小ネタ日記ex
※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。
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彼と彼女と彼らのそれぞれ(笛/三上と渋沢ヒロイン)。
2004年11月21日(日)
その日、彼はいたく不機嫌だった。
腕を組んだまま椅子に座り、黙り込んで数十分。 普段は穏やかで人好きのする優しい雰囲気を持つ彼が、年に数度あるかないかの不機嫌丸出しの空気を背負っている。彼の席は教室でも後方のあたりに位置を占めていたが、撒き散らす空気のせいで必然的に教室内の視線を集めていた。
「…三上さん」
こそっとドアの隙間から顔を出したのは、そんな彼の幼馴染みだった。彼女は自分の目的対象のむすっとした顔を確認すると、窺うように三上の顔を見上げた。
「俺は知らねぇぞ。気付いたらああなってた」 「…そうですか」
珍しいの、と彼女が小さな声で呟くのを三上はドアの影に隠れながら見ていた。 三上はすっかりあの渋沢のどす黒い空気に気圧されていたが、彼女のほうはそうでもないようだった。奇異なことだと思ってはいるようだったが、おそれる様子はまるでない。 さすが妹代わり、と改めて彼らの付き合いの長さを三上は感じた。
「なあ、あの超不機嫌の原因、わかるか?」 「何となくは」
あっさり言った彼女は、片眉を跳ね上げた三上のほうではなくじっと自分の幼馴染みのほうを見ている。
「今日、三年生って風紀検査でしたよね?」 「ん? ああ、抜き打ちでな」 「多分それです」
ドアの端から身を引き、三上のほうに向き直った彼女は曖昧に苦笑した。
「克朗、髪の色とか言われるのあんまり好きじゃないですから」 「…ああ」
それか、と三上は渋沢の明るい髪の色と目を思い出す。確かに典型的な日本人の黒髪と濃茶の目とは言い難い風貌だ。 部活動で、稀に校外の人間に会ったときに渋沢の髪の色が染めているものだと勘違いされることも多い。寮内の者はすでに慣れているが、渋沢克朗を名前でしか知らない人間にはあの色は違和感を伴って見えるものらしい。
「…そんぐらいで?」 「本人にとってはかなり面白くない思い出ばっかりですよ」
とりあえず、不貞腐れるぐらいには。 真面目な顔つきでそう言った友人の幼馴染に、三上はもう一度渋沢のほうを見てみる。さっきまでは組んでいた腕を外し、机の上に頬杖をついて窓の外を見ている。
「入学のときに、克朗のお母さんが地毛だって証明書みたいの書いて学校に提出したって聞きましたけど、知らない先生もいるみたいです」 「そんなのあるのかよ」 「はい」
変わった色だとは思うが、そこまでナーバスになっていたとは知らなかった三上はほんの少し渋沢に同情した。中身はあれだけ優等生だというのに、生まれ持った外見を責められてはたまったものではないだろう。 自分ならともかく、あの渋沢が地毛だと言い張るのなら本当だと大抵の人間が信じそうなものだが、例外もいるらしい。 とりあえず、あの渋沢の神経を逆撫でしたアホ教師がいたらしい、と三上は記憶に刻んでみた。後でサッカー部の情報網を駆使して探し出し、部を上げてイジメ抜いてやる。
「うちの部長に文句つけるたぁ、いい度胸だよな」 「…サッカー部って、どうしてそういうところは熱いんですか」 「面子だ面子。部長バカにされて黙ってられっか」
そこになぜ男の集団を結びつけるのか、それが彼女にはわからない。 一つ言えるのは、渋沢克朗はあの部で非常に慕われているということだ。そして、閉鎖的なエリート集団は自分たちの一部の侮辱もすべて全体への挑戦とみなしている。日々厳しい練習を共にしている彼らの連帯感は外からの人間には絶対わからない。
「じゃ、お前はフォローよろしく」 「何ですか、それ」
ほれ行け、と教室の中のほうに背中を押してきた三上を彼女が見上げる。
「簡単じゃねぇか。俺らは報復担当、お前は回復担当。慰めは俺の役目じゃねーの」 「…そうかもしれませんけど」 「あと裏付けもしてこいよ。これであいつの不機嫌の理由が昼飯食い損ねたからだった、なんつったら意味ねぇからな」
何の意味だ。彼女はそう思ったが、一級上の先輩の黒い目に言い返すのを諦めた。 この人たちは、部長の災難にかこつけて計略を巡らせるのが好きなだけではないのだろうか。
「…わかりました」
サッカー部の連中と付き合う以上、自分の役目も彼女は何となく理解している。時にはあの部長の精神的なフォローを担うこともあるのだ。
「克朗って、ほんといい友達ばっかりですよね」 「オメーもな」
何だかんだでも、落ち込んだ相手を励ますことは断らなかった彼の幼馴染みに、三上は軽いデコピンを食らわせながらにやりと笑む。 その程度の皮肉では動じない三上を、額を手で押さえた彼女が軽く睨んだがやはり三上は気にしない。
「んじゃ、任せた」 「…はぁい」
どこか気の抜けた返事をした彼女が、ドアの隙間に身を滑らせるのを見送ってから三上は踵を返す。 まずは、いつものメンバーに報告だ。 部活以外での愉快な刺激は大歓迎だ。自分たち三年が中心となって、校内で対象を中心とした情報戦を繰り広げるスリルも大好きだ。 部長に関係するのなら、後輩たちも協力を惜しまないだろう。動かせる人員が多いのは非常に喜ばしい。 ともすれば同じことの繰り返しになりそうな日常が少し変わったことに、三上亮は口許に楽しげな笑みを浮かべていた。
