小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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海と空のジオラマ(デス種/シンステ)。
2005年02月27日(日)

 きらきらと光る。








 鮮やかな青い海の上で小波が走る。遠く海鳥の鳴く声が聞こえ、明るい太陽の光が海面すれすれで弾けて散る。
 その海の波も光の反射も、一時たりとも同じ顔をしていない。いつまでも見飽きることなく、ステラは黄金色の髪を潮風になびかせて海を見ていた。
 いつもは一人で、この埠頭から海を見ている。そして頃合を見計らって迎えの者が来るまでここにいるのだが、今日はいささか勝手が違った。
「あのさ…いつまでいるの?」
 怪訝そうな声音と共に、ステラは相手の影の中に入る。封じられた光を求めるように、ステラは彼を見上げた。
「なに?」
「何じゃなくて。ずっとここにいて、飽きない?」
 呆れ果てた顔は今日これで三度目だ。通りかかる都度近づいてくるその顔は逆行でよく見えないがまだ幼い。黒い髪に紅の虹彩。きつい顔つきをしているが、年齢の若さがそれを緩めた印象にさせている。
 海の向こうから吹いてくる風に、少年の赤い上着の裾がはためく。赤を基調に襟や袖口に黒を配したその特徴的なデザインは、どこかで見かけたことのあるような服だったが、ステラには思い出せなかった。
「何とか言ったら」
 ステラがただ彼を見つめるだけで、何も言わないことに彼は苛立たしげに言った。短気な性分は、ステラが行動を共にしている一人と似ている。彼女は相手から海へと視線を戻した。
 澄んだ清水のような、透明でほそい声で彼女は答える。
「好きだから、いいの」
 飽きたりしない。ずっと見ていられることが嬉しい。あの宇宙では、こんな明るい光も広がる水のさざなみも存在しないから。
 黒髪の少年はステラの隣に立ったまま、つられるように海を見た。
「好き?」
 尋ねるのではなく、疑問を感じて繰り返すだけの声。けれどステラは自分の感情を否定されたとは思わなかった。
「うん。だいすき」
 知らずステラの声に、嬉しげなものが混じる。スカートの膝を抱え、そこに顎を乗せて少女は微笑む。
「きれいだから」
 この世界を見せてくれたひとが、綺麗な場所だと語って聞かせてくれた地球の海。白い手袋をはめた手でステラの髪を撫で、世界の美しさを教えてくれた。
 ネオも一緒ならもっとずっとよかったのに、と、それだけが今のステラの不満だった。
「…いくら綺麗でも、暑くないのかよ」
 少年の言葉は疑問の響きばかりだったが、ステラは頓着しなかった。ううん、と首を振る。大丈夫と付け足すと、彼は海を見たままぽつりと言った。
「でも、女の子って日焼けするの嫌とか言わない?」
「…わかんない」
「…そう。…色々なのかな」
 彼の言葉の後半は半ば独り言のようだった。
「俺の妹は海あんまり好きじゃなかった。日焼けするからって……ガキのくせに」
 耳に入ったその声がもたらす情報の意味がわからず、ステラは膝から顎を上げ、座ったまま隣を見上げる。
 不意に目が合った黒い髪と赤い服の彼は、己の言葉が失言だったとでも言うように右手で口許を覆っていた。その眉間に悔いるような皺と、痛みをこらえるような目の色があった。
「…ごめん。何でもない」
「………」
 よくわからないひと。ステラはそう思った。
 そして、何かの傷を抱えているひと。そう、感じた。
「海、嫌いなの?」
「別にそんなんじゃないけど…。昔はずっと海の近くに住んでたし」
「海の?」
 ステラが淡紅色の目を瞬かせて彼を見ると、彼はその表情に戸惑うように声が早口になる。
「もう前のことだよ。今は違うし」
「…いいなぁ」
 うらやましい、とステラは素直に思う。毎日この景色を見ていられたらどんなに幸せか。憧れの気持ちが浮かんだ。
 けれど彼のほうも、そんなステラに不思議そうな目を向けた。
「このへんの子じゃないの?」
「ちがう、よ」
「ふーん。…でも海の近くだと、生活は不便だよ。洗濯物とかすぐ潮っぽくなるし、金属は錆びやすくなるし、植物も枯れやすいし。だいたい海って穏やかなときばっかじゃないしさ」
「…………」
 よくわからない。あまり海を見たことすらなかったステラには、短所を思い出すようにあげつらう彼をただ見つめるしか出来なかった。
 そんなステラを見て、相手の言葉もすぐに止まった。
「ごめん、俺なんかさっきから…わけわかんないことばっか言って」
 いっつもこんなんばっか。
 目線を落とし、苦そうに言う彼から、ステラはなぜか視線が外せなかった。もっと近くにいたならきっと手を伸ばしていた。その理由はよくわからないけれど。
「…邪魔してごめん。俺、もう行くから」
「あ…」
 黒い髪を散らせ、赤い裾を風に流す彼は大きな歩幅で埠頭から陸へと戻って行く。
 それを呼び止めようとしてしまった自分にステラは少し驚いた。どこかで見た人に似ていると、離れて見てはじめて思った。
 その赤い背が見えなくなってから、ステラは青い海に瞳を戻す。
 遠く広がる海の端は、同じように青い空と繋がっている。水平線の向こうには白い雲。広く美しい世界。
 あの人の髪は、水の海より宇宙の海のほうが似ている。
 母と謳われる存在を前に、光色の髪をした少女はそう思った。








************************
 よくわかった未だ会わせる気ないのねいいよじゃあ自分で捏造してまぎらわすから!! …な勢いのシンステ。
 まだかなまだかなまだかなー。

 デス種19話も見ました。
 すごかったですねー。一部既存キャライメージ大崩壊の人とかいましたねー。…そんな感想。

★ピンク二号様の慰安コンサート。
★あんな陳腐な振り付けでアイドル名乗るんだー。わぁ(生温いきもち)。
★そんなに驚くことか、ザラ。
★そりゃ驚く気持ちはわかるけど。
★いっそ大爆笑してみたらどうかなザラ。
★いつかそのぐらい余裕のある子にな…れないか。
★ホーク姉妹いろいろ頑張ってます。
★ぶつかったぐらいで「いやーん」とか言う軍人、ザラの好みじゃないと思うよ。
★清々しいぐらい、女の子路線のホーク姉妹。
★新鮮だ(種に普通の女はいないのかと思ってた)。
★ミリアリアお久し(ディアッカ意識)。
★関係ないけど、ザラは堅物らしく第一印象そのまま引きずるタイプだと思う。
★だからむしろあいつ落としたいなら狙うは意外性だよ、そこの姉妹!
★普段男っぽいカガリがふとした瞬間に見せる女の子らしい気遣いとか多分あいつ大好きだから!
★つまり君たちが狙うのは、普段は可愛さアピールいざってときはしっかり者or頼りがいのある女路線だ!
★…それでも姫様を超えるのは至難の技だと思いますが。
★ミーアのイベント会場から去ろうとするアスランに「見なくていいんですか」と言ってみるシン。
★狼狽そのまんま出てるアスラン。
★おいおいおい前回あれだけ兄貴面してたのは誰。
★ノリノリのラクス様に、ちょっとついていきかねる様子のシン。
★なんだか議長もおいでになっちゃったよ。
★色々囲まれている議長と、離れたところにいるタリアさんが目配せ。
★大人の関係なのか純愛なのか気になるところ。
★現地の人間の振りしてそんな浮かれ放題のザフトを偵察している連合3兄弟。
★長男はドライバーで次男は後部座席でふんぞり返って、末っ子はきらきらした目で海辺ドライブを楽しんでます。
★「ファントムペインに負けは許されないんだ。」
★案の定、この人たち色々切羽詰った事情持ちらしい。
★っていうと、ネオはどうなんだろう?
★とりあえず。わーい森田ー!!(一番喜ぶところ)
★タリアさんとレイ、議長に会いに。
★微笑みかける議長に頬染めるレイ・ザ・バレル。
★「ギル…!!」 恋する乙女もびっくり潤み目レイ・ザ・バレル。
★おいでと両腕差し伸べる議長の首に腕投げ出して抱きつくレイ・ザ・バレル。
★そこ二人の世界じゃなくてタリア艦長もいるんですけどレイ・ザ・バレル。
ここまで既存のキャラ観覆されたことあっただろうか。
★そのときの心境を示すなら、「口ぽかん」。
この問題はしばらく保留にします。
★うっかりレイが女とかだったら涙ちょちょ切れます。
★ハイネ・西川登場。あの長ったらしく言いにくいファミリーネーム覚えてません。
★芸達者揃いのデス種の中で西川さんは頑張ってると思います。
★久々ご対面の議長と握手して労われるアスラン。
★名乗るルナマリア。
★政治家に褒められて頬染めるシン。
★「あれはザラ隊長の指揮に従っただけで…」
その前に散々ゴネたことを心の広いザラ隊長は告げ口したりしませんでした。
★会食がてらということで、久々の議長トーク全開。
★しかしこの人、政治家の割には遠回しな物言い。アレですか、遠くから攻めてなかなか要点を言わず相手を煙に巻くスタイルですか。
★政治家っていうか、まるで舞台台詞…。
★自分の思ったこと、感じたことを口にするシン。
★この子の考えって、一本槍じゃないんですね。そのときそのときで『守られる側』が一貫してない。でも自分では同じだと思ってる。自分の意識は自分の立場によっても変わるもの、変える必要があるということも、気付いてない。オーブ国民だったシンと、ザフト軍のシンじゃ、捉え方が違うってことをわかってない。
★同じなのは、シンはただ、あのとき家族を『守ってもらいたかった』ことだけ。
★自分たちは力がないんだから、国はそれを守るべきだという意識があったんじゃないでしょうか。
★もうオーブの意思だとかアスハの家だとか関係なしに、巻き込まれた自分たちに非はないんだと言い張り続けている、だけ?
★それでなんでわざわざザフトに入ったのか。
★もうあんな人たちを作らないと決意して、オーブ軍に入ってオーブの人たちを守る決意でもよかったような気もする。
★……色々わからん。
★戦争がなければ儲けが出ない、死の商人ネタを持ち出した議長。
★全部ロゴスが噛んでいると言う議長に、たぶん視聴者は「いやアンタもなんかあるでしょ」と感じてる人多数。
★会食終了。え、西川あれだけ?
★どうやらミネルバではなく、会食会場となったところで投宿することになったアスシンルナ。
★自分が艦に戻るからシンルナに「そうさせて頂け」と言う兄貴面アスラン。
★でも自分がミネルバに行くと言うレイ。「シンは功労者ですし、ルナマリアは女性です」。…ごめん、その女性ですの意味がわからんです。
★ミーア駆けつける。…ところであの関西弁調の人は誰ですか?
★「アスラーン!」 お約束で駆け寄ったミーア。
★突き飛ばされるルナマリーは二度目だ(一度めはカガリ)。
★二人でゆっくり食事でも、と言われやたら狼狽するアスランに涙。
もうちょっとしっかりせんか…!!
★その前に議長に連れ出されるアスラン・ザラ。
★アークエンジェルの居所をアスランから聞き出したかったらしい議長。
★でもこの人、親友と恋人の問題に全部蚊帳の外だったから…!!
★「むしろ私のほうこそ議長にお聞きしたいと…」 可哀相な人です。
★もしアークエンジェルから連絡が来たら教え合う約束なんかしてるザラとデュランダル。
★…たぶん後者は教えてなんかくれないぞ!
★手のひらで転がってるザラに心から哀愁。
★もうデス種はシン・アスカの成長とアスラン・ザラの幸せ探し物語でいいと思う。
そして今週もシンステはありませんでしたとさ!

