|
|
■■■
■■
■ 無題2-17
トーヤにこうやってしているところは、何度か見た事がある。 今、自分がその立場にいることが何だか不思議に思えた。 普段話さない分、何を考えているのかわからなくて、黙ってされるがままになっている俺を掌が優しく撫でた。
「ねえ、」
ずるずると背もたれに深く座り、また地面を見つめる俺に、頭からハル兄の声が降った。 返事の代わりに、視線だけを上げる。
意味ありげに笑う、派手な兄と目が合った。
「うちの家、リビング以外は禁煙だって知ってた?」 「――は」
唐突な話題に思わず、上ずった声を出してしまう。 ぴくりと指が揺れた。
「心配かけたいなら他のコトでしてほしーんだけど」
何のことを言っているのかなんて、分かりすぎるくらい分かったけれど。
「なんだよ、それ」
取り繕うだけの余裕も無く、ぶっきら棒にそう返す。 ポケットに突っ込んだ掌が、自然にぎゅっと縮こまるのを感じた。
「あれ、違ったっけ。シュウは何だかんだ言って甘えたのくせに、甘え下手だからねー」
マフラーに埋めた顔は、上げなかった。
「心配して欲しいんでしょ?」 「……。バッカじゃねえの」 「そっかなぁ。まあ、イイや。俺はこれから店にまた寄らなくちゃいけないけど、ご飯は作ってあるから早く帰っておいで」
こういう時、くしゃり、と髪を乱されるのはいつだってトーヤの役目で、俺ではないはずなのに。 でもあの馬鹿は、今はここにいないから。
頭に触れていた掌が離れ、砂利を踏む音が遠くなる。 それでも俺は顔を上げることなく、そのままでいた。 正直、前を向けなかった。 とてつもなく、恥ずかしいとも思った。
ハル兄は変だけど、時々鋭い。ストレートに痛い所を突いてくれた。 自分の弱さを、再確認させられる。 そして思い知る。 結局俺は、単に自分のことしか考えていなかったのだと。
2008年02月20日(水)
|
|
|