2008年11月30日(日) |
おはようあたらしい朝 |
風がひゅるひゅると冷たいけれど心地良さそうに音を奏でている。 むかしであったひとが。仙人になりたいと言っていたのだけれど。
もしかしたらあの雲のうえか。それともむこうにみえる雲なのかと。 空を仰いでいる。はやく見つけてあげないと遠くへいってしまいそう。
朝陽は知っているのだろうか。無言の光がいまあたりを輝かせて。 わたしのなかをつらぬこうとしながら。それが出来ずに散っていく。 それは川向の山に落ちた。色づけずにいる深い緑のふところに落ちた。
きのうの午後のこと。わたしは思いがけずに「ちゃがまってしまう」 どんな漢字で書けばいいのかわからない。ちゃがまるというのは。 故障するとか駄目になるとかという意味の土佐の方言なのだけれど。
悔しかったとても。悲しいのでも辛いのでもなくとても悔しかった。 あくまでも気丈夫である。なんのこれしきと気力だけはとても強い。 それなのに起き上がれない。歩けない動けない。気をつけ休めやすめ。 とにかくやすめなのだと家族に言ってもらい。ひたすら横になるばかり。
ずっと待っていた息子君の声。台所でサチコと一緒に晩御飯を作っている。 朝のうちに下ごしらえをしておいた炊き込みご飯の炊き上がる香ばしい匂い。 ポテトサラダを作り味見をしてみてと寝床に運んでくる。あさりのお味噌汁も。 息子君はウインナーをボイルしているもよう。父親は晩酌だと大騒ぎしている。
三人でわいわいおしゃべりしながら食べているようす。サチコがふざけている。 「なんか・・お母さんが死んじゃったみたいだよね」笑うなサチコと寝床で母も笑う。
夜更けてやっと起き上がれるようになりほっとする。炊き込みご飯が美味しい。 ネットで注文していた日本酒も届いていたけれど。男達は封を切らずにいたらしい。
大晦日に一本と元旦に一本やろうぜと男達だけでそう決めたのだそうだ。 母はすぐにでも飲みたくてならない。いつものようにまったりとそうしたい。
そう。いつものように。平穏無事に暮れていくいちにちのありがたさを。 身をもって感じた夜だった。そんな夜もこうして明けてまた新鮮な朝がきてくれる。
のんびりと元気でいよう。夕陽の頃になればまたあんずと川辺の道を歩こう。
おはようあたらしい朝。きょうの風よありがとう。きょうの空よありがとう。
いまにも泣き出してしまいそうな空を仰ぎつつ。今日も山道を行く。 ひとりふたりとお遍路さんに出会うたびに。清々しい気持ちになり。 洗い流されていく自分の灰汁を。その雫のことをすっかり忘れていく。
午後になり霧のように細やかな雨が降り始めた。山茶花梅雨という季語を。 つい最近まで知らずにいたけれど。冬を告げる雨だけあってとても冷たい。 けれども純白の山茶花や。桃色の山茶花に降り注ぐ雨は優しくてあたたかい。
やがてその花びらも銀杏の葉のように地に敷かれて積もっていくのだろう。 あれは何の物語だったろうか。その花びらの道の向こうに愛しきひとがいて。 歩み寄って来てくれるのだけれど。その時けっして花びらを踏まずにいてくれた。
いにしえのひとは。そうしてこころをふるわせながらひとを想い貫くことが出来た。
雨はささやかなままに日暮れていく。今日のお散歩は無理かもしれないと思った。 けれども無性に歩きたくてならないのは私で。犬小屋を覗き込み声をかけてみた。
うたた寝をしていたらしくあんずの身体がいつもより温かく感じられた。 そのぬくもりを冷たい雨にさらすのがひどく可哀相にも思えたのだけれど。 行ってもいいよの顔をして。よっこらしょと屈伸運動をして見せてくれた。
よかった。大き目の傘をさし相合傘でふたり歩く。ぴったりと寄り添って歩く。 行きも帰りも歌をうたう。「雨あめふれふれ母さんが」で始まるあの歌だった。
お大師堂の和菓子は。思った通りすっかりなくなっていて今日は栗饅頭を供えた。 お大師さんでも野ねずみさんでもなく。その包み紙はちゃんとゴミ箱に入っている。 誰かが食べてくれている。それは嬉しくもありありがたいことだなと思うのだった。
家に帰り着くと。あんずが犬小屋ではなく玄関のほうへ先になって行くのは。 タオルで拭きなさいの仕草だった。あんず用のバスタオルでふきふきすると。 目を細めて赤ちゃんみたいに気持ち良さそうな顔をする。その顔がとても好きだ。
おだやかな一日と。いまこうしてまったりと更けていく夜のことが愛しい。
あいかわらず酒びたりだけれど。静かな雨音にさえ酔うようにこれを記しておく。
穏やかな小春日和。ぽかぽかとした陽射しを浴びられるだけあびて。 日がないちにち猫のようにうたた寝をしてみたいものだとふと思う。
コマネズミさんは気が多いのか欲張りなのか。いろんなものになりたがる。 それはきっと人間だからなのだろう。気まぐれ者だから先が思いやられるけれど。
くるくることことささっと仕事をこなす。そのせいばかりではないと思うけれど。 まわりのひとを焦らしてしまったり。時には不愉快な目にあわせてしまうらしい。 言わなくてもいいことを言ってしまったり。よけいなことを先走ってしてしまったり。 あっ・・またやっちゃったんだなって後で気づく。まわりの微笑が消えている時。
どうすればもっとのんびり頑張れるのだろう。真面目に悩むコマネズミさんであった。
家にいる時はお茶目な猫。こんなに猫でいられることに安らぐほどの猫を感じる。 ほっとしている。くつろいでいる。ぬくもりの綿帽子をかぶった道化師のように。 それはまんざらではなく。もしかしたらいちばん自分らしい姿なのかもしれない。
