2005年11月30日(水) |
あなたはきっと生きていますね |
毎朝見ていた銀杏の木が。とうとう裸んぼうになってしまう。 でも。少しも辛そうにはなくて。朝の光にきりりっと立っていた。 それはきっと。何も終ってはいなくて。ずっと続いている命の在りか。
昨夜『1リットルの涙』を見ながら。見終わってからもずっと。 ほんとうの優しさとは。と。胸が痛くなるほど考えてしまった。
ある女性のことを想い出した。それはとても複雑な感情でもって。 私は彼女から逃げたのだ。その事実にぶつかって心が張り裂けそうになる。
「助けられないのなら。もう優しくしないで」って。彼女は言った・・。 「私の苦しさがわかる?わかったようなこと言わないで」とも言った。
そして最後には。「あなたにはわからないのよ」って彼女は言ったのだ。
私は泣きながら謝った。彼女は決して怒ってはいなかった。 必死で私を赦そうとしているように感じた。わからないのが当然。 同じじゃないからわからなくて当たり前なんだよって言っているように。
だけど。私は苦しかったのだ。同じではないことがとても辛かった・・。 そして何よりも。彼女に光を見せてあげられなかったことが悲しかった。
「明日死ぬから」って。メールが届く。
その頃の私は。光とは優しくしてあげることだと思っていたのだと思う。
これは。もう三年前のことだった。
彼女のHPが消えてしまってから。二度、携帯に着信があったが。
私は。彼女に電話することをためらっていた。
いや。電話しなかったのだ。そうして私は彼女から逃げた・・・。
今なら光を。きっと見せてあげられると思う。
彼女のことは一生忘れない。あなたはきっと生きていますね。
空が少しぼんやりとしていた。霞がかった山々は。まるで春のよう。 変ろうとしている季節の真っ只中にいて。ふと錯覚のように想うあれこれ。 終われないこと。諦めきれないことが。私にもあるのだと。ふとそう思う。
昨夜。深夜だったが。久々の激しい頭痛に襲われる。 深酒のせいだろう。自業自得だと思いながら。とても怖かった。 何もかも割れて砕けて粉々になってしまうのではと。とても不安になる。
ある日突然というのが。今はいちばん怖いことなのだ。 生きたいのじゃない。生きるのだと思ってはいるけれど。 時おりこんなふうに。恐怖心でいっぱいになる時がある。
痛み止めの薬がよく効いて。目覚めた頃にはすっきりといい感じ。 今日もまあるく。何事も穏やかに受け止めていこうと心に誓った。
喜怒哀楽の。怒のない一日というのは。ほんとうにありがたいものだ。
だが。そのぶん哀があふれだす。悲しいのじゃない哀というものの本質を。
私は知ろうともせず。また酒に頼っては。楽になろうとしているのだった。
2005年11月27日(日) |
悲しみの色に薄くルージュを |
ひゅるひゅると少し冷たい風。ああ。もう冬なのに違いない。 陽だまりをさがしている猫の。ような気持ちになる冬らしさ。
午後。先日から気掛かりでならなかったある女性に会いに行く。 ご主人を亡くされたばかりで。どんなにか気を落とされていることか。 お葬式にも参列出来なかったことを詫びて。お供にと和菓子を心ばかり。
彼女は化粧品店を営んでいる。もう何十年も。いつも明るい看板娘のように。 「自分への投資を忘れたらいかんよね」とか言ってくれて。ついつい買って。 私もかれこれ25年以上も。ずっとそのお店の常連さんになっていたのだった。
ぽつんと彼女は座っていた。カウンターのところで俯いて。なんだかまるくて。 自動ドアが開くのがもどかしいくらいに。私は駆け込むように飛び込んで行った。 「おーい、おーい」と声を掛ける。「はーい、はーい」と立ち上がった彼女は。 胸が熱くなるくらい健気で。悲しみの色に薄くルージュを塗った姿のようだった。
とにかく日常を。お店に出ていつものように笑顔で。それだけで救われるそうだ。 「めし、めし」って。お昼になるとお客さんが居てもそう言って急かすご主人が。
いない。いなくて。すごく寂しいよって言って・・・・。
