2009年11月30日(月) |
ふたたび出会えるということ |
早いもので明日からはもう師走。 千両の紅い実がそれをおしえてくれるかのように実る。
空はまるで海のように青い。風もなく穏やかな一日となった。
月末で少し忙しかったがそれほど遅くなく帰宅することが出来た。 大橋を渡るとほっとする。土手の道を「ランちゃん」が散歩していた。 あんずのお気に入りのワンちゃんで会うと必ずじゃれ合うのが常だった。
すぐに行かなくちゃと追い掛けるように土手に向かう。 ああでも残念。ほんの一足違いで先に帰ってしまっていた。 土手の道のあちこちにランちゃんの匂いが残っているのだろう。 あんずはしきりに匂いを嗅ぐ。それはランちゃんの家のすぐ近くまで。
また明日ねと言い聞かせるようにしながらお大師堂に向かった。 人の気配がする。いつもなら踵を返してしまうことが多いのだけれど。 今日は違った。なんと言えば良いのか引きよされるような感じがした。
そのひとに出会ってからもう90日も経っているらしい。嬉しい再会だった。 「またきっと会いましょう」と言って別れた人にまためぐり会えるなんて。
修行僧だという。もう2年半も遍路旅を続けているひとだった。 今回がもう最後かもしれないと言う。会えてほんとうに良かった。
お大師堂にメジロが飛び込んでくる。窓を開け放しても逃げようとしない。 一緒に寝るしかないですねとそのひとは笑った。まるで良寛さんのようだ。
ほのぼのとした時間。それはつかの間でもっともっと話しがしたかった。 これが最後なら尚更。再会が叶うなどよほどの縁のあるひとだと思った。
縁は紡ぐもの。目には見えない不思議な糸のことを思わずにいられなかった。
2009年11月28日(土) |
おでんが美味しかった |
暖かさにほっとする穏やかないちにち。
午前中にサチコのアパートを訪ねた。 やっと洗濯物を干し終えたところで。 南向きのベランダは陽射しが満ちていた。
仕事と家事。これからも大変なことだろう。 まだ慣れてはいなくて少し疲れているようだった。 流しの食器洗いを手伝う。掃除機もかけてあげる。
母は相変わらずお節介だけれど甘えてくれるのが嬉しい。
この先もゆっくりでいい。無理をせずぼちぼちと頑張ってほしい。
一緒に買物に行きすぐにおいとま。また近いうちに会えるだろう。 女同士。主婦同士になってこれからの日々が流れていくのだろう。
けれども『こども』いつまでもこどものままでいてくれるのだと思う。
午後は暖かさもありすっかり寝入ってしまった。 怠けているなあと我ながら思う。とにかく眠い。
目覚めればもう四時。急いでおでんの支度をする。 玉子はんぺん餅巾着。好きなものばかりで夕食が楽しみ。
またまたお相撲を観ながら早目の晩酌になった。 彼がやたら大きな声でしゃべる。それも慣れた。 彼も娘に会いたいことだろう。寂しい事だろう。 ゆっくりと会える頃はもうお正月になりそうだ。
そろそろ師走。クリスマスソングも流れるようになった。
ことしも早い。あっという間に年の瀬が迫ってくるのを感じる。
空気が澄みわたっているのだろう。 空の明るさにはっと夜空を見上げた。
まだ満月ではないというのにとても綺麗な月だ。 そのかたわらにきらきらと輝く星がひとつ見える。
なんだか久しぶりに夜空を見上げたように思う。 「おなじひとつの空だよ」と誰かに伝えたくなる。
平穏ないちにちがそうして今日も暮れていく。 二人きりの生活にも少し慣れてきたのかもしれない。 夕食の支度がとても楽だ。酒の肴さえあれば良くって。 大相撲を見ながら一緒に日本酒を飲んだりもしている。
食後は気が抜けたようになる。もう誰も帰って来ない。 今日の家事はこれで終わりなんだなと一気に脱力する。
