蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 ぐうぜん。

どうしよう。

さくらは、呆けたように立ち尽くしていた。頭の中が真っ白になるという言葉は、所詮辞書の中だけのように思ってきた。
だが、いま自分の状態はまさに「真っ白」としか言い表しようのない状態だった。
気付けば、手が震えていた。雪が降っているからだ。
だが、それだけではない。

どうしよう。

てのひらに、すっぽりと包み込まれた小さな箱に目を向ける。もう何十分こうしているだろうか、と思うが、体は少しも動きそうに無かった。

白っぽいクリーム色をした箱には、水色のリボンがお行儀よくかけられている。彩を加えるようにして、小さな造花も添えられている。
一見して高価には見えないが、止まない雪が積もり始めていて、まるで絵本の中に出てくるクリスマスプレゼントのような体に思えた。

小さくて、軽い。アクセサリーの類だろうということは、中に収められている物を確かめなくても、容易く想像が出来た。

これを渡して去っていった瀬名の顔はいつも通り素っ気無くて、それは彼が冷たいからではなくて、ただ照れくさいだけだとさくらは重々承知している。
また、そうだからと言って瀬名が自分に特別な感情を抱いて渡した物ではないことも、同じくらいの理解の深さでわかっている。

梓も同じようにして渡されたであろうし、あの二人のことだから借りた物を返すような、一瞬の出来事であったことも想像に固くない。
だからこんなふうになってしまう自分がおかしいということも、さくらは深く理解している。

三月十五日。

たまたま世間でいうところのホワイトデイが今日というだけのことで、帰り道が一緒だったタイミングが二人だけだったというだけのことで、思い出したように「お返し」を渡されたのがさっきというだけのことだ。

そこにさくらの誕生日が重なったのは、ただの偶然でしかない。


「さくら」

動けずにいたさくらが顔を上げられたのは、さきほど別れた声が呼んだからだった。

2013年03月20日(水)
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