私は。買いだめをしないことに決めた。もう少しでなくなるものは。 なくなってから買いに来るからと約束をした。そうしたらたくさん会える。
今日はじめて彼女の年齢を聞いてとても驚く。それは感動と同じくらいに。 79歳なのだそうだ。私はずっと自分の母親くらいで60代かなと思っていた。
漠然と思う。私はこれから。もっともっと彼女に会わなければいけない。
2005年11月26日(土) |
ころころ。ころりん。 |
銀杏の葉が。もう散り始めた。はらはらと少しせつなく。 その黄金色の向こうは。今日も青く遥かな空が続いていた。
そして穏やかないちにち。なんだかまあるいこころでずっといられた。 あの憂鬱は何だったんだろうと思う。悪い夢を見ていたのかもしれない。
笑顔には笑顔が返って来るものなのだ。だとするとすべてのことは。 鏡のように出来ているということなのだろう。 映されたくないのなら。それを見せないことだ。 たとえば不機嫌。たとえば苛立ち。悪口雑言のたぐい。
でも。日々いろんなことに振り回されそうになるのが現実。 いつもにこにこしている人にだって。葛藤がないはずはない。
ありのままの心で。どれだけひとを思い遣れるか。 きっとそれがとても大切なことなのだろうと思った。
仕事を終えて帰宅した頃には。もう薄暗くなっていた。 買い物の袋を提げて。よっこらしょっと玄関に立てば。 ドアにクリスマスのリースが飾ってあって。笑顔がこぼれる。
「たっだいまぁ!」っと元気な声が自然と出て来る。
わたしのこころはまあるいまんまんまで。ころりんと帰って来た。
瀬戸内寂聴のドラマをみていた。
幾重にも幾重にも重なる重みに涙する。
傷つけてしまったひとを自ら捨ててしまったひとを
想った
私も生きながら死ねるのだろうか
道は遠い
遠いから歩こう
時々冷たい風と。やわらかな陽射し。 なんだかふわふわとしてくる。そんな心地良さ。
降り注ぐ光は。まるで天のミルクのようだ。 無防備になって。ただ抱かれるままになって。 わたしもきみも。天のミルクを飲んでみよう。
お布団を干して。取り入れる時の。なんともいえない幸せ。 少し切羽詰まっていたかもしれないこととか。忘れてしまう。
きっと。なんとかしようとしてもがいていたのだろう。
なるようになるものなのに。そんなふうに流れているものなのに。
2005年11月22日(火) |
急いではいけないこと。焦ってはいけないこと。 |
ひとは。そうそうかんたんには変われないものだと思う。
空は晴れたり曇ったり。風は吹いたりはたとやんだり。 それは彼らの意志?いいえそれは決してそうではない。
いろんなことが動いている。そのなかにいて影響を受けずに。 自分の意志だけで。自由自在に変ることなんて。すごく困難。
ふとそう思う。急いではいけないこと。焦ってはいけないこと。
小石の気持ちは。今日も少し乱れては。沈黙のなかで戸惑っていた。
銀色さんの『つれづれノート14』本日読了。
夏には出版されていたものを。どうして今回だけすぐに買わなかったのか。 あの読み始めた時の。少しの違和感。その意味がやっと理解できたと思う。
最後だったのだ。だからこんなにも正直に。まるでとどめを射すように。 書きたいことを。じゅうぶんに書いた。じゅうぶんすぎるぐらいに書いたと。 言って。だからそれを全部ぜんぶ。私は今日受け止めることが出来たのだった。
最後だって言われたら。ほんとうに淋しかった。けれど。 なんて心地良い風が吹いているんだろうって。ほっと救われる思いがした。
潔いものは。哀しみよりも。愛しさのほうがずっとずっと似合う。
彼女の最後のノートを。私の『ありがとうの場所』にそっと置いた。
2005年11月21日(月) |
小石はいつも空のした |
真っ青な空の下にぽつんといて。憂鬱について考えているとき。 足元の小石を蹴ってみるのもいい。その小石が自分かもしれないと思う。
『責める』という言葉を投げつけられた小石は。 責められたことがあまりなかったのかもしれない。 いやもしかしたら。上手く交わしていつも逃げていたのかも。
小石は小石でいるべきだろうか。本音を言ったり意見を言ったりしたら。 いけないのだろうか。ただ静かに沈黙を守り。あるべき場所にぽつんと。