猫が犬と散歩する。毎日私の帰りを待っていてくれるあんずの健気さに救われる。
今日の川辺はとても不思議だった。夕陽が映る川の水が逆流しているように見えた。 風は上流の方から吹いているというのに。水が自我を失ってしまったように。 ひたひたとその流れに逆らっているらしかった。けれどもそれが心地良さそうに。 身をまかせているのを感じる。なにかが押し寄せてきている。もう我を忘れよう。
後で今日が大潮だったことを知る。あれは海の潮だったのか。満ちて陽が沈む。
沈め沈めもっと深く。そうして昇れ。あしたの私がなんになったってもういいのだから。
2008年11月25日(火) |
いちばん星みいつけたっ。 |
昨日の夕陽のおかげなのだろう。朝の青空をありがたくいただく。
少しも急がずにいてのんびりと洗濯物を干す。彼とメダカとあんずに。 「行ってきます」と声をかけ。クルマに乗りこみやっと時計を見たのだった。
休みのあいだ気になっていた銀杏の木は。いちだんと色濃く染まりつつ。 その半分以上がもう地に落ち。湿った絨毯のようにあたりを覆っていた。
わたしがどんなにゆっくりとすすんでいても。こくこくと季節は流れる。 民家の軒下に吊るされた干し柿が。そうよそうなのよと頷くのが見えた。
追い掛けはしない。おそらく三歩後ろくらいの場所に私がいるのだろう。 昔からひとの背中が好きだった。そうして背中を見られるのが嫌だった。
手紙のことが気にかかる。さくやのうちに海をわたっていったのだろうか。 向かい合いたいのではない。呼び止めるのでもない。その背中のことを想う。
ふっきってふっきって仕事。ありがたいことに今日もとても忙しかった。 コマネズミさん大喜びの一日となった。程よい疲れが心地よくてならない。
いつもより少し帰宅が遅くなり。今日はふたり駆け足で散歩に行くことになる。 言い聞かすまでもなくすっかり感じているのだろう。私が走るとあんずも走る。 息が切れてきて走れなくなると。あんずもぴたっと歩をゆるめてくれるのだった。
お大師堂に着くといつもの場所に繋がれては。草を食べながら待っていてくれる。 最初のうちは心細いのか「きゅいんきゅいん」とよく呼んでいたのだけれど。 やっと慣れてくれたらしく。ずいぶんとおとなしくおりこうさんになってくれた。
すると昨日お供えした和菓子が半分ほどに減っていて。お大師さんが食べたのかな。 そんなはずはないのだけれど。あんずに話しながらついつい愉快になってしまった。
帰り道は木の実のある道。オリーブ色だった例の木の実が少し黄色くなっている。
もう駆け足ではなくて歌をうたいながら帰る。赤い鳥ことりなぜなぜあかい。 赤い実を食べた。白い実。青い実と続けて歌い。最後には黒い実になった。
ちょうどカラスが山のお家に帰る頃。黒い実いっぱい食べたかなって思いながら。
暮れ始めた空を仰ぐ。一番星みいつけたっていう童歌もあったような気がするね。
2008年11月24日(月) |
母ハマチガッテイルノデスカ? |
雨が時々はその音を聴かせてくれながら。ささやかに降り続ける。 お洗濯を休ませてもらい。お掃除もろくにしないで怠け者の一日。
午前9時を待ちかねていたように。町の郵便局へとクルマを走らす。 どうしても明日中に届けたい手紙があった。毎年のことだったけれど。 いったいそれが何になるのだろうと。不確かな気持ちが年々強くなる。 近所のポストでは間に合いそうになく『ゆうゆう窓口』だけが頼りで。 休日であってもしっかりとそれを受けてくれる。とてもありがたいことだ。
窓口のおにいさんが「きっと明日届きますよ」と頷いてくれてほっとした。 あとはその手紙が『受取人不明』で戻ってこないことを願うばかりである。
帰り道に簡単に買物を済ませて帰宅したら。どっと脱力感をおぼえた。 安堵にも似ているけれど。何かを遣り遂げたあとのような気もするけれど。 どこかが違う。とてもゆらゆらとしていて定まれない風の中の想いのように。
まちがっているのならそう言ってほしい。私の信念とはこうも心細いものか。
午後。私のささやかな小部屋にも。ちいさなコタツを構えてあたたまる。 横になり本を読んでいるうちに。とうとうそのまま寝入りこんでしまう。 そうして気がつけば三時間も眠っていた。窓をそっと開けると雨が止んでいる。
雨上がりの湿った道をあんずとゆっくり歩く。川辺は一層と水が匂いたち。 雨雲の隙間から微かに沈む夕陽が見えた。きもちよくきもちよく息をする。
お大師堂には。一昨日も昨日も泊まりのお遍路さんが居て。今日もそうらしく。 お堂の片隅に荷物が置かれていたのだけれど。どこにも姿が見えなかった。 少し気後れしながらも上がらせてもらって。やっと和菓子をお供え出来た。
外から口笛が聴こえる。誰かがあんずに話し掛けている声が聴こえてくる。 お遍路さんは食料品を買いに行っていたらしい。雨で思うように歩けなくて。 今日はここで諦めたのだそうだ。夕陽を見ながら「明日は大丈夫ですね」 そう微笑みあいながら別れの挨拶を交わした。旅の無事を祈るばかりだ。
晩御飯は三日目のカレー。今朝のことサチコに散々文句を言われていたので。 ちゃんと他のおかずを作り。カレーは自分ひとりでやっつけることにする。
息子君が来てくれそうな気がしていたのだ。だからいっぱい作ってしまった。 「お兄ちゃんにメールしてあげらたいいじゃない!」とサチコは言うけれど。 母はそうじゃなくて。ずっと待っていたらアノヒトが来てくれるかもしれない。 そんな待ちかたがしたかっただけなんだ。母ハマチガッテイルノデスカ?
