日々の泡

2011年02月20日(日) 詩ー津軽三味線

あたしが盲いたのは(めしいたのは)
おじいちゃんのせいかもしれないななどと
あの時の母はそう思っていたに違いない

北の果てで田舎の宿を営んでいたおじいちゃんは
門付けに北盲の三味線弾きに
帰れ!
と水をかけて追い払った
暑い夏の日のことだったか
雪のちらつく寒い日のことだったか
あたしは聞かなかったけれど


母やあたしには穏やかだったおじいちゃんが
気の毒な人にそんなことをした
母の思いは遠いあの日に帰ったように
話す声の粒子には苦いものが混じっていた



親の因果が子に報い
子の因果が…
あの時母は言わなかったけれど
そんな巡り合わせが娘の身に降りかかったのだと思っているようで
遠い昔を責めているように
話す声には苦いものが混じっていた


苦い声の粒子を吸い込んだあたしは
ちょっと病気になった気分だった


そんな因果の巡り合わせが本当だとしても
あたしはおじいちゃんを責める気がしなかった


高橋竹山の津軽三味線が
地吹雪のように心をかき乱す
凍るような崇高さを伝えてくる


おじいちゃんが水をかけて追いはらったのが
たとえ竹山だったとしても
あの撥の捌きに一層のきれが加わっただけで
高橋竹山という人を
おじいちゃんは傷つけることはできなかったんだと
あたしは知っている
気の毒なのは
竹山ではない
無知で無学だったおじいちゃんの方だと
あたしは知っている



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茉莉夏 [MAIL]