歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2009年01月20日(火) 麻酔嫌い歯医者

先日、某所で大学時代の後輩と話をする機会がありました。この後輩、僕と同じようにお父さんが歯医者です。現在、お父さんの歯科医院を継ぎ、診療をしています。

「1週間前、親父が僕に言ってきたのですよ。『右下奥歯の歯肉が腫れたから診てくれないか?』ってね。一体何事か?と思い、親父が言っていた右下の奥歯を診ると、確かに歯肉が腫れていたのです。原因は歯周病だったのですが、応急処置として腫れた歯肉を切って膿を出さないといけませんでした。そこで僕は麻酔をしようとしたんですよ。親父の口の中に麻酔注射器を入れ、いざ歯肉に注射針を刺そうとしたその時でした。とんでもないことが起こったんです。」
「とんでもないことって?」
「親父の両手が突然僕の手をつかみ、僕が持っていた注射器を取り上げようとしたんです。『こらっ、一体何をするんや!』って僕は大声をあげたんですよ。そうしたら親父何を言ったと思います?」
「何て言ったんだろう?」
「『親に痛い思いをさせる気か!』って言うんですよ。僕は信じられませんでした。なぜなら、腫れた歯肉を切って膿を出す前に麻酔をして痛くないように痺れさせる処置は、歯医者なら常識の処置です。しかも、親父は何十年も歯医者をしてきた身。今まで多くの患者さんの腫れた歯肉を切って膿を出してきたことがあるんです。当然のことながら麻酔をすることはわかりきっているはず。それなのに、自分が麻酔をされる立場になるや否や嫌がるんですよ。」
「お父さん、相当の怖がりだね。」
「そのとおりですよ。僕は言いました。『腫れた歯肉を切って膿を出すには麻酔は絶対に必要だろう。それを嫌がるということは膿を出すことを拒絶することを意味するぞ。もし、麻酔が嫌なら麻酔無しで腫れた歯肉を切って膿を出すしかないぞ。これは痛いぞ。それでもいいんだったら歯肉を切って膿を出してやる。』」
「お父さんはどんな選択をしたの?」
「親父はしばらく沈思黙考しましたよ。その結果出した結論は『麻酔無しで歯肉を切る』でした。呆れてものが言えませんでしたよ。何度も親父に念押しをしましたけど、親父の考えは変わりませんでした。」
「本当に麻酔無で歯肉を切ったの?」
「切りましたよ。切ったと同時に大声で『痛い』と言いましたね。『痛くないように麻酔をしようよ』と何度も言いましたけど、最後まで拒否しました。処置が終わってから親父は痛み止めの薬を飲みましたけど、しばらく切った歯肉の側の頬を押さえて、目に涙を浮かべて我慢していました。」
「これって、親に対する虐待みたいにならない?」
「親が望んでやってくれと言ったことを僕はやったまでのことです。どんな結果になるかどうかはわかっていたはずですよ。それでも、麻酔だけは嫌と言うのですからどうしようもありませんよね。ちなみに、腫れた歯肉の原因となった歯周病の歯は、抜歯しないといけないかもしれません。その時は無理やりでも麻酔をして抜歯しないといけないと思いますね。歯医者でながら極度に麻酔を怖がる親父は情けないですよ。人にあまり知られたくないですね、こんな親は。」

ごめんなさい。こんな親を日記ネタにしてしまいました。


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