************************ 久々の小ネタは、部長遊ばれるの巻。 どうなんだろうなーこれどうなんだろうなーただ髪の色で悩む渋沢さんが書きたいなとかそういう発想だけだったんだけどなー。 三上と渋沢ヒロインの組み合わせ、私はわりと好きです。 これでやりすぎて彩姉さんに叱られる三上でも面白いかもしれません。私が、書いてて(そういう基準ですか)。
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紅に祈る(笛/渋沢克朗)(種パラレル)。
2004年11月17日(水)
それは広大だけれども有限の場所。
深遠の虚空が小さな艦を押しつぶしてしまいそうだった。 小さい頃初めて地球の海を目の当たりにしたとき、こんなに広いものは他にはないと思った。しかし歳を経て宇宙に出てしまえばこれ以上広いものを自分は知らない。 「隊長」 つい二日前の辞令により、部下となった少年が渋沢に話しかけてきた。 汎用人型兵器―一般にモビルスーツと称される全長十五メートルを越える武器が並ぶ格納庫で、渋沢は人に似せた人ではない兵器を見上げていた。 「どうした、笠井」 「カーペンタリアから連絡がありました。クルーゼ隊、間もなく到着するそうです」 一般兵とはデザインこそ大きくは違わぬものの、色を変えた制服の部下の報告に渋沢は表情を変えることなくうなずく。白い軍服の裾がわずかに揺れた。 そのまま格納庫の入り口から歩いてくる部下に、渋沢は促すように再度MSを見上げた。 「GAT−X303”イージス”だ」 鋭角的なシルエットをした機体は、今はパワーオフになっているのか鋼色をしているだけで映像資料にあった紅色の面影はない。これが紅に染まるとき、人の命を刈る死神となって空を駆ける。暁の鬼神。 「これが…イージス」 見上げた赤い軍服の部下に、渋沢は短くうなずく。笠井の声音にある感嘆とかすかな脅威を感じ取ったのか、ふと小さく笑った。 「まったく、モルゲンレーテは相変わらず侮れないな」 「オーブは中立とか言っといて、こんなの作ってたんですか…」 「それでもOSはこっちでかなり書き換えたそうだから、もうナチュラルには乗りこなせないだろうな。…乗ってみるか?」 「じょ、冗談言わないで下さいよ…!」 茶目を利かせたとはいえ、とんでもないことを言い出した渋沢に笠井が慌てて手を振って否定した。 「お前だってMSの訓練は受けただろう」 「そりゃアカデミーではやりましたけどね、そういう問題じゃなくて。預かりものですよ、これ」 士官学校をトップ10以内の成績で卒業した者だけが着れる、赤を基調にし要所に黒を配した軍服の中で、笠井は大きく息を吐く。最新機に乗ってみたい気持ちはあるが、これの専属パイロットはもう決まっているのだ。 次のランデブーポイントで合流する、笠井にとっては後輩に当たる代の隊員がこの敵軍から奪取した最新機で戦場に出るという。これの登場で戦局は大きくザフトに傾くと上層部は思っているようだが、果たして結果はどう出るだろうか。 「…戦争が科学の底を押し上げる、か。いつの時代でも皮肉なものだな」 ふと物悲しげに言った上官に、笠井は驚いた視線を向けた。 「なぁ笠井、これが本当に俺たちを――」 渋沢の言葉は最後まで続かなかった。自分で自分を戒めるように目を細め、渋沢は軽く首を振った。 「いや、悪い、何でもない」 「…………」 笠井には、士官学校時代から幾度も顔を合わせていた渋沢の意思が何となく読めた気がした。 戦争が始まって一年足らずの間で、戦禍はただただ広がるばかりだ。勝利の報告があれば敗北の報せが届く。幾度もそれを繰り返し、最新と冠される兵器が次々と登場する。殺し、殺されて、疲弊しそうになる心を何度も叱咤しては次の戦場に向かう。 「街で十人殺したら殺人鬼、戦場で千人殺したら英雄だ。…大義名分とは随分都合のいいものだな」 「先輩!」 一度言うのをやめたものの、とうとう言った渋沢に笠井は咄嗟に周囲に視線を走らせた。運が良いことに整備兵たちも声が聞こえる範囲にいない。 「…何てこと言うんですか。…危ないですよ」 今のプラント本国では戦争を否定する人間が政治犯として粛清されているという噂もあるほどなのだ。純粋に渋沢の身を案じた後輩に、渋沢は悪かったと小さく笑いながら言う。 それから彼はあの暗く静かな宇宙で紅に染まるだろう機体を真っ直ぐに見上げた。 「…せめてこれが、世界を救う何かになってくれたらいいよな」 軽率な返事をしなかった賢明な後輩にではなく、何かに祈るような口調だった。
************************ わりと私のパターンとしてはセオリーだと思います。 そんな種パラレル笛。笛パラレル種でも可。 ごめんなさい(土下座)。
ザフト軍渋沢隊。 前にカンザキさんとメッセしてたときに、この話が出て「いやでも渋沢に赤服って似合うの?」とか何とかあった気がしたので。 地球軍にしてもよかったのですが、森ってエリート揃いだから何となくコーディネイターかなあ、と。オーブ防衛隊は制服デザインの点で却下です(所詮見た目ですか)。 種の最初のほうでイージス含む4体を奪取したあと、研究所で色々整備とか強化とかして再びクルーゼ隊に返される、という設定を捏造しました。そしていくら私でも渋沢とアスランを一緒に書くなんて暴挙はしません。 「笠井竹巳、バスター、出ます!」とか言わせる案もあったのですが。MSのなんたるかをいまいち把握していない私がMS乗りのシーンを書くのはどうなんだ、と自制が入りました。むり。絶対むり。日常生活でも機械に弱い私にメカなんて無理。 目下そのうち使いそうになるオーブの政治形態を調べるので手一杯です。アスランが亡命したのはプラントじゃ父親の悪名の煽りで社会に関わるのを拒否された、っていうのが個人的推測なんですけど、どうなんだ。とりあえずザフトに戻ったら軍法会議ではないのだろうか…。
じゃ、本業の論文に戻ります。