三日目のカレーもそれなりに美味しかった。彼は鮭の塩焼きで満足そうで。 そうしてすっかり食器洗いが済んだ台所に。開けないままの鍋の存在に気づく。
せっかく作った大根の煮つけを出し忘れてしまった。母はやはりどうしても。
ドジだし大ボケだし。まちがっているのかもしれないけれど。どうかゆるしてほしい。
2008年11月23日(日) |
今日という日をありがとう |
朝はどんよりと曇り空だったけれど。 午後からささやかな陽射しに恵まれる。 つかのまのこと。そうして急ぐように。 風が雨の匂いをはこんできてしまった。
今日はなんとしても会いたくてならないひとがいてくれて。 約束もなにもないというのに。そわそわと落ち着けずにいた。
やっとその時間が来て。胸をどきどきさせながら会いに行く。 そうしたら思いがけずにたくさんの人が来ていて少し途惑う。 諦めて帰ろうかなと迷いつつ。やっと会えたのにと思い直す。
2時間待ってやっと対面することが出来た。にっこりの笑顔。 ずっと緊張していたのがゆるゆるとなり。ほっと心が和んだ。
それは。路上詩人はまじ君だった。
ひととひととの出会いをとても大切にしている詩人さんで。 即その場で感じたままの言葉を書き綴って授けてくれるのだった。 その一瞬がなんともいえない。魂がすぅっと抜け出していくような。 不思議な感覚をおぼえた。あっ・・わたしがいってしまうそんな感じ。
そうしてそれを手渡された時の新鮮さ。しっかりと自分を受け止めては。 からだじゅうから芽が出てきたような。くすぐったいようなあたらしさ。
会えてほんとうによかったと思う。はまじ君。今日という日をありがとう。
2008年11月22日(土) |
その日のためにいまがある |
朝はやはり寒さを感じたけれど。日中は穏やかな小春日和となる。 寒波が峠を越えたようだ。ゆっくりとまた冬らしくなるのだろう。
数日前から堤防の草刈作業が行われていて。今日で終わったらしく。 窓から見える風景が一変したように思うさびしさ。揺れるものがない。 もう枯れススキだったけれど。あのしなやかに揺れる姿が好きだった。
ねこじゃらしも野菊の花もみんな刈り取られてしまたことを嘆きたい。 けれども風のにおいは。稲刈りの後の田んぼのにおいによく似ていて。 なんとなく懐かしさを感じる。一面の雀色にふっと心が魅かれていく。
そうして春を待つ。つくしん坊やよもぎの葉を見つけては心を和ます。 その日のためにいまがある。そう思うとなにも嘆くことなどなかった。
日中はとくに予定もなく。ただただのんびりと過ごさせてもらった。 ゆるやかに過ぎる時というものは。ほんとうにありがたいものだと思う。 たとえ前世がコマネズミさんでもあっても。スローなダンスを踊るのだ。
体調も嘘のように良くて。あれはいったい何だったのだろうと不思議でならない。 重かった背中が軽い。寝ても覚めても蠢いていた害虫が死に絶えてしまったのか。 とにかくずいぶんと気の流れが良くなった気がする。川が海に流れるように。
この先どんな日もあるのだろうけれど。自ずから濁らない水でいたいものだ。
晩御飯はサチコとふたりでカレーを作る。一緒にお炊事をするのが楽しい。 ふたりとも吉本の芸人さんみたいになる。声を掛け合って笑い転げる夕暮れ。
家族に恵まれ。自然界に恵まれ。もうほんとうに思い残すことはないけれど。
いまが冬なら春にあいたい。それを希望のように願って今日をここに記しておく。
2008年11月21日(金) |
ねんねんころりよおころりよ。 |
今朝もやはり冬らしく。山里はすっぽりと霜に覆われていた。 畑の里芋の葉っぱがしょんぼりとうなだれて悲しげに見えたり。 かと思えば枯れた田んぼがキラキラと朝陽に輝いていたりする。
山里には『農家食堂』があり。その一軒の店先にはいつも犬が繋がれていて。 今朝はその姿が見えなかったのが少し気がかりだった。
どんな日もあるのだろう犬にだってきっと。そう頷きながら道を進む。 すると今度は道端に観光バスが停まっていて。運転手さんだけがいて。 長い柄のモップでせっせと窓を拭いている光景に出会ってしまった。
どうしたのだろう?たったひとりでこんな山里に来るなんて変だなって。 首をかしげながら通り過ぎた瞬間。すぐ近くの集会所の庭にお遍路さんが。 それはたくさん居て。みんなでラジオ体操をしているのを見つけたのだった。
気持ち良さそうに背伸びをしている。大きく息を吸って空を仰いでいる。 なんだそうかそういうわけかと納得しながら。その光景が微笑ましくて。
その微笑のまま職場に着くことが出来た。さあ金曜日今日は忙しそうだ。 思った通り朝から来客が絶えなくて。閑古鳥もついに冬眠かと思うほど。
私はほんとうに忙しいのが好きでならない。前世はコマネズミだったかも。 だからきっとそれが懐かしいのだろう。忙しいほど嬉しくてならなくなる。
それなのに明日から三連休をいただく。ふと明日も来ようかなと思った。 けれど。母が「無理しないように」と言ってくれる。ありがたくうなずく。 尽くしきれないことを悔やみながら。これが精一杯なのだと自分を許した。
帰宅して。もはや日課の散歩。あんずが先に歩き出しいつもの道を行く。 お大師堂にお供えしようと和菓子を持って行ったけれど。今日は断念する。 泊まりのお遍路さんが寛いでいる様子が窓から見えた。ひとりの男性だった。 しっかりと閉められている扉を。外から開けるような勇気はなかった。 けれどもあんずは嬉しそう。もっともっととその向こうの道まで歩いた。
夜はいつものバドクラブの日だったけれど。メンバーが誰も来なくて中止。 責任者なんてもう辞めたいと思いながら。まあこんな日もあるだろうと思う。 ひとりで準備していたのをまた片付けて帰ろうとした時。一人だけ来てくれた。 手を合わせて謝る。仕事帰りに駆けつけてくれたのに本当に申し訳なかった。
来週はみんな来てくれたらいいな。私も一緒にはしゃぎたい。いい汗をかきたい。
帰宅してお風呂。ビール。焼酎のお湯割り。バウムクーヘン。また焼酎で夜が更ける。
はやくねむくなれ。ねむれよいこよ。ねんねんころりよおころりよ。
2008年11月20日(木) |
ど〜んとかまえていきましょうかね |
今朝も真冬並みの寒さになったけれど。日中は陽射しに恵まれてほっとする。
