蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 無題2-13

用意を整えて家を出る。
門を開けたところで、昨日路地に落とした煙草を思い出した。
見つかると何かとややこしいかもしれないと思い、狭い路地に入る。
――ない。
そこには何もなく、白いコンクリートだけが冷え冷えとしている。
マヒロの母親が掃除でもしたのだろうか。
そう解釈をして踵を返し、駅へと向かった。

グラウンドでは、運動部が柔軟を始めていた。
誰もが息が白くして、動いていた。
校舎の中も同様に、空気が重く冷たい。
古びたコンクリートは外気をそのまま吸い込み、温度を低下させる機能しか持っていない。

クラリネットの入った楽器ケースを片手に、集合場所だった美術室に入った。

集まった面々の中には、先輩の姿もあった。
こちらを少し見て、困ったように笑う顔に会釈する。
不思議と昨日のような緊張感は、体の中に生まれなかった。

練習は全て自主で行われ、最後にパートごとの調整をして昼前には終わった。
どこかで昼食を、という気分にはなれず、帰りにはハル兄の店に顔を出すつもりだった。

「シュウくん」

帰り支度でざわつく美術室の中、気が付けば先輩がすぐ傍にいた。
振り向いた俺に、ほんの少し微妙な笑顔。
気を使わせてる。そう思った。

先輩が少し手を伸ばして、指先が腕に触れた。
咄嗟に腕を引く。
勿論嫌なはずもなかったが、距離を縮めるのはよくない気がした。

それを悟られないようにして、「なんですか?」と努めて冷静に言った。

2008年01月14日(月)
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