 …小ネタと感想両方書くと長いですね。






ロングレイン6(笛/真田一馬)。
2005年02月26日(土)

 梅雨だって晴れる日はある。








 ここんとこ続いた雨を一気に乾かそうとしている太陽が俺の頭の真上にあった。
 湿気に満ちた芝と土の匂い。雨上がりの総合公園には、平日の昼間ということもあってか小さい子 が多い。迂闊にボールを蹴ろうもんならぶつけそうだ。
 晴れてはいても蒸し暑さのせいで汗が溢れんばかりに出る。十代じゃあるまいし、さすがにシャツ が塩吹く有様は勘弁願いたいところだ。そう思いながら、タオルを取るのが面倒で俺は濃い色のTシ ャツの肩で首の汗を拭った。

「ああ、いたいた!!」

 ぶんぶん手を振って走ってくるのがいたと思ったら、地元ライターの国分だった。
 相変わらず色気のない活動的な格好に、日差しを考慮してるらしい夏用の帽子。走っても揺れない あたりからして、あいつの選びそうな帽子だ。

「やっぱこのへんで走ってると思った」
「お前、今度は何」
「え、取材。さっきまで監督にお話聞いてた」
「ふーん」

 基本的に一般公開もしているクラブ練習はたまに取材が入るときもある。今日は誰も来てないと思 ってたら、終わった後にじっくり話を聞く狙いだったらしい。
 練習場として借りているグラウンドはこの公園の中にある。だけどこっちの多目的広場とは離れて るし、どうせ走るだけの自主錬に場所なんて最初から関係ない。
 立ち話をする時間が妙に勿体ない気がして、屈伸を始めた俺に国分は首を傾げた。

「あれ? 帰んないの?」
「もーちょい。今日やっと晴れたからな」
「なんか気持ち悪いぐらい汗だくなんですけど」
「暑いからだろ」
「ちなみに水分補給は?」
「暇なら買って来てくれ」
「…ちょっと真田くーん? 柏の黒い彗星? あんたプロでしょ。調整って言葉知らないの?」
「黙ってろ」

 英士を真似たように素っ気無く言ったつもりだったけど、国分はハハンとわざとらしく鼻で笑って 肩をすくめてきやがった。

「あのさ、仕事相手としてじゃなくて、同じ歳として言わせてよ。大事な時期なんだから多少球団が どーのこーの口出しすんの当然だと思うけどー?」
「……………」
「ちょっとプライベート注意されたぐらいでいじけてんじゃないってのバーカ」
「…お前さぁ」

 何でそうやたら詳しいわけ?
 そう言ってやりたかったけど、蛇の道は蛇って言葉が返ってきそうで腰に手を当てている同じ歳の 女に俺は何も言えなかった。屈伸を途中で止めたら、前髪がばさっと落ちて視界を阻害する。
 俺だって知ってる。この世界、実力があっても上へ行けない例のほうがずっと多いこと。
 少し、忘れかけてただけで。

「…お前、どこまで知ってる?」

 両膝に手を当てて、腰をかがめたまま聞いたら横に伸びている国分の影が少し動いた。

「さわりぐらい? なんか家に女子高生のファンが押し掛けたとか、たまたまそこに出くわした子と トラブルになりかけたとか、そのせいで真田くんが社長から呼び出し受けたとか。…別に真田くんは 運が悪かったなって思ったぐらい」
「……………」
「余所に出すネタにはしないけど」
「…知ってる」

 それだけ知ってれば十分だ。下手に親しくないチームメイトよりもよっぽど詳しくて正確だ。
 足を真っ直ぐ伸ばして立つと、意外な国分の小ささを目の当たりに出来た。ああ、そういやあいつ とあんまり変わらないぐらいだろうか。
 試合の翌日の朝からの球団本社への呼び出し。球団としても、抱えている選手が警察沙汰になりか けたことは無視出来ないんだろう。けれど別段俺の私生活を追求されたわけではなく、J入りしたと きの入団式の注意事項が細かくなった程度の話をされただけだ。
 だけど、それを知ったらたぶん同居人のあいつはまた俺に謝るんだと思う。うつむきがちで、頼り なげな顔をして、ごめんなさいと謝る顔がよみがえる。
 顔を曇らせた俺に気付いたのか、国分はフォローのつもりらしい微苦笑を浮かべた。

「皆さ、真田くんには大成して欲しいし、期待かけてるし、いよいよこれからって年代で変なことに 巻き込まれたり変な人間関係で悩んで潰れたりしないで欲しい、ってこと」
「…あのな、別に俺はちょっと身辺に注意しろって言われたぐらいで」
「でも事実なのはわかってるじゃない」

 ぴしりと指を突きつけられて、正直げんなりする。いいかげん他人にあれこれ言われるのも疲れる 。
 球団社長から直接呼び出されるなんて、褒められるか叱られるかの二択みたいなもんだ。今回はそ のうちの後者に近かったってだけで、別段俺は大して気にしていない。
 気にしてるのは、むしろ周囲だ。
 息を吐いたら、吸うときに雨上がりの匂いが口の中に広がった。

「…少し、気をつけたほうがいいかもしれない」

 低くなった国分の声に、俺は引っかかるものを感じた。
 狭い眉間に小さな皺を刻んだ国分の顔は、からかいや同情じみたものは一切なかった。自分の見聞 した事実に考察する人間の顔。唇に左手の人差し指の関節を当てた女の顔。

「何だよ」
「最近、このへんの学校じゃない子がよく柏の練習見てる」
「は?」
「市内の制服じゃないの。騒ぎになった原因って、女子高生なんでしょ?」
「…そう聞いてる」

 俺は例の事件の詳細を知らない。自分の家であったことだというのにそんな態度だから、上の人間 も気にするってことはわかってる。
 だけど相変わらず、俺はあいつに何も聞けない。

「おかしいでしょ? 平日の午前中とか午後に、制服だよ? たまたま学校が早く終わったとか言っ ても、サッカー練習観に来るのに制服着たままで来る?」
「浅川関係じゃねえの?」
「違う。浅川さんの学校の制服はあれじゃない。言ったっしょ、この近辺の学校であの制服はないの 」

 最近ユースからトップに上がってきた高校生Jリーガーの後輩の学校関係者なら、制服だっておか しくない。そう思って言ったけど、あっさり否定された。よく調べてるもんだよマジで。

「じゃ何だよ」
「だから、真田くんの件と何か関係あるかもしれないって言ってるんだってば!」
「それ、こじつけだろ」

 何でもかんでも面白い方向に結びつけるなよ。
 俺はそう思ったけど、国分はきっと俺を睨み上げて、首を振った。

「だけど妙な符丁だと思わない? 時期的にも重なるし。Jリーガーにつきまとう女子高生」
「だから、別に俺って決まったわけじゃねっての」
「気になるなぁ」
「聞けよ。ってかそんなんマジ俺は嫌だ」

 これ以上の騒ぎとか問題は金貰っても欲しくない。俺自身はそんなに気にしなくても、俺の生活と あいつの生活をこれ以上脅かすような存在は本気で願い下げだ。
 落ち着いて話をする空間を設けたい一心の俺に、これ以上何があるというのか。

「バカだね真田くん」
「あぁ?」

 いきなり真顔で何言いやがるかこの女。

「そうやって危機管理甘いから、トラブルになるんだよ」

 ……この女、痛いとこ思いっきり抉って突き差しやがった。
 そういえば英士にも昔からよく言われた。後始末を考えるのが嫌だからって楽観的に逃げるなって 。人間、成人しても碌に成長しない部分はあるのかもしれない。
 俺の悪い癖、起こり得るかもしれない苦手な事態から目を逸らすこと。