冬用の掛け布団をやっと干すことが出来て。ひまわり模様のシーツを被せる。 今日はお休みをいただいていたので。そんな家事が出来ることがありがたかった。
午前中に買物に行く。いつも土曜日に行くお店がとても空いていてなんだか。 のんびりゆったりと店内を散歩するように歩いた。見ているだけの衣料品や。 ずっと居座ってしまいたくなる花屋さんや。ぐっと我慢を強いられるケーキ屋さん。
ああいいなこんな毎日ならいいなあと。あこがれるように思いを馳せてしまった。 午後は音楽を聴いたり好きな本をとことん読むのだ。まいにちまいにちそうしたい。
けれども思い直す。苦笑いしながら首を横にふる。それが当たり前になったら。 今日みたいにありがたい日のことを。ずっと知らずに過ごすのだろうなって思う。
貧乏性だし苦労性だし心配性だし。荒れた海も好きだし。どしゃぶりの雨も好きだ。
午後。冬の恒例でもあるクルマで読書。家の中よりずっと暖かな陽だまりのなかで。 相変わらず再読ばかりだけれど。どうしても他の作家に向かえない。いきたくない。 おまけに蛍光ペンで塗りたくっている。好きな言葉があまりにもあって忘れたくない。
わたしが死んだら羊女にだってなるだろう。さら、さらと歩いて聴かせてあげよう。
ああでも生きて在るうちになんとしても『ブラッディ・マリー』を飲みたいものだ。
いかれてるね。わたしってそうとういかれてるね。いけてるんじゃなくってさ。
午後三時半。予約してあった病院へ行く。なんだかやっと辿り着けたような安堵感。 ずっと他の病院でお世話になっていたけれど。やはりここに来るべきだったんだと。 思わずにいられなかった。「ど〜んとかまえていきましょうかね」と言ってもらう。
だから言ったでしょ。矢でも鉄砲でも持って来いって。わたしいつも言ってるでしょ。
ながくながく生きよう。思い残すことがなくなったとしても。種を撒き続けよう。
そうしてきっと土そのものになろう。見守りながら支えてあげられる大地のように。
2008年11月19日(水) |
寒くても春のようにあたたかく |
すっかり真冬のように寒い朝になる。心構えはしていたけれど。 一気に秋が押しやられてしまったような。すこしのせつなさと。 もうそこにある季節を受け止めてしまったこころで頷きながら。
いちにちがはじまる。冷たさも心地よいものだなと息をしながら。 雪雲のように重い雲の隙間から。しっかりとした朝の陽を仰いだ。
「行ってきます」と玄関を出る時には。メダカの水槽を表に出す。 これは毎朝の日課であり。この先もたとえ雪の日もそうするだろう。 メダカは日向ぼっこが好きらしい。とにかく明るい場所が好きらしい。
玄関先には。先日植えたばかりのウィンタークローバーがもう咲き始め。 その名の通り寒さに強いことを知り。ほっとしながら心が和むのだった。 桜草の花に似ているけれど。花びらは丸みを帯びてなんとも可愛らしい。
寒くても春のようにあたたかく。こんなふうに生きられたらいいなと思う。
山里はもっと冬らしくて。雪の赤ちゃんが泣きだしたように時雨れていた。 それでも時々はささやかに微笑む。そんな空とともに一日を過ごしていた。 あれこれを思い煩わず。何も焦ることもない平穏な時間をありがたく思う。
帰宅してすぐ。またあんずと向かい風を突っ切って歩く。ゆっくりではなく。 急いでいるのを許してほしい。だって母さんは晩御飯の支度をしなくちゃね。 お休みの日が雨でなければ嬉しいね。そうしたらもっとゆっくりお散歩しようね。
日暮れて宅配便が来る。予約注文していた『いちむじん』のアルバムが届いた。
好きなのだとても。むしょうにギターの音色が愛しくてならない夜がある。
今夜はそれを心ゆくまで聴きながら。これを書き記すことが出来てほっとしている。
2008年11月18日(火) |
ふっふっふっ。笑っちゃうね。 |
もう木枯らしなのかもしれない。風がだんだん強く冷たくなってきて。 ひゅひゅると口笛をいっしょうけんめいに吹き始めてしまった夕暮れ。
明日の朝はとても冷え込むのだという。軒下のシャコバサボテンを。 屋内に取り入れて。その葉先のちいさな蕾を確かめるように愛でた。
きゅいんとあんずが呼んでいる。花に気をとられて散歩を忘れそうだった。
ふたり駆け足でいつもの道を行く。向かい風はもうすっかり冬になって。 昨日までの小春日和がうそのように冷たい。どんどん走っちゃえとふたり。 とても元気にそうあれるのがありがたくてならない。今日は体調が良くて。 これもうそのように昨日までとは違う。心身ともに元気なのが一番と嬉しく思う。
明日のことはわからないけれど。不安がらず何も怖れず平穏でありたいものだ。
わからないことばかり。それで良いのかもしれない。来ればわかるのだし。 来たらその時で。ひとやまひとやま乗り越えて行かなければ前へ進めない。
晩御飯の肉じゃがを煮込みながら。かたわらでお魚のすり身を油で揚げる。 揚げたての雑魚天はとても美味しい。手づかみでつまみ食いするのがよい。
大相撲を観ながら早目の夕食。自分の口数の多さが少しも不自然ではなく。 やたらはしゃいでいるような自分を面白く感じた。もともと明るいのだろう。
これでいいのだと思っちゃう。素直で正直なじぶんがけっこう好きなのである。
ふっふっふっ。笑っちゃうね。今夜はやけに楽しいじゃないですか。
2008年11月17日(月) |
そっと息を吹き込んであげればいい |
雀がちゅんでいちにちがはじまる。朝の青空は気持ちよくて。 いつだってそれが一歩のように踏み出せたらいいなあと思う。
ふたつのカタチがあって。お互いが問いかけあっているのがわかる。 ひとつは紙風船みたいにまるくて。ひとつはとんがり帽子のようだった。
紙風船を手のひらにのせてぽぽんと。上手くは宙に浮かせてあげられない。 とんがり帽子は似合わなくて。鏡の前でいくら澄ましてみても歪んで見える。
だからどちらも置いていく。たぶんそれは今ひつようではないものなのだ。
いつもの山道。峠道に差し掛かる前の集落に。毎朝仰ぎ見る銀杏の木がある。 金曜の朝に見た時にはまだ淡く黄緑が残っていたのが。今朝は驚くほどに。 黄金色になっていた。すっかり心を奪われてしまい思わずブレーキを踏む。