いようと決めた。今日はばってんだったから。明日からそうしようと思う。
さあ。またお得意の気分一新週間が始まった。
小石はいつも空のした。自分の居場所を知っている。
2005年11月20日(日) |
嬉しいとすぐにほろりと涙出ちゃうんだ |
晴れのち曇り。風もなく。すべてのことがまったりと動く気配。 よせてかえす。波を感じずに。ただもくもくと砂浜を歩いているような。 たとえば波音は。とくとくと脈打つ心臓。感じるのはただそこに居る自分。
そんな午後。ちょっとサチコに会いたいなと思い。 勤め先のショップへ出掛ける。もうクリスマスの飾りがしてある。 ちっちゃなサンタさんやトナカイさんが。可愛らしくそこにいて。 おっきなツリーには。白と銀色のポインセチアがとても素敵だった。
肉叩き器を買いなよと言われ買う。トンカツやササミフライの時。 これでバシバシ叩くといいよとか言って。なるほどそれは楽しそう。
帰る時。食費の足しにしなよと言って。ポイントカードを貰った。 換金したら4千円分もあった。ああ、これはほんとうに助かった。
でね。ステーキにしようかなと思ったけど。スキヤキにした。 サチコの好きなおうどんいっぱいの。うどんすきーにしたよ。
でね。なんか今日はすごい幸せ。幸せは嬉しいとそっくり同じ。
母さん年かな。嬉しいとすぐにほろりと涙出ちゃうんだ。
ありがとね。サチコ。母さんすごくすごく嬉しかったよ。
2005年11月19日(土) |
べぃびぃ。ぐっどな。ないとだぜ。 |
朝陽がとても眩しかった。川沿いの国道を行く時。 太陽がぐんぐん迫って来て。水が光でいっぱいになった。 いっしゅんこの世ではないような。それはとても神秘的。 そんな光を浴びた朝は。とてつもなく清々しいものなのだ。
でも今日は。雨蛙さんも居なくて。ずっと苛々光線に打たれる。 居心地の悪さ。逃げたくても逃げられない。誰かのことを嫌いだと。 思いたくはないけれど。ついつい思ってしまったりするものだ。
まるくしてあげたいと思う。どうすればまるくなるのかな・・。
もっと優しい言葉をかけてあげたらよかったなと。反省しながら帰る。
夜はどっと疲れ。でもぐびぐび飲んでると。ぼちぼち元気が出て来た。 まあちょっと依存気味だけど。週末はど〜んとやろうぜのご褒美みたい。
あっ・・そうだ。ナンバーズは駄目だった。
欲しがって期待しているひとには当たらないのだって。 お兄ちゃんみたいな夫君が。諭すように言っていた。
ああでも、欲しがらずに期待せずに。あれを買うのはとても難しいと思う。 年末ジャンボもよろしくねって『福もとさん』も言ってくれたし。 夢とかみないで買えるかな。なんとか気分入れ替えて。軽く買うことにしよう。
芋焼酎のお湯割りもいいもんだ。体がぽかぽか温まる。
どんな日もある。どんな時もあるのがあたり前だもんなあって思って。 ばたんきゅうで。ぐっすり眠ることにしよう。
べぃびぃ。ぐっどな。ないとだぜ。
2005年11月18日(金) |
なんかめっちゃ気分いいなあ |
朝方いちだんと冷える。お布団から出るのが嫌になる頃。もう初冬らしい。
お味噌汁の熱々を味見。卵焼きを作る。ウインナーをフライパンで転がす。 塩鮭を焼く。冷凍の鶏唐揚げをチンする。それからサンドイッチを作った。
「行って来ます」本棚のありがとうの場所に手を合わす。 「寒いから風邪ひかんようにね」と豆地蔵さんに語りかける。 今だから打ち明ける。私はこの豆地蔵さんを頂いた日から。 ずっと。その豆地蔵さんを『あのひと』の名前で呼んでいる。
音信不通になってから。もう半年が過ぎた。きっときっと生きていると。 信じていられるのは。この豆地蔵さんのおかげだと。とても感謝している。
いつもの峠道を行く。またひとりのお遍路さんに出会った。 ススキの峠。つわ蕗の花の咲く峠。坂道を踏みしめるように前へ前へと。 その姿にどれほど勇気と希望を。私の心に真っ直ぐに伝わって来るパワーを。 今朝も頂くことが出来た。ほんとうにありがたい朝だった。