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今宵武蔵森で(笛/松葉寮)。
2004年11月11日(木)
松葉寮の風呂が壊れた。
「…そういうわけで、当面の間風呂の代わりに学校プールのシャワー室を使うことになった」
松葉寮、全員集合。 その状態での談話室で、部長の渋沢克朗は渋面を隠そうともせずに皆の前でそう言った。秋の夕暮れと夜の間、もうじき夕食の時間だ。
「待ちやがれ渋沢!」
全員集合のときのルール、挙手をしてからの発言の原則を覆し、三上がふんぞり返って座っていた椅子を蹴倒して立ち上がった。渋沢は嫌でも彼に話を振らなければならない自分の立場にうんざりしたが、逃げてもいられない。
「…何だ、三上」 「テメェ、いま何月だとわかってて言ってんのか……!!」
三上の震えかかった声はその場にいる全員の心の声でもあった。三上の背後で、何人もの部員たちが同じようにうなずいている。 それでも渋沢は彼らを説得せねばならない立場にいた。声がためいきにならないよう細心の注意を払い、断固とした声を出す。
「十一月だ」 「んじゃあこのクソ寒い冬に近づいてる時期、あのぬるい水しか出ねぇプールのシャワーで風呂代わりにしろって言う気か!」 「最初からそう言っている」 「てめ―――」 「はーいハイハイ三上ストーップ。誰かタオル、お、間宮サンキュ」 「ぅ…っ、へめ、ごんど」
瞬間沸騰器のようになった三上を、背後からホールドしたのは中西だが間宮から受け取ったタオルで猿ぐつわを噛ませたのは近藤だった。見事なスピード連携を決められ、三上が床に転がる。
「いっちょあがりってな。ちょお三上そこで黙ってろよ」
わざとらしく手の埃を払う振りをした中西を三上が呪い殺しそうな視線で見上げていたが、彼は気にせず渋沢に向かい合った。どうせ心配した1年か2年の誰かしらが助けるのだ。あれはあれで人望がある司令塔だと誰もがわかっていた。 目下副部長中西らの敵は、目の前に聳える守護神だ。
「んで? 渋沢?」 「…今朝早く、厨房のお湯が出ないという報告が学校側に提出された。昼間俺たちが出払っている間に業者が寮内を調べたところ、ボイラーの故障が発見されたそうだ。完全に直すまでの二週間、ガスは使えるが湯は出ない。よって大浴場の湯船は使用不可。その間の俺たちの風呂は近場の銭湯を利用するという案も出たそうだが、この人数の二週間分の費用も馬鹿にならないという判断によって学校内部の設備を使用するようにとの通達だ」
渋沢の答えには淀みがない。彼も寮の管理を司る学園側の通達書類を散々読み込んだ結果に違いない。眉間に刻まれた皺が、渋沢も本当はこんな時期の風呂を取り上げられる苦難を喜んでいないと物語っていた。
「そりゃー…困ったなぁ?」 「…渋沢先輩、俺たちが自費で銭湯に行くとかはアリなんですか?」
頭を掻いた中西の後ろから、おとなしく座っていた笠井が手を上げながら発言した。
「場合が場合だし、俺から時間外外出の申し出をすることぐらいは出来るが、一番近い銭湯は徒歩十五分で中学生料金でも350円だ」 「びみょー」 「だろう?」
複雑を絵にした顔で相槌を打った近藤に、渋沢は困り眉で同意した。 中学生の小遣いで一回350円の銭湯代は痛い。何かと多くのものに興味を示す年頃なのだ。かといって、泥まみれ汗まみれが当たり前の運動部員に風呂抜きというのも辛い。
「俺いいッスよ。プールのシャワーでも。一応お湯出るじゃないッスか」 「あんなん湯じゃねぇ!」 「ただのぬるい水だ!」
唯一の賛成者かと思われた藤代の言葉には、多数の反論で反応と成した。 武蔵森学園中等部のプール設備は老朽化が進んでいる。数年前に立て替えられた高等部のプール設備だけで予算が飛んでしまったという話がまことしなやかに学園内で流れている。そして古いだけに怪談にも事欠かない。
「っていうかよー、他の寮の風呂借りるとか出来ねぇの?」 「お、三上復活したか」 「うっせ、てめえら人のことなんだと思ってやがる」 「えー起爆剤?」 「そうそう、まずドカンと一発させたら後はお任せ、みたいな」 「このクソバカども…っ」 「まあいいじゃん。んで、渋沢、それって可能?」
1年生数人に猿ぐつわを外してもらった三上が床の上で胡坐を掻く頃、話を向けられた渋沢は思案げに顎に手を当てていた。
「いや…まだわからないな。これから先生のところに行って具体的な話を聞くことになっているから…」 「じゃあ! それで頼んで他の寮の風呂借りればいいじゃん!」 「少なくともプールのシャワーよりマシだな」 「女子寮の風呂だったらどうするよ?」 「うわー中西くんそれイエロー。オヤジか君は」 「こら、お前らちょっと静かにしてろ」
渋沢が同じ学年の騒ぎ合いを保父さんよろしく嗜め、三年主体で話し過ぎていたことのフォローをすべく残る一、二年生に向かって声を張り上げる。
「とりあえず、俺としては他寮の風呂を借りるか無理にでも銭湯通いぐらいのレベルで収めたいと思っている。皆毎日疲れているのに、風呂ぐらいゆっくり入りたいだろう。そういう方向で会議に掛けたいと思うが、何か意見はあるか?」 「あ、はい」
すっと手が上がった。落ち着きのある猫目を見つけ、渋沢は仕草で促す。
「なんだ、笠井」 「あの…今日の風呂はどうするんですか? まだ入ってないんですけど…」 「今日に限っては、人数分の銭湯代を預かっている。一度に行くと迷惑になるから、何組かに分散して行くことに――」 「え、マジ!? 今日銭湯行けんの!?」 「よっしゃ風呂風呂! 一番近いとこって桂湯だろ! あそこ温泉あったよな!」 「うっわ温泉とか言って俺何年も入ってねーし!」
一気にまた騒々しくなった集団は渋沢の背後の学年だった。 躊躇なく彼は振り返る。