日に日に散ってしまうのだ。雨が降って風が吹けば一気にそれは散ってしまう。 そうして地面を一面に染めるその色に埋もれるように。裸の木がぽつねんと在る。
そんな光景をくりかえしなんどもみながら。季節がまた巡りきたことを知った。
もう何年も写真に撮ってあげられずにいたから。今年こそはと道に降り立つ。 するとその少し狭くなった道を。一台の乗用車が山道を上って来たものだから。 自分のクルマが邪魔をしやしないかと。謝るつもりで頭をさげていたところ。
「だいじょうぶですか?クルマ故障したのですか?」と声をかけてくれたのだった。
名古屋ナンバーのその乗用車には。なんと白装束を着たお遍路さんが乗っていた。 普通ならこんなところにクルマを停めて。人様に迷惑をかけてしまうところを。 もちろん故障ではないけれど。気にかけてくれて優しく訊ねてくれたのが嬉しかった。
ひとってあたたかいな。気恥ずかしさもあったけれど一気に胸が熱くなった。
そんな朝のつかのまのふれあいがあり。ふと気づけば置いてきぼりにしたはずの。 紙風船がそこにある。こころのなかでぽぽんとぽぽんと跳ねているのがわかる。
手のひらがつかれたらおやすみすればいい。そうして胸に抱いていればいい。
抱きしめすぎてしぼんだら。そっと息を吹き込んであげればいい。
夕陽の散歩道ではこんな木の実にあいました。
2008年11月16日(日) |
揺れながら織り。そして流れる。 |
雨はいつのまにやんだのだろうか。今朝は思いがけないほどの青空。 暖かさもそのままでいてくれて。窓を開け放し朝の新鮮な空気を浴びる。
雀があまりにも楽しそうにはしゃぐので。もっとそばに来て欲しくなり。 瓦屋根にお米を少し置いてみて様子を伺う。おいでおいでと待ちわびる。
ああいま目の前を横切っていった。一羽二羽と歌いながら空に向かった。 そのまま待つのを諦めてしまったけれど。夕方にはお米がなくなっていて。 とても嬉しい気持ちになった。毎朝そうしてみようかなと楽しみになった。
買物にも出掛けず。家事を少ししただけで夕方までひとり気ままに過ごす。 朝のうちは好きな音楽を聴きながら。ぽけっと自室にこもってばかりだった。 ほんとうは手紙を書くつもりでいたのだけれど。書けなくてごめんなさい。 気長に待っていてくれそうな気がして。笑顔ばかりを思い出していました。
早目に昼食を済ませ。いつもは彼の部屋と化している茶の間で寛ごうと。 文庫本を手に忍び込んでみたけれど。なんとなく落ち着けなくていけない。 居ても気になり居ないとその不自然さに馴染めない。彼は不思議な存在だ。
仕方なくめったに見ないテレビをつけると。スカパーで『八墓村』をやっていた。 金田一が古谷一行で。ずいぶんと古いシリーズだったけれど見始めたら面白く。 とうとう最終回まで見てしまった。こんなにテレビを見たのは何年ぶりだろうか。
そうしてやっと動き出す気になり。例のごとくであんずと夕陽の道を歩く。 日曜日のせいか観光船が行ったり来たり。川面からにぎやかな声がひびく。 その船がたてる波がいくつも重なり。そこに映る夕陽が水を織るように揺れる。
立ち尽くしているとその一部になったように。自分さえも織りこまれていく。 その瞬間がその心身のありかがたまらなく好きだと思う。水になりたいと。
ふっと。自分がもう自分でなくてもいいようなどうしようもない想いに浸る。
濁る日もある。澱む日もあるけれど。この水辺を揺れながら流れていきたいものだ・・。
2008年11月15日(土) |
命日という名の夜に優しい雨がふる |
晴れのち曇り。日暮れとともに静かに雨が降り始める。 昼間の暖かさをそのままに。まるで春の雨のように優しい。
父の命日。5年前の今日のこと。誰にも看取られることなく。 このうえない孤独のうちに。そっと静かに眠るように逝ったのだろうか。
私はその瞬間の時間のことを一生忘れられない。確かに時計を見たのだ。 午後6時半頃だった。ふっと父のことを想って電話してみようとしながら。
それをしなかった。どうしてそうしなかったのか自分でもよくわからない。 呼んでいたのだろうと思う。最後の声をふりしぼって私の名を呼んでくれた。
そばにいてあげられなかったこと。父と会わずにいた歳月があまりにもながく。 ほんとうに親不孝な娘だったと悔やんでも悔やみきれずに今も生き長らえている。
父の死を知ったのはまる一日経った夕暮れ時だった。そのいちにちのあいだ。 誰も父の死を知らずに。それぞれの日々を送っていたのかと思うと・・。 あまりにも不憫でならず。心が抉られるように後悔と悲痛に苛まれたことだった。
もうすっかり冷たくなってしまった父に添い寝をして一夜を過ごした。 父とふたりきりで過ごすのは最初で。もう最後になってしまったけれど。 父の寝息が聞こえる気がして。とてもあたたかくてならない夜になった。
子供の頃よく怖い夢を見ては。枕をさげて泣きながら父の布団に潜り込んだ。 あの頃とおなじ安らぎ。あの時と変わらない父の優しさを感じずにいられなかった。
そうして5年の歳月が流れたけれど。父はずっと私のそばにいてくれるのを感じる。 偶然であるような思いがけない喜びがあり。自然界に恵まれ人との縁に恵まれ。
朝に晩に父の遺影に手を合わす。お父ちゃん今日も見守ってくれてありがとう。
今日ねすごい良い日だったよって報告しながら。感極まり胸が熱くなる夜もある。
今夜もサチコが言うの。おじいちゃんってすごいね。坂本龍馬の誕生日だし。 命日も一緒なんだよね。おじいちゃんってかっこいいね。さすがやねって。
生前一度も会わせてあげられなかった孫の声を。 どんなにか嬉しく微笑みながら聞いていることだろう。
2008年11月14日(金) |
一期一会のありがたさ |
夕陽が川面を染める頃。あんずとお散歩に行く。
今日は早目に帰って来れてよかった。なんだか。 どっと疲れを感じていたけれど。とにかく歩こう。 行かなくちゃ行かなくちゃって。自分がじぶんの。 背中を押しているような。けれども歩き出したら。 不思議と足取りが軽くなる。あんずも駆け足で歩く。
母さんがんばれ。ほらほらもう少しって声が聞こえる。
お大師堂が近づくと。誰か人の気配がしてその扉の前に行けない。 あんずもそれを感じたのか。急に尻込みをして立ち竦んでしまう。
