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■ 無題3-10
「なに?」
ぶっきらぼうな言い方になってしまったのは、まだ動揺しているからだ、とは気付いていないらしくシュウスケは小さく「悪い」と言った。別に怒ってるわけじゃない。悲しいわけでも。ただとても複雑で――そう、上手く頭の中が整理出来なかっただけで。
家帰って頭を冷やさなきゃ。自分の都合の良いように考えないように。ちゃんとあたし自身の立場を思い出せるように。そればかりを考えていたせいだ。謝らないで、と言いたかったけれどそれより先に、シュウスケが口を開いた。
「明日、さ」
少し言いにくそうに、でもちゃんとあたしを見ている目。何でも見透かしてしまいそうな、綺麗な綺麗な黒い瞳。
「明日?」
「あぁ。明日、部室…来るだろ?」
「え、あ…うん」
『来るか』でも『来いよ』でもなく、決定事項のようにそういうシュウスケに、思わず頷き返す。それに満足したのか一つ頷くと、「気をつけてな」少しだけ、ほんの少しだけ目元を柔らかくして笑う。
「隣、だもん」
出来るだけ自然に笑ってそう返し、扉を開ける。背中に視線は感じたけれど、振り返ることなくゆっくりと閉めた。大きくて冷たい扉を背に、溜息。それから空を見上げる。いち、に、星が二つ。きらきらと夜空に輝いていた。
◇
騒々しい廊下も旧校舎を渡ったところで、不意に喧騒が遠くなってしまう。 それとは別に不規則に鳴り響く、楽器の音が強くなって、思わず足を止めた。
長い廊下を渡る度に、あの日の事を思い出してしまう。何回か振りかぶって、歩き出す。引きずってたって、仕方のないことなのだから。
角を曲がれば思い思いの場所で、部員達が楽器を持って立っている。何人かはちらりとこっちを見て、軽く会釈された。あたしも軽く手を振って、その中を通り抜ける。シュウスケの姿を探す。いた。廊下の突き当たり。でも一人じゃない。
ナミコ先輩。
心の中で呟いた。
2008年06月12日(木)
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