「お前らいい加減に」 「なあ渋沢、やっぱ学年順に行こうぜ!」 「学年別でさー」 「黙れ」
賑やかなのは結構だったが、騒がしいとはまた別問題である。 渋沢はこれも自分の運命だと息を深く吸った。
「お前ら全員! 他の奴が戻るまでここで待機! 夕飯も一番最後だ!!」
ぽちゃん、と冷めた湯気が雫となって湯船を叩いた。
「なー渋沢、そんな怒んなよ」 「俺ら騒ぎすぎて悪かったって、な?」 「でかい風呂で壁向いて入ってる背中なんて寂しいぞー」 「しーぶーさーわー」 「…お前らは当分風呂なんて最後でいい」
その日の松葉寮は、部長の独断によりあろうことか三年一軍メンバー全員が閉店間際のぬる目の風呂と冷めた夕食を味わうという滅多にない下克上の夜となった。
************************ お風呂が壊れちゃったんですよー。 しょうがないので、洗面器にシャンプーとか一式入れてお隣に行きました。お隣と行っても庭隔てた祖父母の家です。言うなればおばーちゃーんお風呂かしてー。 そしたら忘れてたんですけど、本家のお風呂って旧式なので広いのと天井高いのとで、寒いのなんのって。風呂は狭くてもいい、すぐあったまる風呂がいい。
で、ついでなので風呂壊れた松葉寮を書いてみようとしたんですけど。 案外こういうぎゃあぎゃあ騒いで遊んでるような松葉寮もあったらな、と。ええまあ今回よくわかんない筋になっちゃってますけど。サッカーだけじゃなくてただの小僧たちの部分も書いてみたかったんですけど。 一年生を銭湯に引率して、騒ぐ一年生に注意したり、タオルを湯船に入れようとする後輩に「こらこらそういうのはしちゃダメなんだ」ってやんわり風呂のルールを教える渋沢さんとかも書いてみたかったんですけど。 …男ばっかの風呂場書いてもねぇ(容姿の描写なら女の子のほうが楽しくて好きです)(女性の脚のかたちの描写を書くのが好きです)(変態か)。 そういや今年の夏も渋ヒロインとか彩姉さんの水着話書けなかったな(忘れてたというのが正しい)。 …なんか私すごい怪しい人になった気がする。
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幕間より愛を込めて(笛/???)(未来)
2004年11月07日(日)
今日は本屋で会った人の話をしよう。
どかだかばさだか、ともかく何かと何かがぶつかって、落ちたらしい何かが床に当たる音がした。ううむ、何かなんて表現が多い曖昧な書き方だ。だけどまあしょうがない。だって俺そこ見てないもんね。 あと一ヶ月ほどでクリスマスを迎えようとする日本列島は、すでにあちこちが緑と赤の二色使いだ。いいんじゃないかな、華やかで。…なんでほのぼの思える根性は生憎持ち合わせがない。 自分の宗教でもないくせに騒々しく祭り上げる商業主義。天邪鬼らしい意見だと思わないか? 俺の名前は高橋という。日本人の多い苗字ベスト5に必ず入る。良い点は読み間違いをされないところ。悪い点は同じ苗字率の高さでまぎらわしいところ。 まあ今日はそんな高橋くんのお話であるわけだよ。 今日の俺が遭遇したのは、やたらばかでかい本屋の一角でのことだ。
「…おお、見事にやったなぁ」
思わず口笛を吹いてみたい。 俺にそう思わせたのは、例の騒音のあった方向に行った途端目に入った惨状のせいだった。一つの棚の中身全部がひっくり返っている。本のサイズからいって文庫本の棚だったに違いない。
「す、すみません」
音を聞きつけてやってきた店員や、偶然近くにいたらしい客たちの何人かに、申し訳なさそうに謝っているのは若い女の子だった。若いっつっても俺とあんま変わらないだろうな。 色を変えていない黒髪を片手で抑えながら、彼女はしゃがみ込んで本を拾っている。店員や通りすがりの客たちも同じように拾っている。 ここでただ見てるっていうのも、なんか気まずいよなぁ。 面倒だけど乗りかかった船ってやつに、俺も乗ってみることにした。
「どうもすみません」
たまたま手を伸ばした宮部みゆきが、主犯者の彼女の手のそばだった。床に膝を付き合わせたような体勢で目が合う。 目が覚めるような美人とは言わないけど、綺麗な黒髪と目をした子だった。緑なす黒髪と白い肌。純和風を女の子のかたちにしたらこういう印象かもしれない。
「…市松人形みたいって小さい頃言われなかった?」
立ち上がって、後はこちらでと言う店員に俺は宮部みゆきとついでに拾った村上龍を渡す。 黒髪の彼女は、一瞬きょとんとしたあと吹き出すように笑った。
「よくわかりますね」
オッケ、わりと乗りのいい子だ。ここでつんとするような子じゃあわざわざ船に乗った意味がない。俺の人生は常に楽しいものを求めるためにあるのだ。 だけど俺の思考は、次の彼女の仕草でちょっと影を帯びた。手を例題になった髪に当てて、懐かしそうに言う。
「小学生ぐらいの頃、髪を切ったらいとこにそう言われました」
あ、そうっすか。 で、その左手の指輪は。薬指に燦然と輝いちゃってるそのアイスブルーの石がついたやつ。 いやさ、俺だって本気でこの子を口説くとかそういうの考えてたとかじゃないわけよ? だけど出会い頭からそう別の存在がはっきり見えちゃうと萎えるのが男の馬鹿さ加減だと思うね、俺は。 黒髪の彼女は片づけを請け負った店員たちに深々と頭を下げて、ふとまだそこにいた俺に視線を向けた。一瞬考え込むように首を傾げると、さらりとその髪が揺れる。
「…どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」
いえいえありませんとも。 俺の特技は一度会った人の顔を忘れない、だ。いつぞや友人に言ったらひどくびっくりした顔をして「すごいな、どうやったら出来るんだ?」とその秘訣の教授を乞われた。 秘訣なんてない。ただ覚えるだけだ。そう答えたら憮然とされて「…それが出来ないのが普通なんだ」と言われたのを覚えている。ああそうだ、しばらく会ってないけどあいつ元気かな。
