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うたかた
sakurako

2008年03月20日(木)
春のランドリエ

御者日和だが南瓜の馬車は今や手元に残っておらず。悪戯で10円傷ががっつりついてしまったと耳にして心が痛む。ふたたび自前の馬車を手に入れる余裕ができるのはいつの日か。ちいさいので構わないのだけど。土砂降りの夜を黙々と抜けるのがとてもとても好きだった。晩夏の陽射し、朝焼けの帝国、まだ暗いうちのラーメン、コンビニのおでん、ナビに映る深夜番組の光。
掃除が済んでさっぱりした部屋で鳥たちとだらだらだらだらテレビ観賞。降り込められるかんじの、やさしい、いい雨。アムリタ。慈雨。月下の一群。久し振りに鳥たちとゆっくりたっぷり遊んだので嬉しそうだった。この日記は後日認めているので今だから言うことだが、この日があって良かった。みんなそれなりに元気だった。写真を撮ったのも予感だったのかもしれない。キスアンドクライって可愛い単語だと思ったりした。

春のランドリエは、雨の底。吹き付ける温風をBGMに読み続けた文庫本は、良いタイミング、つまり洗濯が終わるころにちょうど読み終わるように思われた。トリックの解答があり、犯人の独白があり、その間に洗濯機は衣類の乾燥を完了するだろう。デニムの濃紺、タオルのベージュ、下着類のグレーや黒。回転する布類は色彩に乏しい。ひとりぶんだからと溜め込んだ割には少ない量と相俟って、なによりも不在を痛感させた。埃っぽいような乾いた匂いに、シャボンの匂いが入り混じって鼻を過ぎる。雨は静かに降り続けているが雨音はここまでは届かない。工藤が立っているその場所にもいま、雨は降っているだろうか。雨で湿ったシャツをボストンに詰めて、玄関のドアを開けるだろうか。ふたりぶんの衣類をドラムに詰め込む想像は読書の時間を中断させて、予想に反して、本を読み終わる前に終了のブザーが鳴ってしまった。