あんずに晩御飯をあげに行くと。ああ家族なんだなあと。 ついつい優しい言葉をかけてみたりもする。老犬とはいえ。 彼女はいつまでも我が家の末娘なのだ。よしよしと頭を撫でる。
ふたりきりではなかったのだとあらためて思ったことだった。
みんなみんなおなじひとつの空の下にいる。
サチコは彼の待っているアパートへ「ただいま」って帰るだろう。 独り暮らしの息子君はちゃんと晩御飯を食べてそろそろお風呂かな。
あのひとも元気でいるだろう。お疲れさまって空に向かって声をかけたい。
ずっと寒い日が続いていたものだから 今日の小春日和がなんと嬉しかったことか。
お布団を干す。窓を開け広げてお掃除をする。 サチコが居なくなった部屋で少しぼんやりとする。
「じゃあね。またね」とあっけなく巣立って行った。 昨日はとても名残惜しかったけれど待っていた日だ。 ぷつんと何かが切れるのではなく新しい何かが始まる。
その何かをこれから育てていくのだろうと漠然と思った。
28年間。私は娘に育ててもらったのだと思う。 いつも明るい陽射しを降り注いでくれたサチコ。 おかげで芽吹くように母の道を歩む事ができた。
授かったものはかけがえのないもの。このあたたかさを。 ずっと胸に抱きしめて大切にしながら母は老いていきたい。
覚悟はしていたけれどやはりどうしても寂しさが訪れる。 それを確かめるようにがらんどうの部屋を何度ものぞく。
置き去りにしてある夏服。ぬいぐるみ。ヘアピンまでも愛しい。
気がつけば土手のススキも老いて輝き。 せいたかあわだち草はむくむくの綿毛。 栴檀の実は黄色くなり鈴生りになった。
このところこころが急いていたせいだろう。 いつもならはっとする植物の移り行く姿に。 気も留めずにいたことを悔いるように思う。
ゆっくりと歩いた。冷たい川風も心地よく。
サチコのお休みに合わせて今日も仕事を休む。 衣類や細々とした物などを新居に運び入れた。 後は日曜日に一気に済ませそうでほっとする。 じたばたと焦る事はもうないのだと自分に言う。
三人で食べる夕食もとうとう最後になってしまった。 焼肉の予定だったけれど寒いので『チャンコ鍋』にする。 大相撲を見ながらチャンコも良いねとビールで乾杯した。
いつも我が家の太陽でいてくれたサチコほんとにありがとう。 母は感極まる思いで家族団欒そのものを味わうような気持ち。
あした。あさって。また母はあなたの帰りを待っています。
2009年11月17日(火) |
きっとどうかしているのだろう |
今にもみぞれに変わりそうな冷たい雨だった。
12月中旬の気候だということ。一気に冬になってしまったようだ。
散り積もり始めた銀杏の葉にも滲みるように雨が降り注ぐ。 そんな山里の道を重そうな荷物を背負ったお遍路さんが進む。 深々と頭を下げずにいられない胸が熱くなるような朝だった。
木枯らしの吹く日もあれば冷たい雨の日もある。 けれども柔らかな陽射しに恵まれる日もきっとある。
職場に着きさあ仕事と。思うだけ思って少しも集中出来ない。 困ったものだと我ながら思う。なんだか切羽詰ったような気持。 昨日も早退。今日も早退を繰り返して逃げるように家に帰った。
今日は寄り道をしてサチコの勤めている雑貨屋さんに押しかける始末。 さすがにサチコも呆れたようで。困ったお母さんやねと苦笑いしていた。
きっとどうかしているのだろう。自分でも訳が分らない状態になっている。
あと5日になった。指折り数えてもどうしようもない日を数えるばかり。
2009年11月14日(土) |
そこに行けば待っていること |
ここ数日の雨もやっとあがり久しぶりの青空になった。 今日の空のなんと眩しかったことだろう。仰ぎみては。 身も心も貫くような光を浴びた。ああ生きているなあ。
動き出したくてたまらない。むくむくと伸びるように。