「今の立場しっかり守るのに、用心するにこしたことないでしょ? ストーカー被害に遭って仕事辞 めることになった人って意外に少なくないんだからね」

 妙に年長者ぶって言う国分も、社長と同じようなことを言う。以前英士にも似たようなことを言わ れた。
 ずっとプロを目指してやってきた。それが叶うまでには、色々なものを犠牲にしてきたことは否め ない。サッカー一本だったせいで小学校から中学にかけての友人と呼べる存在はあまりいないし、高 校に入ってからも同じだ。親にも金銭面やそれ以上のことでずっと負担を掛けてきたと思う。
 その途中で、ユース時代に入っていた球団の親会社が経営で大コケをした。事業縮小は抱える球団 のトップチームにも影響を与えて、年棒の主力選手は放出されユースからトップに上がる人数も激減 した。
 小さい頃から知っていたチームでのプレーが望み薄となった俺に声を掛けてくれたのが、今のチー ムのスカウティング担当者だ。
 いま俺がここにいられるのは、色んな人に会って、その人たちの中で支えたり助けてくれた人がい たからだ。
 だから俺は今の日々を捨てられない。俺がやりたくて選んだ人生で、そのために捨てたものへの痛 みも、仕方ないことだと思ってる。思うしかない。だって俺はもう選んでるんだ。

「…わかってるよ」

 梅雨の晴れ間の蒸し暑さ。脳天を焦がす太陽は迫り来る真夏を予感させるのに充分だった。
 光を集める黒い自分の髪に手を当てると、思った以上に熱が溜まっていた。







 何日か前に持って帰ってきたヒヤシンスは、困ったことにどうやら花を咲かせないかもしれないこ とが発覚した。
 何でもよく調べたら、ヒヤシンスは一定時間寒さに当てないと咲かない花だったらしい。

「本当はもっと早くに育てるものですから」

 職場から借りてきた植物の本と日当たりの良い窓辺に置かれた硝子瓶を見比べながら、俺の同居人 は「どうしましょう」と窺う視線を向けてきた。午後遅い日差しにその髪が薄く透けている。
 帰ってすぐ風呂場直行の俺は、水浴び直後のカラスみたいになっている髪をタオルで拭いていた。

「つまり、時期が悪いってことか?」
「はい。ヒヤシンスは耐寒性の植物で、球根が一度冬を体験しないと花をつけてくれないらしいです 」

 どうやら、ヒヤシンスというのは本来春に咲く花だったらしい。いっそあと一年寝かせておけばよ かったのを、俺が貰ったときにはすでに水に浸かっていた。今ではちょこっとだけ芽が出ている。
 一応茎とか葉は出るみたいだけど、このまま育てても単なる葉っぱだけらしい。
 折角育てるんだから、せめて花や実は見たいというのが人情ってもんだろう。俺も多少がっかりし たけど、あいつも複雑そうな顔をして硝子瓶の上の球根を見ていた。
 今日は雨が降ってないせいか、あいつの顔色もいい。

「…まあ、いいだろ。この際花が咲かなくても」
「じゃあ、このままにします?」
「ああ。花が咲くのがいいなら、今度買ってきてやるよ」

 別に俺は草花に大して興味ないけど、がっかりさせたのは悪いと思った。俺があの硝子瓶を渡して から、あいつが毎朝様子を見ているのを知ってたから。
 ところが向こうは、俺の発言に驚いた顔をしたあと苦笑気味になった。

「そのへんは、真田さんにお任せします」

 喜ぶわけでもなく、困るわけでもない、曖昧な返事。
 本を閉じて、部屋に戻しに行く後姿。最初に会ったときよりも少しだけ髪が伸びた。あの頃よりも すれ違っていくことが、よくわかった。
 数ヶ月一緒にいて、結局俺はなぜあいつが家出をすることになったのか、まだ知らない。
 一つ言えるのは変わらず、俺にあったサッカーのための人生、捨てたくない過去の積み重ねのよう なものを、あいつは何も持っていないということだ。その差を俺は大して考えていなかったけど、も しかして、向こうはずっと感じていたかもしれない。もしかしたら俺の驕りかもしれなくても。
 そしてその差が、今はとても遠くに感じる存在を作り上げた。交わろうとしない生き方の差。馴染 もうとしないあいつと、肝心なところに踏み込もうとしない俺の数ヶ月。

 あの日々が終わって、ロスタイムに入ったことを、晴れた日に思った。








************************
 思い返すと、真田ってヒロインの背景を何にも知らない設定なんだな…と。そこにあるものしか知らない。知りたいけど踏み込んだらうっかり巻き込まれそうで目を逸らしている主人公(の片方)。
 一応これまでのシリーズはこちら。でもロングレイン4までは正規ページに追加修正してアップしてあります。

 最近小ネタに別ジャンルが混じっているので、これまでのように『タイトル(キャラ名)(補足)』ではなく、『タイトル(ジャンル/キャラ名)』といったような日記タイトルになっています。

 そういや今日雪降りました! 神奈川では珍しかったです。妹とふたりで騒いでいて、夜になって雪どうなったかなー、と窓に顔寄せたら思い切り鼻ぶつけました、ガラスに。
 …昔エイミーの真似して鼻にせんたくバサミつけたときも痛かったな、という思い出がよみがえりました(あんまり成長してないんじゃないかね…)。






もしもの話をしたとして(種/アスカガ)。
2005年02月25日(金)

 たとえば、もし。







「…ここじゃない場所で会えてたら、どうだったんだろう」
「ここじゃない?」
 聞き返した彼に、金の髪の彼女は遠くを見るようなまなざしで笑った。
「ああ。…ヘリオポリスみたいな平和がずっと続いてて、あそこにいたキラたちみたいに」
 平和であることが『普通』な世界で。
 ただそこで笑って、ときどき忙しいけどほとんどが穏やかで。
「ほら、学校とかで会ってさ」
「…クラスが同じだったり?」
 くすりと小さく笑った彼の緑の目がやさしかった。
「うん。…同じクラスになって、クラブとか入ってて…」
「……………」
 弟からわずかに聞いただけの、彼の学校生活を彼女は懸命に思い出す。
 学校帰りに友達と買い食いをしたり、目的はないけれどもたくさんの店を覗き見したり、分かれ道で立ち止まったままずっと話をしたり。
 少なくとも、明日の命を思って泣かない日々で。
「……そういうところで、会いたかった」
 彼女の伸ばした手が、彼の服を掴んだ。離れていくのを拒むように。
「会わなきゃよかったなんて絶対思わないけど、もっと、もっと…」
 もっと違う、素敵な出会いをしたかった。
 出会うそばから命の取り合いをしたり、銃とナイフの向け合いではなく。
「…………」
 元より器用になれない彼は、何も言えなかった。
 彼女の痛みは手に取るようにわかった。出会いを素直に喜べないきもち。平穏な舞台で、幸せな出会いが出来なかった自分たち。だから結局こうして離れる道しかなくて。
 そっと彼は服を掴む彼女の手を取った。ちいさく、あたたかな手。この手のぬくもりこそが命だ。
「…それでも俺は、幸せだと思う」
 言葉が正しいかどうかわからない。けれどせめて、自分の心にもっとも近しい言葉で彼女に伝えたかった。
 ゆるゆると顔を上げた彼女の金褐色の目に、浮かび上がる水の膜。
 引き寄せて抱きしめて目を閉じた。ほんの少しでもこの思いが伝わってくれればいいと願った。
「君に会えて、幸せだと思ってる」
 かたちは悲しいものだったけれど、後悔はない。この手に守るものの重みを教えてくれたひと。
「ありがとう。…君に会えてよかった」
 二度目の言葉。一度めのあの日は、こんな風に二人の未来を思う猶予はなくて。
 嗚咽を漏らしながら抱きしめ返してきた彼女が、今のすべてだと思った。








************************
 何か小ネタの材料はないかと探した挙句、リサイクル。デス種始まってしばらくとかそういう時期だと思う。少なくとも8話はまだやってなかった。
 名前がさらりと出てないので、書いたときの意識がわりと想像出来ます。漠然としたイメージだけでつらつら書いたんでしょう。そして微妙。

 …ほんとは今日はロングレインの6話めを書き終えるつもりだったんですけど。明日です。小ネタで予告ってあんまりしたくないような気もするんですが。






光る空とあなたの声(種/ヴィア・カリダ姉妹)
2005年02月18日(金)

 長い時間の果てに、あのひとの声を聞いた。








 頬を撫ぜる風が不意に強くなり、カリダの藍色の髪を攫った。
 光差す午後の人工庭園。何もかも人為的に操作されているこの空間では、髪を乱す風すらもどこかで誰かが操っている。宇宙で生活するようになってからしばらくはそのことを事あるごと思い出していたが、近年はもう何とも思わなくなった。
 短い下生えを踏むとささやかな音が足元で鳴る。手にしたままだったつばの広い帽子を両手で持ち直すと、再度吹いた風がワンピースの裾を揺らした。
 遠くで子どもたちが騒ぐ声がする。この近くには学校があると地図には記載されていた。おそらく時間帯からして学校帰りの子どもたちなのだろうと、カリダは次第に鈍くなっていく脚の運びを思いながら考えた。
 梢がざわめく音、緩やかに流れる風、降り注ぐ光。緑と白と空色、そして金色。この場所の印象は、カリダが小さい頃過ごした家の前庭とよく似ていた。
 ―――…ああ、だからなのね。
 目印に、と前もって教えられていた東屋が見えた頃、カリダはぼんやりと思った。
 だからあのひとは、この場所を選んだのだ。
 東屋には人影があった。皺のない藤色のツーピースの後姿。何て変わっていないのだろうと、カリダは薄く笑んだ。
 何もかも変わっていない、自分とあのひとの差は。
 カリダの膝下でちらちらと揺れる桜色のシフォンの裾。真っ直ぐに伸ばされた東屋に見える藤色の背。考え方の違い、趣向の違いは、いつまでもこんなに顕著だ。
 それでも、カリダが彼女に呼びかけることにためらいはなかった。
 懐かしいひと。この世界でたった一人の。
―――…姉さん」
 ヴィア―――弾かれたように振り返ったカリダの姉の手には、白い帽子があった。