昼下がりの職場。庭で小休止していたオババがいきなりおっきな声で叫ぶ。 「まあ、あんたらあ!すまんよ、すまんことしたねえ」 (訳・まあ、あなたたち!ごめんよ、わるいことしたわね)
何事かと思いすぐに駆けつけると。 そこには土の色をした雨蛙が二匹。うあーどうしたんだ!あれ〜たすけて。 そう言っているように。なんだかガクガクと震えているように見えた。
アロエの鉢を移動しようとしたらしい。霜にやられてしまうといけないから。 二匹の雨蛙は。その鉢の下で冬眠を始めていたのか。すっかり土の色になって。
ほのぼのと。こころがぽかぽか温かくなる。
いつも苛々してて。眉間に皺寄せて小言ばっかり言っているオババが。 雨蛙さんに謝っている。今日という日は。こんなにも穏やかな日だったのか。
それからも。穏やかな一日がずっと続いた。
私は。今日みたいにいい日は。すごく貴重で大切な日に違いないと思い。 なんかめっちゃ気分いいなあって思って。
帰りに。久しぶりにナンバーズを買った。 そしたら。売り場の店員さんが、招き猫の『宝くじ入れ』をくれて嬉しかった。
おまけにその店員さんの名札が『福もとさん』やったから。 なんかこれは絶対にいいぞ!って思って。
うきうきしながら家路に着いた。るんるんらんらん。今日はほんとうにいい日。
2005年11月17日(木) |
さてと。ちょっと肩の力を抜いてみる |
栴檀の実がたわわ。遠くから見ると粒粒の花のように見える。 おっきな木だった。仰ぎ見ると。まるで自分もその実になったように。
どこか遠くへすい込まれていく。空は今日も蒼かった。
親指が。この前バチが当たったところが。イマイチでよろしくない。 親指ってすごい奴なんだなって。尊敬しちゃうくらい偉い親指だった。
ペットボトルのふたが開けられない。ドアノブが回せない。 お財布の口が開けられない。玉葱の皮が剥けない。などなど。
まだまだいっぱいある。とにかく他の指じゃ駄目なことがいっぱい。
いちばん短くて太くて。かっこわるい奴なんだけど。実はいちばん。 親指が大切だったんだなあって。怪我をしてからはじめてわかった。
焦ってもしょうがないので。気長に時を待とうと思う。
はっと思う。親は大切です。親がなくては子は。かなり辛いです。
さてと。ちょっと肩の力を抜いてみたところで。芋焼酎の夜であります。 いつもの米が品切れだったので。よっしゃ芋だと迷わず買って来たところ。
ほんのり甘くていい感じです。なんだか無性に。
お芋の天ぷらが食べたい夜でありました。
2005年11月16日(水) |
名も知らぬどこかの誰かでいたい日 |
すこし老いてしまったかもしれないススキが。とても好きだなと思う。
朝に。それは小高い丘にあり。ちょうど朝陽が昇りはじめて。 その向こう側から。今日という日が始まる光を。真っ直ぐに。 浴びながら。ススキは少し照れくさそうに。微笑んでいるのだ。
夕に。それは道端の荒れた原っぱにあり。木枯らしに似た風が。 ひゅるひゅるとくすぐるのを。耐え忍ぶでもなく。素直な姿で。 夕陽に向かって。首をかしげるようにして。ただ頷いているのだ。
老いるということは。もしかしたら。とても素敵なことなのかもしれない。
ひとつ。どうしても撤回しなければならないことがある。 それは。先日ここに書き記してしまった。ある詩人さんのこと。
結論を先に言えば「わたしは、ほんとうにあなたが大好き」 だから。たとえつかの間でも。あなたに不信感を抱いてしまったこと。 言い換えれば。我が身を省みずに。対抗意識を燃やしてしまったこと。 私は。こころから恥じている。ほんとうにほんとうにごめんなさい。
彼女の日記は。一日たりとも欠けている日がなかった。 嫌な事があった日は。嫌だったってちゃんと言ってくれる。 嬉しいことがあった日には。今日はとてもいい日だったって。
名も知らぬどこかの誰かが。その誰かは自分のことを好きでいてくれる。 その好きなひとに読んでもらいたくて。彼女は書いているのだと言う。
その言葉を受け止めた瞬間。胸がとても熱くなり。涙がこぼれた。
私はあなたに。惚れています。これからもずっと大好き!