どうしよう・・って迷った。引き返そうかなと思ったその時だった。 その扉が開いて。中から白装束を羽織ったお遍路さんがにっこりと。 微笑みながら声をかけてくれたのだった。ワンちゃんいらっしゃい。
ちょうど私の母親くらいの年齢だろうか。白髪交じりの髪とまるで。 観音様のような優しい顔をしていた。私がほっとするとあんずもほっと。 ふたりしてそばに居させてもらう。そうしてしばし語らう時をいただく。
二年前にご主人を亡くされたのだそうだ。その後ご自分も病がちになり。 やっとそれを乗り越えてこうして遍路旅に出ることが叶ったのだそうだ。
今夜はお大師堂に泊まるのだという。女身独りで心細くはないだろうか。 そんな心配をよそにそのひとは「だいじょうぶ。何も怖いことはないの」
そう言って安心させてくれた。その言葉がとてもとても心に強く響いた。 それは同時に。今のわたしにとっての勇気にだって思えてならなかった。
わたしも生きられる。不安がることは何ひとつないのかもしれないと思う。
夕食後。わなわなしながらいつも服用する薬を飲まずにいられた。 そうして来るなら来いって思っている発作も。嘘のように遠ざかってくれる。
だいじょうぶ行っちゃえ。そんな心意気でいつものバドにも行くことが出来た。 以前のように動けなくても。軽く身体を動かしているだけでじゅうぶんだと思える。
逃げないこと諦めないこと。とにかく立ち向かうこと。それが大切だと思った。
いつもならもう眠りについている頃。どうしても書き残しておきたくてここに記す。
ささやかな縁だって。かけがえのない縁になり得る。
一期一会にこころから感謝して今日という日を終わろう。
おやすみない。ありがとうございました。
柔らかな陽射しが穏やかに降り注ぐ小春日和。
こころのどこか見えないところにどうしようもなく。 重いことがあったのだろうか。忘れたふりをしては。 確かめていたのかもしれない。霧かもしれないこと。 泡かもしれないこと。吹き溜まった風かもしれない。
こと。いまは微かに影法師。光をみつけたかげぼうし。
「ありがたいことやねお父ちゃん」父の遺影に手を合わす。
月明かりに助けられて夜道を独りぼっちで歩いた。 あんずはお散歩より晩御飯の方が良いのだと言って。 いやいやをする。尻込みをして梃子でも動かなくて。 犬小屋の前でふたりすったもんだをして愉快だった。
だいじょうぶ。母さんは独りで行ける。満月の夜だもの。
土手の石段をあがり堤防の道から夜空を仰ぐ。星がみっつ。 そうしてひとつきりの月のなんと綺麗で輝かしい事だろう。 しばし放心状態になり。夜気を心じゅうに感じ深く息をする。
お大師堂の灯りを目指して歩きながら。ずっと月を見ていた。 わたしが歩くと月も動く。同じ方向へちゃんと一緒にうごく。 ウサギさんもいる。今夜は美味しいお餅が搗きあがるだろうな。
子供のような心になって。おとなの今を一歩いっぽ足取り軽く歩く。 重かったこと。そうしてとことん自分を責め続けていた秋の日々が。
初冬の満月に照らされてもう救われていることを感じた。ありがとう。
もう思い残すことがないくらいの影法師が。まだ生きたがっていることを。
どうかゆるしてくださいね。わたしが星ではなくて月になれるその夜まで。
2008年11月12日(水) |
忘れないでいてくれるだろうか |
朝の窓辺から青空を仰ぐ。それはもう秋晴れとはすこしちがい。 存在感のある雲がぽこんぽこんと。そのかたちを確かめながら。
流れることもせず立ち尽くしているように見えた。そこで生まれて。 綿の花を咲かせた枝のない木のように。空にあることが誇りのように。
在りたいとわたしも思う。千切れることなど不安がらずに在りたいと。
家を出て大橋を渡り河口沿いの国道を南に向かう。川面の眩しさが。 たまらなく好きでならない。その光の粒子の一粒を胸に抱きしめて。 我が子のように育ててみたくなる。そうしてまた空に放ってあげたい。
忘れないでいてくれるだろうか。いつかふたたび水辺であえるだろうか。
山道に差し掛かると。ぐんぐんとそれが迫ってきては緑の木々のあいだに。 ぽつんと紅く色づいた木を見つける。山に抱かれた女のように美しい木だ。 やがて散る。はらはらと風に舞い落ちて朽ちるだろうその葉が愛しかった。
山里はゆっくりと冬枯れに近づいているけれど。空気はより澄みわたって。 息を深くするたびに心のなかで種が育ち始める。霜を待とう雪を待とうと。 その種は冬を越すのを楽しみに生きているようだ。陽射しの中で水をあげ。 まいにち声をかけてあげようと思う。めげないで負けないで春に咲こうね。
忘れないでいてくれるだろうか。ここにわたしがこうして存在していることを。
2008年11月11日(火) |
おやすみなさい。きょう。 |
ひんやりと曇り空。その灰色を透かすように時折りの陽。 足りないくらいがちょうど良いのかもしれない。だって。
たくさん降り注ぐと。ついついそれが当たり前に思えて。 ささやかな恵みに気づかず。ありがとうって空に言えない。
朝。いつもよりずいぶんと遅く家を出る。このところ少し。 時間の感覚が薄れてしまったようで。時計を見なくなって。 それはほんとうに無意識のつもりなのだけれど。ゆるゆる。 なにも急くことがなくなったような不思議な気持ちだった。
怠け癖がついてしまったのかな。いけないことなのかなと。 思えばきりがなくて。きりのないことは思わないことにする。
ずっといつまでもとはいかないのだろう。けれども今は許そう。 動きたくなったら動くのだ。走りたくなったら走ろうとおもう。
ゆるゆるが穏やかさに繋がればいうことはない。まあるくひろく。 あたえられた時の世界を。かたつむりみたいにのんびり進みたい。
夕方。もう陽が暮れかけていたけれどいつものお散歩に出掛けた。 あんずは例の『きゃんきゃん怖い症候群』からやっと立ちなおり。 昨日からまた一緒に歩いてくれるようになった。雨のおかげかも。 きゃんきゃんの匂いが路地から消えたのかもしれない。よかった。
やはりひとりよりふたりがいい。ふたりだけの秘密の話しをしよう。
夜はすぐに眠くなる。例のごとくで酒量が多過ぎるせいもあるけれど。 そのおかげなのか幸福な眠りを堪能し。ドラマティックな夢を観賞する。