「…来てもらえないかと思った」
 茶の髪を揺らし、伏し目がちに微笑んだ姉にカリダは静かに首を振った。白い石造りの東屋の段に一歩足を乗せると、かちりと白いサンダルが鳴った。
「そんなわけないでしょう? 現にちゃんと来たわ」
「ええ…そうね。ありがとう」
 座って、と白く細い手でヴィアはカリダに石の椅子をすすめた。
 しかしカリダが一瞬困惑したのをすぐ見取ったのか、ヴィアはそばに置いていた小さな鞄の中から大判のハンカチを取り出した。
「気になるならこれ使って。立ってするような話じゃないから」
「…ありがとう」
「まったく、あなたらしいわね。服ばかり気にして」
「…姉さんが無頓着なところがあるだけよ」
 受け取った濃い色のハンカチを椅子に広げ、カリダは慎重にそこに腰を下ろす。淡い色の服は気を遣わずにはいられないが、こういう色が好きなのだから仕方ない。
 そんな妹を姉は苦笑で済ませ、自分はそのまま東屋のベンチに腰掛けた。
 鳥が鳴き、子どもの声がする。緑の葉が光を帯びて鮮やかな色彩が降り注ぐ。
「…一人なの?」
 少しの間無言が続き、やっとカリダが言えたのはそんな言葉だった。
 ええ、とヴィアがうなずく。
「…いいの?」
 もう一度、窺うように尋ねてくる妹にヴィアは淡く笑んだ。
「やっぱり、連れてきたほうがよかったわね。二人とも」
「…………」
「気になるでしょう?」
「姉さん」
 咎めるような声をカリダが上げた。試すような物言いはやめて欲しいと言外に告げている。それに気付き、ヴィアは膝の上で両手を握った。
「…嘘よ。ごめんなさい、あの子たちの前じゃ私が話せそうになかったの」
「じゃあ、本気なの? 子どもたちを手放すって」
「…………」
「どうして? まだ生まれたばかりなんでしょう?」
 事前に聞かされていた姉の考えを確認するように、カリダは早口になった。
 遺伝子研究の博士として有名な姉の夫を、カリダはよく知らない。姉夫婦は結婚すると同時に宇宙コロニーの一つに研究拠点を移し、連絡も途絶えがちだった。姉が双子を出産したことすら、先週届いたメールで初めて知ったぐらいだ。
 姉が伴侶との間に何かあったのではないか。そんなカリダの懸念は、ヴィアの急に硬くなった表情に打ち消された。
「具体的なことは言えない。あなたにも危害が及ぶかもしれない」
「え…?」
 どういうことなのか。カリダが聞き返すよりも先に、ヴィアは決意を秘めた紫の双眸を妹に向けた。
「私が頼みたいのは、あの子たちのことよ、カリダ」
「姉さん?」
「あの子たちは、私たちと一緒にいてはいけないの」
「姉さん、だからよく意味が…」
「お願い、あなたしかいないのよ!」
 悲痛ささえ感じる姉の面差しに、カリダは困惑の色を隠せなかった。こんな姉の表情は初めてだった。
 ともすれば縋りついてさえきそうな姉の姿に、カリダは身動ぎする。けれど姉の吸い込まれそうな紫の瞳から目が離せない。小さい頃ずっと羨んだ姉の目の色。
「姉さん…」
 本当はここに来るまでにすら葛藤があったことを、このひとは知っているだろうか。
 カリダは呆然としながら姉を見ていた。
 小さい頃からずっと姉と比べられてきた。聡明で優しく、理知的で強い姉。両親はあからさまにヴィアとカリダを比較するようなことはしなかったが、それでも長じるにつれ才媛の誉れ高くなっていく姉と、大して目立つところのない妹の差は明らかだった。
 カリダは姉を嫌いだと思ったことも、憎いと思ったことはない。けれど姉の輝きに追いつかない自分が悔しくて、悲しい思いもした過去は忘れられない。
「お願い…!!」
 これほどまで、姉に頼られたことはあっただろうか。
 自分と全く似ていない茶の髪と紫の目を持つヴィアを前にして、カリダはただ過ぎ去っていった思い出を反芻する。
 ずっとこのひとの影にいるような思いが消えなかった。そんな人からの懇願は、カリダに小さな充実感と罪悪感を呼び起こした。自分より優れていると思っていた人を見下ろすような感覚。それは、妹としてあまりに醜い。
 カリダにとって姉はたった一人であるように、ヴィアにとっても妹は世界でたった一人しかいないのに。
「事情を…聞かないほうがいいの…?」
 ようやくカリダが言い出すと、ヴィアは明言はせずに視線を逸らした。
 ごくりを息を呑み、カリダはそっと切り出す。
「子どもたちと一緒にいられなくても…それでいいの?」
 唇を噛んだヴィアの横顔に明るい茶の髪が流れる。何かに耐えるような顔つきは、やがてはっきりとした意志となって彼女の唇から落ちた。
「構わない」
 凄絶な覚悟を予感させるその口調。踏み込むのを憚られる母親の決意は、カリダには未だ理解出来ないものだった。
 やさしく吹く風は、二人の生まれ故郷のものとよく似ている。小さい頃はずっと一緒だった姉妹。先に進む姉をいつもカリダは追いかけた。今もそうだ。姉は、妹より先に母の顔をする。
「構わないわ、カリダ」
 たとえそばにはいられなくても、この手に抱くことが叶わなくとも。
 それでも、と姉は妹が愛した一番優しい笑顔を見せた。涙のしずくに似た、透明な微笑み。
「それでも私は、あの子たちを愛しているわ」
 それが、光が散る場所で彼女が伝えた真実だった。







 時が過ぎ、ヴィアの子どもたちはあっという間にカリダの背を越えた。その間に、カリダもなぜヴィアが頑なに事情を話すことを拒んだかを知った。
 テロの標的として姉が死んだとき、カリダは引き取った双子の男の子のほうに大きな秘密があったことを知り、それを隠して生きる道を選んだ。実母のような最期を迎えさせたくないその一心だった。
 瞬く間の十数年が終わり、カリダが育てたヴィアの双子の兄のほうはやがて出生の真実を自分で見出してしまった。戦乱に巻き込まれた数ヶ月を経た、キラという名の息子に再会したとき、カリダは姉を思い出した。
 微笑むとき、意志を告げるとき、紫の目は誰よりも彼の母に似ていた。
 光を抱いて生きるよう願って生まれたあの子は、多くの傷を負い、それでも再び立ち上がることを決意した。キラ自身からそれを聞いたとき、カリダはもう止めようとは思わなかった。
 あのひとの子どもだと、ただそう思った。
 もう一人の双子を助けたいと言ったキラの瞳にあるのは、あの日カリダに向けられたヴィアの瞳だった。同じ決意、同じ血を分けたものを心から慈しむ思い。
「…ごめんね、母さん」
 キラが戦いに赴くことに胸を痛めていたカリダを、キラは知っていた。だからそうして謝って、けれど自分の意思は変えない。やさしくて強い子になってくれた。そのことをカリダは誇りに思う。
 この子を与えてくれた姉に、世界で一番感謝していた。
「キラ」
 これから旅立つという戦艦を背に立つ息子に、カリダは微笑んだ。
 姉の代わりではない。愛する姉の遺志と共に、この子を育てたのだと、そう信じていた。
 そしてもう一人の子を、息子が守ろうとしてくれることが嬉しかった。
 あの子の、あの子たちの道がこの先たとえどうなろうとも。
「…私たちは、あの子を愛してる。…そうでしょう?」
 轟きの声を上げて空を翔ける舟を見送りながら、カリダはささやいた。この世界のどこかであの子たちを見守っているはずのひとに。

「姉さん」

 世界で最初に、あの子たちを愛したひと。
 強い風が、あの日のようにカリダの藍色の髪を乱した。








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 趣味まっしぐら絶好調。
 ヴィア母さんとカリダママの姉妹。ザ捏造。…すいません。
 かなり気になるのは、この姉妹本来のファミリーネームは何ですか? ヒビキもヤマトも嫁ぎ先の苗字っぽいんですが。調べたら出てくるかしらー(ガンダム系は資料がまとめられてなくてかなり取りこぼしがある気が一杯)。
 ホーク姉妹もそうですが、ハリポタのリリー母さんとペチュニア叔母さんとか、わりと姉妹系の組み合わせが好きです。

 そういやキラの色彩って確かまんまヴィア母さん譲りだったなー…というあたりから派生した小ネタでした。
 あとあの姉妹間違いなくナチュラルにしては美人姉妹だったろうなー…という。
 時間がないあまり最後のほうかなり切羽詰って書いております。今もありません。寝ないと。

 種のアスカガとかはうっかり日記で書くとあの50のお題の後のほうでネタがなくなりそうな予感がするので、迂闊に書けません(それもどうか)。
 こないだからぽちぽち書いては何か違うと唸っているのは、オーブのトダカさんとカガリ(小)の小ネタ。カガリが小さい頃の護衛隊長でキサカさんの上司がトダカさんとかだったらいいなー! というやっぱり趣味全開。誰か書いてくれないだろうか…。
 …いいかげん捏造もほどほどにしとけよ、と思います(わりと真面目に)。






Place that not is here(笛/種)(渋沢と三上).
2005年02月16日(水)