「残念だけど、ないかな」 「そうですか…」 「彼氏と似てるとかじゃない?」
頑張れ世界の天邪鬼王選手権に立候補しそうな俺! あるかないかもわからない胸の痛みよりも、俺はこの相手の面白そうな反応が引き出せる台詞を選ぶ。会話で狙うのは相手の心証度なんかじゃない、ウケだ。
「……似てないかなぁ?」
じーっと俺を見た挙句、黒髪の彼女は疑問系ながらはっきりと否定した。 左様でござるか、姫。
「うちの相方さんはすっごい美人さんなの」
にっこりと、本当に自慢げな笑顔で彼女はそう言った。 うーん、お嬢さん気付いてますか、それってつまり俺は美形じゃないって言ったも同然なんだけどね。まあどうせ俺の顔の評価はさわやか系だとか言われたことは数回あっても、美人系じゃないよ。
「へぇ、美人さん」
それでもわざわざ好意的な驚きを示してやる俺。いい奴でも何でもない。こういうときは否定するより肯定するほうが相手は喜んでますます喋ってくれる。どうせ誰かと話すなら楽しく会話したほうがいいに決まってる。
「そう、美人なの。あ、男の人だけどね、美人なの」 「そりゃすごい。美人だと思わせる男なんて滅多にいないのに」 「かっこいいよ」
臆面なく言わはりますなあ、このお姫さんは。 なんてどこだかわからない方言で俺は内心で苦笑した(俺は生粋の相模生まれ武蔵野育ちだ)。髪の艶よりずっと綺麗なきれいな笑い顔。品があって幸せそうな。 きっと、いいとこのお嬢さんで蝶よ花よと可愛がられて育ったんだろうな。…とか安直には思わないけど、それが真実でも俺は納得した。
「あ、英士!」
唐突に聞きなれない響きが彼女の口から出た。それが固有名詞だと気付いたのは、俺の斜め後ろあたりに気配を感じてからだ。
「…気付いたらいないと思ったら、何してんの」
…何だ、この男。 俺はまずそう思った。 背が高い。身長170センチ後半の俺と大差ない。黒い髪に黒い目に黒いハーフコートとブラックジーンズと、やたら黒づくしだ。コートの開きから見えるシャツだけが淡い色で、それがどうにか黒子のようになることを防いでいる。
「…ちょっと本棚倒しちゃったの」 「本棚? どうやったらそんなの倒せるの」 「知らない。倒れたの」 「知らないじゃないでしょ。迷惑掛けた人に謝った? …もしかして、こちらの人?」
説教のついでのように、黒い彼が俺のほうを見た。切れ長の一重瞼と通った鼻筋。目元は涼やかで肌がきめ細かい。彼女と同じような艶のある黒髪といい、顔のパーツとバランスの良い額といい、認めよう、美人だ。 美人は彼女の答えを待たず、すっと静かに頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありませんでした」 「あ…いえ、大したことじゃないですから」 「ちょっと英士! 私まだ何も言ってない!」 「うるさいよ」
ちらりと一瞥しただけで、声を張り上げた彼女のほうが不服そうに口を閉ざした。ううん、すごい影響力だ。まあこの美人の一睨みは相当怖そうだけど。 っていうか、なんで俺は男に美人という仮名をつけなきゃならんのだ。 改めて俺が黒髪の一対を見返したとき、それこそ俺は美人のほうの黒髪がどこかで見た顔であることを思い出した。
「……かく」
そうだ、そんな苗字だ。 上も下も、ちょっと変わっている名前だから覚えていた。
「郭英士」
本人より先に、彼女のほうが彼氏の前に進み出て答えた。 滲み出る誇らしげな笑み。まあそうだろう。それだけの価値がある男だ。 郭英士。ちょっとした縁で、俺は彼の出たサッカーの試合を十代の頃からいくつか生で見ていた。俺の友人がその一員だったのだ。 直接喋ったことはない。だけど、知っている。 俺の目に確信が宿ったのを察知したのか、黒髪の美人は彼女をさりげなく後ろに押しやって口を開いた。
「…俺のことを?」 「知ってるよ。アンダーいくつの世代からね。渋沢克朗、知ってるだろ?」 「ええ」 「あいつと中高一緒だから、あいつの試合見るときに一緒に見た。ここで会ったのは偶然だけど」
うーん、世界って本当にときどき局地的なほど狭いよな。 翻せばこの黒髪の美人は、俺の友人の友人、てことになるのかな。ん? チームメイトは友人と違うか。 しっかし、試合中とは随分印象が違う美人だ。確かに試合中の『郭英士』も俳優みたいに美形だと思ってはいたけど、今よりもっと迫力があった。本屋での郭英士はわりと雰囲気がおとなしいというか、穏やかというか。 ま、試合中とそれ以外の空気を比べるのは集中力が桁違いだからしょうがないんだけどさ。
「そっか、郭英士か。…あぁ、悪い、呼び捨てして」 「いえ…」
控えめに相槌を打った郭英士は、辞去のタイミングを計り損ねているようだった。 記憶にある彼のプロフィールでは、郭英士は俺より学年が一つ下のはずだ。だけど背負う空気は俺よりもっと厳しい世界で生きるそれで、あぁなんだろう、やっぱりあの友人と同じ世界の匂いがした。
「…それじゃ、俺はこれで」
もともとここへは本を買いに来たんだった。 今更本来の用事を思い出して、俺は軽く会釈した。郭英士の隣で黒髪の彼女が同じように会釈を返してくれた。黒髪の二人は、似合いの一対だとそのときふと思っちゃったりしましたよええ。
「名前は」 「え?」 「来週、たぶん渋沢に会うと思うので、伝えておきます」
怜悧な黒い双眸で、郭英士は俺にそう言った。生来の真面目さなのかはたまた気まぐれか。わからないけど、俺は思わず笑っていた。
「高橋達也。…渋沢に、よろしく」