一昨日の夢の男女には会えずじまいだけれど。昨夜も嬉しい夢を見られた。 それはもう救われたとしか言いようのない。とてもありがたい夢であった。
ぷつんと途切れてもいい。もうじゅうぶんだと思う。会えて本当によかった。
いまは何も望むことがない。ただ目覚めたら明日ならいいなあって思っている。
ありがとう。きょう。おやすみなさい。きょう。
2008年11月10日(月) |
夢に続きがありますように |
昨夜夢の中で出会った男女のことが忘れられず。 なんとかしてもう一度会うことが叶うまいかと。
夢の続きに想いを馳せている。とても楽しかった。 見ず知らずのふたりだったけれど。気さくな男性。 髪の毛は癖毛らしくもしゃもしゃとした長髪だった。 バンダナがよく似合っていて。目は細く少したれ目。 作務衣を着ていて足元は地下足袋を履いていたのだ。
女性は色白でふっくらとした顔だち。髪はふわりと。 少しお化粧が濃い目に見えたのは口紅の色のせいか。 とにかく良く笑うひとだったので。口元が印象的だった。
そんなふたりが木で船を造っていた。正確に言うと。 もう殆ど出来上がっている船に色を塗っていたのだ。 男性がそれを主にしていて。女性は船の舳先に座り。 もう祝杯なのか片手に生ビールのジョッキを提げて。
「色塗りは俺がするって決めてたんですよ」と彼が言う。 「そうよ。もう私の役目は終わったの」と彼女は笑って。
ぐいっぐいっと愉快そうに美味しそうにビールを飲んだ。
「も、もしかして○○さん達ではないですか?」私は訊ねる。
なんとなくそんな気がしたのだ。でも人違いかもしれない。
「この船で行くのよ。あなたも一緒に行かない?」彼女が問う。
行きたいなってすごく思った。どんな色の船になるのかも気になる。 けれども私がそう応えようとした瞬間に。ぷつんと夢が途絶えてしまう。
今夜会えたらそう懇願しよう。もしまだ船が完成してなかったら。 彼女と一緒に。面白可笑しくバカ話しをしながらビールを飲みたい。
「ねえ・・まだぁ?早くしてよ〜」とか彼にちょっかい出しながら。
昨日よりも静かにひっそりと雨が降り続く。 その霧のような雨を。窓辺で感じていると。 雀達の声が呼ぶように聴こえてきてそっと。
15センチほど窓を開けてその姿を見つける。 瓦屋根は艶やかに潤いまるで光る舞台のよう。 ちょちょんとなちゅちゅんがさ。歌えばほら。
こんなに朗らかになれるよ。心地よいリズム。 そうしてそれをからだにそのままつたえたら。 とても自然に踊ることが出来るのさ。ほうら。
肩のちから抜いて。足踏んばらなくていいよ。 すべって尻もちついてもいいからやっちゃえ。 雀らしくなくてもいい。そして人間でなくても。
そうそう。そんなかたちなんかどうだっていい。
いいからやっちゃえ。おもいきってやっちゃえ。
2008年11月08日(土) |
わたしは卵を産んだのだろうか |
絶え間なく雨が降り続きいちにちが暮れていった。 それはリズミカルであり。空の鼻歌のようであり。
同時にそれは子守唄のようでもあり。私は眠った。 うごくこともせずあるくこともせずにすやすやと。
そうしてもしかしたら産めるのかもしれない卵と。 その瞬間の息遣いのことなどを夢うつつに考えて。
ぼんやりとイメージしてみる。大丈夫痛くはないと。 やればできるだとかなんだかんたんじゃないかとか。
たくさん産んでゆで卵を作ろう。おでんが食べたい。 はんぺんみたいなふんわり枕もあれば嬉しいなとか。
とかなんとかが多すぎて。少しぐるぐる目がまわる。 けれども息をふっとすると。鍋にそれが浮かびだす。
空は歌いやまない。そろそろ疲れてしまっただろうに。
雨は枯野を想い。はるかかなたにつながる海を想って。 その歌を口ずさみながら。やすらぎの川へ身を投げる。
わたしは卵を産んだのだろうか。それはつるりと剥けて。
その殻の存在をもう忘れてしまった。おでん色の卵だった。
2008年11月06日(木) |
おふくろさんよ。おふくろさん。 |
お天気は午後から下り坂。ぽつぽつの雨がやがて本降りになってしまう。 帰り道の県道で。朝は出会えなかったお遍路さんに会うことが出来た。 雨が降れば雨の支度。そうしてひたすら歩く姿にはいつも胸が熱くなる。
今日こそはと思っていたけれど。雨のせいにしてお散歩は行かなかった。 あんずは雨が好きではないらしく。犬小屋にうずくまり顔も見せてくれず。 あのね母さん。私が行きたい時だけ行けば良いのだよ。わかった?って感じだ。
わがままなのか気儘なのか。そんなふうに生きるのも良いなあとふと思う。
家に入ると。お休みだったサチコが『おふくろさん』を歌いながら階段を。 しゃがれた声を無理やり出しながら下りて来て。久しぶりの漫才モードになる。
「空をみあげりゃ〜」のところから。母は即興で日本舞踊的ダンスを披露して。 ふたりで大笑いになる。一日の疲れがどっと薄れていくありがたき瞬間であった。
おまけに。平日だというのに息子君が晩御飯を食べに来るというメールもあり。 サチコとふたりでお炊事をする。もちろんいつも通りの質素なものだけれど。 秋刀魚だとか。カブの浅漬けだとか。昨夜の残りの大根の煮付けだとかを。 彼は。食べ溜めとかないとなって言いながら。喜んで平らげてくれるのだった。
そうしてまた風のように帰って行く。その寸前に少しだけ仕事の話しをしてくれて。 少しずつだけれど。今の仕事に慣れ始めているのを感じて胸を撫で下ろした母だった。
いまを乗り越えればきっと大丈夫と。いつだって願わずにはいられない。
巣立った子供が旅をしている。その道のりを光で照らしてはあげられないけれど。
そっと見守ることはできる。願いながら祈りながら待っていられる母でありたい。
2008年11月05日(水) |
陽のあるうちは陽をあびて。 |
今朝の寒さに身を縮ませながら。窓辺に居てそっとその窓を開けると。 雀色が連なる土手にちょうど朝陽が射し始めた頃だった。ひんやりと。 その空気を吸い込みながら。その色が蜜柑色に染まるのをしばし見入る。
清々しくて。きりりっとしながら。そうして息をするたびに心が和らぐ。 ゆっくりと何かが軽くなり。その重さのことを思い出せないくらいに軽く。 ひとつひとつのことに。どんなにか拘っていたことだろうと今になり思う。
臆病なこころだった。怖いから穴を掘るのだろうか。そうしていとも簡単に。 その穴に閉じこもってしまうのだろうか。出口まで塞いでしまうのだろうか。