 コズミック・イラ71年7月1日。








 淡い紅の色をした優美な鳥がドッグという籠に繋がれていた。
 すらりと長い首を持つ鳥の印象に似たその宇宙戦艦はまだ就航式を済ませておらず、数日後に控えたお披露目の円舞を待つ乙女のような初々しささえある。
 白い服を着た渋沢克朗は特殊硝子越しにそれを見ながら、口許に誇らしげな笑みを浮かべた。しかしその笑みはどこか皮肉なものを含んでいるようにも見える。
「…ザフト最新鋭艦、”エターナル”…か」
 永久を意味するその名を、誰がつけたものか。求めるべき永遠が何であるのかも知らず、ただ自分たちの未来が恒久のものであると信じているのだろうか。
 茶の髪を一振りした渋沢に、別の声が掛かった。
「ZGMF−X1〇A”フリーダム”と、X〇9A”ジャスティス”の専用艦だ」
 すでに周知の事実をまるでためいきのように言った旧友に、渋沢克朗は軽く視線をそちらに向ける。黒い髪に白い士官服の三上亮が苦渋を噛み締めるように眉根を寄せていた。
「ったく、あの二機の為に造ったってのに、両方とも消えてるとはな」
「消えたわけじゃないさ」
「こっちになけりゃ同じことだ」
 吐き捨てるような三上の口調には、苦味以上の屈辱が滲んでいた。
 この戦争の早期解決の為に、という名目で作られたNジャマーキャンセラー搭載モビルスーツ。禁じられた核を再び呼び戻してまで何故自分たちがこれを作ったのか、奪った者たちは本当に理解しているのだろうか。三上の声にはそんな憤りも含まれていた。
 ジャスティス。フリーダム。…この手に、真の正義と解放を。そう願い続けたコーディネイターたち。ナチュラルから生まれ出でたはずが、その祖から妬まれ宇宙へ追われた自分たち。
「…知ってるか? フリーダムのパイロットは、地球軍籍のコーディネイターだとさ」
 皮肉というにはあまりにもやるせない事実を口にした三上に、渋沢は苦笑した。
「よく調べたな。左遷されても腐ってなかったのか」
「うっせーよ。広報課なんか飛ばされても情報なんて調べ方次第でいくらでも入ってくる」
「…余計なことを知ると、やりにくくなるぞ」
 上官の物品横領とその横流しの証拠を探り過ぎたが故に前線から後方勤務へと左遷になった友人に、渋沢は再度の忠告のつもりで言った。
 ところが三上は鼻でせせら笑った。
「そりゃたとえば、お前があれに乗ることか?」
 三上が示した先には、護り手がいないまま就航を待つばかりの”エターナル”があった。
 渋沢はすぐには返事をしなかった。ただ、その琥珀の瞳で三上を見据え、かすかに笑った。
「何のことだ、と言ってみるのがお約束ってやつか?」
「蛇の道は蛇だとでも言ってろ」
 焦ることなく軍服の懐から拳銃を抜き取る三上を渋沢は黙って見逃した。銃口を向けられても渋沢の端然とした笑みは崩れない。
 ザフト最新鋭艦”エターナル”の奪取。現政権であるザラ派と対立する、いわゆる穏健派であるクライン派によってそれが計画されているのを三上が知ったのはほんの数時間前だ。その協力者に渋沢克朗の名が連ねられているときは、一瞬だけ納得もしてしまった自分を三上は認めたくなかった。その思いのままに、彼は親友に銃を向けた。
 渋沢は、そう残念がる様子もなく苦笑した。
「まあ、機密とはいえ多少の漏れは生じるものだな」
「…お前がクライン派と通じているのは前々から知ってた」
 渋沢の言葉に構わず、友に銃を突きつけた三上は固い声音で言う。
「アスラン・ザラがジャスティスを持たずに戻ってきた。それが合図だったのか」
「違うな。ザラ議長の息子のことは計画になかった。本来の就航に合わせて行く予定だったが、まあ番狂わせは戦場の常だ」
「ふざけんな! 黙って行かせると思ってるのか!」
「なら、俺を撃って議長に突き出すか? 憲兵の真似事をして裏切り者を突き出し、その報酬を得るか? そうすれば左遷の日々も終わるだろうな。お前も再びエースパイロットの地位に戻れる」
「渋沢!!」
 揶揄するような渋沢の様子に、三上が激昂して怒鳴る。渋沢は自分も言い過ぎたと苦笑し、肩の力をわずかに抜いた。
「これでも軍医の資格があるからな、俺でも彼らの役に立てる」
「…モビルスーツ乗りが本業のくせに何言ってんだ」
「合流する艦にはナチュラルも多いと聞いている。だからだ。プラントに来る前は地球の大学にいたんだ。お前も知っているだろう?」
 コーディネイターとナチュラルでは身体の構造は同じものの、その治療法が異なるものがある。そもそもコーディネイターは病気や怪我に強い遺伝子を備えて生まれてくるものであるだけに、ナチュラルほど医療技術を必要としないのだ。
 軍医としてザフトに入隊志願したものの、実際は戦闘要員として配備されることのほうが多かったことは渋沢にとって不本意な日々だった。その結果、戦闘能力を高く評価され隊長として前線に立つことが多かった日々も。
「…三上は、俺たちがそんなにナチュラルより優れていると思っているのか?」
「…当たり前だ。そうでなきゃ、戦争なんて出来るか!」
 三上の両親はナチュラルだ。それを知っていて尚、渋沢は問いかける。
「俺たちのどこが彼らより優れている? 傷の治りが早く、先天的に病原体には強い。だがそれだけだ。心臓を撃たれれば死ぬ、失血が多ければ死ぬ。それに何の違いがある?」
 自分たちは不死身でも、不老不死でもない。ただナチュラルよりも多くの可能性が生まれながらに備えているだけで、彼らと命の重さに変わりはない。
 どんなに強く賢く美しく生まれても、戦場で死ぬ者に何の違いがあろうというのか。
 救いたくても救えなかった部下の死を渋沢は戦場でいくつも見てきた。圧倒的な爆発によって宇宙に散った者たちに、コーディネイターもナチュラルもあるものか。
「そんな理由で、俺たちを裏切っていく気か」
 きつく睨む三上の黒色の双眸は、渋沢の決断を決して認めない者のそれだった。
「…そんな?」
 笑みを浮かべた渋沢の顔に、初めて怒気が含まれた。
「それなら俺たちが優れているのは人を殺すことだけだと、世界中に広めて終わるのか!!」
 渋沢はそんな事実を認めない。三上が同胞への裏切りを認めないように、同胞全員に宿る可能性を負のことだけに潰させない。
 助けられる命がある、救える魂があるのなら、そのために自分は生まれたのだと思いたい。
「戦って守れる命があることを否定はしない。だが、本当にそれだけでいいのか? 同じ人間同士殺し合って、優劣を決めるのか? 期待されて生まれた俺たちの未来は、そんなものでいいのか?」
 コーディネイターの叡智とは、他者を滅ぼすことが目的で生み出されたとは渋沢は思わない。より優れたものと呼ばれながら、出来ることは力の限りで相手を殺すだけのものだとは思いたくない。
「じゃあ! 黙ってプラントを墜とさせろとでも言う気か!! 医者としての自分を使いたいならプラントにいたって同じことだろ!!」
 悲痛ささえ感じさせる友人の黒い双眸に、渋沢は静かに首を振った。
「敵対味方だけでは、どちらかが完全疲弊するか、両方が相打ちになるかしなければ終わらない。…調停者が必要だ」
「お前がなるってか! それに!!」
 三上は銃を突きつけたまま強くせせら笑う。それも違うと渋沢は首を振った。
「俺は所詮ただの脇役だ。ラクス・クラインがその責を負ってくれるだろう」
「小娘に何が出来る」
「プラントが愛した歌姫が、平和の歌を歌う。パトリック・ザラが叫ぶ復讐論に対抗出来るのは彼女の歌ぐらいだからな」
「ただの理想論だ! 歌程度で戦争が終わってたまるか!」
 それでも、その理想を捨て去ることが出来ない人たちがいる。
 一途な三上の瞳に、自分のものと似ていながらも異なる感情を悟り、渋沢はそっと息を吐いた。
「…お前に俺と同じ道を行けとは言わない」
 一緒に行けたら、どれだけ心強く感じられても。
「でも俺は往く。あの艦で」
「渋沢…!」
 三上が顔を歪め、右手の指の角度を変える。本来情に厚い三上が長年の友人を撃たねばならない葛藤に揺れているのをわかっていて尚、渋沢は笑んだ。
「…ごめんな、三上」
「黙れ!」
「裏切っていて、悪かった」
 それは渋沢の本心だった。
 ザフトにいながら、ずっと反逆者のラクス・クラインの一派と通じていた。彼女が軍内部で行ったフリーダム奪取にも手を貸し、情報を流した。そしてザフト内で奔走しプラントを守ろうと戦っていた仲間を裏切っていた。
 自分の正義のために、周囲の人たちを裏切り続けていた。
 忘れてはならない自分の罪。渋沢はゆっくりと首を巡らせ、歌姫のものとなる艦を見た。
「…たかが十幾つの少女のカリスマに縋らなければ終わりに出来ないとは、俺たちも大概情けないとは思うな。シーゲル・クラインを発見したのはお前の情報か?」
 何気なさを装って付け加えられた一言に、三上が一瞬息を呑んだ。
 彼はぐっと眉間に力を入れながら、感情を抑制した声を出す。
「…違う。俺も探ってはいたが、間に合わなかった」
「そうか」
 嘘ではない。渋沢は三上の言をそう感じた。
 ザフトに忠誠を誓い、プラントのために生きても三上の信条にパトリック・ザラへの忠心はない。
「俺の隊の半分はここに残る」
「…だから何だ」
「言ってみただけだ」
 こう行っておけば、残った部下の処遇は三上が何とかしてくれるだろう。そんな後始末を押し付ける魂胆の渋沢に、三上は思い切り舌打ちした。
「面倒ばっか残していく気かよ」
「逆でも構わないぞ」
「ざけんな。俺にだって部下がいんだよ」
「俺と違って、非戦闘員の軍人が、な」
 戦争は前線の兵隊だけでは成り立たない。後方で物資や人員の補給を支える者がいなければ戦い続けることは不可能だ。
 何が言いたいのだと三上が聞き返す前に、渋沢が口を開いた。
「エターナルが奪取されれば混乱は必至だ。何とかしてくれ。出来るだろう、情報部のお前なら。捏造でも詭弁でもいい、支えてくれ」
「…………」
「ザフトを内部から瓦解させるわけにいかないんだ」
 急激な温度変化は周囲に与える影響が大きい。クライン派が求めているのは戦争の早期終結であり、ザフトの戦力を削ぎ地球軍に付け入れられる隙を作ることではない。
 敵も味方も、もうこれ以上殺し合うべきではない。歌姫が訴えたいのはそれだけだ。
「やってくれ、三上」
 離反はしても、その滅亡を望むわけではない。それが自分勝手な考えであることは渋沢もわかっていた。その願いを託せる相手はそう多くない。
 時計を見ることも、銃口を見ることもなく、渋沢は三上の脇を抜けた。
「渋沢!!」
「お前が左遷されてよかったよ」
 三上が後方にさえいれば、戦場で銃を向け合うことにはならない。最後の笑みを以って付け加えられたその言葉に、三上は言葉に詰まる。友の決意は最早人情で動かせないところに在るのだと知った。
 気付けば身体に沿って降ろしていた銃を、三上はもう上げられなかった。
「…俺だって、緊急事態になれば前線に戻るぞ」
「そうか。それなら、そのときはお前の判断に任せるさ」
「…お前、マジときどき大馬鹿じゃねぇか」
「ただの意気地なしだ。ギリギリになるまで表舞台に立とうともしなかった。唯々諾々と流される振りをして、腹で思うだけで結局ここまで何も動かなかった」
 繰言には果てがない。自分でそれを悟った渋沢は、息を吐くことで親友との会話を切り上げた。
 斜め後方にいる三上が、あらゆる葛藤に揺れているのを痛いほど感じた。
―――プラントを頼む」
 白い軍服の横で、渋沢の拳がかたく握られる。
 三上はすぐには答えられなかった。言われなくてもわかってる。そんな空気を互いに感じ取れるほど同じ時間を過ごしてきた。
「…そんなん、全部終わってから自分で何とかしろ」
 往ってしまうのなら、同じ道を歩いて行けないのなら。
 せめて、生き残っていつかまた会えたならいい。
 それが、すれ違った正義の在り方に、三上がかろうじて出せた結論だった。
 三上の後ろで、渋沢は小さく笑ったようだった。雰囲気でそれが伝わる。かすかな、穏やかで公平な渋沢の笑い方を何年も見てきた。
 それきり遠ざかっていく長身の友の足音に、三上は決して振り返ろうとしなかった。

