三月は満月から始まった。 ルナティックなわたしはいつも満月には充分注意している。 かなり抑制しなくては、ウルフなみのワイルドな匂いを発散しそうだから。 フォクシーレディはなまめかしく魅力的だけど、狼女ってのはねえ… でも満月に充ち満ちるこの荒ぶる気持ちは何なんだろうねえ…
どの小説を読もうか、海外の小説を選ぶとき、ひとつの目安になるのは翻訳者なのだけれど エッジが効いていてへんてこな小説を読みたい時は岸本佐知子さんの翻訳本を選ぶ。 ジュディ・バドニッツだとか、トム・ジョーンズ(歌手ではありません)なんていう作家も翻訳が岸本さんだから読んでみたのだった。で、面白かった。 大体、この岸本佐知子というお人自身がへんてこらしい…てか、変だ。 それは彼女のエッセイに詳しいのでそちらを参照希望。 気になる部分 著者 岸本 佐知子 白水uブックス ねにもつタイプ 著者 岸本 佐知子 筑摩書房 そのエッセイの中で、通勤電車で出会う不思議な人々について書かれているんですけど 毎朝新聞を読んでいる真面目なおじさんサラリーマンが、ある日気がつくとアイシャドウと口紅を塗っていつものように新聞を読んでいただとか、掌のオニヤンマに向かって大声で話しかけているおばさんだとか、終点まで声を張り上げて「わたしの青い鳥」を歌い続けたサラリーマンだとか、 そんな車内の妙な人々を彼女は「きてれつさん」と呼んでいるのです。 彼女の乗っていた通勤電車、それはすなわちわたしの乗っている通勤電車なのであります。 そしてわたしもそんなきてれつな人たちに毎朝のように出会うのです。 実況中継中のおじさん-「それではスタジオの○○さんにお返ししまーす…」というセリフと共に何やら隣のわたしに差し向けられた気配…それはおじさんの右手のげんこつに握られた架空のマイクだと容易に想像されるわけですが、わたしを含めた車両の人々は彫像のようにかたくなに押し黙り呼吸すら次の駅でドアが開くまで我慢するほどのの堅固な決意…。まるで車両は真空状態のようです。 そうかと思うと、突然♪オーソォレェ〜 ィ〜ミィィィィィィィオォォォォォォ… と肺活量の限り歌うサラリーマンだとか、 セーラー服にブルマー姿ではにかんで車両から車両へと歩く四十代のおじさんだとか、 きてれつさんたちの生態については枚挙にいとまがないわけです。 さて、H駅に着きました。ドアが開きます。ホームから明るい声が聞こえて来ますよ… 「○○駅でえーすっ!気をつけておおりくださあいっ!」 ああ…いますいます…またきてれつさん… 「あれっ?降りないわけっ?えーっ!なんだよっ!降りないわけっ?」 おや?なんだか、デンジャラスな空気ですよ。 で、そのデンジャラスなセリフは、ドアの端に立っているわたしに向けられているような… 「なんだっ!ったく紛らわしい…まっ・ぎっ・らっ・わっ・しっ・いっ! いとへんに ふんと書いて まっ・ぎっ・らっ・わっ・しっ・いっ!」 そうでした…「まぎらわしい」って「紛らわしい」って書くんでしたね… 明るいおじさんはなおも大声で明るく文句を続けていますよ。 「ああっ!あっついっ!なんだかサウナみたいだっ!あっついっ!」 まことに滑舌よろしく妙にうれしそうに怒っていますよ。 「あっ!次は△△駅か!よしっ!降りてみるかっ!よしっ!降りてみるかっ!」 ええーっ? 降りなくていいよ…おじさん… △△駅はわたしの降りる駅です… こうして毎朝楽しくきてれつさんたちと通勤をするわたしです…
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