親愛なる詩人。銀色夏生さま。
2005年11月15日(火) |
お父ちゃんありがとう |
真っ青な空だった。風が少し冬のにおいがした。
父の命日は。坂本龍馬と同じ今日。 昼間、弟から電話があった時。「お父ちゃんもやるよね」と。 言ったら。とても不謹慎なんだけど。弟も笑っていた。
二年経つと。なんだか昨日のことのように思えることさえも。 受け止めて。すごく受け止めて。微笑むことさえ出来るものらしい。
わたしは父を病院へ連れて行かなかった。 無理矢理にでも連れて行くべきだったと。すごく自分を責めた。 けれど。父の死顔を思い出す。安らかで。もう何ひとつ苦しむことなど。 無くなったんだぞ。やっとやっと楽になれたぞと。言ってくれた父だった。
そうして。父の優しさをずっと感じながら。私は生きている。
ありがたくて。胸がいっぱいになる時が。いっぱいいっぱいあるよ。
ひとしずくふたしずくほどの静かな雨。 もう終りかけた秋桜だけが。しょんぼりと哀しい。
数日前から。久しぶりに本を読み始めた。 ある詩人さんの。つれづれなる日々の日記で。 もうかれこれ14年間の日々を。ずっと読ませてもらっている。
のだが。今回はなぜか。読み進めることが出来なくて。 なぜだろう。どうしてかなと少し考え込んでしまった。
とても正直なのだ。あまりにもありのまま過ぎるのかもしれない。 それは決して悪いことではないはずなのに。なぜかすっきりとしない。
それはきっと。私が。心地良さばかり求めているせいかもしれない。 心が温かくなって。ほわんと優しい気持ちになりたくて。期待ばかり。 しているせいかもしれないと思う。
ぽろりと愚痴がこぼれていると。がくんと悲しい気分になった。 何かに対して批判的な文面を見ると。共感しながらも。失望もした。
だけど。それをあえて書くということ。実のところ。私は彼女を尊敬している。 と思う。彼女のようになれない自分が。逃げようとしているだけかもしれない。
こうこうこんなひとの。こういうところが嫌とか。そんな日記。 そういえば確かにそういう人がいるね。私もあまり好きではないよ。
だけどね。それは取るに足らないこと。私はあえて。そう断言してみる。
こうこうこんなひとの。こういうところが大好きって。
私は。いつだって。そうして自分の心を温めていたいひとだから。
それがありのままでなくて何だろうと思う。
夜明けを待って川仕事に出かける。 まだ朝陽が。すぐそこまで光ろうとしながら。 まだらな灰色のぷかぷかした雲達を紅に染めるのを見た。
一斉に。飛び立つ鴨の群れ。それは見事に放たれた光りのごとく。 きらきらと眩しくて。思わず歓喜の声をあげてしまった程だった。
私の。たぶんいちばん好きな季節なのだろう。 嫁いで26年。どうしてこんな仕事をしなくてはいけないのだろうと。 すごく恨めしく思った若き日々もあった。それがいつの間にか堂々と。 この仕事を誇らしく思えるようになったのだ。自然の恩恵を受けること。 それはとてもありがたいことだと思う。嘆くことも教えてくれる自然に。 振り回されてしまう日々もあったが。そんな日があったから喜びもある。
かくして。海苔養殖の準備が着々と進み始めた。 どうか順調に育って欲しいと願う。
暖冬と水害で全滅だった去年を思う。あの時、廃業を決めたのだった。 だけど。やめるな。やめたらいかんぞって。亡くなった夫の父親が。 言っているように思えてならない。だから。夫を失業させたのだと。
だって。あの時もそうだった。23年前のあの時。 夫は急に。ずっと勤めていた会社を辞めたいと言い出したのだ。 まだ幼い子供達を抱えて。私は不安でいっぱいになったけれど。