 コズミック・イラ71年7月1日。ラクス・クライン一派によってエターナルが強奪されたという報せがザフト上層部を揺るがすのは、その一時間後だった。








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 何やってんの。
 …としか思えない、種パラレルで笛。もう何が何やら。
 以前書いて仕舞っておいたものを引っ張り出してみました。
 一応前(?)のようなものはこちら。色々遊びすぎだと自分でも思う。
 でも笛ポタとか学園種とかあるなら、笛種(なんだか種笛なんだか)もいいじゃないですかー…みたいな(結局は自分の趣味)。






昨今の事情と彼らの場合(デス種/レイとルナ)
2005年02月13日(日)

 薔薇より甘い匂いがした。








 彼女が彼を見つけたのは、ザフト士官アカデミーの寮の入り口だった。
「あらレイ、何ぼーっと突っ立ってるの?」
 気安い間柄で、ルナマリアが軽く肩を叩くと金髪の彼が振り向く。半拍遅れて肩を叩いた鮮やかな金髪にルナマリアは思いがけず眩しさを覚えた。
 柔らかな金髪のレイは、ルナマリアの姿に眉一つ動かさず淡々と口を開く。
「ちょうどいい。何か袋のようなものを持っていないか?」
「袋?」
 一体何だと、ルナマリアはレイの士官学校の制服の影に当たるほうを覗き込む。各部屋番号が貼ってあるメールボックス。電子メールではない配達物を一時的に保管する場所だ。
「…あーららら」
 その場所を見たルナマリアの口から、思わず苦笑の声が漏れた。
 メールボックスの蓋が半開きになってしまうほど溢れた、レイ宛ての小包の群。かたちや大きさは様々だが、皆一様に包装が鮮やかだ。
 2月中旬のこの時期と考えれば、この包みの中は少女であるルナマリアには簡単に予測がつく。
「チョコの大漁ね」
「暇な奴はどこにでもいるものだな」
 ためいきがちになるレイの言葉は、皮肉ではなく単純に感想を述べているだけだ。それを察知し、この男相手に負が悪かったとルナマリアは贈り主の彼女たちにかすかな同情を寄せた。
「貰っておけば? いい夜食になるでしょ」
「あまりこういうものは好きではないな。腹になかなか溜まらない」
「……………」
 軍隊の男たちの食欲がどれだけのものなのか、ルナマリアもよく知っているが、いかにも貴公子然としたレイにそう言われるのは未だ違和感がある。
 世の中には需要と供給が上手いバランスを取れないところがあるが、レイ・ザ・バレルと乙女のバレンタインもまた当人同士の意識に大きな隔たりがあるようだった。眉目秀麗の佳人とはいえ霞を食べて生きているわけではなく、成長期のレイの食欲は立派に同年代の平均を超える。
「ないよりあったほうがいいじゃない。返しに行くのも面倒でしょ? 貰っちゃいなさい」
 もう運ぶのを手伝う気分でルナマリアはさっさとメールボックスを開いた。勢いで落ちそうになった端の一つを手で押さえ、立ったままのレイにぽいぽいと渡していく。
「…物好きも多いな」
「レイ、それあんまり外で言わないほうがいいわ」
 あなたほど淡白なのも少ないんだから。ルナマリアは小さく笑った。
 レイの腕の中に鮮やかなスカイブルーのリボンがひらりと舞う。濃茶、ピンク、純白、包み紙やリボン、飾りの花、どの包みも少女から背伸びした印象を受けるのは、レイの個性を考慮した結果なのかもしれない。
 同年代から一段抜き出た怜悧な容貌と、冷淡ささえ感じる表情の浮き沈みのなさ。そのミステリアスなところが同じ士官学校の少女たちには人気だが、一歩近い位置にいるルナマリアからするとレイはただのツッコミが得手の小姑だ。
「しかし、こういうものは受け取ったら礼をしなければならないのではないか?」
「あら、そういうのは知ってるんだ」
 やや大仰に肩をすくめて見せたルナマリアに対し、レイは心外そうに眉間にわずかな皺を刻んだ。珍しいものを目の当たりにし、ルナマリアは楽しげに笑う。
「返すも返さないも、レイの勝手よ。私としては、相手の意思に関わらず勝手に送ってくるような知らない人間にわざわざお金と手間かけてお礼するのも考えものだけど」
「…そうか」
「でも、贈った側はお礼とか返事とか色々考えながら待っちゃうものよねー」
「……どっちなんだ」
 腕一杯に包みを抱えて憮然としたレイを見て、ルナマリアはますます楽しくなる。普段やり込められているのは自分が多いだけに、相手のこういう顔がとても面白い。
 くるりとメールボックスに背中を預け、ルナマリアはレイに向かって小首を傾げた。
「好きなようにすれば?」
「…ほとほとお前は俺を困らせるのが楽しくて仕方ないようだな」
「何言ってるのよ。滅多に困ってなんかくれないくせに」
 いつもいつも、自分が年上の顔してくるくせに。
 そう呟くように見上げて唇を尖らせる少女の顔をした彼女に、レイは自分の行動を省みたが、稀に困惑させてくるのは向こうのほうが多い気がした。
「…お前よりもシンに相談したほうがよさそうだな」
「ちょっと、それひどくない?」
「暇なら残ったのを持って部屋まで付き合え。暇だろう」
「断定するなら『暇なら』なんてつけないで欲しいもんだわ」
 ぶつぶつと文句を言いつつも、ルナマリアは最後に一つ残っていた淡いベージュに濃い紅のリボンをかけた長方形の包みを手に取った。両腕にチョコレートを抱えているレイでは、部屋のドア一つ開けるのもままならないだろう。
 揺れる赤いベルベッドのリボン。このリボンも決して安物ではない。まだ任官もしていない身の上で、受け取ってもらえるかもわからない包みになぜ金銭をかけるかもレイにはどうでもいいことなのだろう。
 やめといたほうがいいわ、こんな男。
 彼の友人としてそれを忠告してやりたいが、口にすれば泣き出してしまう子が目に浮かび、言葉にしたことはない。
 ルナマリアは不意に顔をレイに向けた。
「レイ、胃腸は丈夫?」
「いきなり何だ」
「下痢とか便秘とかよくするほう?」
「…頼むからお前は少し慎みという言葉を思い出せ」
 眉をひそめ周囲をそれとなく見渡すレイに頓着せず、ルナマリアは息を吸って言い放つ。
「何日かかってもいいから、ちゃんと全部一人で食べるのよ。わかった?」
「…だから、急に何だと言うんだ」
 尤もな相手の疑問に、ルナマリアは視線を揺らがせずに胸を張る。
「私だって女の子の気持ちはわかるもの」
「……………」
 言いたいだけ言うと、身を翻して寮の階段へ向かって行く颯爽とした少女の後姿。数歩先に行くそれを見ながら、金髪の彼は疑問を浮かべずにはいられなかった。
「…お前に女を語られてもな」
 女の子、を自認するのなら、先ほどの台詞は少々いただけないのが一般常識というものだろう。
 それでも彼女は、レイの腕の中にある甘い菓子を贈ってきた相手と同じ生き物なのだ。納得しかねる部分があっても、同じなのだ。
 女心についての研究はその数秒で切り上げ、レイは紅色の髪を揺らす少女の後を追った。








************************
 友情なのか恋愛なのかよくわからないレイルナが好物の遠子です。
 こっちでオール種を書くのは初めてです(これまでは上のほうにあるメモ帳)。サンライズ二次創作ということで、検索機能つきのエンピツで書くのは憚っていたのですが、様子を見てきたところさほど検索にも引っかからないようなので、こっちでも種系書いてもいいかな、と。

 好意も敵意もさっぱりとした気性のルナマリーが好きです。ついでにバレルさんが変なところで淡白ゆえの面倒くさがりだったり、人間関係にはぼんやりしてる人だと楽しいな、という妄想です。
 …しかしなぜ、シンとレイは仲が良いのであろうか(どうやって親しくなったんだ)(成績順で振り分けられるごとに顔合わせていたから、というオチですか?)