そういうの。もうよそう。そんな息苦しさを選ぶことだけはしたくない。
それよりも。陽のあるうちは陽をあびて。風がある日は風に吹かれよう。
今日も彼女と歩きたくて。大急ぎで家に帰り着いた。少し仕事が忙しく。 思うように終われなくて。そのぶん買物をさっさと済まして家路を急いだ。
よかった。今日もちゃんと待っていてくれた。その顔を見ると笑みがこぼれる。
彼女あんずは私よりも嬉しそうで。犬小屋の外で小躍りをしてはしゃいでいた。 さあ行こうと我先に歩き出すのを。「待って、待って」と追い駆けつつ歩く。
すると路地を突き当たったところで。姪っ子が飼っている小さな犬と出会った。 いつも家の中で飼っているので。私もめったに会ったことがないのだけれど。 その猫のように小さな犬が「キャンキャン」と甲高い声で吠え止まなくて。
その声がよほど苦手だったのだろうか。あんずはその場に尻込みをしてしまう。 顔はすっかり引き攣ってしまい。タレ目の瞳はキツネのそれになってしまった。 そうしてどうしても家に帰ると言ってきかない。もう完全に怖気付いている。
どうしようもなくて私もそれに従い。ふたり逃げるように家に帰って来た。 犬にも相性があるのかな。甲高い声が苦手なんて、私とよく似ているなあ。
晩御飯の時。もうあたりはすっかり夜になっていたけれど。再び誘ってみた。 そうしたら行っても良いよって顔をしたのだけれど。茶の間で彼が怒鳴っている。
「甘やかすな!もう放っておけ!」って。お父さんってやっぱ厳しいよね。
明日はちゃんと行けるように。母さんもう少し早目に帰って来るようにするね。
ほんとうは母さんが歩きたくてたまらないのかもしれないってふと思った。
だからあんずに甘えているの。一緒に歩いてくれてとても助けられている気がする。
2008年11月04日(火) |
明日も待っていてね。 |
曇りのち晴れ。午後からは柔らかな陽射しに恵まれふっと。 からだが軽くなったような気がした。そうして少し眠くなる。
ぼんやりとしていたらしく。職場の湯のみ茶碗を割ってしまい。 一気に我に返りながら。あ〜あやっちまったとくすりっと笑う。
むしょうに駄目化してみたいような衝動。そう思っただけで。 なんだかぐるぐるしなくなった。脱水機がことんと止まって。 あとは空の下に干されるのを待っている。一枚のタオルのように。
仕事が一段落して少し庭に出てみる。そうして風に吹かれながら。 『小紫』という名の木の実を手のひらに。そっと受け止めてみると。 そのちいさな粒がほろほろと零れ落ちそうになった。触れたくても。 そうしてはいけないことがあって。もう葉をなくしたその実を想う。
気がつけば満開だった秋桜は種になり。紅い鶏頭は燃え尽きている。 それは少しせつなくて。それは少し哀しいようで。けれどもそこに。 もう忍び寄ってきている季節を。そっと抱き寄せてみたくなるのだった。
ぽつねんとわたしもいて。ふわりっとその気配のなかにとけてしまいたい。
そうして我が身を見失わないように。ただ漂いながら流されてしまいたい。
帰宅すると。もう陽が落ちかかっていたけれど。庭先でちゃんと待っている。 「行こうかね」って声をかけると。彼女はそこで屈伸運動をするのが愉快。
そうしてもはや日課の道のりを。お大師堂を目指してふたりで歩いて行く。 夕陽を受けてススキの穂が染まり。猫じゃらしは犬じゃらしになり戯れる。
歩けるって素敵なことだね。そうして暮れていく一日ってありがたいことだね。
あんず。明日も待っていて。お母さんかっとびでお家に帰って来るからね。
2008年11月01日(土) |
いまここにいる。いまふたりでいる。 |
晴れ時々くもり。小春日和というにはまだ早いのかもしれないけれど。 赤とんぼではなくて。黄色い蝶々がそれはたくさん飛んでいるのを見た。
川向の田園地帯沿いの道を行き。人里離れた山裾にその美容院があって。 今日は髪を切ってもらった。そうしてまた顔だけ老けた中学生みたいになる。
さっぱりと心地よい。床に散乱する自分の髪を見ながら「おさらばだね」 そんなすっきりさ。潔くそうすることでいつだって生まれ変われた気になる。
午後。とにかく動き出したくて。夏に会った友人の写真展を見に町へ行く。 公民館に着くと。玄関前で思いがけず『菊花展』をやっていてしばし鑑賞。 80才くらいに見える女性がそこにいて「もうながいこと育てているよ」と。 丹精込めて咲かせた菊を我が子のように見せてくれた。とても可愛い菊だった。
そうして写真展。よかった彼女がそこにいてくれる。夏に会った時の約束。 「今度は秋ね」をしっかり果たすことが出来た。真っ青な空と子供達の姿。 彼女の写真は微笑ましくて。そしてあたたかくて。とても好きでならない。
紅茶をごちそうになりしばし語らう。人恋しかったのだろうかとても胸が熱かった。
今度は春。その約束をせずに別れてしまったけれど。たぶん夏のような気がする。 きっと元気にまた笑顔で会おう。そうして心ゆくまで語り合いたいと思った。
日暮れ間近。もはや日課になってしまったふうで。あんずと散歩に出掛ける。 お大師堂がよほど気に入っているらしく。今日も先へ先へと元気な足取りだった。
帰り際。思いがけず潮が引いていて。川岸の岩の上を危なっかしくふたりで歩く。 するとすぐ近くに観光船が見えて。たくさんのひとがあたりを眺めているのがわかる。
「あんず、ほらみんなが見ているよ」ってとても照れくさくてならなかったけれど。
おもいきって手を振ってみた。そうしたらなんと驚くほど一斉にそれが返ってきた。
見ず知らずの人たち。通りすがりの人たちがみなその手を振ってくれている。
気がつけば子供のように手を振り続けている自分がそこにいて。気恥ずかしさを。 通り越してただただ胸が熱くなる。ああひとっていいな。ひとってこんなに温かい。
そんな一瞬。そんな一期一会。手を振れないあんずはその船のたてる波音に。
いまここにいるって。いまふたりでいるって。感じてくれたらいいなって。 あたまを撫でて。ぎゅっと抱きしめたい気持ちでいっぱいになった瞬間だった。
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