けれども結局なにも出来ずに時をやり過ごしてしまった。 畑仕事も泥濘状態で手がつけられず諦めるほかなくって。
サチコの準備もほぼ整ってあとは巣立つ日を待つばかり。 今日はゆっくり休みなさいと言ってくれて仕事に出掛けた。 それなのに母は落ち着かない。何かしたくてたまらなかった。
すごく背中を押されているような気持ちだと言えば良いのか。 一気に走り抜けたいような止まったら倒れこんでしまいそうな。 うまく言葉に出来ないけれど。なんとも複雑な気持ちのようだ。
そこに行けば待っていることがある。怖いもの見たさかもしれない。
風の強い夕方。少しだけのんびりの気持ちになり川辺の道を歩いた。 かなり雨が降ったせいで川の水は濁って藻屑がたくさん流れている。 その流れを突っ切るように川船が一艘。目の前を横切って進んで行く。
そんな風景が胸に心地よい。なんだかすかっと気分が爽やかになる。
急な流れ。私もその流れに身を任せているのだとしたらこれでいい。
やがて川は澄むだろう。そうしてまたゆったりと流れていくことだろう。
2009年11月10日(火) |
いまはこんなにちかく |
どしゃ降りの雨。地面を叩き付けるように激しく降る。
サチコのお休みにあわせて私も仕事を休んだ。 暮らしに必要なものを少しでも買い揃えようと。 大雨の中をあちこちと走りまわったのだけれど。 まだまだ足りないものがたくさんあるようだった。
ゆっくりのんびりとはいかなくて気持ちは逸るばかり。 一日があっという間に過ぎ残りはまた次回にする事に。
ふたりで買物をするのはとても楽しいのだけれど。 家に帰り着くとなんだかどっと疲れが出てきたようだ。 サチコも同じらしく夕食の支度もそこそこに済ます。
三人でまあるくなりビールを飲んだ。焼肉が食べたいな。 父親の提案で最後の晩餐はそれが良いねとすぐに決める。
いつになるのだろう。サチコがお休みの日にしなくては。 それも来週のことだ。あらあらという間にその日も迫る。
あれこれと考えていると。寂しさは二の次になってしまって。 今はただ無事に送り出すこと。それがいちばんの思いになる。
どれほど寂しいのだろうと考えるのはよそう。
いまはこんなにちかくにいてくれるそれがいちばんありがたいことだ。
ぽかぽかと暖かい小春日和。
昨日から仕事を休ませてもらって。 サチコ達の新生活に向けて一気に忙しくなる。
昨日はネット環境を整えるための室内工事があった。 迷った末に結局ケーブルテレビの回線を利用することになった。
大家さんから部屋の鍵もいただき。もう家具類も入れて良くなる。 さっそく食器棚を買う。大安の今日それを運び入れてもらった。
窓にカーテンもつけるとなんだかとてもほっとした気分になる。 明日はお布団を買いに行く。母はやはり浮き立つような気分だ。
冷蔵庫など家電製品はあちらのご両親が揃えてくれるのだそうだ。 だからおまえはあまり出しゃばるなよと彼に釘を刺されてしまった。
けれども気になってしょうがない。その気持ちをぐぐっと押さえている。
今夜はサチコの彼氏が晩御飯を食べに来てくれた。 そうしてやっと父親の望んでいた「挨拶」らしきものを済ます。 男親というものはどうしてもそれにこだわるものらしくて。 傍で聞いているとはらはらするような威厳を振りまいていたけれど。
ふたりはこれでハードルを越えた。そんな感じの対面となり安堵する。
新生活のスタートは11月22日に決まる。「いい夫婦」の日でもあるらしい。
あと二週間。そう思うと残された日々がとても貴重に思えてならない。
母は相変わらず奔走するだろう。父は無口なまま静かに見守っているだろう。
サチコは立冬を過ぎても変わらず向日葵の花を咲かせることだろう。
一昨日からの寒気が少し緩みほっとする。 冬は必ず巡ってくるけれど晩秋が好きだ。
