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■ 無題(10)
立ち上がったのがわかったけれど、あたしは顔すら上げることが出来なかった。 扉を開けて、「後で食う」とシュウスケが下に向かって言っているのが聞こえた。
こめかみが、ずきずきする。声を押し殺して泣いているせいだ。自分の部屋だったらきっと今頃子供みたいに泣いているだろう。そしてそうできたほうがよほど楽なのに、と思った。
なんでこのタイミングで、言うんだろう。本当なら今頃は、笑って楽しくご飯を食べていたはずなのに。こんな顔では帰ることもできない。シュウスケは意地悪だ。
「あの人のこと、凄く好きだった。でも別れようって言われた。聞いてたろ?」
こくん、と頷いた。
『凄く好きだった』
その言葉が胸に突き刺さる。凄く、とても、どうしようもないくらい好きだと。
「別れたくなんてなかった。でも、そんなこと言うのは格好悪いっつーか、プライドが邪魔した。あの時は自分の事しか考えてなかった。その場の気分で流されて、あんなことして。勝手にお前を巻き込んで、凄く後悔した」
ぐずぐずと泣くあたしの頭に触れる指の感触。触らないで、と突っぱねられたらいいのに。
「…あ、たし…は駄目なの? あたしは、シュウスケのこと…」
何とか頑張って泣き止み、手で目を押さえる。熱い。明日にはきっと、腫れてしまうに違いない。
「駄目とかじゃない。お前のこと嫌いでもないし、それに――嫌いだったらあんなことしないだろ。でも、好きなのとも違う」 「――つっ」 「だから、ごめん」
致命的だ。と思った。どうしようもない。わかってたけど。隣にいないのは、知ってたけど。考えるのと言われるのとでは随分違う。でも。
「…今、ゆわなくても、いいじゃない…」
喉が痛くて咳き込んだ。格好悪い。
「そう、だよな。言ってから気付いた、ごめん」
自嘲気味に笑っているのが分かる。そういう気遣いが出来ないのは、とてもシュウスケらしい。真っ直ぐに自分の気持ちを言えるのは、とてもシュウスケらしい。
でも、今はそんな“らしさ”が酷くあたしを傷つける。こういう気持ちをどうせ味わうなら。もっと早く『好き』だと言えれば良かったのに。言ったからって何も変わりはしないけれど。もっと早くに。ナミコ先輩に会う前に、ぶつけられていたら良かったんじゃないかって。
そればかりを何度も心の中で思った。
【一部 了】
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中途半端ですが、とりあえず。 何か最初決めていた方向とだいぶ変わってしまいました。 シュウスケが勝手なことをばかり言う。
2007年12月15日(土)
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