2009年06月01日(月) |
虐待を知る学校歯科検診 |
昨日、インターネットのニュースを見ていると、このようなニュースが流れていました。
河北新報 虐待を受けた子どもの多くが歯や口のトラブルを抱えていることが、宮城県歯科医師会の調査で分かった。各年代で県平均より虫歯の本数が多く、養育放棄や暴行などの影響が大きいとみられる。これを受け、同会は学校健診などでの対応策をまとめた冊子を製作。会員らに配布し、虐待の早期発見を呼び掛ける。 調査は仙台歯科医師会と実施。昨年3月から同10月にかけ県内2カ所の児童相談所を訪問し、虐待などを受けて一時保護中の56人(3―17歳)の虫歯の有無などを年代別で調べた。 その結果、12―14歳の平均虫歯本数は5.7本と県内平均(2.8本)の2倍に上った。いずれの年代も平均を上回り、6―8歳は1.1倍、9―11歳は1.4倍、15―17歳は1.5倍だった。 永久歯の初期虫歯の保有率も高く、県内平均の1.2倍―3倍。歯肉炎の保有率も同様の傾向がうかがえ、平均の1.4倍―2.9倍だった。 県歯科医師会の山形光孝常務理事は「口の中の状態が悪い子がすべて虐待を受けているわけではない」としながらも、「密接にかかわっているのも事実。歯科医が、健診や診療で虐待との関連を意識することが必要だ」と指摘する。 調査結果を基に同会は会員向け冊子「歯・口から気づく子どもへの虐待」(A4判、14ページ)を2000部製作。6月1日に発送する。虫歯の多発や重度の歯肉炎、歯の亀裂、舌や口唇の外傷といった所見を例に挙げ、虐待が疑われる場合は学校や市町村に報告するよう求めている。 冊子は歯科医のほか、県内の全公立幼稚園と小中学校、各市町村にも送る予定。山形常務理事は「歯科医と行政、学校現場が連携して虐待防止に努めていきたい」と話している。
現在、全国各地の学校では定期学校検診が行われています。この定期学校検診は学校保健法に基づくもので、先日、僕が学校歯科医をしている地元小学校でも歯科検診がありました。
検診時、僕は必ずむし歯や歯周病の状態をチェックはしているのですが、それ以外に過去に指摘されたむし歯が処置されているかも必ずチェックしています。 検診でむし歯であると指摘された児童、生徒に対して学校からは必ず治療勧告書が出されます。治療勧告書は治療や精査の必要がある歯や歯肉などがあることが書かれてあります。歯医者での治療が終了すれば、歯医者は児童や生徒本人、もしくは保護者に対し治療勧告書の報告書を書き、手渡します。この報告書は児童や生徒を通じ学校側に戻され、学校は治療報告書の報告に関して検査用紙に記入することになっています。
検診用紙は小学校から中学校までの義務教育の機関は概ね同じ用紙です。都道府県ごとに若干の書式の違いはありますが、例え生徒や児童が転校をしても、基本的に元の学校の検診用紙をそのまま引き継ぐことになっています。そのため、時系列で歯の状態を把握することができるのです。
現在、むし歯の数は非常に少なくなっています。特に永久歯のむし歯は非常に少なく、平成17年に行われた歯科疾患実態調査によれば、12歳の時点での永久歯のむし歯経験歯数は1.7本。18年前の昭和62年の調査では4.9本ですから、ほぼ20年で3分の1に減少しています。それ故、むし歯、特に永久歯のむし歯の本数が多く、むし歯が放置されている場合には、本人もしくは家庭に何か問題がある場合があると疑います。 このことは学校側も既に把握しているようで、養護教諭は必ず歯科検診の結果を参考に、虐待や育児放棄などの可能性のある生徒を見守っているのが現状です。
虐待を受けている生徒、児童は親が自分を虐待しているとは言いません。自分が虐待を受けているのは自分が悪いせいだと思っていたり、言いたくても言い出せないケースが多いもの。 その一方で、体はうそをつきません。特に、体に現れた傷は本人が本当のことを言わなくても真実を語っています。口の中の状態もうそをつかないのです。専門家が見れば、口の中の衛生状態は、本人もしくは家庭の生活状況をつぶさに物語っているといっても過言ではありません。虐待を疑いたくなるような状態は直ぐにピンとくるものなのです。 上の記事に書かれている通り、永久歯のむし歯を放置している生徒、児童が全て家庭に問題があるとは断言できませんが、虐待を受けている児童、生徒を見つける一つの有効な方法となることは間違いありません。
ただ、歯科検診が虐待を調べる手段の一つとして注目されているのは、本来の目的からすれば悲しいことです。できることなら、歯科検診は虐待を見つける方法ではなく、本来の目的である健康状態の把握のために行われて欲しいと願います。
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