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■ 無題(9)
ごめんって何、とか、じゃあ何で抱き締めるの、とか、言いたいことがたくさんあった。でも言えなかった。
たった一言『好き』とさえ言えない臆病なあたしには、そんなこと言えるはずもなかった。だって、わかってるから。『ごめん』の意味はわかるから。
それでもいいから傍にいたいって思うあたしは、未練がましいんだろうか。それとも。
「――っ、」
気付けばきついほどの拘束を、振りほどいていた。「マヒロ?」慌てたようなシュウスケの声。顔は見えない。見れない。声が出ない。
「…ん、で…っ」
息が通り抜ける。呼吸をするより、無理に出した声は上手くいかなかった。喉が狭まったような感覚に陥る。ごめんって何。そんなの、いらない。いらなかった。
「なん……で謝る、の」
泣くな。自分に言い聞かせた。でも泣き虫なあたしには、引き金になってしまうだけで。何で、という言葉をきっかけに零れ出した気持ちは、易々と引いてはくれない。好きで好きで仕方ない。いつからなんて、もう覚えてないくらい。だから、嬉しかったのに。一度だけの関係でも、少しは近くに、心の中に入れたと嬉しかったのに。
そういうのを全部、否定された気がした。
「本当は、ずっと、謝ろうって思ってた」
そう小さく低く耳に届く。それからがしがしと髪を掻く音。何かを言い足そうとして、やめる気配。無言。
「だから、何で…っ」
肌にぴりぴりするような沈黙に耐え切れなくて、顔を上げた。眉を寄せてあたしを見る顔に、余計に悲しくなった。
「好きじゃないから? 好きになれないのに抱いたから?」 「そんなんじゃない」
更にきつく眉間に皺を刻んだ表情は、怒っているようにも見えた。
「じゃあ何で謝るの。謝らないでよ、後悔、しないでよ」 「――するだろ」 「、」
間髪いれずにぴしゃりと言い切られ、返す言葉を失う。
「後悔くらい、するだろ」
息が止まりそうになった。
頭の中がぐちゃぐちゃする。かちかちと秒針を刻む時計。波打つ心臓。階下からは賑やかな笑い声がした。ここだけ、まるで別世界だ。
ハルちゃんの声がする。あたしを、シュウスケを呼んでいた。
2007年12月14日(金)
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