなんて随分ババくさくなったものだね」 「うわこんな麗しい乙女を前にして何てこと言うの」 「乙女?」
皮肉げな口調を作ったつもりが、思った以上のそれらしさを伴ったことに英士自身が気付いた。額の上で自分の黒髪が風になびくのが見える。
「ひとに荷物持たせたまま電機屋で迷子になった乙女、ね」
歳末バーゲンになんて、どうして付き合おうなんて思ったのか、数時間前の自分に英士は若干の不可解さを覚える。 人ごみの多さは予測の範疇であり、従妹の気まぐれさもまあわかっているた。しかし、はぐれて時間を消費するのは予測していなかった。
「…まだ根に持ってる?」
ちらりと横目で窺ってきた、頭一つ小さな同じ学年の従妹に英士はわざとふいとそっぽを向いた。
「持ってる」 「まあまあそんな怒らない。美人さんが台無しよ、英士」 「…それもいい加減聞き飽きたんだけど」
だいたいもうじき十八にもなろうかという男に、美人も何もあったものではない。小さい頃はよく人形顔だ何だと言われてきたが、この歳になってくると暗黙的に女顔だと言われているようで面白くない。 ふと空を見上げると、曇り空に淡い光をのぞかせる太陽が見える。寒々しい冬の景色の中、そこだけがやわらかな金色だ。
「…だってしょうがないじゃない、携帯通じないし、英士見つかんないし」 「…それで?」
それだけじゃないでしょ。 長年の付き合いで、英士はこの従妹の性格をとうに熟知している。そういうときに彼女が常識や合理性よりも優先する感情があることを失念していた自分も悪いといえば悪いが、それにしても。
「一度やってみたいじゃない! 迷子案内で呼び出し!」
髪を揺らして拳を握った従妹に、英士は思いきり口の端をひきつらせた。
「………へぇ」
その場合、呼び出された側の恥ずかしさやら情けなさというものは放り投げていいものなのだろうか。いやよくないはずだ。しかし身内という間柄では、多少の遠慮は無視される傾向があることもわかっている。 だいたい店側も店側だと思う。歳末のこの繁忙期によくぞ小学生以上の年齢の呼び出しなど引き受けてくれたものだ。
「一度やったから、もう次はやらないから。ね?」 「…次やったら、縁を切ってもいいかな」
1階から5階までの全館放送でフルネーム連呼はそれなりに傷ついた。もしこれが同性の友人だったら、落ち合った途端殴るところだ。従妹相手でも、顔を見たらまず説教してやると指定された場所に駆けつけたのだ。 それが、顔を見た途端やけにほっとした笑顔を向けられて、その瞬間怒気が一気に萎んだ。 不覚だと思う。あのぐらいで、惚れた弱みを思い知らされるのは。
「…とか言っても、次やっても絶対英士走ってきてくれるよね?」
顔を覗き込むように、少女の白い面がやわらかに微笑む。 その自信がどこから来るのか英士は聞いてみたかったが、これまでの自分の行動が証拠だと言われたら何も反論出来ない。
「…いい性格してるね」
変わりに、顔をしかめてそんな憎まれ口を叩くと彼女はおかしそうに笑った。
「お互い様でーす」 「はいはい」
いいから真っ直ぐ歩いて。 もう十年前から変わらないことを口にする。十年間で互いの身長差は随分開き、歩く歩幅も変わっていったはずだというのに相変わらず自分たちの歩くペースは一緒だ。
「今年もあと四日?」 「四日と九時間ぐらいでしょ」 「ジジむさく重箱の隅つっつかないのー」 「…悪かったね」
おそらくこの調子で、年越しまで彼女の機嫌の良さは続きそうだと英士は思った。クリスマスよりも年明けまでの日付を数える間が好きだという、英士にはよくわからない感性の持ち主だ。英士の時間が空く限り何かと付き合わされるに違いない。 ただしそれを嫌だと思う心を、一度も思ったことはないけれど。
今年も残すところあと数日。 来年もまた、よろしくお願いします。
************************ …種ばっか書いてるから笛の小ネタの書き方忘れてました。
いや嘘ですから!!
まずいわりと洒落にならん(さすがに片方に偏りすぎていた自覚はあった)。 笛と種は書くものの方向性が相当違うので、切り替えが難しいです、とかいっちょまえに言ってみたいのですが結局お前何書いたって同じやん、みたいな(わけわからん方言使わないで下さい神奈川出身)。
二年ぐらいずっとこの二人=シリアス、という意識続行中なので、たまにやたらただ一緒にいるだけのほのぼのが書きたくなります。そんな英士と従妹。 私が書くでしょ喋りの首席(男性限定)(次席はキラ)。
あ、あとお正月の年賀メール企画なのですが。 …どうしよか(自分で決めろ)。 ジャンルがこうだし、というのもあってやるなら笛三本、種二本、の2ジャンル同時でやりたいんですが、……時間の問題が。 笛→渋沢、郭、三上のいつもの三本立て。 種→双子かアスカガ。 余裕見て、1月1日開始で出来るならやります、年明け早々に。 でも笛は未来ネタに逃げそうで、種は双子ラブ方針が露骨に出そうな予感がするので、どうかな(どうにも企画向きじゃない)。三上がいきなりヒロインすっとばして三上と娘ドリームとかになりそうな気がしますよ。 でなければ松葉寮で元旦から餅つきネタとか。降りて来いネタ神。
ってか最近会う人によく言われる同人系疑問ナンバー1。 「なんで今になって種?」 …ああうん、なんでだろうねー。私にも不思議だよ。放映時ちょこちょこ見てたし、前にもビデオで数回見てたのにね、なんでかね。同人ハマりするには何度もチャンスはあったはずなのに。 一つ言えるのは、論文の逃避に用いているうちに愛情にスライドした、って可能性があることかな!(文章書きながらテレビ見る落ち着きのない人) カタカタ論文二本ぐらい書いてる間ずっと、ふと顔上げたらキラがいる生活を繰り返していたのです、一月ぐらい(一番迷惑だったのは多分うちの妹)。 …刷り込みかなぁ。 なんでなんでと違う人ごとに繰り返されるもので、自分でもよくわからなくなってきました。 いいじゃん、もう、理屈で考えたってその答えは現状が示しているよ(思考放棄)。 でもデス種を見たいと思ったのは森田成一がいたからです。 つまり、人生って不思議だね、って話(そんな極端な例で人生語らないで下さい)。
とかやってたら、12月頭に出した論文のダメ出しの直しのダメ出しが来ました。ま、まだあるのか…!
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