今はもう疎遠になりかけている、あの学校時代の友人は元気かな。らしくないセンチメンタルさが郭英士のおかげでよみがえってしまう。 そうだな、いつか俺からあいつに会いに行けたらいいかな。中学高校時代から出来杉くんみたいに何でも出来て、今ではすっかり有名人になってしまったあいつに引け目を感じなくなった頃に。
…この遭遇から一週間経たないうちに、俺はあの黒髪の二人が何気に婚約しただとかそういう話をスポーツ新聞で読んだ。 へぇそうですか、そりゃめでたい。 そのついでに蹴球界のロマンスだとかつまんない煽り文句で始まった、これまた面白おかしく書き立てたとしか思えない記事で俺は彼と彼女の事情をちょっとだけ知ってしまって(本当かどうかは知らないけど)、あの彼女をただのお嬢さんだと思った自分をほんの少し反省した。 でもきっと、その記事を書いた記者は彼らに嫉妬したんじゃないかな。 だって俺がなんか思うところあったから。 ま、幸せそうでいいんじゃないっすかね。何がどうであれさ。 とりあえずあの子は郭英士が美人で嬉しそうだったし。俺はちょっとだけ面白かったし。
会いたい人に会おうとせずに会えるなら、きっと俺の人生はもっと楽しい。 巡り巡る時間の中で、俺が次に遭遇するのは誰なんだろう? 今はひとまず、これにてしばしの別れということで。
************************ ある意味であるシリーズの完全ネタバレ的な話。 高橋達也の未知との遭遇その2。もう何ていうか笛じゃない。 前回はこちら。 ただ単に英士と美人だと表現したかっただけの小ネタでもあります。二十歳過ぎた英士は美人になるに違いないよ(願望)。
そういえば、なんかずっと咳が出てるのですが、薬がころころ変わってそれでも治らないって一体。最近はもう病院で迷うことはなくなりました。 薬がすごく変わるんだけど、と現役看護婦の友人に相談してみたら「それはね〜医者がヤブなんだよ〜!」と言われました。夜勤明けのナチュラルハイで言われた言葉をどこまで信じていいものか。 看護婦さんも毎日大変そうです。覚悟してその世界に入っても大変そうです。飲みのたびに「あと二年で絶対転職する〜」と叫ぶのもどうなんだろう。おっとりしてるけど芯の強い子のはずなんですが。
そうそう、それで上記の看護婦を含めた高校時代の友人たちと会ってきたのです(昨日)。 絶対にオタクではないのですが、みんなマンガやゲームに寛容だったり好きだったりする子たちばかりなので会話が安心して出来ます(そこなの)。 そうしたら一人の子が銀魂にやたらハマってて驚きました。そしてデスノートまで。いや、いいんですけど。 しかし私の友達っていうのは、わりとさっぱりした気性の子が多いというか、ほとんどが恋愛とか男に比重を置かないタイプばかりで。精神的にすごい自立してるタイプなんでしょう、きっと(全部の友達がとは言いませんが)。 結婚はしてもいいけど専業主婦は絶対に嫌だ系が多いです。してもいい、っていうのがポイントです。彼氏形無し。 ついでになんか皆やたらと個人主義なのと割り切りの早い人たち。いや、これは高校時代の友達に限りますが。そして実行力もある人たちばかりなので、計画ごとは私全部任せっぱなしー(どうだろう)。 ついでに今気付きました、私の友達っていうのは言葉遣いが綺麗な子ばかりです。食う、ではなく食べる、と言う子が圧倒的。落ち着いた子が多いっていうのかな。敬語に苦労するって話をまず聞かない。 まあ私の性格と付き合えるんだから慈愛精神の強い人たちであることは確かじゃないかな(微妙)。
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ロングレイン4(笛/真田一馬)。
2004年11月06日(土)
久しぶりに夕焼けを見た。
ホームタウンでの試合は、地力のせいもあってか勝つことのほうが多い。 これは昔から統計として散々言われ尽くされてきたことであって、今更新事実のように騒ぎ立てることではない。けれどよく使われる常套句として定着している。今日の俺のチームもその通りだった。 ちょっとしたミスでイエローを食らいそうになった場面もあったけれど、点を獲ったこともあって個人の成績としては明日のスポーツ新聞でそう酷評されることもないだろう。点数にして6以下にならない自信はあった。 そんな俺の他愛ない満足感が消え失せたのは帰宅してすぐだった。 借りているマンションについてすぐ、エントランスの管理人室の窓から手招きする管理人の姿からその事態は始まった。
「不法侵入?」
まさかうちには、なんて根拠のないことを思っていたのは俺の油断だったのかもしれない。 俺を呼び止めた三人いる管理人のうちの一人は、加藤さんという。民間の警備会社に所属していて、ある程度防衛術とか格闘技の段を持っているらしいこの人はなかなかそう見えないほど小柄だ。見た目で威圧感を与えられないから、金融関係や店舗ビルには配属されなかったと聞いたことがある。 その分社交術に長けているのか、ここの入居者とは誰でも気さくに話すし一度見た相手は忘れない。俺が預かっているあの同居人も、すぐ名前を覚えて行き帰りにと世間話をしていると聞いていた。
「いえね、何でも他の入居者の方の友達らしいんですけど、真田さんのファンだっていう子が直接お宅へ来たらしくて、彼女を見てちょっと揉めたらしいんですよ」
俺が窓のほうに近づいたとき、加藤さんの後ろで椅子に座っていた影が立ち上がる。 小柄とはいえ男の影に隠れてしまうほど華奢な姿。あいつだった。 俺の顔を見て、何とも表現し難い顔をした後うつむいた横顔にはどこか憔悴したような色があった。 何だ、それは。 俺は思わず軽く唇を噛んだ。クラブハウスとここが大して離れていないこともあって、その辺で声を掛けられることはたまにある。だけどこういうのは、ルール違反過ぎる。