日に日に色づく銀杏や山裾のつわぶきの花。 その黄金色の葉や小さな向日葵のような花。
私はこの季節の峠道がとても好きでならない。
のどかな山里で仕事をする。来客はただ一人。 今日は電話も鳴らなかった。あくびをしつつ。 母と雑談をする。こんな日もあって良いだろう。
気のせいかもしれないけれど一気に穏やかになった母。 祖父が亡くなって気が抜けてしまったせいかもしれない。
ふっと優しい言葉をかけてくれることが多くなった。 おかげで私も笑顔になれる。母を労わる事も出来る。 ぶつかり合っていた日々が嘘のように平穏な日々だ。
もしかしたら私が変わったのかもしれないのだけれど。
早目に仕事を終えさせてもらい市内の大型店舗へ寄る。 寝具売場でサチコ達の布団を見ておきたいなと思った。 ダブルではなくてシングル二組が良いと言うものだから。 あれこれ品定めをする。寒くなるから毛布も要るだろう。 どれにするにも母ひとりでは決められない事ばかりだった。
なんだか母ひとり舞いあがっているようで可笑しいねサチコ。
帰宅するのを待ちかねてまくし立てるように話すのが日課になった。 母娘漫才の変わりに玄関で熱く抱擁する時もある。頬を寄せ合って。 抱きしめるサチコの細い肩が愛しい。温かくてぬくぬくなのが好き。
今朝はこの秋いちばんの冷え込みだったらしい。 もう初冬を思わすほどですこし途惑ってしまう。
けれども日中は風もなく陽だまりが暖かく嬉しく思う。 少しだけ畑仕事。後はのんびりと過ごす休日となった。
去年の今頃はたしか整理病にとり付かれていたようだ。 古い手紙を読み返してみたりまたそれを束ねてみたり。 他にも身辺整理のような事を沢山していたように思う。
こうして無事に一年を経て。あれは何だったのだろうと。 ふっと可笑しくも思う。不安や焦りも今は嘘のようだった。
ただただ進むしかない。後どのくらいだろうと歩むしかない。 悔いのひとつやふたつ。それを考えていたらきりがないと思う。
精一杯の日々。無理をせずぼちぼちと与えられた道を進もう。
晩御飯は彼とふたりきり。地場産市場で手打ちうどんを買ってくる。 香川出身の若者が隣町でうどん屋さんを開いていて。そこのおうどん。 コシがあってなめらかで煮込みうどんにしてみたらとても美味しかった。
サチコは彼氏と外食の予定だったけれど三人分作ってしまった。 明日の朝御飯に食べてくれるだろう。おうどんが好きな娘だもの。
温かいものを食べた夜はいつもに増してまったりとした気分になる。 ラベンダーのお香を焚きながら。芋焼酎のお湯割を飲みつつこれを記す。
2009年11月02日(月) |
そうしてまあるくなって |
北の大地ではもう初雪の知らせ。 南国高知も木枯らし一番が吹き荒れる一日となった。
ひゅるひゅるとうなるような風の音。 枯れ葉が踊り狂うように路地を舞う。
朝の道では7人のお遍路さんを追い越す。 ついつい荷物に目がいってしまうけれど。 皆さん野宿ではなさそうで少しほっとする。
一気に寒くなった。先日の彼女の事が気掛かりでならない。 あれからお風呂に入れただろうか。今夜は何処で眠るのだろう。
我が家は申し訳ないほどに平和だった。 お休みだったサチコと一緒に晩御飯を作る。 あれも教えようこれも教えようと気が逸る。 しばらくはサチコの好物ばかり作りそうだ。
父は少しばかり拗ねている。やはり寂しいのか。 おまけに彼氏がまだ挨拶にも来ないと文句を言う。
それはとても肝心な事なのかもしれないけれど。 私はむしろそんなシンプルさが好ましく思った。 そこが男親と女親のちがいなのかもしれない。
「まあ、お父さんそれはね」と宥めながら笑った。
そうしてまあるくなって今日もゆっくりと夜が更けていく。
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