 学園もので種をやるのなら、迷わず私はデス種赤服組の士官学校時代を書く(…学園?)
 通常学園もの、というとたぶんパラレルなんでしょうねー。…でも普段学園ものは絶対(笛で)書いてますから(同じものは飽きる理屈)。

 そんなこんなのレイルナでバレンタイン小ネタ。
 某Aづまさんのところのルナマリアがすごく可愛かったので、何となくああマリー書きたいなあ、と。てへ。私信ですみませんがものすごく可愛いと思います、あのルナマリア。






2月3日後談(笛/渋沢と三上)
2005年02月06日(日)

 晴れ晴れとした気持ちで、彼は彼らの愛すべき寮を見渡した。








 私立武蔵森学園、中等部サッカー部員専用寮。その名を松葉寮という。
 渋沢にとっては中学校生活の思い出のすべてを支えてくれる場所と言っても良い。何といっても、ここは疲れた少年たちを毎夕迎えてくれる大事な家とも呼べる空間なのだ。
 しかしその四階建ての建物はいま、至るところに豆が落ちていた。

「豪快にばらまいたものだなぁ」
「…感心してる場合じゃねーよ」

 広い玄関ポーチに立ち、腕を組んでしみじみと呟いた部長を、黒髪の元背番号10番がほうきを携えた格好で睨みつけた。
 2月3日の夕刻、松葉寮には恒例行事がある。節分の豆まきだ。今年は鬼役がぎりぎりまで決まらなかったというハプニングはあったが、それ以外は滞りなく終了した。
 夕食に出た恵方巻きと、年齢分の炒った大豆。つつがなくそれらを食べ終えれば、部員一丸となって鬼退治という名のもとに鬼役に大豆をぶち当てるという一連の行事が一体いつから松葉寮の慣例になったかは、現在三年の渋沢も知らない。
 ただ、毎年やってるんだからやれ、と先代に言われたことだけが大事なのだ。縦社会の慣例はなかなか崩せない。
 たとえその結果が、毎年見ることになる寮中に散らばった豆柄の床であっても。

「今年の鬼はよく逃げたほうだな」

 すでに就寝時間寸前。同室の三上を伴い、寮内の様子をすべて見回った渋沢は苦笑した。
 鬼が逃げなければ、豆はそう散らばらない。松葉寮の豆まきに「福は内」という単語はない。かろうじて全員に先駆けて第一声の役を務める引退した元部長の「福は内、鬼は外」というひと言だけである。
 後はひたすら、三桁を数える部員が全員で豆を持って鬼を追いかける。部員イジメだと言われることもあるが、鬼役は出来るだけ上級生を選ぶことになっている。後輩が先輩を堂々攻撃出来るのだ。これを縦社会の鬱憤を晴らすいい機会だと考えている下級生もまた、多い。
 そんな理由で、この本来の意味を忘れがちな松葉寮版節分は今日まで存続し、今に至る。

「逃げたどころじゃねぇ。あのボケ、途中風呂場に隠れてたんだぞ? 風呂桶にも浮いてんぞ、豆が」
「豆風呂か。…豆乳風呂なら身体によさそうな気もするな」
「黙れ」

 コン、と薄茶の髪を箒の柄で叩かれ、渋沢は叩かれた部位を手で押さえながら三上を振り返る。痛いな、と非難の声を上げてみたが三上は聞く耳を持っていない。
 二月の夜風に黒髪を揺らす三上は明日早朝の掃除を考えるととても笑う気持ちにはなれない顔つきをしていた。
 一、二年生はまだ早朝練習がある身分だが、引退した三年は自主練習と高等部の合流練習以外の時間は自由だ。その結果、やはり掃除も3年生の役目となる。

「…どちらにしても、明日は久々の早起きだな」
「あーあ、折角最近ゆっくり寝てても良くなったってのによー」
「仕方ないだろう。去年の先輩たちもそうだったんだ」
「ちきしょ、ぜってー次の代にもコレやらせてやる」

 本番は明日だというのになぜか持っている箒で、三上は足元に転がる豆を適当に遠くへ飛ばした。
 彼の心情は、そのまま去年の代も抱いたものだろう。渋沢はふとそれが松葉寮の色々な行事ごとが続いてきた原因の一つではないだろうかと思った。
 コートを持たずに外に出ているためにかなり寒い。セーターの腕を何となく二人してさすりながら、渋沢は斜め上を仰いだ。
 ぽつぽつとまばらについている個室の明かり。もう寝ている者も大半だろう。電灯が点いているのは三年生の部屋ばかりだ。

「…まぁ、あと少しで卒業だ。多少念入りに掃除してもバチは当たらないさ」
「俺はぜってー豆しか拾わねぇ」

 ひねくれ者の元司令塔に、渋沢は小さな笑みを向ける。そうは言っても、三上がちゃんとこの寮に愛着を感じているのを彼は知っていた。
 あっという間だった三年が、もうじき過ぎようとしている。

「ここの節分も今回で終わりだったんだな」
「ってか何でもトータルで三回しかないだろ」

 そうだか、と言った後渋沢は寮を見上げ目を細めた。

「ここにいるときは、回数制限なんて考えもしなかった」

 わかっていたことだと、いつも最後になって気がつく。
 時間制限のある場所だとわかっているようで自分たちは忘れている。そうして過ぎ行くときになってやっと自覚するのだ。

「…まだ過去形にすんなよ」

 渋沢の隣で三上も思わず寮を見上げた。思い出を支えてくれたかけがえのない場所。生活している最中はそれを知らず、作り上げたものが重なって初めてこの寮という背景の愛しさを知る。
 もうじき卒業。最近とみに周囲で交わされるその言葉に込められた感傷を振り切るように、三上は寮の入り口に向かって一歩踏み出した。

「ほら戻るぞ。風邪引いて掃除なんてやってられるか。まだ明日があるんだよ」

 卒業なんて、まだ先だ。
 一月を切るまではそう言うだろう友人の背を、渋沢は一つ息を吐いて追いかける。

「そうだな。…じゃあ、明日は六時起きで」
「ハァ!? 六時なんてまだ外真っ暗だろ!」
「お前そのぐらいじゃないと起きないだろ」

 あっさり言い、渋沢は三上の隣に追いつく。
 慣れた扉を開け、靴を脱ぎいつも通りの場所に仕舞う。そんな『いつも通り』のことが、あと少しで過去の思い出になってしまう。そのことを三年生はそろそろ理解し始めた。
 現在が、いつか思い出になる。それを言葉に出すのはまだ出来ずにいる。
 冷たい二月の空気を遮断してくれる寮に入ると、渋沢は丁寧に鍵を掛けた。

 卒業式まで、あと一月と十日弱。








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 去年はまともな(まとも?)節分ネタで書いたので、今年は後日談で。
 でもこれもやっぱり2月3日に書くべきだったんですけど、……忘れてました(そういうオチ)。

 ちなみに去年のものはこちら
 さらりと捏造キャラ中西くんがいます。

 ところでエンピツさんで種ネタを書くのはどうも検索にひっかかることを考えると微妙なので、上のほうにある前のメモ帳が現在種専用小ネタ置き場になっています。

 そういや根本的に一日一食で生活しているせいか、あまりその日食べたものというものを覚えておらず、ちょっとは自覚しろと妹にやかましく言われました。
 しょうもないので、最近メッセの名前のあとにその日食べたもの(メイン)を入れてます(……)。

今日:水炊き
昨日:牛乳とみかん
一昨日:さつまいもとカレー
その前:カレー
その前:卵スープ
その前:水炊き

 たまに間食もしてますが(この時期大抵みかん)、本当に一日一食が基本。昼食べたら夜食べない。
 別に食べるのが嫌いというわけじゃないんですが、作るのが嫌いです。うわご飯作るのめんどい→じゃ食べなくていいや。…こういう思考回路。
 自分の食生活の自覚、というのが目下の目標です(低いよ)。なのでしばらく私のメッセアドを知っている人は、ああこいつ今日の食事これか、と思って下さい。でも決して突っ込んではいけないよ!  






ロングレイン5(笛/真田一馬)。
2005年02月02日(水)

 雨が降ってる。ずっと、ずっと。








 生きていくのに必要なものは何だろう。
 水、たべもの、空気、睡眠、たくさんの物理的なものを摂取してさえいれば生きていける。生きてはいける。けれどそれはただ『生きているだけ』で。
 生きていくこと、ではない、気がする。
 完全にではないにしろ、社会制度がきっちりしている現在日本では、むしろ生きることよりも死ぬことのほうがむずかしい気がする。貧富の差が少ない。それが日本が世界に誇れるものの一つ。生きるための糧を得るのに、きっと世界中の国の中では楽なほうに入るんだと思う。わたしがそうであるように。
 昨日は夕焼けだったのに、お昼過ぎからまた雨が降り出していた。ここのところずっとそう。雨ばかりの日々。
 真田さんはいつも通り出かけて行った。お仕事だってことは、持っていた荷物から判断出来たけど、言葉はなかった。
 壁を隔てた向こうで聞こえる水の音。衣擦れ、ものを動かす音、テレビの声。生活を感じさせるもの。すべてわたしから隔絶されていることを、思い知るよりほかなかった。何も言わずに外に行ったあのひとに、わたしはもう見放されたに違いない。
 ここに来てから、何日ぐらいが経ってからだろう。わたしが一つ彼を賞賛するごとに、あのひとの顔が曇っていくことに気付いたのは。
 脚の低いテーブルに肘から下の腕を全部置いて、手を組む。何も掴めないこの手。磨き上げた表面にうっすらと映るわたしの顔。外には雨。
 昨日の午後六時は雨は降っていなかった。

『なんでこんなとこにいるの』

 かたく強張った妹の顔、ドアの隙間から腕を掴まれて、逃げられなかった。
 どうして、と思ったとき、妹の後ろに知らない女の子が立っているのに気付いた。きっとこのマンションの住人のひとり。ああ、だからか、とぼんやりと背景を察した。
 人の縁て、おそろしい。そんな気持ちで、久しぶりに顔を合わせたたった一人の妹の顔を見ていた。