「そのここに住んでる人も一緒ですぐに帰ったらしいんですが、相手の子がちょっと興奮してたらしくて…」 「…どうもすいません」 「あの…それじゃあ私は、これで…」
会釈したあいつが、椅子を片付けて管理人室から出てくる。その後ろに付き添ってくる小柄なはずの加藤さんが、いつもより大きく見えてしまう。 俺の前に歩いてきたあいつは、うつむいたまま頭を下げた。
「…すみません」 「…怪我とか、なんかされてないか?」
肩に手を乗せたのは無意識だったけど、思った以上の薄さに驚いた。首を横に振ったことでほっとする。 だけど俺と目を合わせない様子が何だかやけに頼りなくて、布越しの体温が伝わってきて、触れた手が離せない。 それから少し、俺と加藤さんで球団を間に挟んだ問題について話し合う間、俺の隣であいつはずっと黙ってうつむいていた。
「…では、こちらもしばらく注意するようにしますが、何かありましたらまた連絡して下さい」 「はい…」
後半は俺だけではなく、俺の横にいる彼女へも言われたことだった。小さな声で答えてうなずくだけで、後は何も言わない。 うつむいた横顔は髪で隠されたままで、表情がよく見えない。泣いてはいなかったけど、泣きたい気持ちでいることだけは何となくわかった。
「大丈夫ですよ」
黙ったままの彼女に、優しく声を掛けたのは加藤さんだった。 そうっと顔を上げたあいつに柔和な面差しを向けて、ゆっくりと喋る。
「少しびっくりしたと思いますが、しばらくすればまた落ち着いて生活出来るようにしますから、今晩はゆっくり寝て下さい。もう真田さんも帰ってきましたし、一人じゃないですよ」
じんわりと、あいつの目が潤んでいくのが何となく感じ取れた。泣かないよう頑張っているのは明白だ。ここんとこずっと不安定だったこいつにとって、今日の出来事はかなりショックだったに違いない。 今回ばかりは俺に責任はないなんて口が裂けても言えない。 だけどそのときの俺に出来たのは、加藤さんに頭を下げたことと、体温の高いあいつの手を引いて、いつもの部屋に連れて帰ることだけだった。
その夜、あいつは例の件についてあまり喋らないで、ともかく疲れたから寝たいと言い出した。 明日ゆっくり話します。そう言われたら無理に聞き出せるわけもなくて、俺もわかったとしか言えない。だけど手と顔を洗って、部屋に引っ込む前にいつも通りの「おやすみなさい」が聞けたことは、俺をほんの少し安心させた。 責めてくるとは思わなかった。俺のせいだと、言うはずがないんだ。 だけどおやすみなさいの淡い笑みの後、うつむいた「迷惑かけてすみませんでした」なんて囁きが、俺の睡眠意欲を奪った。試合の後で疲れているのに、薄暗い天井の片隅でいつまでもあの見えない横顔が浮かんでは消える。 気にしたら負けた。俺は自分の感情に負ける。 だからといって何も考えず安眠も出来ず、鬱々とした葛藤を着替えた後の布団の中で何度も寝返りと一緒に繰り返していた。 そのうちに、別の場所から水音が聞こえた。さくらとも違う。キッチンで水でも飲んでるのかもしれない。たまにそういう音が夜中に聞こえる。 あいつは、夜ちゃんと寝ているんだろうか。 部屋にいる時間=睡眠時間、ではないことを今更ふと思い出した。 立ち上がって床に足をつくとぺたりと吸い付くような音がした。猫みたいに忍び足でドアを開ける。首を巡らすと、玄関から続く短い廊下の真正面、ベランダへのガラス窓の前に白いかたまりがあった。
「………おい」
思わず声を出すと、かたまりがびくりと動いた。 振り返った拍子にはらりと落ちる。夜目に白っぽく見える薄手の毛布を膝に落として、電気もつけないままあいつが床の上に座っていた。少ない光に戸惑う双眸が星みたいに瞬いた。
「さな、だ、…さん」 「何やってんだ? もう二時だぞ」
電気をつけていない部屋の中央よりも、窓辺のほうが明るい。目を凝らして見たビデオタイマーの時間は午前二時過ぎ。小さな白い手が、困ったように落ちた毛布を肩まで引き上げているのが見える。
「…あの、ここなら、さくらちゃんと一緒に寝れるかと思って…」
ぽそぽそ言う相手のすぐ脇に、うちの犬のいつものカゴがあった。その中で眠ってはいないが、眠る体勢で丸まって俺たちを見上げている真っ黒の目。 何かを誤魔化すみたいに、あいつはさくらの頭を何度も撫でた。
「…すいません、朝にはちゃんと戻ってますから」 「それは…別に、いいけど」
よく見ると、床の上に座布団を置いてさらにその上に膝を抱えるようにして座っている。眠るにしても楽な格好じゃないはずだ。 近づいていいのか、少し悩んだ。
「…寝れないか?」 「……少し、です」
結局立ったまま話すことを選んだ俺に、あいつは弱々しい笑みで答えた。
「大丈夫です。明日には、ちゃんとします」 「…説得力ねぇの」
なんとなく苦笑してしまった後で、どんなかたちであれ俺にこいつを笑う資格はないと思い当たった。
「…悪かったな。俺のせいで」 「…どうして、真田さんのせいなんですか?」 「普通、俺のせいだろ」 「そんなことないです。大丈夫です。…ちょっと驚いただけです。真田さん、やっぱりすごい人だなぁって」
なんで笑ってるんだよ。なんで、俺のことを感心してるんだよ。 何か違うだろ、それ。 外が明るいのが月明かりだと気付いた俺は、目が慣れてよりはっきり見えるようになった青白い笑みに、違和感と苛立ちを覚えた。目眩みたいな感情。静かに揺らぐ。
「…真田さんは、」 「何言ってんだよ」
遮ったのは、きっと俺の気が長くないせいだ。 違うだろそうじゃないだろ馬鹿にしてんのか。そんな思いが体中を駆け巡った。
「すごいわけないだろ」