夫は父親の後を継ぐ事になった。お父さんはすごく喜んでいたっけ。
そして。その年の秋。あっけなくこの世を去った。
あの時。どうして仕事を辞めたかったのかよくわからないと彼は言う。
その理由を。いまになり。強く強く感じている私たちだった。
峠道の途中。ちいさな集落があるところの道端に。 銀杏の木があって。それが昨日よりも今日と誇らしげに。 朝陽を浴びてきらきらと光っているのが。とても好きなのだ。
もう何度。その一部始終をみせてもらったことか。 黄金色になって。その向こう側の空の青さに。胸がきゅんとして。 ある朝から少しずつ散り始めるせつなさを。私は知っているのだ。
めぐるめぐる。ともに生きる。あと何度会えるのか。私は知らない。
昨夜。どしゃぶりの雨の中。少しの憂鬱を連れて例のバドクラブヘ行った。 実は最近とても。雨と夜と対向車のヘッドライトが怖くてたまらない。 どうやら視界が狭くなってきたようなのだ。わずか15分なのにとても辛い。
無事に着いたとほっとしたのもつかの間。またひとりで準備にかかる。 なあにいつものことだからと思う。そのうち誰か来てくれるからと思う。 よかった。いつも二番目に来てくれる人がすぐに来てくれてほっとする。
だけど。携帯で話しながらだった。それがなかなか終りそうになかった。 いけない。いけないと思いながら。少しだけ苛々してしまう。 当てつけ。今思えばそうなのだが。無理して重いポールを二本提げて頑張る。 心の中は。いいもん。別にいいもん。手伝ってもらわなくてもいいもん。
ポールのネジを緩めて調整している時だった。ガチャンっと継目の所が。 落ちてきて。急いで手を退けたつもりが。うっかり親指を挟んでしまった。
かくかくしかじか。親指に小指がくっついたくらい腫れて紫になる。 しばし激痛。なんだか悔しかった。けれどそれがすぐに後悔に変る。
当てつけみたいなことしたから。バチが当たったんだと思う。
ラケットが握れなかった。みんなと一緒に何も出来なかった。
そして帰る時。そのひとだけが。「指、早く治して下さいね」と言って。 頭を下げて言ってくれたのだ。ほんとうに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ごめんね。ごめんねといっぱい謝る。
ワタシハモット。ハンセイシナケレバナラナイと思う。
さざんかさざんか咲いた道。もう今はそんな頃。 あのピンクのは。ふっくらと咲いていてとてもやわらか。 あの白いのは。なんだかきりりっとしていて清楚でいて。 それが。峠道の雑林の間から。おはようって言ってくれる。
ありがたい朝だった。心がぬくぬくっと温かくなる朝だった。
出勤前にメールが。携帯のメールっていうのは不思議なもの。 なんだか一直線。迷わず真っ直ぐに伝わってくるものだなと思う。 少し自信を失いかけていたことが。一気に救われたような言葉だった。 ささやかな確信を。ありがたく受け止めて。心はすっきりと青空の気持ち。
わたしはいてもいいのだとおもう。わたしだからできることがあると。
父の遺影と。豆地蔵さんに手を合わせて出掛けた。 ふたりは私の部屋の本棚の一角に居て。そこは私のありがとうの場所。 あのひとの手紙や。大阪豊中からのお遍路さんに頂いたお札や。 とても嬉しかったある女性の日記のプリントしたのも。 それから亡くなった友達に貰った。海の底で見つけた白い貝殻。 それからね。来年のJAのカレンダーに私の写真が使って貰える報せ。
今朝は。そのメールの相手の誕生日に贈った本を。ありがとうって置いた。