『お姉ちゃん!!』

 甲高い悲鳴みたいな声。わたし以上に自分の感情を抑えることが苦手な、あの子の声は悲痛なものもあったのかもしれない。
 雨の匂い。夕焼けの色がマンション廊下の端にちらちらと揺れていた。
 チェーンロックを外さないわたしに、あの子は強く腕を引っ張った。後ろの女の子が何か言いたげにしていたけど、何も言わなかった。
 なぜここがわかったのか、なぜわざわざ来たのか、聞きたいとは思わなかった。
 それからのことは、もうどうでもよかった。一方的に言うあの子の話だけを聞いていた。騒ぐ声はあちこちに響いて跳ね返って、真田一馬の、という言葉だけを覚えている。

『ここ、柏の真田一馬の部屋なんでしょ!!』

 あの子は、真田一馬という選手のことを、知っていた。
 いつの間にサッカーに興味なんて持っていたんだろう。それともわたしが知らなかっただけで、真田一馬という名前は一般常識の範疇だったのかもしれない。少なくとも、昔から優れたプレイヤーであることは、若菜さんが言っていた。
 サッカー選手としての真田さんをわたしは知らない。だけどあの子や、後ろの子や、ほかのたくさんの人は知っている。そういう人たちにとって、わたしがここにいることは大きな違和感があるんだと思う。郭さんのように。
 そのうちに誰かが管理人さんに連絡したみたいだけど、管理人さんへの言い訳は全部妹の後ろにいた子が喋っていた。わたしはそこで黙ってうなずいただけ。妹も黙っていた。
 姉妹だということは、誰も尋ねてこなかったし、わたしたちも言わなかった。
 あの子にしてみれば、身内の恥を晒すような真似したくなかったんだと思う。そういう子だから。

 真田さんには、言えなかった。

 昨夜のことを思い出すと、なんだか泣きたくなる。申し訳なさと罪悪感で息が詰まって死ねたらいいのに、実際そんなことも出来ない。
 ずっとテーブルに置いたままの手から汗がじんわりと滲む。ぺたぺたする湿気。鬱陶しい梅雨。
 こんな時期まで、ここにいちゃいけなかった。
 迷惑になるとか、邪魔になるとか、それだけのことじゃない。
 自分勝手なわたしがおそれていたこと。
 知られたくなかったのは軽蔑されたくなかったから。言わなかったのは幻滅されたくなかったから。建前のものさえ守っていればそれで済むと思っていた。
 いつだって、願ったのはたった一つ。わたしを厭わないでくれること。




 がたん、と大きなものが当たる音がして、わたしは目を開けた。
 いつもの窓辺にいたさくらちゃんが一目散に玄関に向かって駆けていく。フローリングに響く犬の爪の音。あの子もずいぶん大きくなった。
 テーブルに半ば突っ伏したままぼんやりとしているうちに、足元に薄茶の犬をまとわりつかせながら真田さんが姿を見せる。一気にこの部屋に彼の存在感が満ちる。
 テーブルのそばに座ったままのわたしを見て、真田さんは一瞬おどろいた顔になった。

「…ただいま」

 おかえりなさい、と言おうとして少し声がかすれた。きっと今のわたしはすごく寝起きの顔をしてるんだと思う。
 真田さんが、荷物を降ろしながらおかしそうに笑った。

「寝てたのか。…前髪」
「え?」

 言われて前髪に手を伸ばすと、ちょうど額の上ぐらいの毛先が変な方向にはねていた。腕の上に顔を乗せていたせいだ。

「…変になってますか」
「少し。…珍しいな。昼寝なんて」
「…………」

 そういえば、そうだった。貸してもらっている和室以外でうたた寝なんてしたことがなかった。
 はねた前髪を手で撫で付けながらベランダのほうを見たら、まだ雨は降っていたけど空は夕暮れに近づいていた。結構長く寝てたみただけど、寝入ってしまったことすらわかっていなかった。
 寝る前にしていた考え事もよくなかったのか、何だか頭の中がぼうっとする。

「疲れてるんなら、別に寝てていいぞ。俺適当に何か食うし」
「いえ…」

 キッチンの流しで手を洗っている真田さんの背中。口調がいつも通りで、昨日のことが何もなかったような気さえする。
 だけど記憶は消えないし、なかったことにするんじゃなくて、そうしなきゃ空気がどんどん悪くなっていくだけのことだから。なかったことにするのは、わたしの得意技なのに。

「あー…と、それから」
「はい」

 手を洗い終わった真田さんが振り返る。眉間に皺を寄せて視線をさまよわせたかと思うと、不意に玄関のほうに戻って行った。
 何だろうと思って、ついて行くべきか悩む前に戻ってきた真田さんは半透明のビニール袋をわたしの前に置いた。半透明だから中身はよく見える。
 テーブルの上でかちんと鳴った、小さな硝子瓶。
 薄い緑の瓶は、首のところがきゅっと細くなって、下に行くにつれてドレスみたいに膨らんでいる。その細い首の上には、芽吹き始めた小さな球根。

「…何ですか? これ」
「もらったんだけど、これの名前わかるか?」
「水栽培のヒヤシンスに見えます」

 袋から取り出しながら感想を述べると、真田さんは「へー」と初めて知ったみたいな声を上げた。近くの座布団を引き寄せて、壁を背もたれに座る。

「時期外れだけどって言ってたな」
「そうですね、普通は春先に咲くものですし」

 いまわたしの手元にあるこれは、まだ芽も出たばかりみたいだった。遅咲き、というには季節を半分以上過ぎている。

「どうしたんですか? これ」
「知り合いが去年の秋買ったらしいんだけど、球根のまま放置してたからって配って回ってたのもらった。…好きだろ、そういうの」

 さりげなく付け加えられた一言に、思わず顔を上げた。
 テレビのリモコンを探しているのか、立ち上がった真田さんの顔が見えない。うざったそうに後ろ髪を手櫛で梳いている。

「なんかうち殺風景でマイナスイオンが足りないとか英士が言うし、ちょうどいいだろ」
「…なんで、こういうの好きって…」
「よく駅前の花屋のほう見て歩いてるだろ」

 今度はわたしが驚く番だった。確かにお花とか植物を見るのは好きで、駅前を歩くときはいつも花屋さんがある側を歩いていた。真田さんが一緒だったときも何回かあると思う。
 だけど、言ったことはなかったのに。

「あのな、俺だって結人たちが言うほど鈍くねぇっての」

 なんか誤解してるだろ、とどこかぶすくれた顔でテレビをつけた真田さんが低位置の壁際に座る。ちょっとだけわかりやすい真田さんの性癖。背もたれのある場所が好きってこと。

「俺もそういうの嫌いじゃねぇし、気に入ったのあったら好きに買って置いていいから」

 何ですか、それ。
 両手の間に収まってしまう、身の丈20センチに満たない薄い緑色の硝子瓶。触れてもずっとひやりとしているのは、中の水のせい。こんなの、こぼさずに持って帰るの面倒だったんじゃないんですか?
 動物も植物も簡単に家に置くものじゃない。きちんと世話をしてあげられないのなら最初から持って帰っちゃいけないもの。
 わかっているくせに、どうしてこの人は。
 どうしてそんなわかりにくい、だけどわたしが欲しいものを、いつもそうやって。
 わたしにそんな資格も権利もない。そう言いたかったけど、きっとそれを言ったらこの人は傷つくから、そうっと透けた硝子の端を指で撫でた。

「…何色の花が咲くんですか?」
「さぁ、そういや言わなかったな。それ、マジで水だけで咲くもん?」
「咲きますよ。…ちゃんと育てれば」

 きっと、わたしはこの花の色を知らないまま。

「ありがとうございます」

 たくさんのものに背を向けて、それでも他に方法を知らない。信じてもらいたいなら信じなければならない。簡単なはずのことがいつも出来ない。
 仲直りのはずのこのまだ咲かない花もわたしには届かない。嬉しいことが辛い。なのに笑ってお礼だけを言うなんて、何様だろう。
 前のものを捨てたくて、変わりたくて家と呼ばれる場所を出てきた浅い春の日。あの頃とわたしは何も変わってはいなかった。
 いたたまれなくて、息苦しい。いまの状態はあの家のときと同じ。
 あの妹と、真田さん。あの家とこの部屋。

 捨てるはずの場所にすら、嫌わないで欲しいなんて、わたしのむしの良さも変わらないままだった。








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 すごい久々になりましたが真田シリーズ本編総合えーと…37話め?(忘れがち)
 ロングレインの4話(前回)を含め、これまでの本編は全部正規ページに移動済みです。日記にも残っていますが、書き足しがあったり修正があったりするので、おさらいには正規ページのを参照してもらえると嬉しいです、とかあはははは(日記のものは色々誤字とかわかりにくい文章になってたりしているので…)。

 これも実は二周年です。二年かかってここまでで、しかも作中ずっと早春〜初夏、です。この寒いのに梅雨の頃のリアリティとかそういうのって…。

 そうそう、このシリーズ始めた頃まだ真田が柏レイソルに入るなんて知らなかったんですね(公式発表前)。なので後付けでむりやり柏設定が紛れ込んでます。
 てっきり真田というかアンダー三人組はロッサのトップに上がるものだと思っていた。それが何、なんで三人揃って別球団入りしてるの。何があったロッサ(今更)。

 特殊職にしても21歳独身のくせに2LK(風呂トイレ別)に住んでる真田の経済観念についてはどうぞ平にご容赦を。
 作中のどこかで書いてますが、柏の練習グラウンド(もしくはクラブハウス)からは電車で数駅程度の土地だと、築5年以内マンションでセキュリティつきでも都心より随分手頃家賃なので、まあそういう感じで。
 家の中が舞台の大半なので、一応モデルマンションの間取りも決まっているのです、実は。千葉の不動産サイトで理想的なものを探しました(ちなみに月7万ちょい/二年前当時)。

 日記復活したら、まず書くのはこれだろうなー…と思っていたら思った以上の難産で二日がかりになりました。
 寒くて指がうまく動きません。




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