壁でもぶん殴って怒鳴り散らしてやりたかった。こいつは何もわかってない。 違うんだ、俺は、感心とか尊敬とかされたいんじゃない。 俺に関わったことで被った被害を、責められたいわけでもない。謝られたいわけでもない。 月光の中、怯えたみたいに見上げてくるあいつの二つの瞳。不穏な空気を察したのかさくらが首を俺のほうに向けた。あいつの身体は、ほんの少し俺側よりも窓のほうに傾いていた。 半袖から見える肘の白さ。初めて見たその皮膚の白さは今はただ青白いばかりで。
「…ごめんなさい」
震えた声は俺にとって逆効果にしかならなかった。 俺の感情は箍が外れるといつもこうだ。あいつの罪悪感を増長させている。 謝らせたり屈服させたいわけじゃないと、なんで上手く伝わらないんだろう。 握り締めた俺の手。解いたままの髪で俺を見上げている目。頼むから、そういう目で見ないで欲しかった。怒っておいて怖がるなとは言えないけど、そう言いたかった。
「…本当に俺が、すごい奴なら」
そっちの言う『いい人』なら。
「もっと―――」
もっとちゃんと、落ち着かせたりとか、出来たんじゃないか? 少なくとも不安定なときに興奮させて泣かせたりする、朝みたいなことはさせなかった。自分のせいで傷つけたらもっと上手く守ってやるとか、そんなことも出来ないで、何が。 一歩踏み出したら後は同じだった。 近づいて、膝を突いて、細い両肩を手で掴んだ。言葉もなく見てくる双眸を見るのは怖くて、悔しくて目を伏せたら最後に入ったのは薄い毛布で。
「…俺は、そんなに頼りないのかよ」
何も話したくない、何も頼って来ないっていうのは、それが理由なんじゃないか。 気になって、だけど言えなかった俺の不安。俺だけが一方的に、春先から始まったこの関係を嬉しく思い始めたこと。
細い肩に額を押し付けたら、逃げたいみたいに身を竦められた。 こんなとき、英士や結人のほうがこいつは安心するかもしれない、と。 自分の思いを否定することを考えた。
************************ コメントに悩む3タイトルめ4話。とりあえず目下すれ違い中。 ああ肩凝った。
このシリーズ、今回の話のプロットの日付は2003年12月18日と書いてありました。…一年もだらだら考え続けてやっと文章に? …みたいな(こういうのを愚図っていうんですね!) 展開が進むにつれて、小ネタなのに書き直しの回数も増えました。これ木曜日から書いてました。んで書いては消し、書いては修正したり入れ替えたりぐだぐだうだうだ。 んで結局プロットと違ってるんだから世話ないよね。ケッ(やさぐれ)。 もうどんな展開だろうが最終地点が同じならルートは選ぶだけ無駄だ! を合言葉に(長いよ)適度に進めたいと思います。 いいよ、変なとこは正規に移動するとき直すよ…。 日記で大切なのは勢いです。
ところで、最近パソコンかワープロとつけるときには必ずガンダムシードのビデオを見ているのですが。あ、デス種のほうではなくて純粋に種です。 アスランが、やたらめったら可哀相で愛しいです。 何気に飛ばし飛ばしでしか見ていなかったので、中盤付近をスコンと見ていなかったのですが、改めて見返すとアスランが喋ってるときが一番楽しいことに気付きました。キラよりは男前ですね! 思い返せば当初、私はキラ×カガリを狙っていたにも関わらず、途中でカップリングを成立させるにはあまりにも倫理に反する設定が登場してしまい、泣く泣く諦めた過去があったのですが。 いいよ、もう、アスカガで。 でも一番譲れないのはムウマリュでございましてよ!(えばる理由はない)(そしてまた最後で泣く) ついでに最近友人のKザキさんと一番揉めた会話はキラアスかアスキラか、でした。 男には強いが女には弱いアスラン説を推す私は後者です。キラには強いがカガリには弱い。 私的アスラン名台詞は、ラクス合流後のカガリから婚約者を云々を言われ、元だと訂正した後の「俺は…馬鹿だから…」です。今更ですが、最近初めて音声で聞いたのです。 一人で見ていた分、臆面なく笑わせて頂きましてよアスラン・ザラ! 俺は馬鹿だから。そんな石田ボイスのしっとり声で言われたら照れ通り越してすごい笑ってしまいましたわ。 そして何気なくやたらアスランの服を掴みたがるカガリさんが可愛い。これでもかと服を掴むカガリの手をクローズアップしたがるサンライズに敬礼。よーしこのまま最後まで!(決定) 人様より遅れること二年、本格的な種ブーム到来です。
あ、今日のデス種も見ました。わざわざビデオのタイマー使ったの何年振りでしょうか。 そういや一部地域によって放映が遅れるのは、放映権利の問題だと思うんですけど実際はどうなんでしょう。製作は毎日テレビで本社が大阪あたりだったと思うので、そのへんと系列のキー局であるTBSの東京方面は早い(後の地域がどこまでだかは知りませんが)、という認識があるんですけど…。 調べたらあっさりわかりそうなのですが、いかんせんめんどくさい。とりあえずこれがある限り、デス種感想は隠せという意識が私に残ってればいいや。 で、今日の感想? 公式サイトの人物紹介だけじゃ人と名前が一致せんよ。 またなんか強い女子ばかりいたよ。 シンくんが色違いキラにしか見えないよ。 以上。 最初の数話ほとんど見てない分、もうちょっと復習してきますー。
ところで私の中のJリーグ代表、湘南ベルマーレは今期11位で終わりそうな不安が切ないです。去年は10位でした。 弱くても好きだからいいなんて私は思いません。これから這い上がって目にもの見せてやって私が周囲に「それごらんおほほほほ」と高笑いしたいんだ! 来年の前に今だ今! 順位向上に最後まで諦めずいて欲しい。
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