わたしね。こんなにありがたくて。ほんとうにいいのかなって。 ときどき。すごくふあんなくらい。おもうことがあるのだけど。
いいのかもしれないって。思うようにしたよ。
だって。みんなみんな大切な。私の宝物だもの。
雲ひとつなく。青くどこまでも蒼い空。
こんな光溢れる日には。ぽつんと立ってみるのがいい。
背筋を伸ばして真っ直ぐに。空を仰いでみるのがいい。
天からの気をさずかる。それは分け隔てなくみんなに。
降り注いでいるのだから。ひとも植物も石ころにだって。
気づいてほしい。知ってほしい。感じてほしいと願う。
あのひとが。いつもうつむいていたのが。悲しかった。
だから必死になって。おしえようとした。伝えようと。
今思えば。どんなにかあのひとを苦しめたことだろう。
でも青くて。こんなに蒼くて。空はあの日とおなじ秋。
あのひとは。きっと生きている。私はあのひとの命を。
信じている。
雨のち曇り。しっとりとあらゆるものが新鮮に見える不思議。 一雨ごとに。秋が深まり木々が色づき。やがて木枯らしの季節が来る。
朗報があり。ほっと安堵している。 みぃとを受け入れてくれた御一家のこと。 私と同年代のお母さんがいて。猫がすごく好きなのだそうだ。 今も2匹飼っているらしくて。みぃとは末っ子になれたみたい。 きっと可愛がってもらえると確信した。もう何も心配はいらない。 手離した淋しさよりも。こんなにほっと嬉しく思うことはない。
気分一新。今日はバドの今年最後の試合に臨む。 実は。ペアを頼める人がいなくて。少し投げ遣りな気持ちだった。 体力は落ちる一方で。誰が好き好んで組んでくれるものかと思っていた。 でも。諦めなくてほんとうに良かった。いちかばちかで頼んでみた人が。 すんなりおっけいしてくれたので。すごく嬉しかったのだ。
最高齢のひとだった。私よりも10歳年上のひとが。 まだやれそうだからと言ってくれたのだ。 その一言がとても励みになる。私だってまだまだやれると思う。
そしてふたりでやれるだけやった。長丁場で接戦になって倒れそう。 追い込まれて息が切れそうだったけど。必死で頑張ることが出来た。 予選落ちで良いのだ。こんな充実でもって自分に勝つことが出来れば。
また新たな闘志が湧いてくる。今度は来年のオープン戦で頑張ろう。 諦めちゃいけない。諦めたら。今度こそ最後になってしまうから。
いつだって。まだやれそうと。そう思える気持ちを大切にしたい。
晴れのち曇り。みぃととお別れする日だった。
昨夜は最後の夜を。しばらく一緒に過ごしたのだったが。 遊びつかれて眠くなったのか。またつま先からよじ登ってきて。 私の膝の上ですっかりおとなしくなった。かと思えば何かを探している。 ふにゃふにゃしながら。むずがるようにして。私の腋の下に顔を突っ込む。 そして。吸い始めたのだ。お母さんね。みぃとはお母さんのおっぱいを。 まだまだもっと吸いながら眠りたいのだ。胸が熱くなる。涙が溢れてくる。
ほんとうに。こんなに愛しい命がほかにあるだろうかと思った。 だけど。もっともっと冷静になろうとして。心を鬼にしてみる。
わたしはみぃとをねどこへつれていく。めをさましたみぃとがなきだす。 またみぃとをねどこへおしこむ。いやがってすぐでてくる。またおしこむ。
とうとう私はみぃとを無視する。
お別れの朝。少しだけぎゅっと抱きしめて。仕事に出掛けた。 後ろ髪を引かれるような思いを。押し殺したような朝だった。
そして。もしかしたら間に合うかもしれないと思い。早目に帰宅する。 ほんの今行ったところだよとサチコが。淋しそうな声で呟いた・・・。
