2008年12月08日(月) |
予防接種と抜歯について |
先週末から寒波が襲来し、当地でも非常に寒くなりました。底冷えとも言えるような寒さです。既に今年も残り20日余りの年の瀬。冬本番になってきたといえるでしょう。
冬といえば、どうしても避けられないのがインフルエンザでしょう。今年も全国各地でインフルエンザが流行し始めているようですが、歯医者にとって非常に厄介な問題です。何せ毎日患者さんの口の中を治療しているわけです。毎日患者さんの口と接していると患者さんの息と常に向き合わざるをえません。ということは、患者さんが風邪をひいていれば風邪が移る可能性が高いということです。患者さんがインフルエンザに感染していればインフルエンザが伝染する可能性も高いということです。これは歯医者としての宿命でもあるわけですが、少しでもインフルエンザに感染しても問題のないようにワクチンを接種する必要があります。僕も今週中に某医療機関でインフルエンザワクチンを接種する予定です。 おそらく、歯医者でなくてもインフルエンザワクチンを接種する人が少なくないのではないでしょうか。昨今、鳥インフルエンザが突然変異し、新型インフルエンザの流行が危惧されています。以前よりもインフルエンザに対する人々の関心は高まっています。現在のインフルエンザワクチンが新型インフルエンザに効果があるかどうかはわかりませんが、少なくとも特定のインフルエンザに対してワクチンの効果があるのは事実です。特に、体力的に問題がある子供や高齢者にはインフルエンザワクチンの接種は非常に大切なことではないかと思います。
ところで、このインフルエンザを含めたワクチン接種、予防接種に関してですが、厚生労働省のホームページを見ていると、このようなことが掲載されていました。
予防接種ガイドライン 第4予防接種の実施 4一般的注意
抜歯,扁摘手術,ヘルニア手術等,緊急性のない場合には,予防接種後1カ月間は,紛れ込み事故を考慮に入れ,原則として避けることが望ましい。しかし,緊急性の高い手術,周囲に流行する病気の状況によっては必ずしもこの限りではない。
このガイドラインの中にある“紛れ込み事故”という聞き慣れない言葉があります。これは、予防接種後にワクチンの副作用とは関係ない健康被害のことを指します。例えば、予防接種後にたまたま風邪や気管支炎になり、発熱やけいれんが起こった場合がこれに相当します。 実際のところ、予防接種後の健康被害がワクチンと関係がある副作用なのか、そうでないのか探ることは不可能のようです。予防接種後に他の病気にかかってはいないと判断できる場合は、ワクチンによる副作用だといえますが、実際には自然科学的に証明することは極めて困難です。
話をもとに戻しまして、厚生労働省のホームページで記載のあった
抜歯,扁摘手術,ヘルニア手術等,緊急性のない場合には,予防接種後1カ月間は,紛れ込み事故を考慮に入れ,原則として避けることが望ましい。しかし,緊急性の高い手術,周囲に流行する病気の状況によっては必ずしもこの限りではない
ですが、予防接種後1ヶ月間は、抜歯などの手術を行う場合、もし健康被害が生じれば予防接種が原因か、抜歯が原因か特定することが難しい。予防接種後1ヶ月以上経過すれば、何かの病気に罹った場合、予防接種の副作用とは考え難いため、予防接種のことを考慮することなく処置を行うことができるということです。すなわち、治療をする側にとって予防接種によるリスクを考えなくて済むようにした方がいいということなのです。
以下、僕の私見を書きます。 正直言って、僕もこのガイドラインには疑問を感じます。抜歯などの処置を予防接種1ヶ月は原則避けることが望ましいということですが、何を根拠に1ヶ月避けなければいいのかわかりません。抜歯と予防接種との関係について、僕の知人の歯科口腔外科専門家に問い合わせしてみましたが、異口同音に一ヶ月という根拠がわからないと言っておりました。1週間程度であれば、経験上理解できるのですが、1ヶ月となるとかなりの長期間です。厚生労働省が公開しているホームページでの記載ですからそれなりの証拠があるはずですが、これが非常に曖昧です。
ただ、厚生労働省のホームページという公の場でガイドラインが公開されているという事実は非常に重要です。これを無視して抜歯などの処置を行うことはできません。歯医者は厚生労働省のガイドラインに則り、予防接種によって生じる副作用と治療によって得られるメリットを考え、どちらを優先するべきか判断しながら処置を行わないといけないでしょう。少しでも早く抜歯をせざるをえないようなぐらぐらの歯の状態であれば、これは予防接種直後であったとしても抜歯によって得られるメリットが大きいはずですから抜歯をする可能性が高いのではないでしょうか。これは、厚生労働省のホームページの記載にある緊急性の高い手術に合致するはずです。 逆に抜歯を遅らせても問題の無いような場合であれば、予防接種後1ヶ月を基準に抜歯予定をずらさないといけないかもしれません。これらは、予防接種後の時間経過のみならず、患者さんの健康状態、口の中の症状、仕事や家庭環境等を考慮しながら行うことで、何も予防接種をしているから行う特別なことではありません。要は、患者さんが予防接種をしているという情報を事前に察知した上で、臨機応変に対処すればいいのではないかと思うのです。
歯医者を受診する予定のある方は、歯の治療を受ける際、事前に担当医に自分が予防接種を受けたことを伝えて欲しいと思います。また、事前に予防接種をするなら、歯の治療との関係で事前に担当医と相談して下さい。予防接種をしたことを黙っていて、歯の治療を受けることだけは避けて欲しいですね。
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