2008年12月10日(水) |
親知らずは抜歯すべきか? |
「先生、私の親知らずは抜いた方がいいのでしょうか?」 先日、口全体のレントゲン検査をした際、ある患者さんが僕に問いかけてきた質問です。この患者さんは中年の男性だったのですが、レントゲン写真には、右下奥に横向きに埋まっている親知らずが写っていたのです。これまで全く症状もなかった親知らず。患者さん自身もレントゲン写真を撮影するまで親知らずの存在すら自覚していなかったくらいです。
親知らずの抜歯に関しては、専門家である歯医者の間でも未だに議論があります。積極的に抜歯した方がいいという意見と痛みや炎症といった症状が出なければそのまま経過をみていった方がいいという意見があります。僕の個人的な意見は後者の方です。ただし、将来的なことを考えると抜歯しておいた方がいいのかなと思うこともしばしばです。なぜなら、歯は年齢を重ねれば重ねるほど抜歯しにくくなるからです。
一見すると、一度生えた永久歯は形が変わらないように見えます。ところが、実際は微妙に歯の形は変わってくるものです。特に、普段目にすることはない歯の根っこの部分は年齢を重ねるほど変化してきます。例えば、根っこの先が太くなったり、釣り針のように尖ってきたりします。また、顎の骨とも癒着することもあるのです。これら根っこの状態の変化は、体にとって何も問題はないのですが、歯を抜くことに関しては大きな問題です。歯医者が抜歯をする際、簡単に歯を抜けない要因になるからです。 特に親知らずの場合、一番奥に存在しているわけです。口という非常に狭い空間の中の一番奥に位置する親知らず。歯医者が手を入れるにも入れにくく、操作しにくい場所にあります。しかも、奥にあるということから視野が限られてくる。そのような状況の中、親知らずが骨の中に埋まっていたり、根っこが太かったり尖っていたりしていると、歯医者は非常に抜歯しにくい状況にあるのです。親知らずの抜歯に時間がかかる理由がここにあります。
一般の開業歯科医であれば、限られた診療時間内で親知らずを抜歯しようとしても、技術的に困難な場合があります。そのため、多くの開業歯科医では親知らずの抜歯に関して、歯科口腔外科の専門医へ紹介し、抜歯してもらう場合が多いのです。
歯科口腔外科の専門医であれば毎日のように親知らずを抜歯していますので手早く抜歯できるでしょうが、それでも時には抜歯に手間取る場合もあります。よく歯科口腔外科医が口にする言葉に“歯科口腔外科は抜歯に始まり抜歯に終わる”という言葉がありますが、これは抜歯が簡単そうに見えて奥が深い手術であることを物語った非常に含蓄のある言葉なのです。
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