息子の部屋をさがす。サチコの部屋も。昨夜は遊びまわっていた私の部屋も。 どこかへ隠れていそうだった。嘘みたいだった。もういないなんて。
おろおろと。しばらく泣いた。
あの子は天使だったね。そう言うと。うん・・とサチコが頷く。
さよなら天使。ほんとにほんとにありがとう。
穏やかで平和な休日だった。
みぃとは。ダンボール箱から解放されてご機嫌。 トイレもすぐに覚えて。したくなったらちゃんとそこへ行く。
一日中。息子くんの部屋で遊んでいて。お昼寝もしたようだ。 いまは。一緒に格闘技を観ている。鳴き声ひとつ聞こえない。
静かで。私は隣りの部屋に居て。みぃとが呼んでくれるかもしれないと。 ちょっと期待して待っているのだけど。とてもとても静か過ぎるのだった。
大丈夫なのだろうと思う。飼い主が変ってもきっとすぐに懐くだろうと。 どんな環境になるのだろうと。すごく気になって心配ばかりしていたが。 私たちと過ごした数日をすぐに忘れてしまうくらい。愛されて育つと思う。
縁あって会いに来てくれた命は。ほんとうにありがたいものだ。
私のこころは。ぬくぬくと温まり。こんなにも穏やかな時を過ごしている。
なのに。どうして涙が出るのだろう。悲しくなんかないというのに。
くもり時々雨。なんだかとてもとてもせつない空気。
昨夜遅く帰宅した息子くんから。みぃとを飼ってくれる人が見つかったって。 聞く。深酒のせいか私はすごく取り乱してしまい。おろおろと泣いてしまう。 どっと押し寄せて来るなにか。寂しさだろうか。失うという辛さだろうか・・。
土曜日に連れて行くそうだ。家族みんなが猫好きだから。だいじょうぶだって。
冷静に。今日はそんな日だった。 自分のエゴのために。か弱い命を。これからの未来を。 窮屈な場所に閉じ込めてしまおうと思っていたのかもしれなかった。
私のつま先が気に入ったみぃとは。木登りするみたいによじ登って来て。 ひざまで辿り着くと。しがみつくようにして胸に甘えてくれるのだった。
あと二日。お母さんでいさせてね。みぃと君。ありがとう。
子猫は『みぃと』と呼ぶことにした。
三毛猫かなと思っていたけど。きじ猫の雄らしい。 足のところだけ白くて。靴下をはいているように見える。 可愛らしさは言うまでもないが。とても人懐っこくて。
どこかの家で生まれたけれど。貰い手がいなくて困ったのだろうか。 息子くんの職場は老人福祉施設なので。ここならって思ったのかな。 捨てられたというより。どうかよろしくお願いしますって感じがする。
猫嫌いの彼は。相変わらずご機嫌が悪い。 鳴き声が聞こえただけで。すごく嫌がって。 子猫を見ようともしない。「可愛いのは子猫の時だけだ!」とか言って。
とにかく早く貰い手を捜すようにと厳しく言われてしまう。
今日は。子猫と一緒に仕事に行った。 「お母さんがお仕事しているあいだおとなしくしててね」と言ったら。 お昼休みまでずっとクルマの中で。いい子にしていてくれたのだ。
お昼ご飯を食べさせてから。庭で少しだけ遊んであげたら。 陽だまりでごろんごろんしたり。てくてく探検したりして。 すごく気持ち良さそうで。嬉しそうな顔をしていたから。 お母さんもすごくすごく嬉しかったよ。
そうして午後も。ずっとクルマの中でおとなしくしていてくれた。 帰る時には甘えていっぱい鳴いたけれど。「お家へ帰ろうね」って 声をかけながら家路についた。そしたら鳴き声がちょっと変った。 みゃあみゃあ叫んでいたのが。みぃみぃって。か弱くて愛くるしくて。
お母さんね。みぃとを。手放すことなんて絶対に出来そうにないよ。
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